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トルコ石  作者: 葉櫻
十一、運命の輪
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109/119

番外:暁

かつて、アイセンティアでは、修道院を建てることが盛んな時期があった。


それは、人間貴族たちが起こした流行だった。彼らには巡礼の道を歩き通すほどの忍耐もなく、粥や施しを配るのもあまりに悠長だった。一番手っ取り早いのは、修道院を建てて、祭司たちに苦行をさせることで、権力者たちの俗世の罪を代わりに贖わせることだった。貴族には金があり余っていたし、修道院はそれ自体で自給自足の仕組みを築けるため、領主が村を拡大するのにも役立った。そうして修道院はますます人気を集め、貴族たちはまるで盤上遊戯でもするように、次々と修道院を建て続けた。


フォントレー修道院も、そんな時代の産物だった。ある高位貴族が、自分の兄弟姉妹を手にかけた罪を清めるために、この花崗岩造りの建物を建て、二百八十人もの修行祭司を養った。祭司たちは、その貴族の罪業のために、毎日喉を嗄らして歌い、絶えず祈りを捧げ、書き写しを続けた。だが、修道院がもたらしたのは悪いことばかりではなかった。果樹園、菜園、農地、水車小屋、さらには鍛冶場までもが、この一帯の人々の暮らしを支えた。やがて、村は都市へと繁栄していったが、貴族の家の栄枯盛衰の歴史の中で、それもまた没落し、修道院は閉鎖されることになった。


そんなある日、エレノア夫人――アイセンティア史上最も偉大な占い師と称えられる、人間の女性貴族――が、ここを買い取り、自分の住まいへと改築し、「暁の古城」と名付け直した。


エレノア夫人が初めてフォントレー修道院を検分に訪れたとき、長く荒廃していたその建物は、窓枠も扉の枠も壊れ、壁にはひびが入って水が漏れ、祭司たちの宿舎には、壊れた寝台の骨組みが数台残っているだけだった。職人たちは、エレノア夫人がこの有様をひどく嫌がるだろうと思っていた。ところが不思議なことに、彼女は職人たちに、状態の悪い箇所を修理させただけで、この建物を豪奢な貴族の邸宅へと造り替えようとはしなかった。


「この壁は残せる?」


「残せます」


「なら、残して」


修繕にあたった職人たちは、作業中にエレノア夫人の話になると、いつも「あの黒魔女」と呼んでいた。初期の頃、エレノア夫人はある人物の死期を寸分違わず言い当てることができた。中期には、国のために戦争の行方を占い、その結果はことごとく、彼女の言葉通りに展開した。後期、つまり今に至っては、彼女がふと漏らす一言が、世界を左右する大事に繋がることさえあった。あれほど神業のように的中する占いをしながら、その占いを万人には開放しない。きっと、自分の寿命を代償にした黒魔法の技を使っているに違いない――誰もが、そう思っていた。


職人たちの間では、こんな噂も流れていた。壁面には、きっと黒魔法の呪文が刻まれているに違いない。そうでなければ、エレノア夫人が、もっと良い石材で古い建物の構造を取り替えようとしないはずがない、と。


彼らは知らなかった。いわゆる「呪文」とは、修行祭司たちが暇つぶしに彫った、ただの装飾模様にすぎなかったことを。


古いものをできる限り残す一方で、エレノア夫人はシャンデリアも、金銀を象嵌した家具も設えなかった。ただ、海に面した側にいくつか窓を増やしただけだった。


そのほかにも、彼女は、修道院にあった大量の書物を、占いとはほとんど関係がないにもかかわらず、そのまま残しておいた。


エレノア夫人は、カードによる占いを用いていた。それは彼女自身が作った、どの流派にも属さないカードで、占うとき、彼女は人にカードの面を見せなかったため、その体系は、外に伝わることがなかった。実のところ、若い頃の彼女は、あらゆる流派を学んでいた。花や草を使ったカード占い、水晶玉、骨相、手相、星盤――そして最後には、それらすべての占術を集大成した、自分だけが理解できる、独自の世界観を作り上げたのだった。


暁の古城に移り住んでから、エレノア夫人は、もう客を迎えなくなった。王城から来た使者でさえ、城の広間で茶を一杯飲むことしか許されなかった。やがて世間は、エレノア夫人がもう占いの仕事をしないという事実を受け入れ、彼女を訪ねる者も、次第にいなくなっていった。


そうしてようやく、エレノア夫人には暇な時間ができた。城の唯一の出入り口である門の前の石段に腰かけて、自分で焙煎した花や草のお茶を飲む。


日々はとても簡素だった。自分には関係のない宗教書を眺め、果樹園に出て、リンゴが実ったかどうかを見に行き、自分の手で花を切って、花瓶に挿す。やがて、使用人でさえ、めったに来ないように決められ、それ以外の時間は、彼女が自分の手で何もかもをこなしていた。


彼女の占いのカードは、長い間、使われないままだった。


そんなある日、彼女の部屋の、海に面した窓から風が吹き込み、机の上に置かれた本のページを次々とめくっていった。ちょうど、六百ページを過ぎたあたりで止まった。


彼女は不意に動き出した。まるで、そうすることが当然であるかのように。彼女は占いのカードを取り出し、切り、盤面に並べた。


敷布の上でカードが滑る手触りが、彼女に、自分自身を取り戻させたかのようだった。


それは、ただの何気ない占いだった。


占い出された結果も、大それたものではなかった。ただ、この城のことについて――住まいから史跡へ、そしてやがて、ある人の家へと変わっていくことについての占いだった。


エレノア夫人は、特別な紙を使い、丁寧にその言葉を書き記した。書き終えると、ガラスの小箱に入れて保管した。


エレノア夫人が世を去ってから、六百年もの間、誰もこの場所を引き継ごうとはしなかった。


皆は、ここを黒魔女の巣だと言った。


誰もが、生きている占い師に、どうすれば富を得られるかを教えてほしいと願うものだが、死んだ占い師の幽霊がまだ漂っているかもしれない城に住みたいと思う貴族はいなかった。ましてや、この場所はへんぴな辺境にあったのだから。


