12-2
どの精霊族にも、それぞれの種族天賦がある。花精霊の種族天賦は「緑の指」で、作物を豊かに実らせる力だ。
植物を司る木神サイフィが消え去ってから、花神フロラが、日の出の地の農業を司る役目を引き継いだ。そのため、どの国も、花神に仕える精霊族――花精霊の力を必要としている。
木精霊と人間からなる王国、アイセンティアにおいて、最も影響力のある花精霊の家門は、「五大名門」に名を連ねるペナイシュ一族だ。金髪、青か緑の瞳が高位貴族の象徴とされるこの国で、ペナイシュ家だけは桃色の髪を持っているが、その髪色を冗談の種にしようとする者はいない。この髪色こそが、花精霊の純正な血統の証だからだ。
六つの支族の精霊族の中でも、花精霊の血は最も強く現れる。精霊の両親のどちらか一方が花精霊であれば、生まれてくる子供は必ず花精霊の血を受け継ぐ。それでも、花精霊は各地で依然として希少な存在だ。農業の命脈を握る彼らは、常に他国が侵略してくるときの最初の標的にされ、その領地も、戦争の際に最初に硝煙が立ちのぼる場所になるからだ。ある精霊国家の花精霊を殺し尽くせば、その国は民生と経済の根本から崩壊する。大軍を動かすまでもなく、その国を打ち倒すことができる。農産物の主要な輸出国であるアイセンティアにおいて、花精霊はいっそう重要な存在だった。
花精霊の血は、それほどまでに重要で、婚姻によって生まれた子であるかどうかにかかわらず、上級貴族たちがこぞって養育を望む。どんな場でも、花精霊は常に上客として遇され、とりわけ若く、繁殖力の盛んな花精霊は、引く手あまたの的となる。花精霊の血が少しでも混ざっていれば、神廟に入り神職者となることができ、血が濃いほど、その順位は優先された。
王国にとってこれほど重要なペナイシュ家は、どの世代の子供たちも、とりわけ娘たちを、心を尽くして育て上げてきた。花神フロラは、ご自分に仕える祭司が女性であることをお求めになる。そして、艶やかな桃色の髪を必ず受け継ぐのも、女性の花精霊だけだ。男性の子は、たとえ花精霊の血を引いていても、淡い紅色の髪にしかならないことがある。これが、花精霊の家門の族長が、常に女性である理由だった。
精霊族が一生に孕める胎数には限りがある。もし娘が生まれれば、ペナイシュ家は、その子にこの上なく厳しい訓練を課し、幼い頃からさまざまな技芸を学ばせて、成長したのちに、一族の栄光を受け継ぐにふさわしい偉大な人物となれるよう育て上げる。十八歳前後になると、族長は、その娘にふさわしい婚姻相手を探し始める。花精霊の婚姻は、二人の精霊、あるいは二つの家門だけの問題にとどまらない。自国の花精霊と他国の精霊との婚姻は、両国の政治と経済に関わる問題であり、ペナイシュ本家直系の娘の婚姻は、時に王族の婚姻よりも重いものとされた。
新しい世代のペナイシュ本家直系の娘たちの中で、戦闘の才、魔法の力が最も高く、聡明さ、勇敢さ、美貌を一身に兼ね備えた長女、エルシー・ペナイシュ――花精霊と光精霊の血を引く彼女は、その優れた血統によって、当然のように一族全体の注目の的となっていた。
ただし、彼女には致命的な欠点があった。それは、あまりにも奔放で、手に負えないということだった。
正確に言えば、一族の年長者たちは、彼女のことを直接「狂人」と呼んでいた。
「お嬢様、どうか服をお召しください!」
毎朝、ペナイシュ家の邸宅には、この一言が響き渡った。
エルシーは、ふわりとした袍衣を好まなかった。あの軽やかな衣は、戦闘の邪魔になる。彼女はいつも髪を一本の三つ編みにまとめ、長い髪が顔に乱れかからないようにしていた。
袍衣を着ないだけでも、すでに精霊の礼儀作法に反しているのに、エルシーはよりによって、人間の流行を真似るのが好きだった。体にぴったりと沿う服を着て、腹や太もも、肩や首筋を露わにする。青血貴族の基準からすれば、それは裸同然だった。
