2-9
ラウンが去った後、空は検問の列から外れた。
胸の人骨の薔薇の刻印に力を注いで護守魔法を剥ぎ取り、緑松石の手環を取り出した。
ラウンが教えてくれた追跡術はすぐに反応した。今いる場所はラグマン帝国最大の都市キグノア。もし彼女がラグマン宮廷の実力者を探しているなら、この街のどこかにいるはずだ。
追跡術の淡い痕跡を辿り、市の中心部へ向かって歩いた。
キグノアは人と声でごった返していて、追跡術の腕前もまだ大したことがない。目印のない地図を持たされたようなものだ。どこへ行けばいいかわからない。
ふいに、追跡術の線が目に見えるほどはっきり現れた。
(ラウンが言っていた、逆追跡に気をつけろと)
でも構わなかった。最初から見つけてほしくて来たのだから。
追跡術の痕跡を辿ると、やがて一つの時計塔の前で立ち止まった。
見上げると、上から覗き込む人影があった。
急いで時計塔の階段を駆け上った。丸い螺旋階段に自分の足音が響き渡る。
頂上に着いたとき、夕陽が落ちかけていた。血のような茜色の光が窓から差し込み、狭く何もない時計塔の最上階を染め上げた。さっきの暗い階段とはまるで別の空間のようだった。
少女はやはり黒いマントと黒衣で、胸の前で腕を組んで壁にもたれて聞いた。「探してた?」
夕陽に染まった彼女の髪が金色と桃色に輝き、風の誘いに応えてなびいた。
「うん」空は息を切らして言った。
「何の用?」
「名前を聞きたくて」
「わたしの名前は夕立。わたしの国の言葉で〝驟雨〟という意味。特に夏の午後の雷雨のことよ。それで?わざわざ来たのは名前を聞くためだけ?」
「ここへ来る前にいろいろなことがあって、やらなければ永遠にできなくなることがあると気づいた。縁あって、黒女神が神々の会議に乗り込んだときの記憶を見たことがあって、鍵の使者がどんな存在かも大体わかった。妳が鍵の使者に一番ふさわしい人だと思う。力を貸せればと思って」
「どう力を貸すの?」
「たとえばアイセンティアの貴族の情報を共有するとか。前任の鍵の使者、オーロパ王女の罪悪の街の城主の地位を受け継ぎたいんでしょう?宮廷に直接入ることはできないけど、貴族や王族と知り合いが多いから、注意して見ていられる」
「なぜオーロパ王女のことを知っているの?」
「周りが貴族ばかりで、うっかり聞いてしまうことがある」
「報酬は何が欲しい?」
「何もいらない。鍵の使者の悪い先例をたくさん聞いてきたけど、夕立はそういう人じゃない。鍵の使者が世界にこれほどの影響を与えるなら、夕立が一番ふさわしいと思う」
「わ、ありがとう。でもそれだけじゃわたしはあなたを信用できない。いい人なのはわかるんだけど、王族や貴族と知り合いがいると自分で言ったじゃない。わたしが二重スパイじゃないってどうしてわかる?」
「どちら側でも僕はスパイとは言えない。守るべき秘密は守る。ただ夕立が罪悪の街の副手を探してアイセンティアへ来たのに、向こうはすでに別の国へ行っていた。僕がいれば、アイセンティアに空振りで来る時間を省ける」
「もう一度聞く。報酬は何が欲しい?無料で動いてくれる人なんていないと思う」
「冒険がしたい」
「え?」
「今は国内に縛られているけど、夕立が話してくれたことや、実際に冒険を経験してみて、ずっとアイセンティアの中だけにいたくないと思った。夕立は船を持っているって言ってたね。そのチームに入りたい。人魚も、海妖も、巨人も、ドワーフも、本物の海の竜も、全部見てみたい」
「お兄さん、今の〝チーム〟は二人しかいないよ。言ってた船も、最近嵐でぼろぼろになって、仲間が修理してくれる人を探しているところ」
「夕立はきっとすごく強くなる。確信がある」
「要するに、チームに加わりたいってことね。いいよ、コックとして!」
