12-3
あと一日で、公主の船団は出航してしまう。
エルシーは、いまだ塔楼に閉じ込められたままだった。閉じ込められて以来、部屋の扉は塗り固められ、食事と水を差し入れるための小さな格子窓が一つあるだけだった。
彼女を閉じ込める前、族母はこう言った。もし少しでも軽はずみなことをすれば、罰はホーネグとアンウィに下る、と。
アンウィはあらゆる国の言語に通じ、木精霊の種族天賦「交流術」を極限まで駆使していた。一方のエルシーは、あらゆる辺鄙な罵り言葉を覚え、思いつく限りの悪態を何周もわめき散らしたが、誰からも返事はなかった。
最後の日になって、ようやく、もともと扉だった煉瓦が、元の木の扉へと形を変え始めた。
扉を開けて入ってきたのは、アンウィだった。茶色い髪の人間の娘に変装していても、その動きと気配から、エルシーはすぐに見分けがついた。アンウィのそばに付き添っていたのは、魔族の男だった。アンウィはエルシーには分からない言葉で男に二言三言告げ、男が立ち去ったあと、落ち着いた足取りでエルシーに歩み寄って言った。「早く逃げて。公主殿下の船が待ってるわ」
「小アンウィ、さっきの、血魔族?」
「ええ」
「王族?」
「そうよ」
「あなた、すごすぎるわよ!血魔族とまで知り合いだなんて!社交の怪物ね!」
アンウィはかすかな笑みを浮かべて言った。「早く行って。馬はもう用意してあるわ」
「ありがとう。ごめんね、本当にすぐ行かなきゃいけないんだけど、でも聞かせて。あの血魔族と、どういう関係なの?どうして彼が、あなたを手伝ってくれるの?お願いだから、ただの友達だって言って」
「わたし、彼と約束してるの。二十歳になったら、結婚するって。家も喜んで受け入れるわ」
「小アンウィ、あなたはまだ赤ちゃんみたいなものなのに、結婚だなんて!」
「わたしの夢は、もともと温かい家庭を築くことだもの。知ってるでしょう」
「彼のこと、好きなの?」
アンウィはうつむいたまま、何も言わなかった。
エルシーは言った。「とにかく、あと三年よ。三年のうちに、お金を十分に稼いで、戻ってきてあなたたちを連れ出すから」
階段を下りながら、アンウィがふと言葉をこぼした。「お姉ちゃん、羨ましいわ。わたしも、お姉ちゃんみたいに戦ってみたい」
「何、馬鹿なこと言ってるの。わたしたちは、みんな戦ってるのよ。ただ、やり方が違うだけ。ホーネグもそう。あなたが変装できるのだって、彼のおかげでしょう?」
「うん……でも……」
「謝らなきゃいけないのは、わたしのほう。焦りすぎて、こんな状況にしてしまった。族母はもう、わたしのことを諦めたんだと思ってたのに、まだわたしを引き戻そうなんて、夢見てたのね」
ホーネグが作った短時間の変身魔法の巻物で変装したエルシーは、馬に飛び乗り、アンウィに言った。「三年よ、絶対に耐え抜いてね!必ず、援軍を連れて戻ってくるから!」
「信じてるわ」
アンウィの最後の笑顔を思い出すと、馬を駆るエルシーの胸は切なくなったが、悲しんでいる時間はなかった。急いで港へと向かった。道中、あちこちで混乱が起きていて、その多くは、ピエテ家の紋章の入った袍衣をまとった精霊たちだった。彼女はそうした障害を素早く突破していった。港に着いたとき、船の姿が見えず、しくじったのかと思ったが、一人の美しい茶色い髪の精霊の女性が歩み寄ってきた。
「エルシー様、公主がお待ちです」
エルシーは当てずっぽうに尋ねた。「あなた、フェラキオ家の方?」つまり、アイセンティア王族に仕える専門の精霊の家系、「守護者」イソンの末裔だ。
「わたしはマリリンと申します。船団はすでに出航しておりますが、公主があなたのために小舟を手配してくださいました。わたしもご一緒いたします」
マリリンの付き添いのもと、エルシーは無事に大きな船へと乗り込んだ。
