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トルコ石  作者: 葉櫻
七、女皇
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7-5

エルフの美少女が月顏花の除幕をする儀式の最中、そらには伝説のロワネ家の美貌を眺める余裕などなかった。ブラッドハウンドのティラミスを連れて、魔族特有の気配を嗅ぎ分けさせていた。


噴水のそばで、そらはアイセンティアの緑のローブを着た夕立と合流した。


その見慣れた顔を見て、そらは彼女が傷を癒していた頃を思い出して、つい微笑んだ。


夕立は殴る真似をして言った。「何その変な笑い方」


そらが言った。「ごめん、初めて会ったときのことを思い出して」


夕立は目を細めて聞いた。「わたしの惨めな姿を見たから?」


「違う、あのとき色々話して楽しかったから。この世界に来たばかりで、夕立からいろんなことを教えてもらった。いい思い出だよ」


夕立はティラミスを見て聞いた。「触っていい?」


「いいよ」


夕立はやや乱暴にティラミスのもふもふした頭を撫でた。猛獸のティラミスはこの力強い甘やかし方をすっかり楽しんでいた。


そらが言った。「前回のアンリエット姫の件も助かったよ」


夕立が言った。「お互い様だよ。オルゴールの持ち主も、そろそろ記憶を継承する時だと思ったみたい。まあほぼわたしが説得したんだけどね、超優秀でしょ!」


「そうだね。最近もまだ罪悪の街のこと、対処してるの?」


「エルフの王女の部下を集めてるところ、もう終わりに近づいてる。来るって約束したくせに直前で逃げ出すやつとかいて、わたしが直接出向かないといけないこともあるの。でも城の中にいてもできることがあまりなくて、結局子どもだから、大人たちは本当の意味でわたしの言うことなんて聞かない、わたしは表向きのリーダーなだけ。今のわたしの任務は鍵の使者になること。最近候補がだいぶ死んだみたいだね」


そらは内心ぎくりとして聞いた。「エルフもいた?」


「違う、そらの知り合いに候補のエルフがいるの?」


そらが暗黙に肯定すると、夕立が言った。「エルフの能力なら死なないと思うけど、魔族側がかなり死んでるって聞いた。血魔族と月魔族が水妖討伐に行って、近くの山の怪物と矮人にも一緒に喧嘩を売っちゃったの」


そらがカスティーラで目撃したテイラロと蕾の決闘の話をすると、夕立は眉をひそめて言った。「適当に選ばれる候補もいるの。黒女神はわざと希望を持たせて、後で打ち砕くこともある。あんなに馬鹿な子は、もともと鍵の使者になれるわけがない」


「わたしのエルフの友人も、その中の一人かもしれない。黒女神はあの子に対してすごく厳しくて、本当に鍵の使者にするつもりなんてなくて、ただからかってるだけみたいに見える。それに比べると、黒女神はわたしには少し親しみを持ってくれてる気がする」


夕立が言った。「黒女神の鍵の使者で男性って聞いたことない。そらが初めての例になれるかも」


「黒女神に本人から、わたしを息子にするつもりはないって言われたよ」


「残念、そうじゃなかったら、わたしたち敵同士になれたのに!」


そらは笑って言った。「ならなくてよかった、わたしじゃ全然夕立の相手にならないから」


夕立が聞いた。「アイセンティア、少し前に舞踏会があったでしょ。一般人でも王宮に入れたって」


そらが答えた。「誰でもってわけじゃなくて、特定の学院の学生とか、宮廷で身分のある人だけ」


「わたし、水エルフの舞踏会では捕まるのが怖くて踊れなかったんだよね。ああ、アイセンティアに行く方を選べばよかった。舞踏会、どうだった?」


「すごく綺麗だった」その言葉を口にしたとき、そらの頭に浮かんだのは豪華な飾りつけや美しい花ではなく、自分の腕の中で蕩けたようなルイーズの瞳だった。


そらは前を歩く夕立を見た。彼女の顔は子どもっぽいから、美人と呼ぶのは少し変な感じで、可愛いと言う方が正しい。世間一般の美意識で見れば、十人中十人がルイーズの方が夕立より美しいと言うだろう。エルフの整った容姿はそれだけ強い武器だ。


