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トルコ石  作者: 葉櫻
六、隠者
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番外 旅人棋

「旅人棋をしよう!」


弦羽げんうがボードを持ち出して何度もせがむので、雪は根負けしてやっとテーブルに着いた。「昨日も一昨日もしたじゃないか」と雪がぼやく。


弦羽げんうが言った。「一度も勝てていないから」


旅人棋は一勝負で一、二時間かかる。雪はその時間、日なたで遊びたいだろうな、と弦羽げんうは知っていた。でも一度だけ勝ちたかった。もう三日連続で負けている。


旅人棋のルールはそれほど複雑ではない。子どもが楽しめる冒険シミュレーションのボードゲームだ。二人はそれぞれボードの端から出発し、相手の起点が自分のゴールになる。ランダムに生成される地図の上で、各ノードから道を通って次のノードへ進んでいく。ゲーム開始時に三つのクリスタルを引く。クリスタルと地図上の各ノードは、風・土・水・火の属性を持っていて、そのノードを通過するには対応する属性に克つクリスタルを消費しなければならない。毎ターン終了後に一つクリスタルを引いて、次のターンから使える。ノードにはランダムイベントのコインがあって、そこに止まると、クリスタルを交換できる商人だったり、クリスタルをたくさん消費する怪物だったりと、めくってみて初めて何に遭遇するかわかる。


勝利には運が大きく関わると知りながら、弦羽げんうはどうしても一勝したかった。


雪は目をこすって欠伸をしながら、ボードがランダムに地図を生成するのを眺めた。「紅茶が飲みたい」と言う。


「そうだった、忘れていた」弦羽げんうは使用人を呼んで、雪の大好きなお茶のセットを用意させてから、「始めよう!」と雪に言った。


雪はのんびりと箱からクリスタルを三つ取り出して、自分のトレイに入れた。弦羽げんうは突然思いついて言った。「わざと負けるのは禁止だからね!」


弦羽げんうが口を酸っぱくして頼んだ末に、雪はちゃんと本気で戦うと宣言した。


弦羽げんうと雪がそれぞれ引いたコマは、騎士と侍者だった。四種の駒の中では国王>王妃>騎士>侍者の順で、弦羽げんうの騎士は雪の侍者より上だから、弦羽げんうが先手になった。


ゲームスタート。弦羽げんうの騎士が一歩前に進むと、そのノード周辺の霧が晴れて、次に進める二つのノードが現れた。


そのとき、雪がクリスタルを二枚取り出し、この二つのノードにそれぞれ置いた。


これは旅人棋の「妨害」ルールだ。相手が進む前に、進みそうな場所に最大二枚までクリスタルを置けて、そのクリスタルの属性と、元々のノードの属性が相克関係なら、そのノードは破壊された状態になり、相手は特定の三枚組み合わせでないと通過できなくなる。相克でなければ、置かれたクリスタルと元のノードの属性に対応するクリスタルを支払って通過できる、つまり一層余分なコストがかかる。反対に、置かれたクリスタルがそのノードの属性に克たれる場合は、逆にそのノードの属性が中和されて、相手は何も払わず通過できてしまう。


雪が一番好きなのは、クリスタルを置いて相手の邪魔をすることだった。序盤でクリスタルが三枚しかないのに、二枚を使って弦羽げんうの道を封じようとする。


二つのノードの表を確認すると、どちらも風属性だった。弦羽げんうの手持ちには火と水のクリスタルがある。二枚使って、右の道を選んだ。


もし雪が火が風を克する組み合わせを当てていたら、弦羽げんうは特定の三枚組を要求される。序盤の三枚しかない段階ではほぼ不可能だ。道が二択のとき、これはほぼ必勝の布石で、弦羽げんうは前の何回かでこの罠にはまり続けて、数ターン足止めされてすでに大きく遅れを取っていた。


弦羽げんうのターン、水のクリスタルを引いてから、雪も二股に分かれた道にいることを確認した。腹をくくって、残りの二枚を雪の進みそうな道に置いた。


表をめくると、弦羽げんうが置いた水クリスタルが、雪の道の火属性に当たっていた。つまり火を水で消して、逆に雪の通行が楽になってしまった。


雪はにんまり笑って言った。「ありがとう」


弦羽げんうは悔しかったが、雪が笑うとやはりいいなと思ってしまう。


初めて会ったとき、弦羽げんうはひどく驚いた。失礼な表情を出さないよう懸命に言い聞かせないといけないほどだった。雪の顔立ちが、あまりにも精巧すぎたからだ。水エルフが彫っても、あれほどの容姿は作れない。


その、朧げで壊れそうな美しさ。おずおずとあたりを見回していた雪に向かって、弦羽げんうは手を差し伸べて言った。「はじめまして、ぼくは弦羽げんう、アイセンティアの四王子だよ」


