12-5
オイローパ王女の直々の許しを得て、エルシーは何人かの手下を連れ、ホーネグが従軍しているラグマン帝国軍のもとへと急いだ。
常に利益を最優先するラグマンは、罪悪の街と同盟関係を結んで以来、ごく小さな花精霊の祭司一人を軍から離脱させることなど、あっさり承諾した。
賄賂を要求しようとしてきた少将をエルシーが叩きのめしたあと、ホーネグが駆け寄ってきて、彼女をぎゅっと抱きしめた。
エルシーは嫌そうに彼を押しのけたが、ホーネグは抗議した。「僕、ずっと大変だったんだよ!やっと姉さんに会えたんだから、抱きしめさせてよ!」
「アンウィを救いに行くのに急いでるの」
それを聞いて、ホーネグはうつむいて言った。「ごめんなさい。僕たちが、弱すぎて」
エルシーはホーネグの額を弾いて言った。「謝る必要がないのに謝らないで。あなたたちが支えてくれなかったら、わたしだって今の場所まで来られなかった。みんな、よくやってるわ。さあ、今度はあのろくでなしどもに、わたしたちの力を思い知らせてやる番よ」
ホーネグは苦い顔をして言った。「でも、僕には力なんてないよ」
「軍に二年もいて、何も学ばなかったの?」
「僕が染髪剤と育毛剤を売れるから、みんな僕にすごく優しいんだ」
「……何をそんなに急いで助けに来たのかしらね、わたし!」
ホーネグは目を暗くして言った。「それでも、好きになれない戦いはたくさんあるよ。殺し合いを見るのは好きじゃない」
小さな切り傷を見ただけで卒倒しそうになる花精霊にとって、従軍はそもそも、望ましい選択ではなかった。
エルシーは彼の頭を撫でて言った。「あとで罪悪の街に来たら、ちゃんと博物学者としてやっていけるわ。研究室で働きたいなら、それでいいし、船団について海に出たいなら、それでもいい。好きに選べるから」
ホーネグは頷き、それから怪訝そうに隅へ目をやって尋ねた。「姉さん、あの人、どうして僕のこと、じっと見てるの?」
「あれはシセド、わたしの従者よ。ほら、睨まないで、あなたは画家であって従者じゃないんだから」エルシーはホーネグに言った。「あの人はもともと、すぐにスケッチを始める癖があるの。あまり気にしなくていいわ」
「アンウィ、結婚するんだって」
「少なくとも、婚期が決まったから、先にあなたを連れ出せたの。これからアンウィのところへ行くわ。あなたは先に罪悪の街へ戻ってて」
「僕もアンウィのところへ行きたい」
エルシーはホーネグをじっと見つめた。
数秒後、ホーネグは認めた。「本当は、行きたくないんだ。足手まといになるだけだから」
「それぞれ、自分にできることをやればいいの。アーサーは、きっとあなたのことを気に入るはずよ。あなたの発明がどれだけすごいか話したら、もう興味津々だったわ。でも、罪悪の街での自分の居場所は、あなた自身で見つけなきゃね」
ホーネグは勢いよく頷いて言った。「頑張る!軍について回ってる間に、異国の材料をたくさん手に入れたんだ。もう店を一つ開けるくらいあるよ!」
「じゃあ、そのまま続けて」
ホーネグを罪悪の街へ送り届け、アーサーに預けたあと、エルシーは休む間もなくアイセンティアへと向かった。
今回は、マリリンも同行してくれた。
オイローパ王女は、自分のそばにいる最も強力な二人の護衛を惜しげもなく送り出してまで、エルシーが妹を救い出すのを助けようとしてくれた。この一生、エルシーはこの恩を、命で返すしかないだろう。
アイセンティアの宮廷で、エルシーと顔を合わせたのは、すでに重臣となったエフリーだった。
エフリーはエルシーを見るなり溜息をつき、エルシーに一発殴られた。彼は言った。「相変わらず、がさつだな」
「拘らない性格って言うのよ!あなたはまだ結婚してないの?」
「安心しろ、絶対にお前を待ってるわけじゃない」
「分かってるわ、あなたが待ってるのは、小アンウィでしょう」
エフリーは驚きもせずに尋ねた。「いつから気づいてたんだ?」
「あなたは、わたしの一番の親友よ。あなたの目を見れば、すぐに分かるわ。本が好きで、安定していて、家柄もいい。小アンウィにとっては、理想の結婚相手じゃない。彼女の本心までは読めないけど、あなたは試してみるべきよ」
「血魔族の王族と対立するなんて、僕が負える責任じゃない」
