2-5
翌日、空がサイフィ学院の門へ向かうと、遠くにラウンの姿が見えた。
ラウンはオーバーサイズの水色のシャツにネクタイを締め、シャツの裾をズボンに入れず、東屋の柱に寄りかかって本を読んでいた。その姿には、今にも消えてしまいそうな朧げな儚さがあった。
空が近づくと、ラウンは本を閉じて微笑んだ。
「話したいことがあって。ミズに遠いところまで連れて行ってもらえる?」
「どこがいい?」
「デフェニングを離れなければどこでも」
空とラウンはミズの背に乗った。ラウンが興奮するミズをなだめながら言った。「ミズはあなたが好きみたい。なんか全部の動物があなたを好きだよね」
「遠いところに着いてから話しよう」
ラウンは黙って頷き、ミズに指示を出した。
デフェニングの外れの山に降りてから、ラウンが聞いた。「何を話したいの?」
「前に夜鶯の夢の話をしたよね。一昨日、また似たような夢を見たんだ。今度は死神が直接入夢してきた。ラウンは以前デュメズ神の祭司をしていたから、祂は特別にラウンのことを気にかけている。練武場でも夜鶯が来たのはラウンのためだった」
ラウンが怪訝そうな顔をしたので、空は続けた。「王冠学院からなくなった黒魔法の品を持っていったのはラウンでしょう?何をしようとしているのかわからないけど、デュメズ神が警告を出すくらい危険なことみたいで。いったい何をしようとしているの?」
しばらく沈黙してから、ラウンはやっと静かに言った。「簡単に話せたらよかったのに」
「教えてよ。力になれるかもしれない」
「あなたを巻き込みたくない」
「もうある人に疑いをかけられたから、巻き込まれているんだ。何が起きているか話してくれないなら、王冠学院にラウンが持っていったと言うしかない」
「本当に僕のことを信じてるんだね」ラウンは突然冷淡な表情に変わり、感情のない声で言った。「ここであなたを始末して、この国を出ていっても、誰にも捕まらない」
「あのものを取っていったとしても、理由があると思う。それに死神の暗示は、ラウンと僕が一緒に動く方が、ラウン一人でやるより良いということを示している。いったい何があったか話してよ」
ラウンは黙った。
空は傍の石に腰を下ろして言った。「あなたが言ったように、僕は第二界から来た人間で、家族も背景も何もなくて、実力も大してない。始末しようと思えば簡単にできる。だから話してくれていい。もし途中で裏切ろうとしたら、そのとき始末してくれたらいい」
「なんでそこまで?」
「友達だから。友達の力になれないなら、この世界に来た意味がない。ここへ来てから、魔法も剣術も習ったけどまだ全然弱い。それでも、前みたいに何もできないよりはマシだ」
「ずっと僕がラウンを利用してきた、あなたの情報収集の隠れ蓑として。それは友達じゃない」
「利用されているとは感じたことがない。二人で一緒にあちこち行って、それぞれに得るものがあった。それは利用じゃない。それに最初から情報を集めに来たって正直に言ってくれた。嘘はひとつもなかった」
長い沈黙の後、ラウンは肩の力を抜いて、空の隣に腰を下ろした。「ご主人様を助けるためなんです。パンフィロ様のお父上、ファンザ様のことで。ファンザ様は黒魔法の呪いをかけられていて、年老いているし、誰もがもう助からないと思っている。パンフィロ様も諦めて、帝国を再建するという遺志を継ぐとだけ約束していた。コーツタンの支配者が誰になっても関係ない。どんな貴族や王族でも、権力を持ったら同じことをする。僕はただ、ファンザ様に生き続けてほしい。たとえ一年でもいい。ファンザ様は僕を救ってくれた人だ。あのままなら他の孤児と同じように、成人する前に溝の底で死んでいた。ファンザ様が救い出して、成長する機会をくれた。パンフィロ様も僕をとても大切にしてくれていて、とても信頼してくれている。パンフィロ様がファンザ様を諦めたことを責める気はない。黒魔法の取引には必ず代償が伴う。だったら僕が払おうと思った。命でも魂でも構わない。その覚悟でアイセンティアに来た。そんなとき、あなたに写してもらった本がモンカヨの魔法使い夫妻の筆記だとわかった。この機会を逃す手はなかった」