女中がエルシーを追いかけ、息を切らして立ち止まらざるを得なくなった。エルシーも足を止め、にやにやしながら言った。「あなた、歳を取ったんじゃない?だんだん、わたしに追いつけなくなってきてるわよ」
女中は腹立たしげに、エルシーを指さして罵った。「捕まえたら、覚悟しなさいよ!」
エルシーは両手を広げて言った。「さあ、来なさい。十秒待ってあげる」
女中はようやく息を整えると、すぐさま追いかけっこを再開した。
この一幕は、家令が現れるまで続いた。
家令は女中に言った。「屋内を走り回るとは、何たる体たらくですか!」
女中はやりきれない思いでエルシーを一瞥した。エルシーは彼女に舌を出してみせた。
家令は冷ややかに言った。「一か月分、俸給を減らします」
エルシーは大股で前に出て、顎を上げ、家令を見下ろすように言った。「ここの主人は誰かしら?わたしが罰しなかったのに、あなたに何の権限があるの?」
家令は表情を変えずに言った。「お嬢様、族母様のお言葉です。これ以上、混乱を引き起こされるようでしたら、礼儀作法の授業を最初からやり直していただきます」
エルシーは鼻を鳴らして言った。「行かないわよ」
「では、護衛たちに、お送りいただくことになります」
「あの人たちが束になってかかっても、わたしには敵わないわ。明日は王女の宴よ。人前でわたしに恥をかかせたくないなら、これ以上わたしを縛ろうとしないことね」
「あのような重要な宴で騒ぎを起こせば、どうなるか、お分かりですか?」
「分かってるわよ。でも気にしないわ。どのみち、責任を負うのはわたしじゃないもの。醜態が心配なら、わたしを家に置いておけばいいだけの話でしょう」
「お嬢様は、直系の長女です。必ず出席していただかなければなりません」
「小さなアンウィを行かせればいいでしょう。彼女のほうが、わたしより礼儀をわきまえてるわ」
「これは、あなたの王族に対する認識にも関わる問題です。今まで、あなたはほかの貴族との交流の場に、ほとんど出席されていません。もうすぐ十八歳になられます。これ以上、逃げてばかりはいられません」
エルシーは目をくるりと動かして言った。「一つ、いい考えがあるわ。アニーと服を交換するの」
名指しされた女中が「また何を企んでいるの」という嫌そうな顔をすると、エルシーは笑いながら言った。「ホーネグが染髪剤を用意してくれたわ。王女はわたしの本当の顔を見たことがないし、めったに帰国もしない。女中のふりをして、王女の顔を覚えて、これから彼女の前で無茶をしなければいいだけよ」
家令はエルシーに押し切られ、決してばれないようにと釘を刺すと、渋々彼女を剣の稽古へと行かせた。
エルシーを制御できる者は、誰もいなかった。彼女は幼い頃から常軌を逸しており、公の場で叱られると、その場で服を脱ぎ始め、大人たちを一斉に慌てさせた。茶器を割る、突然大声で歌い出す、顔に髭や絵の具を塗りたくる――恥をかくようなことなら、彼女は何でもやってのけた。恥という感覚が皆無で、どんなことでもしでかす少女を前に、堂々たるペナイシュ家の当主でさえ、なすすべがなかった。結局、彼女を外に連れ出す回数を減らすしかなく、そうでもしなければ、本当に家の面目を丸潰しにされかねなかった。
朝の挨拶を済ませたアンウィが、屋敷に戻ってから剣術場へエルシーを訪ねると、エルシーは汗だくになって剣の稽古をしていた。アンウィが用意してくれた手拭いを受け取り、汗を拭きながら言った。「明日は、あなたが行って」
アンウィは言った。「わたしのために、そこまでしてくれなくてもいいのよ」