それでも、どう言えばいいのか、夕立を見ると、あるいは夕立のことを思い出すと、心がそわそわした。生き生きとした、人をからかうときの得意げな表情も、不機嫌な顔も、何度でも見つめていたくなる。もちろん夕立に不快な思いをさせないよう、じっと見つめ続けることはなかったが。彼女のことをまだそれほど深く知らないのに、すでに「彼女の不完全さこそが完璧だ」という前提が頭の中にできあがっていた。


夕立がぼやいた。「いいよなあ、毎日きれいなエルフをたくさん見られて。わたしは汚くて臭いやつらと海に出ないといけないのに」


「ナセドはかっこいいんじゃないの?」


夕立は嫌そうに言った。「見るたび誰かに惚れる〝情聖〟なんて、どんなにかっこよくても顔見たくもない」


「今回ナセドに何の用があるの?」


「血魔族の領土でのことなの。今血魔族はすごく混乱してて、人間に対しても態度が悪いし、エルフはなおさら。うちで一番強い魔族の個人戦力が、あの自惚れ屋なのに、戻ってこいって言っても無視するんだから!」


そらが言った。「きっと大事な理由があるんだよ」


夕立は不機嫌そうな顔で言った。「自分の恋人の一人を探しに来たって言ってた」


そらはただ言った。「個性的な人だね」


ティラミスがクゥンと鳴いて、魔族の匂いを感知したことを示した。夕立がリードを奪い取り、ティラミスと一緒に走り出した。二人のスピードがあまりにも速くて、そらはすぐに置いていかれた。少し追いかけてから、足を止めた。


(だめだ、夕立はもう何度も角を曲がってるかもしれない。今、人形で連絡しようとしても、彼女が見失ったり、戦闘で不利になったりするかもしれない)


進退窮まっているとき、遠くに不穏な光景が見えた。


(あれは竜巻?)


次々と人が竜巻に気づいて悲鳴を上げて逃げ出した。アイセンティアに竜巻が起きるはずがない!


(誰かが魔法を使ったに違いない)


そらは周りの人波に逆らって、竜巻に向かって走った。


森に着いたとき、竜巻はほとんど消えていて、弱い風がまだ回っているだけだった。


目の前には、背は低いが今や圧倒的な存在感を放つ夕立と、地面に倒れた男がいた。


その男の顔をはっきり見た瞬間、そらはなぜデントラの一家があの男に夢中になったのかを理解した。


いわゆる「蛇相」とは、狭い顔の中に細長めの目鼻立ちが並んだ顔のことで、ほぼ完璧な容姿だった。やや薄い色の瞳、軽く笑みを浮かべたときの独特な魅惑感、それは魔族特有の危険で、邪悪そうでありながら本性が読めない神秘性を、余すところなく体現していた。彼の身なりは遊侠というより軽装の貴族のように凝っていて、動作にも貴族らしい優雅さがあった。