オイローパ王女は、黒い革のズボンに白いシャツ、茶色のベストという装いで、エルシーの目を奪った。彼女はまるで、経験豊富な海賊そのもので、王族らしさなど微塵も感じさせなかった。
「わたしも、海賊の格好がしたい!」エルシーはすぐさま叫んだ。
オイローパ王女はエルシーを上から下まで眺めてから、笑って言った。「そんなお嬢様らしい服装、あなたには似合わないわよ」
エルシーがすぐさま服を脱ごうとすると、マリリンが慌てて止めに入った。王女は大笑いして言った。「噂通りの人ね、本当に気に入ったわ!」
エルシーは両手を広げて言った。「わたしは、ただの変人よ」
「でも、もう勝手に服を脱ぐのはやめてね。あなたの裸を見たせいで、口封じのために殺される人を見たくないもの」
「そんなことしないわよ!」
こうして、エルシーの航海生活が正式に始まった。
名目上、彼女は王女の護衛だった。
だが実際には、甲板磨き、掃除、皿洗い、船の修理など、ありとあらゆる雑用を押しつけられた。
こうした雑用自体は、彼女にとって大したことではなかった。不満だったのは、仕事があまりにも退屈なことだった。
「ああ、剣が握りたい」
夜、エルシーはオイローパのそばに座り、彼女が手紙を書くのを眺めながら愚痴をこぼした。「どうして、まだわたしに斬らせてくれる海の怪物が現れないの?」
「あなたの戦闘能力はとても強いわ。あなたの試合、見たことがあるもの」
エルシーは飛び上がって言った。「でしょう!わたしは一族で一番の剣士なの」
「一族どころか、全国を見渡しても、あなたに敵う者はいないわ。あなたには、千年に一度の才がある」
「そうよ、わたしは天才なの!」
「そんなふうに言われて、不愉快じゃないの?」
「どうして?」
「他人から、あなたが自分の力ではなく、才だけで今の成果を得たと言われるのよ」
「わたしが才に恵まれてるのは事実よ。もちろん努力もしてるし、たいていの人の十倍は努力してるけど、練習を積んで成功できること自体も、一つの才能だもの。他人がどう言おうと、わたしはわたしであればいいの」
「多くの人がそう考えるけれど、本当にそうできる人は、ほとんどいないわ」
「もちろん、今は王女様のおかげだけどね」
王女はエルシーの額を弾いて言った。「あなたが望んでる戦いは、すぐにやってくるわ。これから、危険な海域に入るから」
「早く来て!わたしの剣、もう錆びついちゃいそう!」
「あなたの剣、なかなかのものね」
「これは、わたしが十歳のとき、成人の試合に勝って、家族が作ってくれたお祝いの品なの。実は家もそこまでひどいわけじゃないし、仕方ない事情があることも分かってるけど、だからって素直に言うことを聞きたくはないの」
王女はエルシーの両目を見つめて尋ねた。「それこそが、あなたが一族の恩恵を享受している証拠よ。貴族であれ王族であれ、わたしたちが規範に反する行いをすることは、ただ家に申し訳ないだけじゃなくて、わたしたちが守るべき平民にも申し訳が立たない。あなたがどれほど才に恵まれていても、もし貧しい家に生まれていたら、剣に触れる機会すらなかったでしょう。どれほど高い魔法の才があっても、やはり平民のままだったはず。わたしたちが持っているものはすべて、血筋の上に築かれているの。それに、申し訳なさを感じる?」
エルシーは答えた。「他の人よりも多くの選択権を持っているからこそ、それを無駄にしてはいけないんじゃないですか?」
王女は笑みを浮かべ、エルシーは続けた。「ただ決まりに従うだけなら、何も変わらないわ。力と資源を持っているなら、なおさらそれを活かすべきよ。うちの族母みたいに、一日中子供たちの結婚相手を探してばかりで、この花精霊をあの国へ、あの花精霊を別の国へ送るだけなら、せいぜい現状維持にしかならない。新しい未来なんて、絶対に生まれないわ」
「あなたはわたしがどこへ向かおうとしているのかすら知らないのに、他の誰よりも、わたしの旅の目的を理解しているのね」