エルシーは、うつむいているアンウィに目をやった。アンウィも同じく桃色の髪を受け継いでいた。愛らしい顔立ち、小柄な体つき、控えめな性格。目立った魔法の才はなく、戦闘の腕前も言うまでもない。物腰柔らかで礼儀をよくわきまえているアンウィは、エルシーが大人たちの手配した社交の場に逆らうたびに、結局彼女に代わって顔を出す役目を担ってきた。そうして積み重ねていくうちに、アンウィの貴族界での認知度は、ほとんどエルシーに並ぶほどになっていた。貴族たちのエルシーに対する印象は、たいてい幼い頃の姿のままだった。顔を汚すのが好きで、出席するたびに、ほどなく奔放な振る舞いのせいで連れ出されてしまう、反抗的な少女。成長したエルシーは、もっぱら剣術場に入り浸っていて、兜や防具を外した素顔を見た者はほとんどいなかった。そのため、アンウィがエルシーに代わって本家の血筋を継ぐことになるかもしれない、という噂まで囁かれるようになっていた。
一族の血を継ぎ、地位も権勢も高い純血の精霊に嫁ぎ、「優良な」血を持つ子を産む――そういったことに、エルシーはまるで興味がなかった。アンウィはその正反対だった。幼い頃からの願いは、温かな家庭を築くことだった。だからこそ、エルシーは他の高位貴族と顔を合わせる機会を、アンウィに譲ってきたのだ。エルシーの実力さえなければ、貴族たちも、ペナイシュ家には天賦の才を持つ長女がいる、などとわざわざ覚えていなかっただろう。アンウィはとっくに、エルシーの家中での地位に取って代わっていたはずだった――それは、二人にとって、どちらにとっても良いことだった。
エルシーは言った。「どのみち、わたしがペナイシュを代表して行くことはないもの。でも、王女は一目見てみたいわね」
国王の姉、オイローパ王女は、若い頃から航海に憧れ、国を離れて旅していた。これは、規範から大きく外れた振る舞いだった。れっきとした精霊の王女が自ら海に出る――それは国のための外交任務でもなく、純粋な個人の意志による行動だった。不思議なことに、あちこちを冒険して回っているはずのオイローパ王女に、遭遇する者はほとんどいなかった。虎視眈々と王女の暗殺を狙う外国の間諜たちでさえ、彼女の行方を突き止められずにいた。そんな王女が、めったにないことに、こっそり帰国し、突然、誕生日の宴を開くと言い出したのだ。政治にまるで興味のないエルシーでさえ、少しばかり気になった。
アンウィは言った。「わたし、昨日、王女殿下にお目にかかったの。親切にも、ルビーの装身具一式をくださったわ」
エルシーは尋ねた。「噂通り、本当にひどい顔立ちなの?」
アンウィは首を振って言った。「詳しいことは、自分の目で見れば分かるわ」
エルシーはすぐさま、もう一人の兄弟を探しに向かった。
実験室でホーネグを見つけたとき、彼はちょうど何かを爆発させたところだった。エルシーは咄嗟に元素を集めて彼を包み込んだ。
ホーネグは咳き込みながら、片眼鏡に付いた塵を布で拭きとりながら言った。「姉さん、僕、さっきもう少しで魔弾を作れるところだったんだよ!」
「魔弾で最初に吹き飛ぶのは、あなたよ」
「本当だってば!配合はもう調整できてて、たぶん材料に不純物が混ざっただけで……」
「いいから、染髪剤」
ホーネグは困った顔で尋ねた。「また、何をするつもりなの?」
ペナイシュ家の桃色の髪は、普通の染髪剤ではすぐに色が落ちてしまう。とりわけ本家直系の血筋ともなると、わずかな色を混ぜることすら難しい。ホーネグが自ら調合した染髪剤だけが、エルシーの髪色を変えることができ、彼女がこっそり悪さをするのを可能にしていた――たとえば、アンウィの悪口を言った貴族の子弟を袋叩きにするようなことにも。
「明日の王女の誕生日の宴に行くの。茶色でいいわ。アニーに扮するから」
ホーネグはおとなしく、もとの染髪剤に、エルシーの髪質により合う成分を加えていった。エルシーは、彼の顔の脇でゆらゆら揺れる数房の髪を見つめ、本当に目障りだと思った。自分の髪でしょっちゅう染髪剤を試すせいで、ホーネグの髪質はひどく傷んでいた。本来なら伸ばしているはずの髪も、肩から下は染料によって焼け切れてしまい、馬の尾に結うにも半端な長さになっていた。
見ているうちに、エルシーはつい提案した。「いっそ、坊主にしちゃえば」
