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トルコ石  作者: 葉櫻
二、吊るされた男
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14/47

2-4

夜鶯が王冠学院に乱入したその夜、そらは再び夢を見た。


今度は目覚めた瞬間から、これは現実ではないとはっきりわかった。彼は窓の縁に止まっている夜鶯へ近づき、問いかけた。「あなたが伝えようとしているのは何ですか?なぜ僕のところへ?」


夜鶯は静かに退き、彼を先へ誘うように動いた。部屋を出ると、夜鶯は元の巨大な体に膨らみ、再びそらを再び天へと連れ去った。


二度目の洞窟の奥。今回は一人ではなかった。


十歳くらいに見える小さな女の子が、前回空そらも目にした水色の表紙の本を読んでいた。黒い長い髪、蒼白な肌は全身の血液を抜き取られたかのように白く、金色の瞳は静かで穏やかで、純粋だった。黒い緞子のワンピースを着ていて、膝あたりで揺れるスカートの裾は風もないのに自然と揺れ動き、その揺れ方は少しだけ奇妙だった。全身から病的な美しさが漂っているのに、立ち上がって歩くときの足取りはしっかりとしていて、虚弱な様子はまるでなかった。


この女の子を、そらは誰かの記憶の中で見たことがあった。


彼はすぐに両膝をついて頭を垂れ、口の中が乾くのを感じながら、勇気を絞り出して言った。「尊高なる死神デュメズ、私はアイセンティアのバイ・ジン空と申します。お目にかかれて光栄です」


デュメズ神は彼を見て、無表情のままで言った。「バイ・ジン空。前回の暗示、わからなかったようね」


「申し訳ありません、入夢についてよく知らなかったもので」


「わたしがあなたを呼んだ理由、わかる?」


「わかりません」


「わたしの信徒の一人が、一人で突き進もうとしている。あなたは彼を助けられる。誰のことかは、あなた自身が答えを持っている。どう助けるかも、あなたが見つけ出すこと」


(本当に優しいお方だ)


そう思ったつもりが、口に出ていた。そらは青ざめた。


デュメズ神は彼の狼狽に動じることなく言った。「あなたは第一界へ来てまだ日が浅いから、心の中を隠せない。わたしは普段、凡人が自ら言葉を発するのを待つほうで、大抵の言葉はどうせ聞きたくもない。これからは無理に口を開かせない」神は閲読台の上の本を指して言った。「その本が、その信徒の命の書よ。こちらへ」


そらは一歩一歩、恐る恐るデュメズ神の傍へ歩み寄った。蟻をつまむように自分を殺せる神が、自分よりずっと小さいとは。その不思議な感覚に、少しだけ緊張がほどけた。


その本にはやはり読めない文字が並んでいた。戸惑っているとデュメズ神が聞いた。「この本、残りのページは何ページ?」


「もうすぐ最後のページになりそうです」


「命は絶対ではない。運命は選択によって変わるもの」


「つまり……自分の選択が原因で死ぬかもしれない人を、僕が生かすことができるということ?」


デュメズ神は答えなかった。おそらく、肯定だ。


「ご配慮ありがとうございます。戻ったらすぐに確かめます」


「死ぬことが怖い?」


「怖いです」


「その人を助けることを選べば、あなたの命が早く終わる可能性がある」


「もし自分が思い描いているその人のためで、善いことのためなら、命をかけても構いません」


デュメズ神は小さく頷いて、暖炉に一本の薪をくべながら言った。「後はあなたの選択次第。なぜわたしがあなたに声をかけたかが気になるでしょう。あなたはプロセルネの娘の人、その呪いが、時として助けになることがある」