そう言ったきり、王女はそれ以上の説明をしなかった。
船団は、いたるところに渦巻く海域へと入っていった。そのすぐあとには、海の怪物と、その体に寄生する小さな怪物たちが群がる区域が続いた。奇妙な生き物と戦うこと自体は、どうということもない。真っ二つに斬ればいいだけだ。エルシーが最も苦手としていたのは、海そのものの不安定さだった。何本もの海竜巻が船に迫ってきたとき、彼女にできたのは、すぐそばにいる仲間の腕をしっかりと掴み、傾いた体が海へ投げ出されないようにすることだけだった。
船員たちから、これらはそもそも「航路」と呼べる代物ではなく、船が避けて通る禁忌の水域なのだと聞かされて、エルシーは、王女は頭がおかしいのではないかと疑い始めた。幸い、船を指揮する総督船長は経験豊富で、本当に幾重もの困難を乗り越えさせてくれた。
しかし、その総督船長がバンシーだったことも、エルシーにとっては、なかなかの衝撃だった。
総督船長バイシーは、黒い薄絹をまとい、体は極めて大きく、やや猫背で、両頬は今にも事切れそうな人のようにこけていた。何度か会ううちに、エルシーは気づいた。他のバンシーと比べれば、実はバイシーはかなり元気なほうなのだ、と。
バイシーの種族天賦は、弔いの歌を歌うこと、あるいは、生きている者すら棺桶に飛び込みたくなるような歌を歌うことだった。エルシーが初めてその歌声を聞いたのは、海の妖精の根城を通りかかったときだった。海の妖精が致命的で蠱惑的な歌を歌っても、船員たちは耳を塞がず、ただバイシーに弔いの歌を何曲か歌い返させた。すると海の妖精は、うんざりしたように海中へと引っ込んでいった。
その様子を見て、エルシーは大笑いし、バイシーからは、わけが分からないという眼差しを向けられた。
やがて、船団はおよそ美しいとは言えない港湾へと入っていった。船を降りるなり、エルシーは一群の鼠が路上でむさぼり食っているのを目にした。人々が、わざわざ鼠に餌をやっているのだ!木精霊でさえ、普段から疫病を運ぶ鼠を好みはしないというのに。
そのとき、彼女はようやく理解した。オイローパの言う「根拠地」とは、こういう場所なのだと。
あらゆる犯罪が存在し、土地は痩せて耕作もできず、住むには向かない、というより、まともな人間なら足を踏み入れることすら望まないほど、悪名高い場所。世界でただ一つ、黒女神プロセルネが統べる都市、「罪悪の街」。鼠は黒女神の象徴の動物なので、当然、追い払うわけにはいかない。
その瞬間、エルシーは、オイローパの計画を理解した。
彼女は王女を見つめて尋ねた。「あなた、鍵の使者なの?」
王女は笑みを浮かべた。
黒女神プロセルネの鍵の使者は、古の黒魔法の力を手にすることができる。黒魔法というものは、もともと夜落の地の種族、とりわけ最高位の魔族だけが操れる力だ。日の出の地では、せいぜい人間にその機会が巡ってくる程度で、精霊族が鍵の使者になるなど、常軌を逸している。
だが、オイローパなら、やりかねなかった。
エルシーが尋ねる前に、オイローパのほうが先に口を開いた。「わたしが自分でリーンを呼び出したの。わたしが精霊族だったからこそ、黒女神はかえって興味を持ってくださった。わたしは申し上げたの。あなたの力をお借りして、罪悪の街の範囲を広げたい、ここをただの汚濁にまみれた混沌の地だけに留めたくない、と。各界から最も優れた人材を集めたわ。ここには規則がない、だったらわたしたちが規則を作ればいい。罪悪の街の位置は、日の出の地と夜落の地のちょうど中間にあって、商業と交通の要になれる場所なの。罪悪の街の規模が広がれば、黒女神が歩き回れる空間も増える。それに、わたしは、あの方に、これ以上ないほど精彩に富んだ冒険をお見せするわ。その条件で、あの方は、わたしを鍵の使者にしてくださったの」
「国王陛下は、このことをご存じなんですか?」
