3-12
「それで?」空は夕立に聞いた。
「考えた末に、手伝ってくれることになった」
「もっと難しいものだと思ってた」
夕立は自分の頭を指して言った。「難しかったのは、記憶をすべて渡さないといけなかったところ」
「僕の先生は、嘘で記憶を着色して自分を守ることも時には必要だけど、本心と誠実さが最も強いって言ってた」
「そうなの!記憶を全部渡すっていうのは、実は簡単じゃない。たとえば今わたしがあなたに、ある日何色の服を着ていたか聞いても、思い出せないでしょ?わたしは嘘をつく訓練も事実を記録する訓練も受けていたから、心の中を全部見せられた。それにカレナで手に入れた情報も、わたし自身に関するものも、マレラに関するものも、鍵の使者の計画に関するものも、すべてサースに渡した」
「彼のことをそこまで信頼できるの?」
「わたしは種族差別主義者で、エルフの方が信頼できるって思ってる。それに一か八かにかけるしかなかった。アーサーの方は今のところ五分五分かな。人間の方がやっぱり難しい」
「うまくいくといいね」
「チームの中でのあなたの役割、忘れてないよ。イナータが来た!」
夕立に引っ張られて屋根の上に座った空は、魔法で視野を鮮明にしてもらうと、豪華なドレスをまとったイナータが兄たちに付き添われて花道を歩いていくのが見えた。このときのイナータは美しさだけではなく、圧倒的な存在感と力を放っていた。アドレの方にも青血貴族としての威厳はあったが、イナータと並べばどうしても見劣りして、誰が権力の主導者かは一目でわかった。
夕立と空は、式が執り行われ、人波が押し寄せ、そして引いて、下働きの者たちが後片付けを始めるまで、屋根の上で見続けた。空はやっと聞いた。「もう行くの?」
「アイセンティアを離れて、またアーサーを追いかけに行く」
「早く説得できるといいね」
夕立は彼に向かって笑って、彼の手を取り、風属性を緩衝材にして一緒に屋根から飛び降りた。
彼女が聞いた。「わたしがあげた緑松石の手環、売ってないよね?」
「売るわけない!」
「よかった。機が来れば、あなたも世界中を旅できるよ」
「その日が早く来るように頑張る」
彼女は髪を振って言った。「わたしも今や〝アイセンティアの友人〟だから、これからは出入りがずっと楽になる。また縁があれば会おうね」
「木偶をくれたから、連絡する機会はたくさんある」
「そうだね。鍵の使者と関係ない話でも、ただ話したいときに使っていいからね!」
去っていく夕立の後ろ姿を見つめながら、空は思った。気軽に連絡などできるはずがない。
自分の想いが彼女の道を遮ることを、深く恐れていた。
イナータの婚礼の盛大さは、たちまち貴族たちの間で話題になった。駆け落ち未遂の件はすぐに誰も口にしなくなり、空が探り出したところでは、幼い頃にイナータと婚約を交わしていた貴族は国外の旅に出ることに決め、しばらくは婚事を考えないつもりらしかった。
エルフの寿命は長い。小さなことに拘泥する必要はない。
イナータの従者の仕事から解放された後、彼はしっかり学院で勉強しようと思っていたが、カワ先生に外に出るよう背中を押されてしまった。「外を歩きなさい、家に籠もって本ばかり読まないで!」
秋を迎えて、学院に残る学生は最も少なくなる。秋は社交の季節だから、学生たちは「貴族の義務を果たし」に行く。つまり、遊ぶのだ。
流行の服に身を包んで互いの別荘を行き来し、より上位の貴族を招待しようとする。力が流れる宴のようなものだった。
誰かが自分とテイラロを誘うとしたら、まさかラヴェニだとは思っていなかった。
その日、学院内で袍を着ていないラヴェニは、袍姿のエルフだらけの中でひときわ目立っていた。真っすぐ空とテイラロの方へ歩いてきた。彼女は白のぴったりした上下を着て、金の家紋刺繡が入った黒のショルダーパッド付き外套を羽織り、黒の長ブーツを履いて、好奇の目線を全部受け止めて涼しい顔をしていた。
空が近づいて言った。「やっと学院に来てくれた。どう思う?」
ラヴェニは笑って言った。「とっても良いわ。王冠学院よりずっと過ごしやすい。今日来たのは、秋に予定はある?と聞きたくて。うちの別荘に来てほしいの」
テイラロが言った。「いいわよ!療養院に一声かけておくわ。どこへ行くの?」
ラヴェニが言った。「スモーク・コーストよ」
その言葉に、空とテイラロは同時に動きを止めた。
テイラロはラヴェニを見た。
ラヴェニは真剣な目で言った。「行って、見てきなさい」
しばらくしてから、テイラロは頷いた。それからすぐ、少し不安そうに空を見て聞いた。「一緒に来てくれるよね?」
空は答えた。「テイラロは僕の一番の友達だから、必要なときにはいつでもそばにいる」
ラヴェニが言った。「わたしも入れてよ!後悔があるなら、できるだけ解決しに行きましょう」
テイラロは少し迷ったような、でもどこか懐かしそうな微笑みを浮かべた。往時の記憶が頭の中をよぎったのかもしれない。
夏の終わりの花火、秋の始まり。
空はもう準備ができていた。もっと広い世界へ踏み出す準備が。