村人たちは遠くからこの城を眺めながら、こう噂した。真夜中になると、もう誰もいないはずのこの城に、女性の影が現れる。城の中の本が、ひとりでにページをめくる、と。こうした噂話のせいで、まともな家門は、ますますここを引き継ぎたがらなくなった。


六百年後、黒髪黒目の人間の少年が、この場所を訪れた。


白景空(はくけいそら)は、興奮しながら地下室から上へと手探りで進み、どの壁も残らず撫で回した。上に刻まれたこの呪文は、もしかしたら、王国の占い師の手によるものかもしれない!彼はそう考えていた。


酒蔵をあちこち動き回る彼に、執事のシューナが言った。「子爵、どうかお気をつけください。飲んではいけないものを、お飲みにならないように」


白景空(はくけいそら)は尋ねた。「お酒って、寝かせるほど熟成するものじゃないの?」


シューナは言った。「それは、きちんと保存されている場合の話です。今、あなたが開けても、飲めるのは汚水だけでしょう」


白景空(はくけいそら)は、古い食糧倉のあった場所へ走っていって、ぐるりと一周してみた。腐りかけた大きな木箱を一つ見つけたが、錆びついた鉄の留め金をわざわざ開ける気にもならなかった。箱の中に宝物などないことは、見るからに明らかだった。


白景空(はくけいそら)は尋ねた。「ここって、昔はすごく賑やかだったって聞いたけど?」


シューナは言った。「多いときには、三百人近い修行祭司が、ここに住んでいたそうです」


「三百人!ここ、三百人も入りそうに見えないよ!」


「祭司たちの宿舎の一部は、エレノア夫人が入居する前に、すでに取り壊されていましたから」


「祭司たちは、毎日何をしてたの?」


「彼らは、夜明けとともに起きて、祈りを捧げ、聖歌を歌い、決まった時間に朝夕二食の食事を摂っていました。それ以外の時間は、書物の書き写しや、薬草の調合をしていたそうです。かつては、ここの規模はもっとずっと大きかったはずです。修道院は、旅人を泊めることもしていましたから」


「お金は要らなかったの?」


「要りませんでした。それが、修道院の務めでしたから」


三百人分の寝台も棚も、すべて取り壊されてしまった。あの人々が生きた時間は、手で書き写された一冊一冊の本の中に姿を変えていた。それが、彼らがかつて生きていた証だった。


あちこちを撫でては眺め、白景空(はくけいそら)は、そのまま二階の書斎まで駆け上がった。


書斎に入ったとき、机の上のガラスの小箱が、彼の目を引いた。


彼は尋ねた。「シューナ、書斎のこの手紙、君が用意してくれたの?」


シューナは尋ねた。「どんな手紙でしょう」


白景空(はくけいそら)はさらに尋ねた。「マリリン?君かな?」


マリリンは答えた。「わたしにも、あなたのおっしゃる手紙が、何のことか分かりません」


「ちょっと待って」封筒に「緑松石を持つ少年へ」と書かれているのをはっきり見て、白景空(はくけいそら)は執事と護衛に言った。「何でもない、僕の勘違いだった。上がってこなくていいよ」


海風が吹き込んでも、その封筒はぴくりとも動かなかった。


封筒を開けると、便箋にはこう書かれていた。「風神の祝福を受けた緑松石を持つ少年よ、あなたがこの手紙を開くとき、あなたの運命は、すでに動き始めている。それは、もう誰にも止められない」


次の一行にはこうあった。「暁は、あなたのものだ。あなただけのものではなく、あなたの家のものでもある」


「前へ進みなさい。あなたの足跡は、ここで止まるものではない」


この短い三つの文を見て、白景空(はくけいそら)は、疑問でいっぱいになった。


ここへ来る前に彼は調べものをしており、エレノア夫人特有の筆跡を見分けることができた。


どうして、エレノア夫人は、わざわざ彼のためだけに手紙を書いて、それも、こんなにも曖昧なことを書いたのだろう。


署名もなければ、日付もない。空(そら)は便箋を陽の光にかざしてみたが、それらしい魔法の痕跡も見当たらなかった。


白景空(はくけいそら)は呟いた。「僕、本当にそんな大きな家を持つことになるのかな?」


彼は便箋を裏返した。「でも、『ここで止まるものではない』とも書いてある……?」


あれこれ考えても、答えは出なかった。


便箋を畳んで封筒に戻し、ガラスの小箱に納めると、白景空(はくけいそら)は首を振った。


彼はかつて、祭司の友人に尋ねたことがあった。占い師が未来を見通せるのなら、未来は、もうすでに歴史になっているのと同じではないか、と。


友人は言った。占いとは、そういうものではないのだと。避けられない運命はあるけれど、それにどう向き合うかは、人が選べるものなのだ、と。


それは、占い師にも分からないことだった。


神にすら、分からないことだった。


未来のことは、未来の自分に答えを委ねよう。


白景空(はくけいそら)はテラスに上がり、暁の光に身を浸した。


これから彼は、ここで、幾度となく朝を迎えることになるだろう。


暁の古城は、新しい歴史を刻み始める。

第一部はひとまず完結となります。

残すところ、第二部はあと十一集。どうぞお楽しみに。

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