「ご存じよ。アイセンティアの後ろ盾がなければ、ここまでできなかったわ。この都市と、わたしの副官たちを、よく見ておいて」
「王女殿下、実は、わたしが一族から逃げ出したのには、はっきりとした目的があるんです。人魚の墓場へ行って、手に入れたいものが……」
「アンリエットの真珠?」
「はい」
すべての人魚は、死の間際に流す最後の一粒の涙が、唯一無二の真珠となる。真珠はただの装飾品ではなく、人魚が生前に持っていた力をも宿していて、魔法によって武器に嵌め込めば、武器に宿る魔法を強化することができる。
「あなたには、手に入らないわ」
エルシーは呆気にとられて尋ねた。「あなたたち、人魚の墓場へ行くつもりはないんですか?もう海賊をやってるんだから、構わないでしょう!」
航海の際、正規の商船に出会っても、オイローパ王女の船団は略奪をしない。だが、海賊船に出会えば容赦しなかった。人魚の墓場には数多くの希少な真珠が集まっているが、旅人の立ち入りを禁じているわけではない。人魚が設けた試練を乗り越え、血と汗と命を代価に、入る権利さえ勝ち取れば、人魚の涙は誰でも持ち帰ることができる。人魚たちは、それこそが、死者の魂を自由にすることだと考えている。ただし、一人が持ち帰れるのは一粒だけで、それ以上持ち去れば、その真珠には呪いがかかり、貪欲な者には不運がつきまとうことになる。
「アンリエットの真珠は、海の妖精に守られてるんじゃないんですか?彼らに勝てば、持っていけるはずです」
「海の妖精は、嘘で欲深い者たちを誘い込んで、略奪して殺すのよ。何年か海の商売をやっていれば分かることだわ。信じないなら、他の船員に聞いてごらんなさい」
「でも、人魚族と海の妖精は、そのせいで戦争になったんじゃないですか?」
「アンリエットが亡くなったあと、人魚と海の妖精には共通の敵ができて、かえって同盟関係になったの。今に至るまでそう。アンリエットの涙が海の妖精のところにあると言い触らしているのは、本物の真珠が奪われないようにするためよ。あなたがあの真珠を欲しがるのは、お金のためでしょう?」
「はい。弟と妹を、お金で買い戻したいんです」
「真珠なんていらないわ。わたしについてくれば、権力も富も手に入るもの」
「それでは遅すぎます。そんなに待っていられません。うちの族母はアンリエットのことをとても気に入っていて、あの真珠を持っていけば、一番手っ取り早いんです」
「ほかにも方法はあるわ、自分で調べてみることね。七日間で、この街とわたしたちの仲間について知ってもらうわ。七日後には、あなたに、わたしの直属の護衛として、正式に務めてもらう」
バンシーのほかにも、オイローパのチームにはあらゆる種族が集まっていて、夜落の地出身の者までいた。彼女の二人の主要な副官は、水精霊と人間だった。水精霊はセースという名で、物腰から見て、もともと地位の低くない貴族だと分かる、無口で落ち着いた性格の人物だった。人間はアーサーという名で、セースに比べれば、ずっと活力に満ちていた。
罪悪の街の軍事統率者は街にはおらず、傭兵を率いて戦に出ていた。彼はクラヴァータといい、聖獣族で、もとは豹だった。情報部門の頭である、自ら「遊侠」と名乗るナセドには、エルシーもまだ会ったことがなかった。彼は月魔族で、極めて端整な顔立ちをしていると言われ、大勢の支持者を従えているらしいが、そんな人間がどうやって目立たずに情報を集めているのか、エルシーには不思議でならなかった。
エルシーがまもなく王女の直属護衛になることから、オイローパの側近の総管であるマリリンが、この七日間、彼女をあちこち連れ回ってくれることになった。
罪悪の街の中では、マリリンは本来の髪色と瞳の色――高位貴族の金髪碧眼――に戻っていた。外では、茶色い髪と茶色い瞳に変えている。エルシーはホーネグの染髪剤をマリリンに無理やり売りつけようとしたが、マリリンは笑って受け流した。