「持っていった黒魔法の品は何?」
「モンカヨの魔法使いの懐中時計よ。二人の大切な日用品だから、それを返せば願いを聞いてもらいやすくなると思って」
「ルイーズはラウンの符文の痕跡を発見した。でも問題にならないよう自分で消してくれたよ」
ラウンは呆然として言った。「なんでみんなそんなに良くしてくれるの?キャラ作りが上手すぎた?本当の僕はこんなんじゃない」
「ルイーズは馬鹿じゃない。助けるのは、ラウンの本質は善良だと判断したから。僕たちが接してそう思った。もし判断が間違っていたとしても、それは僕たちの責任。とにかく力を貸させてよ」
「返せるものがない」
「モンカヨの魔法使いは願いを叶えてくれると言ったね。もしかしたら僕の呪いも解いてくれるかもしれない」
「絶対やめて!あなたの呪いはアイセンティアで解決策が見つかる。黒魔法使いに願いをかけると、代償がひどく大きくなる。そこまで行き着かないで」
「それじゃあ学術体験ってことで。伝説の黒魔法使いに会えるめったにない機会だから。いつ出発する?」
ラウンは苦笑いして言った。「びっくりするかもしれないけど、実は希得・アクミリンを誘拐しようと思っていた」
空は本当に驚いた。ラウンが続けた。「無茶苦茶だよね、五大名門を誘拐しようとするなんて。でも他に方法がなくて。モンカヨ夫妻の懐中時計を手に入れて、筆記もまとめたけど、僕には黒魔法の素質がなくて、独眼山の護咒を一人で突破するのはやっぱり難しい。だから黒魔法が使える人を連れて、護咒を破ってもらおうと」
「僕には黒女神から直接来た魔法がある。希得を無理やり連れていくより効果的だよ」
「でもあなたは本当の意味で黒魔法を使えるわけじゃない。体内の治療防護を解除するしかなくて、それはとても苦しいことになる」
「経験がある」
「あなたは本当に無防備すぎる」
「いつ出発する?」
「希得を誘拐しなくていいなら、いつでも出発できる。本当に来る気がある?」
「デュメズ神の啓示を信じよう。自分がついていかれて足を引っ張らないように頑張る。今すぐでも行けるよ」
「一回帰って準備してきて。山の上はとても寒い」
夜明け前、空はラウンと坐騎の旅館で落ち合った。
いつもと違って、今日のラウンは黒い外衣に黒赤のボーダーのぴったりした内衣を着て、長剣を佩いていた。分厚い羊毛のマントを空に差し出して言った。「高空はとても寒い」
二人はミズに乗って空に飛び立った。ラウンに言われた通り少し仮眠を取ってきたが、いつもとは違う時間の起床でしきりにあくびが出た。でも目を閉じるつもりは全くなかった。美しいアイセンティアの街並みを上から眺めたかったから。
アイセンティアは出るのは簡単でも、入るのが難しい国だ。空もラウンも「旅行者」として登録され、出国にあたっては特別な検査はない。とりわけ飛竜のような乗り物を使えばなおさら制限がない。しかし再び戻ってくるときには多くの手続きが必要で、外で問題を起こしたりすれば入国を禁じられることもある。
ラウンが言った。「感謝しているし、申し訳ないとも思っている。ずっと利用ばかりして」
「僕はラウンの坐騎を借りて、マントを借りて、道中はラウンに守ってもらう。先に言っておくけど、本当に剣術は下手だからね」
ラウンが明るく笑った。「見たことがある」