今のナセドは戦いに敗れて倒れていたが、それでも軽やかに笑って言った。「拜錫まで見つけられたのか」


夕立が言った。「そう、もう完全にこの力を使いこなせるようになったの」


ナセドが聞いた。「ぼくの力も欲しいの?」


夕立が言った。「剣術はわたしにはあんまり実用的じゃない。それより、魔族のところで仕事してきてって言ったよね? それなのにここまでエルフを見にきてたわけ」


ナセドは前髪をかき上げながらため息をついて言った。「あの最も美しいエルフの少女ってのも、君が仕掛けた罠?」


夕立が言った。「わたしにそんな大層な能力ないよ。隣のこの人がやったの」


ナセドはそらを見た。そらは慌てて言った。「友人がやったことです」


夕立が言った。「誰がやったにしろ、餌をまけば本当に食いつくんだから」


ナセドが言った。「美しい少女がいたら、見ないわけにはいかないだろう」


夕立は肩をすくめて言った。「それは理解できなくもないけどさ。アイセンティアに来たのは、どの恋人を探すため?」


「実は恋人とは言えない。彼女を口説いて成功しなかった」


夕立は冷笑して言った。「大情聖でもよく失敗するんだね」


ナセドが言った。「あれは女神だったからね。警戒心が高かったんだ」


夕立は声を強めた。「女神に手を出したの?」


「もちろん十二家系神ではなく、自然から生まれた小さな女神だよ。ぼくの求愛には応じてくれなかったけど、彼女の生命の花をくれた。最近、その花が枯れてしまったんだ」


夕立が冷たく言った。「死んだってことね」


ナセドも淡々と言った。「たぶんそうだろう。理由を確かめに来たんだ」


夕立が言った。「隣にいるこの人、友人が貴族で、見ての通り、月顏花の観賞イベントを開けるくらい権力のあるエルフ貴族なの。あなたが探してる小さな女神は、魔族が入れない場所にいるはずでしょ。だから交換取引しない? あなたはわたしのために魔族のところで仕事をして、この人があなたのために小さな女神を探す」


ナセドの細長い目がそらを見つめて聞いた。「彼にきちんとやれると、どうして信じられる?」


夕立が言った。「わたしが保証する」


そらはナセドを説得するのに苦労すると思っていたが、意外にもナセドはあっさり言った。「いいよ、取引成立だ」


夕立がぼやいた。「月魔族って本当にめんどくさい。あれこれ気分屋で、こっちはいちいち相手の機嫌を見ながら動かないといけない」


ナセドは笑って言った。「気まぐれなら、君に勝てる者なんていないだろう、小さな城主」


夕立は彼を睨んで言った。「まだ城主じゃないし」


ナセドが言った。「そうだね、もし最終的に君が負けたら、見ものだろうな」


夕立が言った。「わたしが負ける唯一の結果は、わたしが死ぬことだよ。そのときには、他人がどう思うかなんてどうでもいい」


ナセドは滑らかな動作で立ち上がって言った。「君が言う通り、ぼくはその小さな女神の聖地には入れない。でもこの人間ならいいの?」


夕立が言った。「わたしが保証してるんだから」


そらはナセドを説得するのに苦労すると思っていたが、意外にもナセドは気軽に言った。「いいよ」


夕立がそらの方を向いて聞いた。「あなたは何のためにこいつを探してたの?」


そらは魔法を使って、指先で空中に聖女が残した記号を描いて言った。「この記号をご存知か、お聞きしたかったんです」


ナセドが言った。「狂信徒に入りたいの?」


そらが言った。「これがある狂信徒の記号だとはわかっています。彼らが今もまだ存在しているか教えていただきたいんです」


ナセドは指を一本立てて言った。「当ててみせようか。月神の信徒に偽装して、アンバール迷宮に潜り込みたいんだろう」


そらは驚いて言葉を失った。ナセドは想像もしていなかっただろう、その一言が、そらとルイーズの盲点をまさに突いていたことを。


(リアンドラヤが残した痕跡を研究して何になるのか。それが月神信徒の記号だとわかって、それで?)


今、答えが出た。フェラキオ家が月神信徒に偽装して入れる!


そらが聞いた。「この記号があれば信徒に偽装できるんですか?」


ナセドは笑って答えなかった。傍にいた夕立が先に動いた。


彼女はナセドの服をいきなり引き裂いて、引き締まった胸に刻まれた記号を見せた。「狂信徒に偽装したいなら、彼みたいに刺青を入れないと」


ナセドが服を戻すと、夕立がまた引き裂いた。


ナセドは夕立に喉を絞められそうになる前に説明した。「この刺青は禁忌の花の樹液で描いてあって、毒がある。子どもは真似しないように」


そらが注意深く見ると、その記号の線は黄色だったが、夕立の言う通り毒性があるせいか、黄色の線の周りの皮膚が紫色になっていて、それでかえって記号がはっきり見えるようになっていた。