雪が弦羽げんうの手を握って言った。「わたしは雪」


その手の冷たさに弦羽げんうはぎょっとした。一年中花咲く国に生まれた弦羽げんうには、氷雪の王国の厳しさを想像するのは難しかった。雪の手の温度だけで、その過酷さの一端がわかった。


弦羽げんうの三人の兄たちは、年齢差が百年以上ある。弦羽げんうはいわゆる末っ子の思わぬ子で、それゆえ特別に可愛がられた。家族は彼を人前にも出さず、王族の責務も何も背負わせなかった。でもそのせいで孤独だった。親は彼のために年齢の近い学友を何人か探してきた。みな五大名門の子弟だった。そのうち、ルイーズ・ピエテはあまりにも内気で、弦羽げんうが口を開くとスカートを掴んで逃げようとした。クダ家のイナータは少し年上で大人びていて、彼女と話すのは世話役と話す感覚に近かった。アクミリン家も嫡男エドウィンを薦めてきたが、話が合わなかった。後で来たシーデ・アクミリンとは錬金術をしたりして、まあまあうまくやれたが、アクミリン家がますます目に余るようになってから、シーデとも距離が開いた。


名門の子弟たちは多かれ少なかれ、弦羽げんうに対してへりくだる態度があった。当たり前だ、家族から王子のお相手をするよう言われているのだから。使用人たちが互いにじゃれ合っているのを見ながら、弦羽げんうは今自分が接している人々が、本当の意味での「友人」ではないと感じていた。対等な感覚を本当に受け取れたのは、よそよそしいように見えて、すぐに冷たい仮面が崩れていったイグルーサの王子だけだった。


雪は国を追い出されてきた。アイセンティアに媚びを売ろうという選択がない。あの銀色の双眸からは、子どもが本来持つべき輝きが消えていた。だからこそ、弦羽げんうが試したことのないことへ誘うと、雪の反応はいつも大きかった。おそるおそる世界を探っていく様子が見えた。雪が掴めるのは弦羽げんうの手だけだった。


王子として、あまりはしゃぎすぎると施しのように思われると弦羽げんうは知っていた。でも雪とは、まるで最初から息が合うようで、何かしたいと言うと、雪もいつも同じくらい楽しんでくれた。


弦羽げんうは好奇心で直接聞いたことがある。なぜ招待を侮辱と感じないの?と。


雪は言った。「ただ嬉しいから」少し考えてから言った。「あなたの笑顔を見ると気持ちが明るくなる」


弦羽げんうは真剣に言った。「ぼくも、もっと雪の笑顔が見たい」



今また、弦羽げんうのクリスタルに助けられて一マスをノーコストで通過した雪が、うっすら得意げな笑みを浮かべた。


「また置き間違えた……」弦羽げんうはそう言いながらも、雪が嬉しそうにしているのを見て、悔しいより嬉しい気持ちの方が大きかった。


何手か進んだところで、弦羽げんうのターンになって、イベントコインのある道を選んだ。


コインを裏返すと、風属性の半人半蛇の怪物が出てきた。風のクリスタル三枚が必要だ。


風のクリスタルがそれだけ手元にない。今ターンで引いたのも水だった。次のターンに引くのを待つか、引き返すしかない。


雪は悠々と自分のコマを動かしながら言った。「やっぱり引きが悪い」


弦羽げんうは雪がまたイベントコインのある道を避けているのを見て、思わず言った。「なんでイベントを踏まないの?」


雪が言った。「リスクを取りたくない」


弦羽げんうが言った。「でもそれが旅人棋の面白いところじゃないか!」


雪が言った。「勝つ方が面白い」


弦羽げんうが言った。「実際の冒険でも怪物に出くわすことはある。打ち勝てばいいだけだ」


雪が言った。「でもわたしは戦えない」


「お前は回復担当で、怪物の相手はぼくがする」


雪は少し考えてから言った。「それなら、弓使いがもう一人いる」


弦羽げんうが言った。「それも全部ぼくがやれる」


雪が言った。「回復も? 御触で自分を治せるじゃないか」


弦羽げんうは驚いて言った。「御触を知っているの?」


雪が言った。「父王が教えてくれた」彼は少し顔をそらして言った。「父王は木エルフの王族と友達になれと言っていた。わたしはなりたくなかったから、その代わりに一番一生懸命勉強したのが回復魔法だった」


弦羽げんうが言った。「御触は自分の魂の力を使うから、自分を治すことはできない。やはり、お前と組まないといけない」


共に過ごしてきた日々の中で、二人は冒険のことだけでなく、チームのメンバー構成まで考えるようになっていた。


ピエテ家の書庫で過ごした日々、世界各地の画集や地図を眺めながら、冒険の道のりや最後の宝を想像した。洞窟の奥深くには、きっと金銀財宝が山と積まれていて、その中心の宝箱の中には、値のつけられない宝があるはず。それは……いったい何だろう?