「ラウンがどんな訓練を受けて育ったのか、本当に想像できない。同じくらいの年齢なのにあんなに強いなんて」
「壮絶な環境だったけど、今この力が大切な人の役に立てるなら、悪いことじゃなかったと思う」
「ラヴェニと戦ったとき、手加減していたの?」
「逆だよ。彼女が手加減してくれていた。彼女の実力は本物だ」
「ラヴェニのことをいい人だと思う?」
「あなたは僕のことをいい人だと思う?」
「思う」
「なら彼女もそう」
「あの保護室にどうやって入ったの?」
「ロスリン様から鍵を盗んだ。女性はたいてい僕に対して警戒心が低くて。少し眠る?」
断ろうとしたがまたあくびが出て、最終的に眠気に負けた空はラウンの背に寄りかかって眠った。
ラウンに起こされたとき、竜の背の上にいることを一瞬忘れていた。
「あれが独眼山だよ」ラウンが遠方の山を指した。月光に浸された稜線が重なり合っている。
これまで見てきたどの山よりも不気味だった。雷に真っ二つに割られた木の幹のように高くそびえ、細長く、覆う色は草木の緑ではなく一面の漆黒だ。おそらくこれも魔法使いが仕掛けた目眩ましで、近づくなという警告なのだろう。
しかし今の二人に選択肢はなかった。
ミズは二人を乗せたまま独眼山へと向かい、その姿は山々の息吹の中へと消えていった。
護咒の範囲に入る前に、ラウンが符文を描くと独眼山の防護が目に見えるようになった。アイセンティアの王城のような網状の防衛とは違い、独眼山の防護は外側に無数の棘を向けていて、侵入者をその場で刺殺しようという凄まじい気迫があった。
寒い高空の中、空はシャツのボタンを開け、ラウンに胸の人骨の薔薇の刻印の上に符文を描かせた。自分は血管の中を流れる黒魔法を探るカワ先生に教わった方法で意識を向けた。
ある瞬間、まるで心臓から一本の糸が引き千切られるような感覚があって、その場で大量の血を吐いた。血の中には暗紅色の塊がいくつも混じっていた。ラウンは体を横にして空をもたれかからせ、一方の手で落ちないよう支えながら、もう一方の手で符文を描き続けた。
独眼山の護盾にぶつかった瞬間、不思議と体が楽になった。エネルギーが体に注ぎ込まれる感覚。それを体の中で巡らせてみると、自分の水属性よりずっと扱いやすかった。
着陸するとラウンがすぐに治療してくれて、ミズには危険なこの場所から離れるよう指示を出した。黒魔法が再び抑制されると、空の七孔からの出血は止まった。ラウンが治療魔法と黒魔法の護咒の除去を手慣れた手つきでやりながら、「ごめん、本当にごめん」と繰り返した。
「もう謝らなくていい。こうして入れたんだから、冒険してみよう」
持参した羅針盤などの道具はすべて狂って無限に回り続け、持ってきた食料はすべて瞬時に腐り、水さえもどろりとした粘液になった。二人は話しながら山を登り始めた。
ラウンが言った。「影の書に書いてあって、黒魔法の護咒で何とかなると思っていたんだけど、まだ力が足りなかった」
「モンカヨの魔法使いに願いを叶えてもらったら、代償はどのくらいになると思う?」
「命であっても承諾する」
「そうならないといいけど。前向きな話をしよう、全部終わったら自分でやりたいことはある?」
「世界を旅したい」
「どこへ行きたいの?」
ラウンは少し笑って言った。「まず、船に乗りたい。世界の果ての隅っこには、どの神話にも記されていない生き物たちが潜んでいる。変化しやすい海でこそ、彼らに会える可能性が一番高い。伝説の海の怪物を見てみたいし、歌声で人を誘う海妖にも」
空は緑松石の手環を取り出し、ラウンの驚いた視線の中で言った。「これ、使えるかもしれないから、あげる」
ラウンが確かめてから言った。「駄目、これは高価すぎる」
「どうせ僕はアイセンティアに帰っても行動範囲が限られている。世界中を旅できるわけじゃない」