夕立は遠慮なく言った。「触ってごらん!」


そらがナセドに聞いた。「いいですか?」


ナセドは笑うだけで、拒否も承諾もしなかった。


夕立がそらの手を引いて触らせた。


確かに毒があった。手で触れただけでも、わずかにしびれる感覚がした。


そらが十分に見て触り終えると、ナセドは服を直して言った。「気をつけて、この体を欲しがる人は多いんだ」


夕立が言った。「彼はあなたの体になんて興味ないって! あの記号についてどれくらい知ってるの?」


ナセドが言った。「あの信徒たちは殺人を趣味にしている。ぼくとは性に合わないね。でも何人かは結構な美形でね……」


夕立が言った。「だまって!」彼女はそらに言った。「欲しい情報は手に入ったでしょ? あの小さな女神のことは、また連絡するから」彼女はナセドの腕をひねって言った。「帰るよ!」



「禁忌の花?」ルイーズが言った。「それはきっと、月神専用の黄色い月顏花のことね」


そらが言った。「あの刺青は確かに黄色でした。夜だと注意して見ないと気づかないかも」


ルイーズは眼鏡を拭いてから、もう一度かけ直した。これは彼女が真剣になる前兆だった。


彼女はそらに言った。「偽装はいい考えね。月顏花が必要だわ」


そらが言った。「でも黄色い月顏花を育てるのは違法ですよね」


ルイーズが言った。「ふさわしい場所を知ってるわ」



ルイーズの家の専用転送地点に入って魔法が起動し、そらが再び足を踏み出したとき、目の前には見覚えのある光景が広がっていた。


大火で焼け落ちたバラ園は、再建されずにそのまま残っていた。バラの株は炭化した枝が、まるで焼け焦げた魔女の爪のように、地面から突き出た棘のように見えた。


ルイーズが胸を抑えて息をしているのを見て、そらが聞いた。「大丈夫?」


ルイーズは眉をひそめて、改めてバラ園を見つめ直し、息を吐いて言った。「思ったより大丈夫だわ」


そらが聞いた。「ここにまだ花を植えられるの?」


ルイーズが言った。「できるわ。手入れさえすれば、この土地もとの肥沃さは、ちょうど月顏花に合っているの。それに、ここには誰も来ない。手伝ってくれる人を頼んだの、気を悪くしないでね」


ルイーズの言う「手伝ってくれる人」が現れた瞬間、そらは完全に驚いた。


まさかルイーズがシーデ・アクミリンと知り合いだったとは。


ルイーズは少し不安そうに言った。「彼はアクミリン家の人だけど、あなたがあの家のことを好きじゃないのは知ってる。でも彼はいい人なの」


そらが言った。「彼のこと知ってます! 学院に入ったばかりの頃、助けてもらったことがあって」


ルイーズの顔がぱっと明るくなって言った。「そうだ、彼もサイフィ学院だものね、ちょうどよかった!」


シーデは相変わらず冷静で口数が少なく、黙ってルイーズを見ていた。


ルイーズが言った。「シーデは花エルフの血を引いていて、園芸にとても精通しているの。黄色い月顏花を育てられるのは彼しかいないと思う。心配しないで、シーデはエドウィンとは違うから」


そらが言った。「わかってます」と言いつつ、内心ではまだ疑念が拭えなかった。


入学のときの一回と、ラウンをシーデに会わせたあの時、二回ともシーデは彼らを助けてくれた。でも黄色い月顏花の私的栽培という違法行為に、聖女のことや教派間の争いまで絡んでくる重大な計画に、シーデに頼って本当に大丈夫なのだろうか。


