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伝説によれば、真夜中、心が清らかな人魚だけが、生命の終着駅へと続く神秘の潮流を見ることができるという。透き通って光る生き物に導かれた、優しい海の流れ。一度入れば、一つ一つの駅を通りながら、生命が消えていく様を見届けることができる。それゆえ「生命の潮」と呼ばれていた。
六歳のアンリエットはこの物語に強く憧れていた。よくこっそり眠らずに、窓の外を見つめながら、生命の潮が窓辺を流れてくるのを待っていた。
この日も、ヴァレリーがアンリエットの部屋に泳いでいくと、案の定アンリエットはまだ眠っておらず、小さなビスケットを手に、生命の潮に乗ろうと待ち構えていた。ヴァレリーは言った。「あれはただの伝説よ。本当のことなら、母上がとっくに教えてくださっているはず」
アンリエットは丸い大きな目を見開いて言った。「でも、子どもの方が生命の潮を見やすいって言われてるの」
「みんなを慰めるための作り話よ」
アンリエットはどんな氷山も溶かしてしまいそうな無邪気な笑顔で言った。「わたしは本当だって信じてる」
この日は特別な日だったので、ヴァレリーはお話で寝かしつけることはせず、一緒に窓の外を見つめることにした。
アンリエットが突然言った。「お姉様は、王位を継ぎたい?」
「父上と母上がわたしに継いでほしいと望むなら、その責任を引き受けるわ」
「ヒメロペが言ってたの、人魚族は幸せだって。他の種族の王室は王位を巡って殺し合うこともあるんだって。不思議よね、家族なのになんで争うの?」
「わたしにもわからない」
「それに、わたしは全然女王になりたくないの。ヒメロペが、わたしが女王になったら、もう一緒に遊べなくなるって言ってた」
「大きくなってから、ゆっくり考えればいいわ」
「大きくなるって、どういうことなの?」
「これだけは言えるわ。できることなら、あなたには永遠に大きくならないでほしい。今のままでいてほしいの」
「どうして?」
「成長する中で、いつか新しい誰かを愛するようになる。誰かを愛するというのは、ほとんど負けが決まっている賭けのようなもの。心が傷つくこともある。そしてそのたびにまた成長していく。わたしはただ、今のあなたの無垢な姿だけを見ていたいの」
アンリエットは小指を差し出して言った。「じゃあ指切りしよう、わたしは永遠に大きくならないって」
「だめよ、これはわたしのわがままだから」
「でもわたし、お姉様のことが大好きなの。お姉様にはずっと幸せそうな笑顔でいてほしい」
(誰かを愛するというのは、笑顔だけじゃない。涙もついてくる)
ヴァレリーは、その澄んだ瞳のアンリエットに、そんな言葉を口にすることができなかった。
ヴァレリーが答えないでいると、アンリエットは窓の方を見て聞いた。「あとどのくらい待てばいいの?」
「現れないわ、全部……」
「現れた!」アンリエットが突然窓を指して叫んだ。
ヴァレリーが視線をアンリエットの小さな顔から窓へ移すと、本当に銀白色の水流が、まるで一瞬で消えてしまいそうな儚さで漂っていた。
アンリエットが窓を開けた。ヴァレリーは引き戻そうとしたが、その銀白の潮流の優しい力を感じた瞬間、思わず自分も窓の外へ泳ぎ出て、一緒にその流れの中へ入っていった。
水流はとても穏やかで、青白く光るクラゲが中を漂っていた。それがゆっくりと二人を城から遠ざけていった。
アンリエットが笑って言った。「お姉様!伝説は本当だったね!」
「油断しないで、これは罠かもしれない」ヴァレリーは口ではそう言いながらも、アンリエットを潮流から引き離そうとはしなかった。それでも彼女の手はしっかりと握り、いつでも防御できるよう構えていた。シラーナは開かれた国で、複雑な階級制度もない。もともと人魚たちは自分たちだけで十分に暮らしていけていたが、他種族が入り込むようになってから、犯罪が増え始めていた。シラーナの女王は他種族の出入りを制限せざるを得なくなったが、それでも人魚の王族に良からぬ考えを抱く邪悪な勢力は後を絶たなかった。
アンリエットは小さなビスケットを取り出し、砕いて潮流の中の小さな生き物たちに与えた。