「姉さん、うるさいなあ」
「あなた、頭の形はいいのよ。それに、坊主なら、髪が伸びるまで、剣の稽古を無理強いされずに済むわ」
「剣の稽古」という言葉を聞いて、ホーネグの表情はいっそう苦々しいものになった。
花精霊は、戦闘に秀でた精霊族ではない。ホーネグはとりわけ剣術が下手で、剣を構えるたびに、その哀れなほど情けない姿を見て、対戦相手も手を出しにくくなるほどだった。唯一、容赦なく彼と向き合えるエルシーが、彼の剣術の師となっていた。貴族である以上、剣術を学ばないわけにはいかないからだ。
エルシーの実力は、その役目を十分に果たせるものだった。彼女は一族の中で、現時点で最も強い剣士であり、おそらく全国、いや、全世界の同世代の精霊の中に並べても、その序列は変わらないだろう。
彼女が幼い頃から、ほとんど狂ったように剣の稽古に打ち込んできたのは事実だが、その実力を極みにまで押し上げた最大の要因は、やはり生まれ持った才だった。彼女に稽古をつけた師たちは皆、彼女には予知に近いほど鋭い直感があり、相手の隙を正確に突けるのだと言った。さらに、生まれつき優れた力と速さも相まって、彼女は剣を学び始めてから一年余りで、最初に稽古をつけてくれた師を打ち負かすほどになった。
エルシーは剣の稽古が大好きだった。それはちょうど、アンウィが化粧や身なりを整えるのが得意で、ホーネグが天才的な発明家であるのと同じだった。三人が力を合わせれば、無敵だ。彼女はいつも、そうアンウィとホーネグに言っていたが、二人はいつも苦笑いするだけだった。アンウィは言った。「わたしはあなたほど綺麗じゃないもの」。ホーネグは言った。「僕は剣もまともに持てないよ」。
これは、大人たちが絶えず、彼らに「自分たちはエルシーに及ばない」という考えを吹き込んできたせいだった。彼らが純正な青血貴族の血筋ではないからだ。
彼らの母は、当時、一族の中でも最も血統の優れた花精霊の一人で、国外の光精霊の神職者に嫁がされ、ほどなく長女エルシーを産んだ。ところが、結婚から二年後、彼女は木精霊の平民と駆け落ちし、ペナイシュ家に見つかったときには、すでに一男一女をもうけていた。こうして、光精霊側からは離縁が申し立てられ、大罪を犯した母は夜魔族の神職者として送り出され、ほどなく魔族の内紛の中で命を落とした。
残された三人の子供――長女エルシー、次男ホーネグ、末娘アンウィは、皆ペナイシュ家に引き取られて育てられた。案の定、彼らの未来の運命も、母と同じように、一族の族長が決めた政略結婚によって、血統をより高貴なものにするために利用されることになっていた。もし言うことを聞かなければ、彼らを待っているのは、母に下されたのと同じ罰だった。
死よりも重いその罰とは、ペナイシュ家が母の名前を消し去ってしまったことだった。すべての記録から、この一族の成員の全名は消え去り、彼女の存在は、口にすることさえ許されない禁忌となった。
名前が何を意味するというのだろう。しょせん、他人から与えられたものにすぎない。だが、名前を奪われるという辱めは、冷徹な暴力そのものだった。
三人は、母の名前と、父の本当の身分を取り戻したいと願っていた。それは、ペナイシュ家の中では、実現しがたい願いだった。そんな大それた望みを言うまでもなく、自分の思うままに振る舞うことすら難しかった。エルシーの反抗ぶりのおかげで、弟妹たちは相対的に、大人たちに好まれるようになった。そのうえ、エルシーが剣術大会で何度も首席を取り、アンウィが姉に代わって社交の責務を引き受け、ホーネグの雑多な発明が、陰で少なからぬ年長者たちの機嫌を取っていた――そうしたことが積み重なって、三人は、限られた範囲でなら、望む生き方をすることができていた。
だが、エルシーが成人を迎えるにつれて、この穏やかな日々も、まもなく終わりを迎えようとしていた。
