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トルコ石  作者: 葉櫻
二、吊るされた男
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2-6

小さな丘を登ると、そらは薬草を煮る香りを嗅いだ。


香りを辿っていくと山洞があり、洞口は織られた毯子で覆われていた。


「ここだ」ラウンは咳払いして言った。「失礼いたします、私どもはコーツタンのファンザ家の命を受け、モンカヨの魔法使いを訪ねてまいりました」


しばらく経ってから、しわがれた声が答えた。「入りなさい」


毯子の奥は温かみのある空間で、薪がはぜる音と薬を煮る沸騰音だけが響いていた。大きな釜をかき混ぜている魔法使いは振り返りもしない。


ラウンが言った。「木エルフに持ち去られた、四季を調節する懐中時計をお返しに参りました。持ち主のお手元にお戻しします」


そらは呆れながら、ラウンが取り出したものを見た。王冠学院の書庫に厳重に保管されているはずの影の書だった。書まで持ち出していたとは。


ラウンの言葉に魔法使いが反応して振り返った。深い皺が刻まれた顔に、小柄で腰の曲がった体。歩くのさえままならないような様子だ。


「黄色い皮の奴か?」かすれた声で言う。話すだけで体力を消耗しそうに見えて、そらは心配した。


「はい、ご確認ください」


魔法使いはよろよろと近づいてきた。厚いマントが動きに合わせて少しはだけ、その手が見えた瞬間、そらは気づいた。手の甲から指先まで、びっしりと図案の符号が刻まれている。


魔法使いはラウンが恭しく差し出した影の書をぱらぱらとめくってから閉じ、マントの中へしまった。


「わしは銅巫、モンカヨの双巫の一人、月神の信者だ。若い旅人よ、どんな欲を満たすためにここへ来た?」


ラウンは落ち着いて言った。「私は主人、ダイソリアン・ファンザのために参りました。願いを叶えていただきたい。捧げ物は私自身です」


銅巫はすぐには答えず、ゆっくりと一枚の岩壁に向かって、手杖でこつこつと叩いた。岩壁に突然一枚の掛け毯が現れ、それを持ち上げると、その裏に小部屋があった。


「婆さん、客が来た」


掛け毯の奥の隠れた洞室から老婆が出てきた。銅巫と似た装いで、顔にも彩り豊かな彩繪が施されていた。額から顎、両頬にまで及ぶ紋様で、目の周りの模様が彼女を陰鬱で奇妙な雰囲気にしていた。長い鼻にはいぼさえあって、典型的な魔女の風貌だ。