入り組んだ路地の中で、エルシーはマリリンに尋ねた。「罪悪の街を広げるのって、大変でしょう?土地の性質を変えるだけでも、簡単じゃないはずです」
「罪悪の街は日の出の地と夜落の地の境界にあって、誰もが安易には踏み込めない土地です。逆に、それを利用すれば、ここは商貿路線の要になれます。これまでの鍵の使者は、誰もこの利点を活かしてきませんでした。たいていは、個人のため、あるいは自国のために力を使ってきたのです。王女が成し遂げたいのは、鍵の使者の力を礎にして、汚名を着せられた罪悪の街を、昼と夜が混ざり合い、混沌としながらもあらゆる文化を受け入れる場所へと作り替えることです。精霊の寿命は非常に長い。王女こそが、この事業を成し遂げるのに最もふさわしい方で、罪悪の街の安定を確かなものにできます」
聞くところによれば、オイローパがこの地に来て最初にしたのは、都市全体の煉瓦を徹底的に洗い清めることだった。血痕、排泄物、さらには腐った死体の汁液まで取り除かれ、都市は一新された。
罪悪の街はそれほど大きくない。だいたい、アイセンティアの中規模都市デフェニングほどの大きさしかなかった。だが、オイローパは今まさに、都市の境界を拡張するという目標を実行に移しており、少しずつ範囲を広げていた。いつの日か、ここも白露城のような繁華な都市になるかもしれない。
……まさか、そんなはずはない。何しろ、悪名高い黒女神の領地なのだから。
この七日間、エルシーは街中を駆け回り、あっという間に都市の地図を頭に叩き込んだ。王女の都市整備計画はまだ完成しておらず、多くの薄暗く狭い路地や、悪臭を放つ下水道には、依然として乞食、薬物中毒者、密輸犯が住みついていた。彼女は一日に、だいたい五、六件の犯罪を未然に防いだ。
彼女が一人で複数人の強盗団を相手取り、相手を散々に叩きのめしたという話を聞いて、都市内の司法秩序を担当するアーサーが言った。「君は本当に大したものだ。さすが、王女殿下が指名された精霊だけのことはある」
エルシーは目を細めて尋ねた。「花精霊がどんなに強くても、たいしたことないって思ってるんでしょう?」
「まさか、花精霊は精霊族の中でも、最も頑健な体質を持ってるよ」
「でも、結局は種付けに連れていかれるだけだけどね」
「それは、君が言ったことだ」
「七日後には、また出航ね。今度こそ、わたしに斬らせてくれる大きな海の怪物が現れますように」
「君が望んでる機会は、必ず訪れる。白銀の道では、毎日のように海賊が略奪を働いているからね」
「上等よ、こっちだって海賊なんだから。全部やっつけてやるわ!」
「子供の情熱には、本当にかなわないな。僕みたいに戦いを長く続けていると、飽きてしまうこともあるのに」
「じゃあ、そんなに長生きしなければいいんじゃない」
「君の頭の中は、本当に精霊族らしくないな」
「あなたは、どうして神の加護を受けたの?」
「忘れたよ。しばらく、何も考えずにぼんやりと生きてた時期があって、あちこちで魔獣を殺して回ってたんだ。たぶん、どこかの神の気に入らない怪物を殺したんだろうな、それで加護をもらったんだと思う」
「どの神?」
「忘れたって!」
アーサーの朗らかな性格は、エルシーとよく合った。それでも彼にはどこか謎めいたところがあり、エルシーはいつも、彼と話していても、その内側にまで届かないような感覚を覚えた。王女の重要な部下たちは皆、どこか謎めいていて、七日間では、彼らの表面をなぞることすらできなかった。バンシーの船長、黒女神の領地にやってきた水精霊、精霊の王女のために働く月魔族、無敗を誇りながら、やはりどういうわけか神の加護を受けて言葉を話せるようになった聖獣族――こんな顔ぶれを、オイローパがどうやって集めたのか、エルシーには想像もつかなかった。