アンリエットはまだ幼く、政治の険しさをわかっていなかった。家族も誰一人、彼女にそれを知ってほしいとは思っていなかった。父王が亡くなった後、アンリエットは末の王女となり、母も姉たちも、アンリエットを世界で一番幸せな子に育てたいと願っていた。永遠に純粋な心を保てるように。
ヴァレリーが少し前に起きた人間の暗殺者の侵入事件を考えていると、潮流が突然消え、二人は白く色を失った珊瑚の前で止まった。
アンリエットが小さな顔を上げて聞いた。「お姉様、なんでこの珊瑚は白いの?白い宝石珊瑚の別の種類?」
「これは……死んでしまったの」
ヴァレリーは感じ取っていた。この珊瑚たちは病気なのではなく、完全に命を失っているのだと。これほど死に絶えた水域に来たことはなかった。「ここは人魚の海域じゃないわ。他種族が海を汚しても処理しないまま放置すると、珊瑚はこうして死んでしまうの」
「彼らは橙色の島に行ったの?」
「橙色の島も人魚の伝説の一つよ。それに、伝説では清らかな人魚の魂しか、死んだ後そこへ行けないとされているわ」
「じゃあ、この珊瑚たちの魂はどこへ行くの?」
「わからないわ」ヴァレリーはこのとき、何でもいいから沈黙を破る音が欲しいと思った。海妖の歌声でさえ構わなかった。
天から白い「雪」が降ってきて、アンリエットがまた聞いた。「これは何?」
ヴァレリーの胃がきゅっと縮んだ。海底の「雪」は、死んだ動植物の沈殿物だった。アンリエットは陸の雪に憧れていたが、両者の意味するものはまるで違う。それをアンリエットに説明するのは難しかった。
幸い、銀白の潮流が再び現れ、アンリエットはすぐにヴァレリーの手を引いてそちらへ泳いでいった。
「珊瑚にも、珊瑚だけの橙色の島があるはずだよ」アンリエットは先ほど見たものに、そう結論をつけた。
ヴァレリーは返事をしなかった。頭の中は死んだ珊瑚のことでいっぱいだった。これまで政務には同席していたが、自分でこうした汚染された水域まで来たことはなかった。母が他種族との関わりを最小限にしたがる理由がよくわかった。海は最も古い命を育んできたのに、陸の命の目には、それがまるで価値のないもののように映っているのだ。
潮流は二人をさらに深い海底へと導いた。光るクラゲのほのかな光以外、他に光源はなかった。アンリエットが少し怖がり始めたので、ヴァレリーは魔法で光を灯し、まだ魔法を使えないアンリエットに言った。「怖くないわ、わたしがついてる」
アンリエットは頷いて、ヴァレリーにもっと寄り添った。
潮流が再び消えたとき、二人は一頭の鯨の骨格の前に止まっていた。
アンリエットがヴァレリーの手を強く握った。ヴァレリーは彼女を怖がらせないよう言った。「鯨は死ぬと、体がゆっくりと海底に沈んでいくの。その過程で、他の海の生き物たちに栄養を与える。食物連鎖の大切な一部で、〝鯨骨生物群集〟って呼ばれているのよ。彼の死は他の生き物を養うことになる。命の終わりも、ある種の優しさなの」
「もしわたしが死んだら、世界にどんな影響があるのかな」
「それはずっとずっと先のことよ、今は考えなくていいの。でも、わたしたちが生きている間に、世界に美しさをもたらすことはできるわ。あなたの存在そのものが、母上やお姉様たちをとても幸せにしているし、国民みんなに希望を与えているのよ」
「でもわたし、何もしてないよ」
「命は、ただ存在しているだけで、十分にすごいことなの。あなたがいつも大人たちの役に立とうとしているのは知っているけど、そんなに頑張らなくていいのよ。わたしたちはただ、あなたが健康で幸せでいてくれればそれでいい」
アンリエットは真剣に言った。「もし死が必ず訪れるものなら、わたしも鯨さんみたいに、優しく死にたいな」
ヴァレリーはアンリエットを見つめながら、ぼんやりと思った。彼女が生まれたあの日が、まるで昨日のことのようだ。あんなに小さくて、柔らかくて、守られるべき存在だった。今は少し成長したけれど、それでも変わらず脆い。こんなに優しい子に、死が訪れる日なんて来てほしくない。ヴァレリーはアンリエットの手を握りながら、そっと首を横に振った。アンリエットは頭を下げ、それ以上何も言わなかった。
二人は再び銀白の潮に乗り、次の駅へと進んだ。
それが最後の駅だった。