シーデが不意に言った。「黒女神への信仰にかけて誓う。この件は絶対に口外しない」


ルイーズもそらもひどく驚いた。シーデが自分から誓いを立てるなんて、しかも一族が本当に信仰している黒女神にかけて、表向きのサイフィ神ではなく。


シーデが言った。「黄色い月顏花を育てることは、わたしの一生の願いでもある。ピエテ嬢とわたしは互いに必要としているだけだ。あなたたちを裏切ることはない」


ルイーズがすぐに指示を出そうとしたが、そらは疑いを拭えないままシーデに言った。「これがバレたら、あなたも責任を逃れられませんよね?」


シーデは頷いた。


そらはさらに言った。「みんな、これはあなたが発案したことだと思うでしょう。黒魔法に関係する家系の出身ですから。それに比べたらルイーズの方がまだ安全です」


シーデはまた頷いた。


ルイーズがそらに言った。「そこまで心配しなくていいわ」


そらが言った。「わたしは何度も騙されたことがあるから、今は少し疑い深くいようと思っています。あなたが騙される隙を作りたくないので」


ルイーズは目に笑みを浮かべて、視線をそらして言った。「本当にバレても、わたしには対処方法があるから心配しないで。さあ始めましょう、シーデ、よろしくお願いします」


銀色の炎がバラ園を焼き払い、しばらくして自然に消えると、そこには何も残っていなかった。シーデは無言で作業を始め、そらが聞いた。「わたしたちは何をすればいいですか?」


ルイーズが答えた。「何もしなくていいわ、シーデは花エルフの血を引いてるから」


そらが聞いた。「種はどこから手に入れたんですか?」


ルイーズが言った。「それもシーデが用意してくれたの。あちらの家の方が手に入りやすいから」


これならルイーズに迷惑がかかる心配は少ない。


その後しばらく、ルイーズは学院や一族の用事で気軽に動けないため、たいていそらがシーデの作業の進み具合を見に行くことになった。


シーデは花エルフの天賦「緑の指」を受け継いでいて、彼の手にかかると植物は信じられない速さで育っていった。そらは雑草を抜きながらシーデに聞いた。「花エルフの血を引いてるなら、王冠学院に行くべきだったんじゃないですか?」


最初シーデは口を開かず、そらが持ってきたお弁当にも手をつけなかった。しかしそらが粘り強く聞き続けると、シーデはついに口を開いた。「従兄の意向だ」


「若様はあなたの才能を妬んでいるんですか?」


シーデが言った。「一族の協議の結果でもある」


そらが言った。「エドウィン様には何度か会ったことがあって、魔力があまり強くないって事前に聞いていました。統率力や決断力は強いって、実際に見てわかりました。でも人柄は……」


「従兄はいい人じゃない。みんなわかっていることだ」


そらが言った。「それでもあなたは彼を尊敬しているみたいですね」


「幼い頃、ぼくは花エルフの血を引いた男だったから、女ではなかったから、多くの一族の長老たちを失望させた。花エルフの天賦を受け継いでいるのに、できるのは花や草を育てることだけだった。大人にも子どもにも、ぼくに優しくしてくれたのは従兄だけだった。あの人もそこまで悪い人じゃない」


「あなたが王冠学院で学べなかったのは、彼の意向だって聞いてましたが」


「アクミリン家が両方の学院に子弟を置きたがるのは、もともと一族の望みだ」


(それでも、エドウィンの嫉妬という要素も多少はあるんだろう。もちろんシーデがそれをはっきり言うはずがない)


そらは最後にどうしても聞かずにいられなかった。「子どもの頃、あの流星雨の祭典のこと、覚えていますか?」


しばらく沈黙してから、シーデが言った。「覚えている」


「あなたの家が〝犯人を護送している〟のを見て、その中の一人の女の子を助けようとした。彼女は結局自分の力で逃げ出した」


「覚えている」


そらが言った。「成長した彼女に会ったことがあるはずです、わたしの護衛だったことがあるので」


「彼女の名前は知っている」


その一言だけで、そらにはシーデもまたこのことで苦しんでいたとわかった。


そらが聞いた。「自分の一族のことは好きですか?」


シーデが聞き返した。「好きでいられるはずがあるか?」


そらが言った。「わたしは自分の生まれた家族が好きじゃないです」


シーデが言った。「でも結局は家族だ」


そらが言った。「そうですね。だからわたしも逃げられない、この世界に来ても」


シーデが聞いた。「第二界はどんな場所だ?」


「花がこんなふうに咲かない場所です」


シーデが言った。「それはあまり良くないな」


そらが言った。「わたしが理想とする家族は、一番嫌なことを無理強いしない人たち、考えが同じで支え合える人たちです。でもほとんどの家族はそうじゃない。十二家系神でさえ軽々しく戦争を起こすんだから、それが普通なのかもしれません。あなたたちみたいな大きな一族には、気を配らないといけないことがどれだけあるか、わたしには想像もつきません」


