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バイ・ジンクー(はくけいそら)は、今もまだコール療養院に住んでいた。
来客があるという知らせを受けたとき、彼は最初、ただの見知らぬ貴族が誼を通じたがっているだけだろうと思っていた。だが、その女性が帽子を脱ぎ、結い上げた桃色の髪を見せた瞬間、事情が単純ではないと気づいた。
彼女は言った。「クレオ・ペナイシュです。ペナイシュ家を代表して、あなたにご協力をお願いに参りました」
五大名門の来訪ということで、療養院の庭園は特別に人払いがされ、二人で話せるようになっていた。
クレオは背筋をまっすぐに伸ばし、椅子の背にもたれることなく座っていた。バイ・ジンクーも、つられて姿勢を正した。
ペナイシュ家の従者が花茶を運んできて、バイ・ジンクーはおそるおそる一口啜った。クレオが茶器を置くと、彼も慌てて自分の杯を置いた。そこでようやく、クレオが口を開いた。「ご存じかもしれませんが、ペナイシュ家は花精霊を狙った疫病の襲撃を受けました。聖女様のお力添えはいただけますが、花神の神廟の祭司はいまだ人手不足です。友好国から支族の花精霊たちの助けを借りましたが、それでも、本家直系の血を引く祭司が一人足りません」
「僕に、何ができるでしょうか」
「これからお話しするのは、ペナイシュ家の秘密です。どうか、花神の御名にかけて誓ってください。わたしの許しなく、外に漏らさないと」
「僕はフロラ神の御名にかけて誓います。クレオ・ペナイシュ様の許しなく、この会話の内容を漏らしません」
そこでようやく、クレオはゆっくりと、バイ・ジンクーに探してほしい相手について語り始めた。
彼女は言った。「ペナイシュ家には族母がいて、その次に、当代の直系の娘たちが、年長の者から順に、家のことを取り仕切ります。わたしは直系の血筋ではないので、本来なら家のことに口を出す立場ではないのですが、わたしと同世代の直系の娘のうち、一人はイグルーサへ嫁ぎ、もう一人は行方が分からなくなっているのです。その行方不明の花精霊の長女は、エルシー・ペナイシュといいます。表向きは、エルシーはすでに亡くなったことになっていますが、実際には、彼女は罪悪の街へ行き、城主の側近護衛になっていました」
「オイローパ王女の護衛ですか?」
「はい」
なるほど、そういうことか。高位貴族たちの間では、バイ・ジンクーが王族の新たな寵児であり、それでいて足場がまだ固まっていない、王族にしか忠誠を尽くしていない人間だということが知れ渡っている。他の政治派閥にも関わっておらず、それでいて罪悪の街の事情も知っていて、鍵の使者の選定にも触れている。だからこそ、ペナイシュ家は彼に声をかけたのだろう。
彼は言った。「僕の人手も、とても足りていません。エルシー様を見つけ出すのは、難しいかもしれません」
「エルシーは、すでに亡くなっています」
バイ・ジンクーは驚きながら、クレオが淡々と語るのを聞いた。「罪悪の街から公主の訃報が届いたとき、エルシーと彼女の夫の死も、あわせて確認されました。わたしたちが必要としているのは、エルシーの娘です。調べたところ、エルシーには娘が二人いました。母親になってからは育児に専念し、罪悪の街の任務にはもう戻らなかったのですが、公主とその夫の船団が遭難したとき、娘たちを落ち着かせたうえで、戦場へ加わったのです。彼女自身は生き延びられませんでしたが、少なくとも娘たちは守り抜きました。偉大な母だったのです」
「では、その娘さんたちが、どこにいるかは分かっているのですか?」
「エルシーは最後に、チェイモンド王国の極北鎮を発ち、ノーシア王国の金楓城へ向けて出航しています」
金楓城は夜魔族最大の港湾都市だ。オイローパ王女の船団が遭難したのは、血魔族の内海で、半ば公認の血魔族の海賊に襲われたことによるものだった。それなら、エルシーはおそらく、罪悪の街から金楓城へと至るその道のりのどこかに、娘たちを預けたのだろう。