しかし彼女は穏やかに言った。「まずこの二人の子たちを、暖かい場所に座らせましょう」


そらとラウンはビーズクッションのソファに案内された。二人は顔を見合わせた。どうやら追い返されるわけではないらしい。


老婆が言った。「わたしは錫巫、モンカヨの双巫の一人、月神の信者。遠くから来た子たちよ、何を願っているの?お話を聞いた上で、願いを叶えるかどうか判断します」


ラウンが言った。「主人のダイソリアン・ファンザ様が呪いから解放され、健康を取り戻して、長く生きられるようにお願いしたいのです」


錫巫が聞いた。「呪いをかけられている?毒?」


「黒魔法の呪いで、そもそもそれほど重くはなかったのですが、もうお年を召されて……」


錫巫が彼の言葉を遮り、水晶球を取り出して自らの目で覗いた。


結論を言った。「呪いを解くのは難しくない。でも呪いがなくなっても、長くは生きられない。彼の命はもともと終わりに近づいている」


ラウンは静かに言った。「一日でも一年でも、少しでも長く生きていてほしい。代償はいかほどでしょうか?」


「まずお茶でも飲みましょう」錫巫が二人それぞれに一杯ずつ茶を差し出した。


極寒の地を抜けてきた後だから温かい飲み物は確かに嬉しいが、そらはさすがに軽々しく飲めなかった。


ラウンは礼を言いながら、茶の香りをそっと嗅いで成分を分析しようとした。


「茶に入っているのは気持ちを落ち着かせて、正直にさせるものだけよ」錫巫が言った。


「私はもともと正直に話すつもりです」ラウンが答えた。


「あなたが嘘をつくつもりはないのはわかる。でも人は自分の心に嘘をつくものよ。茶を飲めば、本当の声が伝わってくる。誰でも自分の本当の心の声を聞くべきなの」


膠着を破るため、そらは思い切って茶を飲み干し、ラウンに目で合図した。ここまで来て躊躇ってもしかたない。


ラウンも茶を飲んだ。


薬草の効果はすぐに現れた。まず体がふわふわと宙に浮くような感覚、続いて頭が集中できなくなる。壁の掛け毯の模様を目で追うことすら難しいほどだ。そらは瞼が重くなり、ラウンに頭を押さえてもらって初めて、自分がうとうとして頭を揺らしていたことに気づいた。


「さあ、もう一度、来た理由を話して」錫巫の声も遠くなる。


ラウンが言った。「ファンザ様に健康を取り戻してほしい。それは命を賭けてでも叶えたい……」


「あなたには隠していることが何もない」


錫巫の老婆はにこっと笑った。あの黒魔法の図案で覆われた顔が、「慈愛」とも言うべき表情を見せている。これでもう二人の魔法使いが怖いとは思わなくなっていた。黒魔法を使っていても、王冠学院の青血貴族たちよりずっと「人間らしい」。


黒魔法は死を出発点に考えるもので、儀式には剥奪・干渉・捧げ物と回収の不均衡がある。一言で言えば邪道だ。しかし邪道に頼る者が必ずしも悪人ではない。大切な人に生き続けてほしいと願って生贄を捧げるのは、選ぶかどうかというだけのことだ。


錫巫がそらをちらと見て言った。「あなたも黒魔法と縁が深い。願いをかけたいの?」


そらは答えた。「自分で何とかできます」弦羽げんうを信じている。ラウンが同行を申し訳なく思わないようにと、自分も願いをかけに来たとは言ったが、本心ではなかった。


「お願いは成立しますか?」ラウンが聞いた。


「できるわ」


あまりにもあっさりしていた。そらは魔法使いとラウンを交互に見た。まるでコンビニでコーヒーを買うくらい簡単に事が進んでいる。普通、願いをかけるには試練や交渉が必要なのではないか?いきなり「願いを叶えてくれ」と言っても怒られず、二人の不速の客を追い返す気配もない。


ラウンがファンザ様の呪いの記録を銅巫に渡すと、銅巫は薬剤の調合に取りかかり、錫巫も儀式の準備に向かった。


そらはラウンに小声で聞いた。「こんなに簡単なの?」


「影の書が最大の切り札だよ。あの方々にとって非常に大切な筆記で、外に広まってほしくない」


「魔法使いたちは月神の信者だと言っていた。黒魔法は全部黒女神のものだと思っていた」


「二人の女神は数少ない友人同士で、信徒の性質もよく似ている。黒女神は月神の信徒に対しては大抵容赦してくれる。月神の信徒の一部は黒女神も合わせて信仰している。月神は弦月の形態では黒魔法を使うこともあるけど、黒女神の深淵から来る古い黒魔法とはやはり違いがあって……」


話しながら、ラウンはいつの間にか眠り込んでしまった。そらがとっさに受け止めた。


錫巫が戻ってきて言った。「傷を見せて。手当てしましょう」


そらは急いでラウンの包帯を解いた。錫巫がより上等な薬草を塗り、薬汁も飲ませた。これだけで長い間の栄養補給になるという。「長い間疲れが溜まっている。しっかり眠って体を治しなさい」