「もちろん、エフリー・ピエテが花嫁を奪うんじゃないわ。罪悪の街から来た、悪辣な海賊たちが、血魔族の花嫁を連れ去るのよ。そのあと、この悪党どもが、無理やりアンウィを国内の貴族と結婚させて、外交特使として他国へ追いやる、というわけ」
「今の地位を捨てる勇気がないわけじゃない。僕一人のことで、家がそこまで大きな影響を受けることもないだろう。でも、お前、アンウィが本当にそれを望んでいると、確信があるのか?」
「質問は一つだけ。あなたは、好きな人が結婚するのを、黙って見てられるの?」
エフリーは答えなかった。
長い沈黙のあと、彼は尋ねた。「僕に、何をしてほしいんだ?」
婚礼の当日、エルシーは部隊を率いて、守衛を片っ端から叩きのめしながら進み、ついには婚礼の広間の扉を蹴破った。木の扉の弾け飛ぶ音に、来賓たちは一斉に驚いて振り返った。
エルシーは胸を張って大股で、席の中央に敷かれた赤絨毯を踏みしめながら進み、皆の視線を一身に浴びながら、朗々と問いかけた。「誰が、わたしの小アンウィをいじめてるの?」
桃色の婚礼衣装に身を包み、穏やかな表情を浮かべていたアンウィは、姉の登場に目を見開き、手に持っていた花束を床に落とした。
最前列に座っていたペナイシュの族母は、怒りのあまり気を失いそうな様子で、エルシーを指さして叫んだ。「あなた!よくも顔を出せたものね!」
エルシーは族母の前まで歩み寄って言った。「言ったでしょう。アンウィを、愛してもいない相手と結婚させようとするなら、あなたたちを徹底的に懲らしめてやるって」
族母は怒鳴ろうとしたが、エルシーの背後に控える、奇抜な装いのエルフ、人間、魔族、湖の妖精、山の怪物など、各地から集まった面々を目にすると、さすがに怯んだ。
マリリンが進み出ると、族母の困惑した表情に、エルシーは思わず声を上げて笑った。族母が、このオイローパ王女の側近護衛を知らないはずがない。マリリンがエルシーの背後に立っているというだけで、それはエルシーにとって、この上なく心強い後ろ盾となる。エルシーは年長者たちを無視し、剣を鞘へ収めると、アンウィのもとへ駆け寄り、その手を取って言った。「ホーネグは見つけたわ。一緒に行きましょう!」
アンウィはエルシーを見つめ、やがて彼女を抱きしめて言った。「お姉ちゃんが本当に来てくれるなんて、思ってなかった」
「二人とも、わたしのこと全然信じてなかったのね」
「だって、あの人たちがあまりにも恐ろしいんだもの」
一族の年長者たち、一族全体の価値観、幼い頃から二人に課せられてきた道徳の枷――そうした重い圧力が、すでに彼らから、自由への希望を奪い取っていた。
エルシーはアンウィの頭を撫でて言った。「怖がらなくていいわ。わたしは、もうあの人たちより強くなったんだから。これからは、もう何も怖がらなくていい」
「エルシー!」
エルシーが立ち去る前、族母はまるで芝居の一幕のように、憤りをあらわにして彼女を罵った。「あなたが、すべての決まりを変えられるとでも思っているの?アンウィが結婚しなくても、一族には、代わりになれる娘が他にもいるのよ!」
エルシーは族母を睨みつけて言った。「わたし一人じゃ足りないかもしれない。でも今のわたしは、世界を変えられる方のおそばにいるの。この腐った一族の、腐った決まりなんて、いずれ必ず変わるわ!」
マリリンが優雅にエルシーの傍らへ歩み寄り、ペナイシュ家の族母に向かって礼をして言った。「ペナイシュ様、今後の対応につきまして、改めてご相談させていただきます」彼女はエルシーにちらりと目をやり、微笑みながら言った。「まずは、城主の側近護衛には、お城へお戻りいただかなければなりませんね」
エルシーは面倒事をマリリンに任せ、アンウィを連れて立ち去った。
哀れな血魔族の王子は、衛兵たちに花嫁強奪者を止めさせようとしたが、届いたのは、部下たちが皆、気を失うほど打ちのめされ、顔を腫らしているという知らせだけだった。
帰り道、アンウィはうつむいて言った。「わたしのせいで、一族の別の女の子が、血魔族と結婚することになってしまうわ」
エルシーは言った。「マリリンが対応してくれるから、族母ももう、子供たちを嫌がる相手と無理やり結婚させられなくなるはずよ。今回のことは罪悪の街がやったことになってるから、血魔族が報復するなら、相手はわたしたちになる。わたしたちの一味は、人から恨みを買って仕返しされるのが大好きだもの。殴る口実がちょうどできたってわけ」