「旅に出たいの?」
「うん」そう口にしたとき、黒衣の少女が冒険の話をするときの興奮した声が頭をよぎった。
(自分が旅に出たなら、あんな輝いた目になれるだろうか)
「でも自分で持っていて。何でもかんでもあげなくていい。僕には僕なりの方法がある」
二人は話しながら、ラウンがモンカヨの懐中時計の魔力の痕跡を辿って位置を確かめた。彼の符文は詩のようで、すべて描き終わると空中に滑り出て魔法陣になった。
目の前の岩壁にドラマチックに扉が現れるかと思いきや、そんなことはなかった。傍の枯れ木がわずかに両側へ広がり、人一人がやっと通れる隙間が現れただけだった。
木は生き物のように前で道を開け、通り過ぎると自動的に元の位置に戻った。
体力を温存するため、二人は無口になった。魔女の枯れた指のような枯れ木の間を歩くうちに、もとの世界のことが遠くなるような気がした。
最初の試練は寒さだった。独眼山は飛びぬけて高い山ではないが、その刺さるような寒さはどんな厚いマントでも防げなかった。ラウンも震えていて、唇が紫に染まっている。自然の力があまりにも強烈で純粋なこの場所では、魔法を使うのが難しかった。空が習い始めた暖を取る程度の小さな炎術は、使った瞬間に消えた。ラウンは符文魔法でどうにか二人分の暖を確保したが、明らかに疲弊していて、それでも寒くて自由に動けないほどだった。
野生の狼の群れが目の前に現れたとき、空の最初の反応は思わず抱きついて暖を取りたいというものだった。
先頭の狼が牙をむき出して唸り、飛びかかってきた。訓練の反射で空は氷結術を放ったが、まったく効かなかった。この辺り一帯すでに氷天雪地なのだ、今さら氷結術なんて!自分を罵りながら、風属性を集めようとした。
ラウンが剣を抜いて前に出て、次々と飛びかかってくる狼を切り伏せた。このときになってようやく、ラヴェニがラウンの剣術を称えたのは誇張ではなかったとわかった。ラヴェニと戦ったときとは違い、今のラウンは全力を出し切っていた。力がラヴェニほど大きくはないが、動作が素早い。空は舞い散る雪で戦況がよく見えず、ただ狼の悲鳴だけが聞こえ、少し気の毒な気分になった。
あっという間に狼の群れはすべてラウンに倒された。剣に濃い血の香りがこびりつき、これから先の道がいかに険しいかを語っていた。
ラウンは影の書を取り出して言った。「この先はかなり厳しい道が続く、少なくとも一日はかかる。近くに洞窟があるから、一時休んで魔力を回復させなければ。ここでは力の消耗がとても速い。このまま進み続けたら途中で倒れる」
空は地面に散らばる狼の亡骸を見てから、ラウンを見た。
ラウンは狼の一頭を引きずり、空と一緒に筆記に記された洞窟へ避難した。洞窟の中ではやっと火が焚けて、ラウンが解体した狼の肉を鍋で簡単に調理した。塩などの調味料は腐らずに済んでいて、独眼山に生える植物も食べられるものがあった。
熱々の煮込み肉を食べるうちに、空はようやく緊張がほぐれ、ラウンも微かな笑顔を見せて自分から話しかけてきた。「デュメズ神に会った後、どんな気持ちだった?」
「実は、リエントラヤの記憶の中でもっと前に一度見ていた。サイフィ学院のリエントラヤ神廟の像に、少しの黒魔法を使うと第二神戦争が終わったときの神々の会議の場面を見られるんだ」
「聖女本人の記憶?」
「そう。祭司だけが見られるものだから、当時はリアがラウンに見せなかったの」
「残念だ。当時のデュメズ神の反応をぜひ見てみたかった」
「デュメズ神に感じるのは、とても優しいということ。黒女神が会議に乗り込んだとき、その場にいる人間の生き物を守る魔法を真っ先にかけた。まだ幼かったフロラ神もすごく気にかけていた」