再び船に乗り込んだあと、彼らが向かうのは、幽魔族のスガタジ王国だった。
幽魔族は、六支の魔族の中では、比較的中立な部族とされている。彼らは死神デュメズに仕える者たちで、他の魔族とはやや距離を置き、痩せ細った体でいつも影の中に身を潜め、他の種族とはあまり言葉を交わさない。それでも、二代神戦争のとき、当時の幽魔族の国王は血魔族の連合軍の誘いに応じることを選んだ。死神を信奉し、死を恐れない彼らは、戦場において最も恐ろしい敵だった。
今の幽魔族は、再び、他の種族とあまり交わりを持たない、かつての在り方に戻っている。それでも、オイローパの船団はすでに一度ここを訪れたことがあり、そのときは、それなりの礼遇を受けていた。幽魔族がどれほど閉鎖的であっても、国外から取り入れなければならない資源は多く、罪悪の街は、そのための便利な窓口になっていた。
七日後、出航する直前、オイローパはエルシーに尋ねた。「この数日で、何か気づいたことはある?」
「この街には、望みがあると思います。時間さえあれば」
オイローパは微笑んだ。
再び揺れる船に乗り込んだエルシーは、離岸流にやられて吐きまくっている新米の水夫たちを目にし、自分が優れた体質の花精霊でよかったと、心から思った。
だからこそ、彼女は、他の誰よりも十倍、百倍の貢献をしなければならない。
暴風雨を巻き起こす八本脚の海の怪物を前にしては、小さな長剣など、何の役にも立たなかった。エルシーは、今にも折れそうな帆柱の見張り台に立ち、ルーン文字と元素魔法を組み合わせた複合魔力で、怪物の独眼を吹き飛ばした。怪物が苦痛の咆哮を上げる中、彼女は砲手たちに指示を出し、以前の者がつけた古傷めがけて砲弾を撃ち込ませ、怪物が悲鳴を上げながら自分の巣へと逃げ帰るまで、攻撃を続けさせた。
海賊船に挟み撃ちにされたときは、砲撃の応酬のあと、乗り込んでの斬り合いになる。そういうときこそ、エルシーは存分に腕を振るえた。一太刀ごとに海賊を一人仕留め、時には、ついでに二人の心臓を一突きで貫くこともあった。乗り込み用の板の上に立つ彼女は、たった一人で、押し寄せる敵を食い止めていた。彼女の肩書きは王女の護衛だが、こうした海上の乱戦の場では、オイローパのそばを守るよりも、戦場そのものに飛び込んだほうが、よほど役に立った。オイローパのそばには、マリリンがついている。
戦いの回数はあまりに多かった。ある時のことを、彼女は覚えている。最後の敵の喉元を剣が貫いたとき、ちょうど空に、ほのかな朝の光が浮かび上がった。剣を引き抜きながら、彼女はその美しい光景に心を奪われた。体にはまだ返り血がついているというのに、日の出は、あまりにも穏やかだった。まるで、どれほど暗く混沌とした夜であっても、翌日には、変わらず太陽が昇るのだと告げているかのようだった。命はまた、新しく巡り始める。
彼女は、死ぬことを恐れてはいない。
でも、死ぬわけにはいかない。死んでしまえば、アンウィとホーネグを救い出すことができなくなる。
彼女は戦わなければならない。愛する人たちのために。
幽魔族との交渉を無事に済ませたあと、さらに各地を長い長い時間、航海し続けた。あまりに長くて、揺れる船旅にも、味気ない食事にも、代わり映えのしない水平線にも、すっかり慣れてしまったほどだった。
ついに、船団は、彼女がずっと念願していた夜魔族の地へと辿り着いた。
夜魔族に対応するのは光精霊で、両者はともに宗教の指導者であり、何よりも平和を尊んでいる。だからこそ、日の出の地の花精霊が、朝廷の重臣として受け入れられる余地があったのだ。
夜魔族の国王に謁見したとき、国王はエルシーを立たせ、その顔をじっと見つめて言った。「オフィーリアの娘よ。聞けば、ここまでの道中、数え切れぬほどの敵を討ってきたそうだな。オフィーリアも、剣の扱いに長けていた。おまえは、彼女と瓜二つだ」