潮が消え、クラゲたちがそれぞれの方向へ泳ぎ去っていった。
人魚は死ぬと、体は泡となって消え、何も残らない。だから伝説では、善良な人魚の魂だけが幸福の橙色の島へたどり着き、そこで永遠の命を得るとされている。人魚が存在した証として残るのは、涙の宝石の一粒一粒、そして一生に一度、深く愛する者のために流した涙が真珠へと変わったものだけだ。
二人は涙の宝石と真珠が埋もれた荒野を泳ぎ抜け、静かに、遠くの橙色の光に向かって進んでいった。
ある宿場のような場所で、誰かが二人を待っていた。
「ヴァレリー姉様!アンリエット!」
聞き覚えのある声に、ヴァレリーは固まった。アンリエットは握っていた手を離して、声のする方へ素早く泳いでいった。
そこにいたのは八歳ほどの人魚の少年で、王族の衣装を身にまとい、笑顔で手を振っていた。
「カイラン兄様!」アンリエットは人魚の少年の腕の中へ飛び込んだ。
幼くして世を去った小さな王子、カイラン。二人の実の兄弟だった。
カイランはアンリエットの髪をくしゃくしゃと撫でて言った。「遠くからでも、ヴァレリー姉様とアンリエットの髪の色がすぐにわかったよ。海の中の炎みたいだ」
カイランがアンリエットを離すと、今度はヴァレリーがカイランを抱きしめた。彼女は涙が流れるままにした。涙は一粒一粒、涙の宝石へと変わっていく。彼女はカイランに聞いた。「どうしてここにいるの?」
「時々、生命の潮に乗って橙色の島からここへ来るんだ。親しい人たちに会えないかと思って」
「橙色の島?」
「そう、本当にあったんだ!僕はあそこでとても幸せに過ごしてる。でも姉様たちが心配してるかもしれないと思って、生命の潮が流れるたびに、ここへ来るんだよ。生と死の境界で、君たちに会えないかなって」
「わたしがそちらへ渡れば、橙色の島であなたに会えるの?」
「だめだよ、生きている魂は橙色の島には行けない。でも命にはいつか終わりが来る。いつかまた、必ず会えるよ」
「あなたが恋しいわ。次の生命の潮はいつ来るの?」
「僕にもわからない。でも姉様たちに会えたから、これからはそんなに頻繁にここへは来ないと思う」
「どうして?あなたに会いたいの。元気にしているか確かめたいのよ」
アンリエットも言った。「もうカイラン兄様に会えないの?」
カイランはアンリエットの頬をつまんで言った。「命の旅は巡り続けるもの。僕がこうやって後戻りするのは、決まりに反することなんだ。僕にも、僕自身の旅があるから」
ヴァレリーは震える声で聞いた。「父上も橙色の島にいらっしゃるの?」
カイランが言った。「みんな一緒にいるよ、みんなとても幸せに過ごしてる。だからもう、僕たちのことを気にかけなくていいんだ。そうすれば、僕たちの旅もきっともっと順調に進むから」彼はアンリエットに言った。「僕が作ってあげた緑松石のネックレス、まだ持ってる?」
アンリエットは慌てて頷いて言った。「わたしの秘密の宝箱にしまってあるよ!」
「あれは、君の旅への祝福だよ。長くても短くても、命の旅はそれだけで素晴らしいものなんだ。僕のことは心に留めておかなくていい。心の一番奥にしまっておいて。そうしないと、涙の宝石がこぼれ続けて、他の種族に盗まれてしまうかもしれないからね」
ヴァレリーがさらに何か言おうとしたとき、銀白の海の潮流が再び現れ、彼女とアンリエットを攫っていった。
手を振るカイランの姿がだんだんぼやけていく。声を上げようとしたが、出なかった。小さな泡が視界を覆っていく。
再びはっきりと見えるようになったとき、彼女は自分の部屋のベッドに横たわっていた。シーツの上には涙の宝石が散らばっていた。
すぐにアンリエットの様子を見に行くと、アンリエットはぐっすりと眠っていた。だから起こさなかった。
翌日、アンリエットが言った。「お姉様、昨日カイラン兄様の夢を見たの」
ヴァレリーが聞いた。「どんな夢だったの?」
「うーん、忘れちゃった。でもすごく楽しかったよ!」
その日、ヴァレリーはアンリエットに、寝室の壁に想像する橙色の島を描かせた。
今回、アンリエットはそこにカイランと父の姿を描き加えた。
ヴァレリーが聞いた。「二人は幸せにしているかしら?」
アンリエットは純粋な笑顔を咲かせて言った。「とっても幸せだよ!」