「どう助ければいい?」


「わたしの信徒が答えを教えてくれる」


「必ず助けます」


「死をそれほど恐れなくてよい。死んだ後、あなたはわたしのもとへ来る。次の段階へと案内しましょう」


(あまり期待されていないのかな)そらは心の中で思った。


次の瞬間、デュメズ神はもう一冊の本を取り出した。白い表紙の本だ。


その瞬間、そらは自分が解離していくような感覚を覚えた。体が自分のものでなくなり、魂が肉体から引き抜かれていくような、今まで一度も味わったことのない戦慄だった。


デュメズ神はその本を開いてぱらぱらとめくりながら言った。「凡人の命はとても脆くて、例えばこのあなたの命の書を炎に投げ込めば、あなたはたちまち死ぬ」


あれが自分の命だ。そらはノートほどの大きさしかない薄い白い本を見つめた。閲読台に置かれた水色の精装本とはまるで違う。自分の命は特別短く、安っぽいということなのだろうか。


「人はそれぞれの道を歩む、辿り着く先は同じでも。正式にわたしのもとへ来るまでに、あなたの命の書にたくさんのことを書いていきなさい。時間を無駄にしないで。あなたの人生は、どんな物語になるのかしら?」


デュメズ神が本を閉じると、本は空気の中へ消えた。その瞬間、そらは再び自分の体をちゃんと感じることができた。


死神の微笑みは薄く、水のように淡かった。もう少し見ていたいと思ったその刹那、彼はベッドの上で目覚めた。


もう朝だった。



そらはすぐにリアを探しに行った。


リアは神廟の前に立っていて、まるで来ることを最初から知っていたかのようだった。


「リア、占卜をお願いしたい!」

「何を占う?」

「ある行動の結果がどうなるか」


祈祷室に入ると、リアはラウンのときと同じ手順で進めたが、今回は山を切った後に一枚だけ引かせた。


引いたのはマリーゴールドだった。


リアは他のカードをしまいながら言った。「同じカードでも解釈は色々ある。この一枚については、説明しなくてもあなたにわかると思う」


「はい、ありがとうございます!」


そらがリアにお辞儀をしたとき、耳飾りが鳴った。テイラロからだ。


そら、今学院にいる?」


「リエントラヤ神廟にいるけど」


「今すぐ王冠学院に来られる?」


「行けるけど、どうしたの?」


テイラロがため息をついた。「貴族に面倒をかけられていて。とにかくすぐ来て、なるべく急いで」



すぐに向かったものの、王城への入場だけで何重もの身分確認があり、王冠学院に着いたのはもう昼頃だった。


「来るのが遅い!」交流室で待ち構えていたリシシュカが、そらに向かって怒鳴った。


王冠学院へは何度も来ているが、身分が低すぎてずっと無視されてきた。こうして直接攻撃されるのは初めてだ。そらが戸惑ってテイラロとラヴェニを見ると、ラヴェニが無表情で言った。「洛斯林さんが、黒魔法研究物の保護室に何者かが侵入したと言っているの」


リシシュカが言った。「黒魔法と関わりのある人間といえば、こいつ以外の誰がいる?」


ラヴェニが答えた。「アクミリン」


リシシュカはますます怒って立ち上がり、そらに言った。「下賤な身分の者が、高貴な五大名門に罪をなすりつけようとするの?!」


ラヴェニが言った。「今話しかけているのはわたしよ!」


そこへテイラロが呼ばれてどこかへ行ってしまい、そらはラヴェニとリシシュカの言い合いを見守るしかなかった。


どうやら、そらを急いで呼び寄せたのはラヴェニの考えだったらしい。ラヴェニが言った。「実際に保護室に入ったかどうか、比べてみればわかるでしょう」


リシシュカは言った。「いいわ、連れていきなさい」


ロスリン家はアクミリン家の姻族で、アクミリン家に次ぐ地位を持つ。各種の貴重な品を収める研究保護室は、まさにリシシュカの管轄下にある。


保護室の扉の前で、リシシュカは扉の浮き彫りの棘に指を刺して血を流した。血が溝を伝い流れると、金の扉の上に赤い人骨の薔薇の刻印が浮かび上がった。黒紅色の魔法陣が足元に現れ、扉が音もなく開いた。


保護室の内部には、絵画や書物が整然と分類されて並んでいた。他にも何かわからないものや、標本瓶のようなものが多数ある。共通点は、全て黒魔法の気配を帯びていることだった。