「デュメズ神は確かに優しい。少し失礼かもしれないけど、子どもの頃はデュメズ神をお姉さんみたいに思っていた。不安なときはいつもデュメズ神に祈ると、祂が夢の中で直接答えてくれることがあって、悩みを解くヒントをくれた。今回もラウンのためにあなたを呼んでくれた。感謝の言葉が見つからない」
「あの会議でもっと知りたいことがある?」
ラウンは力強く頷いた。空が大まかに話すと、ラウンがまず気にしたのは「聖女リエントラヤの身分がやはりわからない」ということだった。
「そうなんだよ、彼女の視点からは自分自身が見えないし、黒い面紗と黒いマントで全身を隠していた」
「日と夜はもともと補い合う存在なのに、もう少し戦争が減ってくれたらいいのに。魔族も人間も、なぜ永遠に満足できないんだろう。アメイティスで見た光エルフの祭司はあんなに優雅で、エルフが世俗化したと言っても、最も世俗的な木エルフでさえ、むやみに戦争を起こしたりしない。世界が平和になってほしい」
「国境がなければ、戦争もなくなるかな?」
「コーツタンは魔族に侵略される前から、内輪もめで崩壊していた。国境がなくても、資源の差があって利益がある限り、戦争はなくならない。アイセンティアへ来るたびに、こんな国に生まれ育ちたかったと思ってしまう。饑饉がなくて、経済危機もなくて、みんなが豊かに暮らしている」
「木エルフはなぜ飢えている国を助けないんだろう?」
「動乱の国から来た者として、むしろ責められないと思う。第二界でも戦争はあるよね?あなたの出身国にも戦争があった?」
「今のところはない」
「でも世界全体を見れば、今も戦火の中にいる国があるでしょう?」
「ある」
「あなたはそこへ助けに行かない。自分の生活を守ることもあるし、一番大事なのは、それが目の前で起きていないから。木エルフだってもう十分やっている。コーツタンの内紛に口を出せば、結局両方に恨まれる」
「確かにそう簡単じゃないね」
ラウンは膝を抱えて微笑んだ。「大丈夫。今の仕事に集中しよう」
一晩休んでから再び出発した。
ラウンが全力を尽くして二人を凍死させないようにしながら、影の書の筆記を頼りに比較的安全な道を歩いた。それでも狼や熊に何度か出くわしたが、ラウンは一頭残らず斬り伏せた。
連続の戦闘の後、ラウンはもはや疲弊を隠せなくなっていて、空に肩を借りなければ歩けなかった。山道はますます険しくなり、一歩踏み外せば崖から転落する。進む速度はどうしても遅くなった。一日で終わるはずの道のりが、もう一日延びた。
それでも景色は本当に美しかった。見渡す限り山々の皺がどこまでも続いている。二人はかつて想像もできなかった高さまで来ていた。
三日目の夜明けに、二人は広大な雪原に踏み出した。
そのまま雪原を渡ろうとしたとき、地面の雪が突然盛り上がり、棍棒を持つ巨人の形をいくつも成した。
ラウンが叫んだ。「守護者だ!」彼は空を引っ張って回避し、素早く複雑な符文陣を描いた。空は周辺の風と水属性を引き集め、形成されつつある吹雪を止めようとしたが、焼け石に水で何の効果もなかった。
ラウンが一撃を受け止めたが、雪の巨人の圧倒的な力で剣が折れた。折れた剣を投げ捨て、素早く符文を描いて二撃目をかろうじて防いだ。雪の巨人は動作こそ遅いが、一打一打が人を地面にめり込ませるほどの破壊力だ。二撃をしのいだところで、ラウンはもう限界が近かった。空が助けに行こうとしたその瞬間、吹雪が視界を遮り、ラウンの姿が白に消えた。空には巨大な雪の巨人がゆっくりと棍棒を振り下ろしてくるのだけがかろうじて見えた。
今にも自分に棍棒が落ちてくる。逃げようとしたが、足が動かない。間一髪、テイラロの贈り物を思い出した。
弾弓を取り出し、魔弾を一発装填して雪の巨人へ向けて放った。