「本当に、そんなに簡単にいくのかしら」
エルシーはアンウィの頬を撫でて言った。「小アンウィ、もっとわたしに甘えていいのよ。お姉ちゃんが、ちゃんと全部片付けてあげるから。あなたの夢は、完璧な家庭を築くことでしょう。そのことだけに集中すればいいの。わたしは、すべての人の運命を変えられるわけじゃないけど、少なくとも、身近な人たちから始めて、一歩ずつ、みんなを幸せにしていきたい。これから先も、もっと強くなって、戦い続けて、もっと多くの人を守っていくつもりよ」
「ペナイシュ家でさえ、お姉ちゃんを止められないの?」
「ふん、ペナイシュなんて、何よ!ホーネグは罪悪の街で働きたいって言ってるけど、あなたはどうしたいの?」
「わたしは……」
「あなたはやっぱり、宮廷での暮らしが好きなんでしょう?」
「うん」
「イグルーサは、どう?」
「イグルーサ?」
「アイセンティアのある大臣が、一つ協力関係をまとめてきたの。イグルーサは花精霊の祭司が足りてないんだって。行ってみたい?」
「わたし、イグルーサの貴族とは、あまり知り合いがいないわ」
「アイセンティアとイグルーサの協力関係を示すために、そのアイセンティアの大臣もイグルーサに行くことになってるの。ちなみに彼、独身で、あなたより四歳年上よ。もちろん、必ず彼と結婚しなきゃいけないわけじゃないわ。ただ祭司として行くだけでもいい。そのアイセンティアの貴族が、あなたが無理やり結婚させられないように、ちゃんと見ていてくれるはずよ」
「お姉ちゃん、前に言ったでしょう、すごく羨ましいって」
「覚えてるわ」
「お姉ちゃんが強いからだけじゃなくて、お姉ちゃんの好きな人が、わたしの一番の親友だから」
エルシーは笑って言った。「相手が誰か、分かってたのね」
アンウィはエルシーを見つめて言った。「もともと、彼に近づくつもりはなかったの。お姉ちゃんの代わりみたいになりたくなかったから。これが意味のないプライドだって分かってる。でも……」
「よく分かるわ。わたしがあまりにも優秀すぎて、あなたたちをわたしの影の中に押し込めちゃったのよね、ごめんなさいね!もう怖がらなくていいから、思い切ってやってみて。それに、あなたほど賢い子なら、きっとわたしよりずっと前から、彼の気持ちに気づいてたはずよ」
アンウィは笑った。それは、この十年ほど、彼女の顔に浮かんだことのない、あまりにも純粋な笑顔だった。
三兄妹は、ついに白露城で再会を果たした。エルシーが弟妹に両親の本当の名を伝えたあと、今にも泣き出しそうなアンウィとホーネグを、長いこと、固く抱きしめ続けた。
とうとう、ホーネグが我慢できずに尋ねた。「どうして、あの人がまたここにいるの!」
隅のほうで急いで絵を描いていたシセドは、何も答えなかった。エルシーは言った。「彼は、神々の聖像まで描ける腕前の人なのよ。記念に、わたしたちの絵を描いてもらおうと思って呼んだの」
ホーネグは文句を言った。「せっかく姉さんに会えたのに、姉さんの時間の半分は、あの人と話すのに使われてる」
エルシーは揶揄うように言った。「妬いてるの?」
「僕は姉さんの弟だよ!もっと僕のことを気にかけてよ!」
「あなたはもう子供じゃないんだから、少しは自立しなさいよね」
その日の午後、アンウィもめずらしく饒舌になって、各国の王侯貴族とやり合ったさまざまな面白い出来事を話してくれた。その中には、エルシーがあとでその貴族たちを強請って一儲けしてやろうと目論むような秘密話もいくつか含まれていた。ホーネグは、この数年間で生み出した新発明の数々を紹介した。無理やり戦に関わらされたことにも、良い面はあった。兵器開発のために多くの資源を与えられたことだ。その中には、彼がずっと夢見ていた、伝説の百発百中の魔弾や、さらに多くの伝説の神器の複製品まで含まれていた。
彼らはそのまま広間で夕食を済ませることにした。アンウィは、相変わらず絵を描き続けているシセドに目を向け、エルシーに尋ねた。「あの方は、わたしたちと一緒にお食事なさらないの?」
エルシーは手を振って言った。「彼の習慣なの、絵を描くときは、他のことに気を取られたくないのよ。お腹が空いたら、自分で何か見つけて食べるわ。気にしなくていいから」