リシシュカは先頭に立って内室へ入っていった。中はすべて絵画だった。


最初の絵は、裸の女性たちが台所に集まり、それぞれ体に乳液のようなものを塗っている場面で、傍らには前足を舐める黒猫がいた。画中の女性たちの顔は妖艶で蠱惑的、目は虚ろで、体は柔らかく豊満に描かれ、画家が意図的に彼女たちの肉体的な魅力を強調していた。


二枚目は、骸骨のように痩せ細ったフード付きマントの老人が、麻布の衣をまとった少女を壁際に追い詰めている場面だった。老人の卑猥な笑い顔と、まだ怖さを知らない少女の無垢な表情が対比をなしていた。今にも折れそうなほど細い少女の腰、逃げ場のない切迫した状況、それでも背景の村人たちはこの犯罪を見て見ぬふりをしていた。


第三界から来た黒魔法は、日の出の地でも夜落の地でも規制されている。国家の管理外で密かに黒魔法を行使し、呪いをかけたり無辜の命を生贄にして私欲を満たした黒魔法使いは、発覚すれば一族根絶の処罰を受けることも珍しくない。黒女神は女性を好むため、歴史上強力な黒魔法使いの多くは女性だった。生存を脅かされた彼女たちが夜の女妖リリンから力を与えると言われれば、その誘惑に抗えず受け入れ、そこから二度と純白には戻れなくなる。アイセンティア王国では黒魔法狩りはそれほど見られないが、小さな王国や農村では今も、魔女の疑いをかけられた女性が私刑にあう事例が絶えない。


四枚目の絵は、黒魔法の女巫が若い少女を攫い、殺害した後に血と脂肪を祭神の材料にしている場面だった。


部屋の最奥中央には、布で覆われた絵があった。


リシシュカはそらを絵の正面に立たせてから、その黒い布を引き剥がした。


画中の人物と目が合った瞬間、失われていた記憶がすべて流れ込んできた。夢の中であの女神が見せた傲慢で自信に満ちた雰囲気と、人を奴隷にさえしかねない比類なき艶やかさが、目の前に生々しく迫ってきた。


それは絶世の美女の肖像画だった。血のように赤い暗色の巻き髪に荊棘で編んだ冠、杏子形の目は呪われた緑玉のように人を不安にさせる光を放っている。紅い唇はかすかな笑みを浮かべ、その笑みには悪意が満ちていた。細い首に巻きついているのはダイヤのネックレスではなく、毒牙をむき出しにした黄褐色の細蛇。舌を伸ばす茶色の大蛇が腰の帯となり、そのまま右腕にまで絡まっている。左手には荊棘のブレスレット。金や宝石の装飾は何もなく、着ている衣もくすんだ無地なのに、彼女の美しい髪は見る角度によって違う色を反射させ、これほど高価な絵具は普通の人物画には決して使われない。金銭の問題ではなく、冒涜になるからだ。


黒魔法の神、人々が黒女神と呼ぶプロセルネ。そらの人生を全く別の方向へ変えた存在が、この画中にいた。


鼻が湿った感触がして、手で触れると鼻血だった。

鼻だけではない。目からも、耳からも、口からも、血が流れ出していた。


ラヴェニがそらを支えて保護室から連れ出し、治癒魔法をかけながらリシシュカに言った。「ほら、黒魔法の刻印はあるけど、全然制御できていない!」


リシシュカの表情に自信のなさが混じったが、それでも言った。「演技かもしれない」


ラヴェニが言った。「あの画中の神の目の前では、隠し事はできない。彼は黒魔法を使えない、ただ黒女神に目をつけられた運の悪い子よ」


「最近この学院に出入りしている平民はこの子だけ、他に誰が盗んだというの?」


「アクミリン家の人間かもしれない、何らかの理由で保護室に入る必要があって。あの家族の性格なら、あなたに報告なんかしないでしょう。あなたの大好きなエドウィン様に直接聞いてみる?」