翌日の、王女の帰国を祝う宴で、エルシーは女中の装束に着替え、髪を染め、簡単な変装の化粧を施した。今日の彼女の身分は、宴で料理と酒を運ぶ給仕係の女中だった。
彼女はそれほど心配する必要はなかった。誰の目も、オイローパ王女一人に注がれていたからだ。
悪意ある噂では、オイローパ王女は容貌が醜いせいで、王族や高位貴族の誰にも嫁ぎ先を望まれず、そのために冒険の道へ転じたのだという。
アンウィのあの「詳しいことは、自分の目で見れば分かる」という言葉が、エルシーの心にずっと引っかかっていた。彼女は酒壺を捧げ持ち、優雅な足取りで宴の中心へと歩み寄った。
宴の卓の主賓の席にいるのが、オイローパ王女だった。
エルシーは一目見て、オイローパ王女を好きになった。
小麦色の肌、王室に相応しい純金色の髪、わずかに上を向いた唇、深い海のように青い瞳。長年の航海のせいで、いくら精霊の血統でも、オイローパ王女の肌が荒れるのは避けられなかった。多くの貴族が、彼女を「見栄えのしない」と評するのも無理はない。
けれど、その瞳に宿る輝きは、あまりに眩しかった。強く脈打つ生命力を湛え、まるで陽光の下できらめく海面のようで、時折、穏やかで力強い白い波を巻き起こしながら、雲一つない青空と互いに映え合っていた。エルシーは、これほど情熱に満ちた精霊を見たことがなかった。すでに百年余りを生きているというのに、この世界に少しも飽きることなく、それどころか、これから訪れる千年を、心待ちにしているようだった。
もしこれが「醜い」と呼ばれるものなら、この世界の美の基準は、きっとどこかで間違っているに違いない。
「わたしは龍の島を見たわ。本物の龍の生息地よ。普通の船なら、龍島に近づくだけで攻撃を受けるけれど、わたしたちには最高の詠唱者がいたし、船体も水精霊が自然の力で造ったものだった。龍はわたしたちに特別親しみを見せたわけではないけれど、追い払おうともしなかった。わたしたちは船の上から、小山ほどもある氷翼の青龍が浅い眠りについているのをずっと見ていたの。時々、目を細めてこちらを見てきたわ。そういうとき、詠唱者はいっそう澄んだ調べを歌って、わたしたちに敵意がないことを示すのよ」
王女のその話を聞いて、ある貴族が尋ねた。「ほかには、どんな龍がいたのですか?」
「一つの龍島には、一頭の龍しかいないわ。番がいたとしても、龍は他の龍と一緒には暮らさないの」
「なんと誇り高い生き物でしょう!」
王女はかすかに微笑んで言った。「彼らは、単独で生きるのに適した生き物なのよ。龍島を越えると、紅藻の海域があるわ。二つの巨大な岩礁の中心とその周辺の海面は、すべて紅い藻に覆われていて、この藻に触れると、全身が痺れたり、心臓が止まってしまうこともあるの。危険だけれど、一面真っ赤に染まった海面は、それでも、とても美しいわ」
オイローパ王女が海の冒険で出会ったさまざまなことを語るのを、エルシーは夢中になって聞き入り、うっかり酒を注ぐ手元が狂って、杯から酒がこぼれてしまった。
オイローパ王女が彼女のほうを見た。エルシーは言った。「王女殿下、申し訳ございません」そう言って、普段の彼女なら死んでもしないような、きちんとした礼をしてみせた。
王女は彼女を近くへ呼び寄せると、エルシーが身を寄せたとき、そっと耳元で囁いた。「あなたが、エルシーね?」
エルシーが黙っていると、王女はそれ以上問い詰めず、彼女を下がらせ、周りにも聞こえる声で言った。「白ワインを持ってきてちょうだい」
それから宴が終わるまで、王女はずっと冒険の旅の話を語り続け、やがて国王が到着した。皆が片膝をついて国王を迎える中、オイローパ王女だけは立ち上がり、弟である国王に大きな抱擁を贈った。
国王は言った。「姉上、ご無事な姿を見られて嬉しく思います」
「わたしはずっと元気よ。あなたも、国をよく治めているようね」