ラウンの手当てが終わると、錫巫はそらに言った。「あなたは?」


「僕の傷は大したことないです」


それでも錫巫は一層薬膏を塗ってくれた。するとなんと、傷が瘢痕一つ残さず塞がっていた。


そらは慌てて礼をして言った。「ありがとうございます!これも願いの代償に入りますか?」


「要らない。毛布でも持ってきなさい」錫巫は銅巫を見た。銅巫が舌打ちして別の岩壁の前に行き、手杖で軽く叩くと、岩壁が通路の入口に変わった。


「奥に部屋がある、使ってよし」錫巫が言った。


「お二人ともありがとうございます!」


銅巫がしゃがれた声で言った。「五体満足なんだから、この間は仕事を言いつけるぞ!」


そらは答えた。「はい!精一杯やります!ただラウンを休ませてやってください。ラウンの分も僕が補います」


「今日は寝ていい。明日からだ」


錫巫のその一言の後、強烈な眠気が一気に押し寄せてきた。そらは頷きながら、頭がうとうとした。ラウンを支えながら通路の奥の部屋へ向かい、ラウンをなんとかベッドに横たえてから、自分もラウンの隣に力尽きて倒れ込み、そのまま深い眠りに落ちた。



翌日、目が覚めると朝だった。よく眠れた。まだ起きる気配のないラウンに毛布をかけ直してから、そらは雑用を始めた。


洞穴の中には銅巫だけがいた。そらが挨拶したが無視された。


仕事の内容は嫌がらせのようなものは一つもなく、指定の水源で水を汲み、魚を何匹か獲り、山菜と薬草を摘んできてから、掃除・洗濯・料理の雑務をこなすだけだった。


道具の入った麻袋を持って出かける前に、銅巫が無言でひょいと何かを投げてきた。


ラウンが持ってきた四季の懐中時計だった。


「これはどうやって使うんですか?」


銅巫は答えず、さっさと行けと顔を背けた。


すぐに自分で使い方を掴んだ。時計で季節を調節することで、一日のうちに四季折々の薬材と野菜を採ることができる。魚は簡単で、仕掛けは定位置に置いてあり、獲れた魚を引き上げて餌を補充するだけでよかった。


一日分の食材が揃ったら、次は洗濯の番だった。


汚れ物が山になった鉄桶の傍には紙切れが釘で留めてあって、「衣類を火炉へ」と書いてある。


(理解が間違っているのだろうか。洗うのではなく燃やすのか?)


魔法使いたちに確認しようとしたが、どこかへ出かけていて誰もいない。


いくら待っても戻ってこないし、紙に書いてあるのだからと、そらは意を決して靴下を一足、鉄桶の傍の火炉に放り込んだ。薄紫色の炎に落ちた靴下は燃えなかった。代わりに布の表面から黒い細かい粒が剥がれ落ち、まるで炎が靴下を避けて表面の汚れだけを焼いているかのようだった。


鉄炉の上の横棒に掛けられた鉄挟みで靴下を挟み上げると、驚いたことに真っ白に蘇っていた。まるで新品のようだ。


あっという間に全部の衣類を「洗い」終えた。炎を通った衣類は日光に干したときのような温かみがあり、ほのかに良い香りまでした。


炎の色が薄くなってから、そらは鉄挟みの横の箱に入った紫色の粉末の正体がわかった。


この洗濯法は速くて楽だった。他の仕事も似たようなもので、何本かの枝をただ束ねただけに見える箒は、一掃きで塵という塵を残さず取り去った。半日もしないうちに、言いつかったことはすべて終わった。


そらが昼食の汁物を作っていると、錬金室から出てきた銅巫が空気の食べ物の匂いを嗅いで、満足そうにちっと舌なめずりをした。


銅巫はそらに昼食を一緒に食べることを断った。他人がいると食欲がなくなるとのことで、そらは汁物だけ持って洞窟の外へ出た。


絶景と清々しい空気の中、パンと汁物は格別に美味しかった。


錫巫は一日中部屋に籠もっていて、銅巫に言われて彼女の分の食事を部屋の前の小さな腰掛けの上に置いた。


朝食から昼食・夕食まで、そらはラウンのために毎食ベッドの傍に食事を置いておいたが、次の食事のときに見に行くと、お碗はいつも手つかずのままだった。

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