リシシュカはだんだん自信をなくし、最後に鼻を鳴らしてそらに言った。「以後、この学院に勝手に来るんじゃないの。今すぐ出ていけ!」


ラヴェニが言った。「わたしが送り届ける」



リシシュカが去った後、ラヴェニはまだ顔の血を拭いているそらに言った。「あなたじゃないってわかっていたから来てもらったの。ロスリン家がアクミリン家に報告する前に手を打たないと、直接あなたに罪をかぶせられていたかもしれない。ごめんなさい、今後入るのはもっと難しくなるわね」


そらは言った。「大丈夫、書き写しはほとんど終わっているし、こちらの味方でいてくれてありがとう」


ラヴェニが苦笑いして言った。「あなたに疑いをかけるなんて、本当に馬鹿げた話。魔法初心者があの扉を開けられるわけがない。リシシュカはただ誰かに責任を押しつけたかっただけよ」


「あの絵を見て血が出たのはどうして?」


「黒魔法の信徒以外には、黒女神の画像は呪いをもたらす。黒女神は絵の目を通じてご自身が直接歩いていない場所を覗くことができるから、ほとんどの絵では目に色を塗らないか、わざと間違った色で描く。さっきの絵は伝承の記録通りに完全に描かれたもの。保護室には特殊な魔法が施されていて様々な暗黒の品を収容できるけど、普段は敬意を示すためと、直視した者が傷つくため、布で覆ってある。あなたの反応は、あなたが本当に黒魔法を使えないこと、ましてあの扉を開けた人間でもないことを証明した」


「本当に保護室に誰かが入ったの?」


「ええ。でも心配しないで、ロスリン家が自分で解決するから。今体調は大丈夫?」


「問題ないよ、ありがとう」


「ロスリン家の反応を見る限り、相当重要なものが盗まれたんでしょう。あの保護室に忍び込める人間は、黒魔法の品がなくても呪いをかけられる。ならなぜわざわざ盗んだの?本当に貴重な品なら、貴族のコレクションになるはずで、学院に置かれているのはおかしい」


「貴族が黒魔法のものを集めるの?」


「全国で黒魔法を一番多く隠しているのは王城よ。人間でもエルフでも、長く権力の座にいれば腐敗していく。エルフの貴族でさえ黒魔法に手を染めている以上、生まれつき黒魔法を受け入れやすい体質の人間が機会を逃すわけがない」


随分ひどい話だ。そらは眉をひそめながらそれを語るラヴェニを見た。ルイーズとラウン以外で、王冠学院で出会った数少ない善い人の一人だ。特に彼女の気取りのなさと率直な気性は、そらに高位貴族特有の圧迫感を感じさせなかった。五大名門のクランシュ家に最も期待されている養女の一人でありながら、貴族らしい架け橋を持たず、家族について語るときには負けん気の強さが滲み出る。そういった特質が彼女を王冠学院の空気から浮かせていた。


ちょうどラヴェニが言った。「来期からサイフィ学院に通うの。同じ学院になるわね。そのうち一緒に勉強したり出かけたりしましょう!あとテイラロも一緒に。あの子、あなたにべったりだから、声をかけないと恨まれそう」


「テイラロが僕にべったりすぎると思う?」


「べったりよ。護衛の仕事を保母と一緒にしている感じ。あなたは六歳じゃなくて十六歳で、自分のことに責任を持てる年齢なのに、彼女はその線引きができていないみたい。あなたは水属性?わたしは火属性よ。テイラロから、あなたの先生が聖獣族の水獺って聞いたけど」


「カワ先生はとても可愛くて!知識も豊富で、神から言葉を授けられた聖獣族だと本当に納得できる。」


「面白そう!王冠学院は制式ばかりで、礼儀の授業まであって本当に面倒。あのアクミリンに会わなくて済むと思うだけで、サイフィ学院の方がずっといいわ」


耳飾りが光り、テイラロの申し訳なさそうな声が届いた。「今日は残らないといけなくなって。盗難に関わっているんじゃないかと疑われて、少し説明が必要で。先に療養院へ帰って」