しばらく世間話を交わしたあと、王女は居並ぶ貴族たちに向かって言った。「今日、皆さんをお招きしたのは、あるお知らせをしたかったからです。わたしは今、海外に拠点を築こうとしていて、もっと多くの人手が必要なのです。貴族に限らず、勇気と忠誠心を持つ、あらゆる種族の方を歓迎します。どうか、このことを領民の皆さんにも伝えてください」
この発言は、大きなざわめきを呼んだ。エルシーの胸も、激しく高鳴っていた。
彼女の夢はずっと、海外へ冒険に出ることだった。だが、ペナイシュ家の一員である以上、行き先は一族が決める。仮にこの国を離れられたとしても、行き着く先は神廟か私宅の中だけだろう。
宴が終わると、彼女は、最も親しい友人であるエフリー・ピエテのもとへ行き、この冒険の計画について語った。
エフリーは、力いっぱい彼女の額を弾いた。
エルシーは言った。「何するのよ!ぜんぜん痛くないけど」
エフリーは言った。「夢でも見てるのか。花精霊を冒険に行かせるなんて、あり得ない」
「王女殿下が口を利いてくれれば、可能性はあるわ!彼女、わたしのことを知ってるもの。きっと、わたしの剣術がどれだけすごいか、噂を聞いてたんだと思う」
「絶対に無理だ。お前の家は、両足をへし折ってでも、お前を海に出させたりしない」
エルシーの運命は、占いなど使うまでもなく、はっきりしていた。彼女は、この国を離れることすらできない。
母が犯した過ちのせいで、他の精霊国家も一時的に花精霊に困っておらず、彼女は暗黙のうちに、エフリーに嫁がされることになっていた。彼女のあと何世代か経てば、ペナイシュ家は再び、国外の花精霊と縁を結ぶ機会を得られるだろう。
腐りきった暗黙の了解だった。
エルシーは馬鹿ではなかった。彼女は幼い頃から、家の大人たちが自分とエフリーを遊ばせたがるのは、二人をくっつけようとしているからだと知っていた。二人が初めて出会ったときでさえ、地面に転んだ彼女にエフリーが手を差し伸べたのは、仕組まれた結果だった。誰かに彼女をわざと転ばせ、そこで小紳士然としたエフリーが助け起こす――そうすれば、初恋が芽生えるはずだった、というわけだ。
だが、エルシーは「普通の」女の子ではなかった。普通の花精霊でも、普通の貴族でもなかった。初対面で地面に転んだあの日、彼女はエフリーの差し出した手には目もくれず、わざと自分を転ばせた叔母のふくらはぎを、そのまま蹴りつけた。相手は、彼女以上に無様に転んだ。
あのときのエフリーの呆気に取られた表情は、思い出すたびにエルシーを笑わせた。彼は、他の大人と一緒になってエルシーを止めるべきか、それともペナイシュ家の面目のために、何も見なかったふりをするべきか、明らかに分かっていない様子だった。その後、エルシーとエフリーは親友になった。おそらく、初対面のあの衝撃的な印象のおかげで、エフリーはエルシーについて、ある程度の理解を得ることができたのだろう。それからは、エルシーがどんな突拍子もないことをしても、エフリーはさほど驚かず、後始末を大人たちに詫びる手伝いまでしてくれた。エフリーが間に立って取りなしてくれるおかげで、ペナイシュ家の人々は、いくらか大目に見てくれるようになった。もしペナイシュ家の大人たちが、二人の間に恋愛感情など一切ないと知ったら、エルシーが直接エフリーに、どんな女の子が好みかと尋ねたと知ったら、寿命が十年は縮んで怒り狂うことだろう。
エルシーの問いに、エフリーは迷わず答えた。「僕が好きなのは、お前とは正反対のタイプだよ」
「醜くて、馬鹿な子?」
「優雅で、礼儀正しくて、優しい女の子だ。お前を見てると、こういう人間と結婚したら、この先何百年も苦しむことになるんだろうなって、本当に思うよ」
エフリーが彼女に何の気もないことをはっきり示してくれたおかげで、エルシーはこの親友の前で、この上なく気楽でいられた。髪を三つ編みにするのが好きな彼女は、喧嘩になると、その三つ編みでエフリーの首を絞めたりした。エフリーは最初こそ、五大名門らしい優雅さを保とうとしていたが、やがてエルシーに腹を立てて、直接取っ組み合いの喧嘩になった。たいていは最後、沈黙と、二人揃っての大笑いで締めくくられた。