「エルシーには、子供をきちんと託すだけの時間がありませんでした。もし罪悪の街を守り切れなければ、子供たちは、最も卑しい奴隷に落とされてしまう。だから、彼女は子供たちを連れて逃げ、道中で罪悪の街と誼を通じている街に匿ったのです。ペナイシュ家が必要としているのは、あなたに、エルシーが辿った道筋を追って、彼女の二人の娘を探し出していただくことです」
「どうやって、彼女たちを見つければいいでしょうか」
「見れば分かります。花精霊の血を受け継いだ者の髪色は、容易には変えられません。もし桃色の髪でなければ、それは力を受け継いでいないということで、ペナイシュ家には必要のない存在です」クレオは眉をひそめ、言いにくそうにしばらく黙り込んでから、ようやく言った。「エルシーの夫は人間でした。ですから、ごくわずかな可能性ですが、花精霊の血を完全には受け継がない子が生まれている可能性もあります。少なくとも、娘であることだけは確かです」
「僕が新興貴族で、党派争いに関わっていない以外に、特別に僕を選んだ理由は何かあるんでしょうか。僕の人手は明らかに足りていませんし、貴族の血統でもない、ただの人間です」
「まさに、あなたが人間だからです。人間はこの世界を、ごく自然に行き来できます。エルフが魔族の領域に現れれば、あまりに目立ちすぎる。エルシーのことは、表沙汰にはできません。もし見つけた娘が、人間と花精霊の特徴を混ぜ持っているようであれば、その存在を消してください」
バイ・ジンクーは表情を引き締めて尋ねた。「彼女を殺せと、おっしゃっているんですか?」
クレオは答えなかった。
バイ・ジンクーには、ペナイシュ家の申し出を断る立場になかった。それに、これは国全体に関わる大事でもある。この手の捜索任務は、人数が多すぎれば、かえって捜査の妨げになる。
彼がこのことをマリリンに話すと、マリリンは言った。「わたし一人だけが、あなたのお側に付き添えるようです。人間に扮装いたします」
「頼むよ。ちゃんとやり遂げないと」
「かしこまりました」
その夜、バイ・ジンクーが針刺し人形で夕立に連絡を取ると、夕立は答えた。「エルシー・ペナイシュ?彼女は後期、公主のとても大切な側近護衛だったわ。剣術も魔法も飛び抜けてて、十数人を一人で相手取れるくらいだった」
「彼女の娘のこと、聞いたことある?」
「娘を産んでから罪悪の街を離れたのよ。娘を危険な環境で育てたくなかったんでしょうね」
「よう、空!」
タトの声だと分かり、空は挨拶を返した。タトは言った。「エルシーは有名だぜ!めちゃくちゃ強かった!クラヴァータ様でさえ、彼女の実力を認めてたくらいだ!」
空は尋ねた。「じゃあ、彼女の娘のことは知ってる?」
「いや、知らないな」
ペナイシュ家の人捜しは、かなり困難を極めるかもしれない。だが、容姿も力も平凡な一介の人間である彼と、実力を隠し持つマリリンとの組み合わせは、確かに、目立たず目標人物を探すのにうってつけだった。
とはいえ、手元にある情報は、クレオが提供してくれた血縁関係だけだ。クレオとエルシーは従姉妹の関係で、探しているのはさらにその先、エルシーの娘。何段階も隔たりがあり、見つけ出すのは容易ではない。
彼は言った。「とにかく、じっくり探していくしかないね」
マリリンは言った。「ティラミスをあれほど立派に育てられたあなたなら、きっとお二人を見つけ出せると信じています」
もし見つかった娘が花精霊の血を完全には受け継いでいなければ、ペナイシュ家に知られた場合、家の恥として排除されてしまうかもしれない。もし空が先に見つけられれば、その娘を隠れさせたり、もっと遠くへ逃がしたりする機会を作ることもできる。
そこで数日後、空とマリリンは、クレオが提供してくれた道筋を辿り、エルシーの娘を探す旅へと出発した。
彼はマリリンの口からも、そしてペナイシュ家が提供してくれた資料からも、この伝説的な海賊、エルシーについて初めて詳しく知ることになった。
交渉の末、クレオは渋々ながら、エルシーを描いた一枚の絵を見せてくれた。その絵には、エルシーの記憶の一部も宿っていた。