アンウィがエルシーとシセドの間を何度も見比べる様子があまりに分かりやすく、ホーネグまでも、こっそり笑いをこらえていた。エルシーは堂々と言った。「彼のことが好きだから、ここに連れてきたの」
ホーネグが言った。「あの人の顔、トマトみたいに真っ赤だよ」
アンウィも口元を手で覆って微笑んだ。
エルシーは負けじと言った。「じゃあ、今度はエフリーの話でもしましょうか……」
「お姉ちゃん!」
「それとも、ホーネグの……ああ、あなたを好きになる人なんていないわね」
今度はホーネグが抗議する番だった。「姉さん!」
そんなふうに賑やかに言い合う三人は、優雅な名門出身の花精霊とは、まるで思えないほどだった。
エフリーとアンウィは、イグルーサへと旅立った。ペナイシュ家の花精霊が来ることに、極寒の地で作物を育てるのに苦労していたイグルーサ王国は、大いに歓迎した。
二人の婚姻も、着々と準備が進められていた。
ホーネグを連れて罪悪の街に戻ったあと、エルシーは楽な服に着替え、両手両足を大きく広げてベッドに仰向けになった。
ようやく「家」に帰ってきた。
アンウィはそばにいなくても、ホーネグもアーサーに連れられて城内の別の場所にいても、二人がそれぞれ自分で選んだ道を歩んでいることさえ分かっていれば、エルシーは安心して、自分のこの小さな空間を「家」と呼ぶことができた。
扉を叩く音がして、エルシーはものぐさに魔法で鍵を開けた。
入ってきたのはシセドで、手には一枚の絵が握られていた。
エルシーは笑って言った。「こんな遅くに訪ねてくるなんて、わたしに褒めてもらいたくて待ちきれなかったの?」
シセドは何も言わず、絵を差し出した。
絵の表を向けた瞬間、エルシーは我を忘れ、時間も空間の感覚も、すっかり彼女から遠ざかっていった。
キャンバスには、彼女とホーネグ、アンウィが集った場面が描かれていた。ホーネグの眼鏡に反射する光、陽光の下で輝くアンウィの銀の髪飾り、ごくわずかな陰影の細部に至るまで、すべてが優しく画面の中に捉えられていた。人物の肌の質感、衣服の布地の色合いまでが生き生きと描かれ、この絵を一目見た瞬間、あの日の再会の細部が、すべて鮮やかに彼女の頭の中へと蘇った。アンウィの澄んだ笑い声が聞こえてくるようで、ホーネグの体から漂う、研究室から持ち帰った松の木の香りまで匂ってくるようだった。弟妹の手を握った、あの温もりと柔らかな感触さえ、まだ手のひらに残っているようだった。
「ありがとう」しばらく黙り込んだあと、彼女は言った。
シセドは顔を背けた。エルシーは彼の耳の先が真っ赤になっているのを見て、わざとからかうように言った。「そこまで細かく観察してるなんて、わたしに恋でもしちゃったの?」
「君にあげる」シセドはそう言い残すと、慌てて立ち去った。
エルシーは見れば見るほど気に入り、ホーネグが作った油を使って額縁の表面を拭き、二度と埃が積もらないようにしたあと、この絵を寝台の足元の壁に掛けた。こうすれば、毎朝目覚めるたびに、自分を前へと突き動かす、最も大きな原動力を見ることができる。
数年後、遠くイグルーサへと赴いたエルシーは、ふくらんだアンウィのお腹を、そっと手で撫でていた。
エフリーは彼女以上に緊張した様子で言った。「急に暴力を振るったりしないでくれよ!」
エルシーは不機嫌そうに言った。「馬鹿じゃないんだから!名前はもう決めたの?」
エフリーは得意げに言った。「ユーレニシアだ!」
エルシーは呆れて目を回して言った。「絶対あなたが付けたのね。娘の名前を考えてるのよ、女神の名前じゃないんだから!そんな長い名前、誰も覚えられないわ。ユリでいいでしょう」
エフリーが言い返そうとすると、アンウィがすぐに言った。「お姉ちゃんが言った名前にするわ!」
エフリーは不服そうに言った。「たくさん本をめくって、ようやく考え出した名前なのに」
アンウィは笑って言った。「でも、これは最も偉大な英雄、エルシーが付けてくれた名前よ。お姉ちゃんの祝福を受けて、この子もきっと、お姉ちゃんに負けないくらい立派な英雄に育つわ」
エルシーは言った。「それは難しいでしょうね、わたしは唯一無二なんだから」
アンウィは彼女に寄りかかりながら言った。「この子だって、唯一無二よ。お姉ちゃんとシセドは、子供を作らないの?」