帰ってから、そらはテイラロのために晩ごはんを作り、料理のそばで待った。王冠学院での審問で疲れ果てていたのだろう、しばらくすると眠ってしまった。


テイラロが揺り起こしたのは深夜だった。


彼女が心配そうに聞いた。「なんで部屋に戻っていないの?」


「待っていたんだ。温め直してくるね、少し待って」


「こんなにしてもらわなくていい。いつも楽をしているのはわたしで、あなたが疲れてしまう。今日もあなたの役に立てなかったし、怪我したって聞いたけど、誰がやったの?」


「大したことじゃないよ。テイラロの方は大丈夫だった?疑いをかけられた?」


テイラロは自嘲するように笑って、椅子を引いて座った。「ほとんど犯人扱いで。ルイーズが急いで来てくれて、一日中一緒にいたと証言してくれなければ、もう裁判になっていたかもしれない。盗難のことなんだけど……」


「どうしたの?」


「ラウンが盗んだのかもしれないって思って」


「彼はそんなことしない」


「ルイーズがこっそり教えてくれたんだけど、保護室の扉に、消されてはいるけど符文魔法の痕跡が残っていたって。ルイーズが見つけて、急いで消したそうよ」


「符文だけじゃ、ラウンとは断言できないじゃないか。パンフィロの可能性の方が大きくない?」


「パンフィロは痕跡が残らないほどの魔力がない。最近王冠学院に出入りしている夜落の地の人間は潘菲洛とその従者たちで、その中で魔力が一番強いのはラウンよ。残っていた痕跡は非常に薄くて、各民族の魔法を専門に研究している精靈じゃなければ発見できないものだった」


「盗まれたとしても、それはパンフィロに言われてラウンがやったことじゃないの?」


「パンフィロも事情聴取を受けていて、嘘をついているような反応じゃなかった。ルイーズは、パンフィロとは無関係でラウンが独自に動いた可能性があると判断して、魔法の痕跡を消してラウンをかばったの。あなたとラウンは最近仲がいいから、何か聞き出せる?できれば盗んだものを返すよう説得してほしい。小盗人が見つからないまま続くと、王冠学院が大規模な捜索を始めるかもしれないし、そうなったらラウンが受ける罰は重くなる」


温かみのあるラウンの笑顔を思い浮かべながら、そらにはどうしても彼が盗みを働いたとは信じられなかった。それでも答えた。「符文を使える他に知り合いがいないか、聞いてみる」


「最近ラウンとの仲が本当によさそうね」


「頻繁が合うというか、一緒にいろんなところへ行って……」


「もうわたしは要らないの?」


「え?」


テイラロは真剣な目で彼を見て言った。「あなたにはたくさん友達ができた。もうわたしは必要なくなったのかな」


「そんなことない、テイラロもルイーズと仲いいじゃないか。みんな友達は一人じゃないよ」


「でもあなたは特別で……どうやって伝えればいいかわからないの」


「みんなそれぞれ特別だよ。友達によって接し方も違うし、テイラロに疎遠にされていると感じているの?」


「あなたのせいじゃない。わたしがたくさん仕事に駆り出されるから。うまく言えないんだけど、いつかあなたにとってわたしが必要じゃなくなることが怖い」テイラロはテーブルの上の料理を見て言った。「あなたはいつもわたしの分の晩ごはんを取っておいてくれる。その優しさを独り占めしたい」


「どうしたの?あの貴族たちに意地悪されて、気持ちが落ち込んでいるの?」


一瞬沈んだ後、テイラロはいつもの笑顔を取り戻して言った。「大丈夫、おかしなことを言ってごめんなさい。ラウンが言ってた、明日の夕方には書き写しを仕上げて、サイフィ学院の門のところに届けてくれるって」


「わかった、ありがとう。そうだ、テイラロ、今度一緒にアメイティスの市場を見に行かない?あの香料を売っていたお店のおじさんがまだいるか確認したくて」


「いいわ!約束ね」


テイラロが少し元気になったのを確かめて、そらは胸を撫でおろした。

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