大小さまざまな出来事を、エルシーはいつもエフリーに相談しに行った。国内外の政治情勢から、貴族同士の些細な私怨まで、エフリーは何でも精通していた。ピエテ家を継ぐことになる彼が与えてくれる助言は、いつもとても実用的だった。今回も例外ではなかった。叶わないだろうと自分でも分かっていながら、それでも彼女はエフリーのところへ相談しに来たのだった。
エフリーはあらゆる論点を持ち出して彼女を説得しようとしたが、エルシーはずっと黙ったまま、最後にようやく頷いて言った。「分かったわ」
エフリーは数秒間、彼女をじっと見つめてから言った。「お前、僕の言ったこと、ぜんぜん気にしてないだろう」
「そうよ。それでも王女に会いに行くわ。何か、もっともらしい理由を考えて」
エフリーはため息をついて言った。「王女は、たくさんの貴重な装身具を持ち帰って、ご婦人方に分けてくださってる。指輪を見たいって言えばいいだろう」
「ありがとう、大賢者様!」
彼女とエフリーの結婚話は、もう目前に迫っていた。あらゆる方法で逃げようとしても、すべて失敗し、最後には、アメイティスから一歩も出ることを禁じられてしまった。これが、逃げ出せる唯一の機会だった。
王女に謁見する日、エルシーはピンクと白の優雅なドレスに身を包み、レースがもたらす痒みを我慢しながら、王宮に足を踏み入れた。
彼女は王女の書斎に案内された。部屋の中の王女と目が合った瞬間、その笑みから、エルシーは、自分の正体がすでに王女に見抜かれていたことを悟った。
彼女は片膝をつく礼をして言った。「王女殿下、わたしはエルシー・ペナイシュ、ペナイシュ家直系の娘です。宴の席で、殿下が人手を募っておられると伺いました。わたしは同世代で最も強い剣士です。家の規則で、王族護衛の資格試験を受けることはできませんが、護衛としての力は、間違いなく備えております」
王女は言った。「やはり、ペナイシュ家の子ね。あの日、あなた、かつらを着けていたでしょう」
「弟のホーネグ・ペナイシュが作った、独自の染髪剤を使いました。彼は発明の天才で、最近は、混乱した海域でも極点星の方角を指し示せる羅針盤を開発したところです」
「わたしの旅に役立ちそうね。彼も、わたしの船団に一緒に加わってくれるの?」
「弟は体が弱く、船に乗って殿下にお仕えすることはできません。今日わたしがここへ来たのは、わたし自身のお願いをするためです」
「あの日、一目で、あなたがペナイシュ家の子だと分かったのだけれど、どうしてだと思う?」
「殿下は、わたしをご覧になったことがあるのですか?」
「あなたのお母様に、会ったことがあるの」
エルシーは目を見開いた。王女の前で取り乱してはいけない。それでも、母のことだと思うと――
「殿下は、どちらで彼女とお会いになったのですか?」
「夜魔族の宮廷よ」
「彼女の名前を、ご存じでしょうか」
「オフィーリアというの」
「ペナイシュ家は、彼女から名前を奪って……」
「彼女がすべて話してくれたわ。夜魔族の宮廷を訪ねたとき、わたしを出迎えてくれたのが彼女だったの。それが彼女のもとの名前なのか、新しく付けられた名前なのかは言わなかったけれど、とにかく、わたしが出会ったのはオフィーリアで、オフィーリア・ペナイシュではなかった。彼女はとても才能に恵まれていて、昼と夜、二つの種族を結ぶ役目を担い、『白昼の賢者』の称号を得ていただけでなく、夜魔族の小さな王女の家庭教師にもなっていた。夜魔族の王族は彼女をとても厚く遇して、彼女の恋人も一緒に夜魔族へ迎え入れてくれたわ。彼女の唯一の心残りは、あなたたちに会えないことだった。それでも彼女は毎日、あなたたちのために祈りを捧げていたし、あなたたちに見捨てられたと感じさせたくなくて、もう子供を産むこともなかった。あなたたちのお父様は、オロスコという方よ。お二人とも、夜魔族でとても幸せに暮らしていたわ。でも、少し前に、相次いで病で亡くなったの。オフィーリアは、あなたたちのことをわたしに話してくれて、帰国したら、あなたたちが無事でいるか確かめてほしいと頼まれたわ。戻ってきてから、偶然アンウィに出会って、それからあなたに出会ったの。あなたは、オフィーリアに八割方似ているわ。アンウィは顔立ちがオフィーリアそっくりね。ホーネグにも、会ってみたいわ」