夕立の弾けるような笑顔を見て、空は自分が正しい選択をしたと確信した。しかし彼女が何かを差し出したとき、確信が少し揺らいだ。
それは、顔も手足も大きな待ち針が何本も刺さった木の人形だった。手で削ったらしく、作りがそれほど丁寧ではなく、目の部分は黒いバツ印を刺繍した赤いボタンで、体には刺青のような細密な模様がある。
夕立が言った。「話しかけたいときは耳に刺さった針を抜いて。何かを見せたいときは両目の針を抜く。まあ言わなくてもわかるよね。まず適当に指を刺して、血を一滴垂らして」
空がそうすると、血の粒が不思議なことに人形の中に直接染み込んで、表面には血の跡一つ残らなかった。
「ありがとう」
「こっちがお礼を言う立場でしょ!まあいいや。もし裏切ったら、この人形であなたに呪いをかけるよ!あなたの血がもう入っているから……全然怖がってないじゃない」
「今もう黒女神に呪われているから」
「そうだったね。早く回復するといいね。チームに加わってよ!タトゥが嫉妬するかもしれないけど、あなたの料理を食べたら文句はないと思う」
「誰それ?」
「仲間よ。いつかアイセンティアを通るとき、あなたに会わせてあげる。面白い子よ」
「ラグマンで探していた人は見つかった?」
「まだ。行動がとにかく掴めなくて。あなたを信頼できるようになったら、もっとちゃんと話す。用事があるから、もう行くね」
「じゃあね」
夕立はぴょんぴょんと跳ねながら階段を駆け下りた。足音が遠ざかっていくのを聞きながら、空は壁に寄りかかって座り込んだ。
なぜこんなに心臓がどきどきしているのか。
弦羽に頼まれたことではあるが、心の底から自分も彼女についていきたかった。彼女が鍵の使者になったとしても、世界を傷つけることはないはずだ。
なぜなら、彼女が世界に向ける目が情熱に満ちているとわかるから。
幾重もの難関を越えてアイセンティアへ帰り、連絡を入れると、すぐにテイラロが来た。
会うなり彼女は空を抱きしめ、何も言わずにそのまま放そうとしなかった。ようやく腕を解いてから聞いた。「拉致した人間にひどいことをされた?」
空が犯罪の記録を残さないよう、ラウンがすべてを誘拐に見せかけて手配してくれた。空もその話に合わせると約束していた。「用が済んだら解放してくれた。怪我はさせられていない」
テイラロは何度も確認してようやく信じてから、眉をひそめて言った。「連れ去られたとき、本当に怖かった。療養院も大騒ぎになって、みんなが探した。犯人はわたし一人でしか来るなと言って、他に何か企んでいるんじゃないかと思った。でも怪我がなくてよかった。ごめんなさい、ちゃんと守るから、もうこんなことにはさせない!」
「今回は予想外の出来事だった」
「この間、お守りを作ったの……これしかできることがなくて」
空は複雑な気持ちで彼女が差し出した皮紐の手環を受け取った。木彫りの珠が連なっている。空が連絡できないでいる間、ここから出ることも許されずに、ただ知らせを待ち続けるテイラロの姿が浮かんだ。
(彼女を苦しめてしまった)
テイラロが空の体のあちこちを確認し続けているうちに、空は腹をくくってエニシダの花冠を差し出した。「これ、テイラロに」
いくつか説得の言葉を考えておいたが、テイラロは何も聞かず、そのまま花冠を頭に乗せた。
その瞬間、花冠がほどけ、花びらと枝葉がはらはらと地面に落ちた。テイラロが戸惑いの表情で立ちすくんだ。
「テイラロ、鍵の使者候補なの?」
「……なぜ突然そんなことを?」
エニシダの花冠の仕組みを説明すると、テイラロは黙り込んだ。
「答えを急かしているわけじゃない。ただもう知ってしまったから、隠したままにしたくなかった」
「誰が教えたの?」
今度は空が答えられなかった。
「わかった」テイラロはため息をついて、隣に腰を下ろした。「機会があれば、わたしもちゃんと話したいと思っていた」