雪の巨人の目でさえ、あの魔弾より大きかった。それでも、魔弾が命中した瞬間、谷全体の力が揺れ動き、雪面に波紋が広がり、波紋が集まって魔法陣になり、赤い光を閃かせた。
次の瞬間、雪の巨人が爆発した。しかし空には被害が及ばなかった。軽やかな粉塵に変わり、集まった風属性に吹き飛ばされた。
視界が開けると、ラウンの驚いた顔が見えた。
空を攻撃していた一体だけではなく、すべての雪の守護者が跡形もなく消えていた。地面の積雪も急速に溶け、草地が顔を出した。
「何をしたの?」ラウンが足を引きずりながら近づいてきた。
「僕にもよくわからない。足は大丈夫?」
「骨は折れていない。あなたが二人とも救ったね、守護者がこんなに強いとは思っていなかった」
「テイラロのおかげ。魔弾というものらしい」
「彼女があなたにくれたの?」
「そう」
ラウンの表情が複雑になったが、地面に再び雪が降り積もり始めたのを見て、急いで空の肩を借りて、筆記に記された隠し通路へ向かった。
人が人工的に掘った通路は、木の梁が数本で支えられているだけで、今にも崩れ落ちそうだった。ラウンが作り出した光源は目の前だけをわずかに照らすだけだ。
空は急いでラウンの傷の処置をした。雪の巨人に直接打たれたわけではなく、回避のときに枯れ枝が刺さった傷だったが、骨は折れていないと言っても血が止まらない。止血帯を巻いても効きが悪く、すぐにびっしょりと濡れて取り替えなければならなかった。
ラウンが歯を食いしばって言った。「この山の黒魔法のせいで。血の制御はできる、薬が効けば問題ない」
「背負うよ」
「でも……」
「もうすぐ着くんでしょう」
魔弾と一緒に、荷物の大半が雪の守護者との戦闘で爆発に巻き込まれて失われていた。少なくとも魔弾は持ち主を識別して、二人を道連れにはしなかった。
空は何度も説得して、ラウンはようやく背負われることを承諾した。空はラウンの体温が異常に高いのを感じた。この山の防護魔法は強烈で、影の書の筆記のヒントがなければ山頂に辿り着くことは不可能だっただろう。
道が途切れた行き止まりで、ラウンは空の背から降り、傷を負った足の血を土壁に塗り付けて魔法陣を描いた。土壁が剥がれ落ちて洞穴が現れた。二人は潜り込んでさらに奥へと進んだ。
ラウンがぼそぼそと言った。「魔法使いの筆記を読んで、時計を手に入れて、黒女神に呪われた人と出会って、しかもその人が破壊力の強い黒魔法の武器を持っていて……全部うまくいきすぎて、誰かに罠を仕掛けられているんじゃないかって疑いたくなる」
「デュメズ神が守ってくれているんだよ」
「そうだね」
洞窟の奥へどんどん進むうちに、空は四方の岩壁が迫ってくるような幻覚を見始めた。ラウンが立ち止まって言った。「空気が流れている」
また一枚の壁を見つけ、血の魔咒を描いて、そっと押すと岩壁が再び剥落した。
洞穴から這い出したのは昼頃だった。暖かい太陽の光が二人の体に降り注いだ。
目の前の光景に空は信じられない思いで立ち尽くした。近づく者の十人に九人は戻れないと言われる魔山のこの山の内側が、こんなにも美しいとは。山谷の草地には薄紫色の小花が咲き乱れ、青草の香りがそよ風と一緒に頬を撫でた。花々の間を蝶が軽やかに飛ぶ。昨夜の危険な雪原と比べると、別世界のようだった。
空がラウンを背負って一つの道標の前に来ると、ラウンが止まってと言い、道標の文字を自分で読み上げた。「行く者は常に暖かい春を向き、夏の涙は秋の池に流れ込み、冬の雪は谷の外で降り積もる」
ラウンはモンカヨの懐中時計を取り出し、針の位置を調整した。針が指す象限が変わるたびに、周囲の気温と植生の景色も変化し、それぞれ春・夏・秋・冬になった。
「春の道が一番歩きやすい。行こう」