「オフィーリア……この名前を、忘れません。ありがとうございます。わたしたちにとって、これはとても重大なことです」
「航海の話に戻るけれど、どうして、あなたは離れたいと思うの?」
「一族は、遅かれ早かれ、わたしが望まない相手と結婚させるでしょう。わたしは世界中を冒険して回りたいんです。もっとたくさんの景色を見たい。誰かの操り人形になるのではなく」
「ちょうど、わたしのそばに、側近護衛が一人足りないの。この仕事、やってみたい?」
「望むところです!命を賭してでもお守りします。仰せつけられたことは、どんなことでも成し遂げます。どうか、わたしの家からわたしを引き取ってください」
「わたしが王女であっても、花精霊の地位を超えることはできないわ。でも、他の方法であなたを船に乗せることはできる。わたしが手配するから」
「どんな方法でも構いません、ここから離れられさえすれば!自由が欲しいんです。もっとも、この世に絶対的な自由なんてないでしょうけれど」
「海の上には、死でさえあなたを縛ることのできない自由があるわ」
王女はためらうことなく、エルシーと護衛の契約を結んだ。自分の力を王女に縛りつけたあと、エルシーは思わず尋ねた。「どうして、そこまでわたしを信じてくださるんですか?」
王女は笑って言った。「少し調べただけで、あなたに関する『武勇伝』がたくさん出てきたもの。あなたが勇敢で賢い子だと、わたしは信じているわ。忠誠心については――あなたは冒険の過程で、弟と妹を家から救い出す方法を見つけたいのでしょう?」
「アンウィとホーネグはまだ幼くて、無理やり結婚させられるほど大きくなる前に、二人が未来を選べる機会を作ってあげたいんです。そのために、わたしは強くならなければなりません」
「その決意、気に入ったわ。オフィーリアも、その点であなたによく似ている。いつも恐れずに前へ進み、自分のしたいことをしていた。彼女を連れていこうと誘ったこともあったのだけれど、彼女は、夜魔族に忠誠を尽くすことを選んだの」
エルシーはもう一度礼をして言った。「やっぱり、母は本当に立派な人だったんですね!」
王女はいたずらっぽく言った。「覚えておいて。アイセンティアを出たら、わたしに敬礼はしないこと。さもないと、敵にすぐ、誰を真っ先に殺せばいいか、教えるようなものだもの」
「わたしがいる限り、誰にもあなたを傷つけさせません」
「実戦のとき、あなたの実力が、その自信に見合うことを願うわ」
エルシーは、自分の実力を疑ったことは一度もなかった。それは自信ではなく、事実だった。
自分が強いと知ることで、人はもっと強くなれる。
オイローパ王女がペナイシュ家に人を求めたとき、当然のごとく、激しい拒絶に遭った。
族母は怒りをあらわに言った。「ペナイシュ本家の血筋が、どこの馬の骨とも知れない海賊などになるなど、許されるはずがありません!」
エルシーは言い返した。「それって、王女殿下がどこの馬の骨とも知れないっておっしゃってるの?」
「そうです、高位貴族なら皆、分かっていることです。王室の血を引きながら、その責務を果たそうとしない。わたしたちはただの貴族ではありません、国全体の生計に関わる家門です。これ以上、あなたが意地を張るなら、塔に籠っていなさい!」
エルシーはなおも言い争ったが、今度ばかりは、族母は本当に容赦せず、一族の面目も顧みず、エルシーを孤塔に閉じ込めてしまった。