シーデは立ち上がって言った。「これでいい」


数秒経ってから、そらはシーデが言っているのが月顏花のことだと気づいた。そらが聞いた。「収穫まであとどのくらいですか?」


「明日、届けに行く」


「明日! そんなに早く!」


「月顏花はもともと成長が速い」



シーデの言う通り、翌日には、ルイーズとそらは無事に月顏花の花びらを手に入れた。


ルイーズがそらを王冠学院にある自分の錬金術室へ連れていった。ここは弦羽げんうと雪の秘密基地の錬金術室とだいたい同じ広さで、サイフィ学院の錬金術室の二、三倍ほどの大きさだった。珍しい器具も一通り揃っていて、材料が必要なら侍従に学院から取ってきてもらえばよく、非常に便利だった。


ルイーズが自ら魔法で蒸留すると、ひと袋分の月顏花の花びらから抽出された精油は、親指ほどの瓶一本分にしかならなかった。それだけでは足りない。古書の記述に照らせば、月光の下で月のエネルギーを注ぎ込まなければならない。


ルイーズが言った。「これは夜落の地の魔法で、わたしたちが慣れている元素魔法じゃないから、扱うのに少し苦労すると思う」


そらが聞いた。「ルーン文字ですか?」


「どうしてわかるの?」


「教えてくれた人がいて。ルーンの方が、わたしが知ってる呪文を使った魔法に近い気がします。指輪も必要ですよね」


ルイーズはルビーをはめた一対の指輪を取り出して、人差し指に通した。「月神の象徴は弦月よ」彼女は同時に二つの美しい三日月の図形を描いた。ラウンの実演を何度か見て、そらも帰ってから関連の本をたくさん読み、カワ先生にも説明を頼んだから、今では彼にもルイーズの指が描いた跡が見えた。淡く、まるで風に色がついたかのようだった。


ルイーズは何度も繰り返し描いていて、角度を調整しているようだった。ついに、ある一筆の後、月顏花の精油から細かい金色の粉が浮かび上がった。


そらは成功したと思ったが、ルイーズの顔色が急に変わって、慌てて力を引き戻した。


一瞬で周りが凛とした冷たさに包まれた。力の引っ張り合いが何度も続き、ルイーズが持ちこたえられなくなりそうな瞬間もあったが、また主導権を取り戻した。


最終的にできあがったのは、きらきらした粉が舞うような精華ではなく、もっと淡い鵝黄色がおうしょくのものだった。


ルイーズがそらに言った。「これで成功よ。次は実験動物が必要ね」


そらが言った。「わたしで直接試せばいい」


ルイーズが言った。「これは毒があるのよ」


そらが言った。「もし治療魔法で毒素が消せなかったら、療養院で治療してもらえばいい」


ルイーズは考えてから承諾した。「本によると、毒性はそれほど強くなくて、長期間蓄積すると人を狂わせるって」


そらが言った。「あの月魔族は意識がはっきりしてるように見えました」


「それは彼が夜落の地の民だからよ。実際、狂信徒の多くは日の出の地の住民。地域をまたいで信仰すると、たいてい問題が起きるの」


「服を脱がないといけないですか?」


ルイーズは気まずそうに言った。「腕に描いてもいいわ。心臓に近いほどいいけど」


描きやすいように、そらはボタンを外して片袖を脱いだ。胸の人骨薔薇の刻印を見て、ルイーズが言った。「今でもその印、痛むの?」


そらが答えた。「痛みません。でも療養院がわたしを治療できるのに、わざとこの印を残させて、逃げ出さないようにしてるんだって知ってからは、少し気になるようになりました」