オイローパは夜魔族の国王に言った。「わずか半年の鍛錬で、エルシーはすでに、わたしが見た中で最も強い剣士になりました」
夜魔族の国王は言った。「さすが、『白昼の賢者』の娘だ。次に戻ってきたときには、さらに強くなっていることを期待している。オフィーリアのように、世界に影響を与える存在になるがいい」
母がかつて使っていた部屋をあてがわれたエルシーは、夜魔族がわざわざ残しておいてくれた両親の遺品を見つめながら、深く物思いに沈んでいた。
彼らは夜魔族のもとに長くは留まらず、そのまま月魔族の王国へと急いだ。罪悪の街の最大の強みは、日の神にも夜の神にも属さず、両界を繋ぐ橋になれることだった。今がまだ平和な時期であるうちに、オイローパはより多くの協力関係を築き上げ、罪悪の街を、新たな白銀の道の要にしようと心を砕いていた。
月魔族は奇妙な集団で、ちょうど満ち欠けする月神のように、気ままで予測がつかない。先代の国王は積極的に対外拡張を進め、もともと王位を継ぐはずだった王太子も、戦争を好む派閥の急先鋒だった。だが、その王子が木精霊の英雄イソンに敗れたあと、新しい国王に立ったのは国内の次男で、彼の統治は地味で目立たず、ほとんど幽魔族かと思うほどに保守的で、他人に手を出さなければ、こちらからも手を出さないという方針を貫いていた。
月魔族の国でも、エルシーは同じように、オフィーリアの娘として褒め称えられた。
それらの美辞麗句は、いつも彼女に、どこか奇妙な感覚を抱かせた。
月魔族の国を離れ、罪悪の街へと戻る道中、エルシーはオイローパに言った。「わたしの母は、本当に偉大な人でした」
「どうやら、オフィーリアの娘であることを、誇りに思っているのね」
エルシーは真剣な顔で言った。「でも王女殿下、よく考えてみたんです。わたしは、ただの『オフィーリアの娘』で終わりたくありません」
「母親の影に覆われたくないの?」
「わたしは母を尊敬しています。でも、誰かの娘として、妻として、母としての立場で記憶されるくらいなら、むしろ世界中から完全に忘れ去られたほうがましです」
「それなら、あなたは、どんな名前で記憶されたいの?」
「母のように、各種族の歴史書に書き記される必要はありません。わたしが望むのは、誰かが、本当のわたし自身を見てくれること。名前なんて関係なく。たとえ姓を捨てなくても、その名前が、わたしを定義することはないんです」
「それなら、どうやって、皆に認めてもらうつもり?」
「認めてもらう必要なんてありません。わたしはわたしです。それで十分」
「現実は残酷よ。わたしたちはいつだって、自分をより大きく、より影響力のある存在に見せるための、虚ろな肩書きを必要とするものだわ」
「それは、王女様がなさればいいことです。わたしはしがない護衛にすぎません。自分自身を見失わなければ、それでいいんです。わたしの歩んだ軌跡が、誰の目にも留まらなかったとしても、わたし自身が、自分が何者であるかを分かっている。それが、他の誰の承認よりも大切なんです」
「あなたを選んだのは、あなたの母親のためだけではないわ」オイローパは立ち上がり、船室の中を行きつ戻りつしながら言った。「大人に叱られれば服を脱ぎ出すのに、精霊でありながら殺伐とした決断力を持ち、きょうだいのために命すら投げ出す。こんなに若いのに、自分自身に忠実でいられる娘なら、わたしの安全を守れるだけでなく、栄華と富に心を乱されかけたわたし自身が、自分を見失わずにいられる」
「ありがとうございます、殿下」
「あなたの目に、わたしはどう映っているの?王女?鍵の使者?罪悪の街の城主?道徳の境界線の上に立つ海賊の頭?」
エルシーは正直に言った。「分かりません。わたしはまだ若すぎて、自分自身を保つだけで精一杯です。でも、いつか分かる日が来るはずです」
オイローパは彼女の頭を撫でて言った。「あなたの成長を、楽しみにしているわ」