お話のリレーは、いつもここで止まった。


それを思い出して、弦羽げんうは聞いた。「冒険の最後の宝箱、いつも何が入っているかわからないまま終わっていたね。お金でも買えない、一番大切なものだと思うんだけど」


雪が言った。「何だと思う?」


弦羽げんうは答えなかったが、心の中ではすでに答えが出ていた。


名前のわからない怪物でも、欲深い冒険者でも、冷酷な魔族の軍団でも、どれもサイコロで最大の目を出せば越えられる。自由の前に立ちはだかる、最も身近な障壁は、王家のしきたりだ。


誰にだって、自由になれない理由がある。雪のように残酷な制限があるとは限らない。愛する家族への情のような、抜け出せない縛りもある。力不足という、現実的な理由もある。


宝箱の中には、きっと雪や弦羽げんうが一番ほしいものは入っていないだろう。


弦羽げんうが欲しいのは自由だ。自分が大切にしている友情を守れる自由。


弦羽げんうは雪を見つめて聞いた。「最近、なんで機嫌が悪いの?」


その率直な問いに、雪はすぐに答えられなかった。


弦羽げんうはさらに言った。「兄上の婚約式の後から、ずっとあまり笑っていない」


雪が言った。「そんなことない」


「嘘だ、絶対何かある。婚約式に呼んでもらえなかったから怒ってる? それともぼくがずっと一緒にいなかったから?」


「お前のターンでしょう」


弦羽げんうが言った。「教えてくれないと、このゲームは続けられない」


「……みんないつかは離れていくんだと、気づいた」


「なぜ? 結婚したら、ずっと一緒にいられるじゃないか」


「エンジェイマの姫がアイセンティアに来たら、彼女と友達は簡単には会えなくなる」


「姫殿下はアイセンティアにも友達ができるし、新しい友達も……」


雪が遮って言った。「そういう話じゃない!」


弦羽げんうが聞いた。「じゃあ何?」


「誰でもそうだ、出会ったときから、一緒にいられる時間は減っていく一方だ」


弦羽げんうはまだ飲み込めなかった。それを見て、雪はため息をついて言った。「お前とだっていつかは離れる、もしかしたらこの一局が終わる前に、イグルーサで何か変わって、わたしは戻らないといけなくなる」


弦羽げんうが聞いた。「それは、ぼくと離れたくないということ?」


「たぶん」


弦羽げんうが言った。「今はどうにもできなくても、大人になればお前が嫌いな国を自分で離れられる。アイセンティアはいつでもお前を歓迎する」


雪は弦羽げんうに問うように、自分に問うように言った。「できるかな」


弦羽げんうが言った。「今からぼくはずっと努力して、お前が残れるようにする」


雪はボードを見つめてから、自分の侍者のコマをそっと取り上げた。


弦羽げんうも一緒に立ち上がって聞いた。「もうやらないの?」


雪が言った。「どうせわたしが勝つ。お前はわなを仕掛けられる場所でも、仕掛ける気になれないから」


弦羽げんうは確かに妨害を置くスタイルが好きではなかった。でも雪がうまく妨害を決めたとき、雪は賢いなと思ってしまう。


帰ろうとする雪を、弦羽げんうが呼び止めて言った。「本当に秘密基地を作る。言ってた本は全部集める! 錬金術の作業室も薬草園も書庫も作る。内装も考えてある。お前は椅子でくつろぎながら本を読むのが好きだから、知り合いの職人に頼んで、お前だけの椅子を作ってもらう。一番好きな色は何?」


雪は弦羽げんうの目をじっと見てから、答えた。「海の青」


弦羽げんうは帆船に乗って海原を進む姿を思い浮かべた。それがきっと雪が海の青を好きな理由だろう。自分の目の色がよく蒼い海に例えられると、両親から言われたことを思い出した。秘密基地にその色が入るのを想像して、気持ちが上向いた。弦羽げんうは手を振って魔法でボードをしまいながら、雪に言った。「次は海賊のサイコロゲームをしよう!」


雪は薄く微笑んで言った。「何をしても同じくらいだよ」


弦羽げんうが言った。「必ずお前に勝てるゲームを見つける」


「無理だよ」


「勝つ」


「無理」


「勝てる」


「無理」


「勝てる」


言い合いを続けながら、二人は庭の日なたへと駆け出した。


花の精が二人の周りを飛び回り、春の温もりの中で、弦羽げんうは雪の顔を見ながら、この笑顔を守り続けようと心に決めた。

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