ルイーズが言った。「黒女神が興味を持つ対象に手を出すのを怖がっているからだと思う。治療師は誰でも患者の回復を望んでいるはずよ」


(そうとは限らない)そらは口には出さなかった。


ルイーズが極細の筆でそらの体に記号を描き始めると、そらは思わず声を上げそうになった。彼の表情の変化を見て、ルイーズが慌てて聞いた。「痛い?」


「大丈夫」刺青のような感覚だろう、そらはできるだけ我慢した。初期の黒魔法解除の治療に比べれば、これは大したことではなかった。


突然、鋭い痛みが走り、そらは激しく息を切らした。ルイーズはすぐに手を止めて、木エルフの神官に祝福された水で記号を拭き取った。


それでも痛みは止まらなかった。皮膚を削ぎ取りたくなるほどの痛みだった。それを見て、ルイーズは治療魔法をかけながら止痛の小さな呪文を唱え、ようやく少し楽になった。


「ああ! ごめんなさい!」ルイーズはそらの腕が青紫色に変色しているのを見て、口を覆って言った。


そらが言った。「大丈夫、痛みは引いてきた」


「ごめんなさい、禁忌のものを試すべきじゃなかった。毒があなたの体に浸透してない?」


そらは左腕の上腕を見て言った。「腫れは引いてきてる。ごめん、わたしの体が耐えられなかったみたい」


ルイーズが言った。「記号を描き間違えたか、精製が足りなかったのかも。花自体は問題ないはずよ、何度も確認したから」


そらが言った。「あのとき見た魔族も皮膚が紫になってたから、毒であることは間違いないと思う。もしかしたら個人によって調合量を変える必要があるのかも」


ルイーズは気が抜けたように言った。「わたしはエルフだから、夜落の地の魔法をうまく扱えないのよ。やっぱりフェラキオ家に任せた方がいいのかしら」


そらが言った。「諦めないで、何度実験台になってもいいから。あなたはここまで来たんだから」


ルイーズは自信なさそうにそらを見た。そらが言った。「他の人のことは保証できないけど、あなたなら必ずできると思う」


ルイーズは頷いて、そらの傷ついた腕に薬を塗った。


幸い皮膚の表面だけの傷で、薬草の軟膏を薄く塗っただけでだいぶ楽になった。


そらが聞いた。「治療の腕も上達したね。万能になってきてる」


ルイーズは言った。「これはシーデにもらったの」


そらは驚いて言った。「それなら、彼はわたしたちの計画にもっと深く関わってるってことになる」


ルイーズが言った。「実は黒魔法に関わる部分、たとえば黒女神に神託を求める儀式の手順とかも、かなりシーデに手伝ってもらったの」


そらが聞いた。「彼があなたの味方だって確信あるの?」


「彼はいい人よ」


「良い人と悪い人だけで分けられるほど単純じゃない」


「でも彼がわたしを陥れたいなら、わたしが黒魔法に触れていたときに告発すればよかったはず」


そらが言った。「もっと有効な時機を待ってるのかもしれない」


ルイーズは少し不機嫌そうに言った。「なんでそんなに疑わないといけないの、彼はこんなにわたしたちを助けてくれてるのに。アクミリン家の出身ってだけで? じゃあピエテ家出身のわたしも、一族の他の人たちと同じだって決めつけられるってこと?」


そらが続けて聞いた。「あなた、まだ彼とこの禁忌の情報をやり取りしてるの?」


「だめなの?」


喧嘩になりそうな雰囲気の中、そらはふと一つの方法を思いついた。狡猾だとはわかっていたが、ルイーズの安全のためだ。


彼は言った。「ごめん、あなたが他の男性とそんなに親しくしてるのを見て、心配になりすぎたんだ。あなたの安全が気になって」


できるだけ意味深に聞こえるように言った。この期間、ルイーズの自分への気持ちに、まったく気づいていなかったわけではない。


ルイーズはむくれた顔から喜びの表情に変わって言った。「わかった、他の人とは距離を保つよう気をつけるわ。だって……わたし、貴族だから」


そらが言った。「あなたを利用したい人はたくさんいるから」


「わかったわ」


ルイーズの浮かれた様子を見ながら、そらの罪悪感はますます深まった。


(この手を使うのは、本当にいいことなんだろうか)

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