「それはまた今度」
「でも、人間の寿命って……」
「分かってるわ。考えてはいるの。罪悪の街の住民たち、わたしを大英雄みたいに思ってる人たちが、一日中、わたしの子供はさぞ才能に恵まれるだろうなんて言うのよ。わたしは別に、母親になるために生まれてきたわけじゃないし、英雄になりたいとも思ってないのに」
シセドと付き合う前のエルシーは、ただの強い護衛、エルシーだった。結婚してからは、事あるごとに、いつ子供を産むのかと聞かれるようになった。まるで、母親になることが当然の運命であるかのように。この点について、シセドもエルシーと同じ思いを抱いていて、似たような噂話を耳にするたびに、きつく睨み返していた。
アンウィは優しく言った。「あの人たちはただの普通の人間よ。いつも英雄を崇めたがるし、サイフィ神のような慈悲深い母の存在に憧れるものなの」
エルシーは言った。「それなら、サイフィ神をたくさん祀りに行ってもらいましょう!」
アンウィの無事を確かめたあと、エルシーは罪悪の街へ戻り、シセドと長いこと練っていた計画を実行に移した。
ある日、シセドは彼女に言った。「君を描きたいんだ。君を最もよく表す絵を」
「それぞれの時期の自分が違うから、一番自分を表してる姿なんて、選ぶのは難しいわ」
「後世の人が君の名前を口にするとき、最初に思い浮かべてほしい姿は、どんなもの?」
話し合いと調整を重ねた末、エルシーはついに、衣装と小道具を選び、シセドの前でポーズを取った。
モデルを務めるのは、簡単なことではなかった。ましてや、シセドが描こうとしているのは、巨大な画作だった。
エルシーは二十回目の質問をした。「まだ終わらないの?」
「今、絵の具を調合したところだ」
「腰がすごく痛いんだけど」
「嘘つくなよ。十日間立ちっぱなしでも、君には何の問題もないだろう」
「でも、同じ姿勢を保つのが面倒なの!」
「黙ってて」
エルシーは口ではぶつぶつ文句を言いながらも、体は微動だにせず、そのままの姿勢を保ち続けた。
絵を描く作業は、三か月余りも続いた。その間、エルシーは一度も、シセドの下絵を見ることはなかった。
彼が心血を注いで、最終的にどんな完璧な自分を描き出すのか、それを知りたかったからだ。
ついに、絵が完成した。
シセドが布を取り払った。
絵の中にいたのは、いたずらっぽい笑みを浮かべた少女だった。桃色の髪と紫金色のリボンを三つ編みにし、精霊たちが見下すような肩と脚を露わにした服を身にまとい、腰には一振りの長剣を帯び、革のブーツには拭い切れていない油の染みがついている。紫のすみれ色の瞳には、生き生きとした悪戯っぽさが輝いていた。
母ではなく、英雄でもない。ただ、楽しそうに笑う一人の女の子。
その瞬間、エルシーは、絵の中の自分と同じように笑っていた。
シセドはその反応を見て、ようやく肩の力を抜いた。
エルシーは絵に近づき、じっくりと見つめた。やはり、シセドらしい作風そのままに、どこ一つとして、いい加減に仕上げられた箇所はなかった。これほど長い時間がかかったのも当然だった。
彼女は言った。「誰かに認めてもらう必要なんてないって、前に言ったけど、でもやっぱり、本当の自分が他人の目に映るのを見るのは、嬉しいものね」
二人の目に映る互いの姿は、それぞれが、自分自身を本当の自分だと認める姿だった。鏡に映る姿よりも、ずっと真実に近いものだった。
言葉はいらなかった。二人とも、互いに深く愛し合っていることを、分かっていたから。
寿命の違いなど、まるで重要ではなかった。たとえ何千年もの寿命があったとしても、本当にそれほど長く生きられるとは限らない。そんな些細なことに足を取られるよりも、彼女は、愛する人と過ごす一分一秒のほうを、ずっと大切にしていた。
シセドが絵に額縁を施し、保存の作業をしている間、エルシーは尋ねた。「次の出航、一緒に来る?」
「君が行くなら、僕も行く」
今のエルシーは、もうオイローパ王女の側近護衛ではなくなっていた。彼女の時間の多くは、海の上での冒険に費やされている。
しかも、もう一人きりではなかった。
「一緒に行きましょう」
彼女はそっとシセドに口づけた。相変わらず赤くなる彼の顔を見て、満足げに微笑んだ。
彼らの冒険は、まだまだ終わりには程遠かった。




