11-6
木の扉が、ひとりでに開いた。かすかに「お入り」という声が聞こえ、空はようやく足を踏み出す勇気を持てた。
彼は跪礼をして、目の前の少女に向かって言った。「デュメズ神、お目にかかります」
「また会ったわね」
デュメズは相変わらず、淡々としていた。だが空には、その機嫌があまり良くないことが、かすかに感じ取れた。
デュメズは言った。「わたしの管理下にない者が、わたしの領土に来るのは好きじゃないの」
空は全身に鳥肌が立ち、慌ててさらに深く跪いた。
幸い、デュメズは続けた。「愛のために来たことに免じて、今回は咎めないでおくわ。でも、次からはもう来ないで。あなたが死者の魂にでもならない限りはね。ここは、死者の魂のための土地なの。記憶の川の水が欲しいのなら、ただではあげられないわ」
「何をすればいいですか?」
「ここは商店じゃないのよ、欲しければ買えるってものじゃないの」
「すみません、そういう意味では」
「記憶の川の水を、何に使うつもりなの?」
「僕の友人が、黒女神の鍵の使者になるかもしれないんです。過去の文献を調べてみたら、鍵の使者になった人は、ほとんど皆、本心が変わってしまうことが分かりました。もう一人の友人が言うには、自分が誰であるかを覚えていて、初心を忘れなければ、誘惑にもっと抗えるようになって、試練を通過できる可能性も高くなるそうです」
「他にも方法はあるでしょうに、どうして命の危険を冒してまで冥界に来たの?」デュメズの声には、少し厳しさが滲んでいた。「あなた、自分が他の人より優れた力を持っているように感じ始めているんじゃない?」
空はうつむいて言った。「……少しは、あるかもしれません」
「前に会ったときは、あなたはびくびくしすぎだった。今のあなたは、うぬぼれすぎ。どちらに傾きすぎても、良いことじゃないわ」
空が素直に説教を聞いていると、そのとき、扉が勢いよく開け放たれた。
「デュメズ!」
現れたのは、なんと、空が記憶の中でしか見たことのない神――夜落の地の戦神、エシュガルだった。
空は冷や汗が止まらなかった。デュメズにも威圧感はあったが、それはまるで、教師や年長者が説教をするようなものだった。だがエシュガルが放つ気配は、まさしく「神」そのものだった。神々特有の端整な美しさ、そして、空など蟻のように容易く握りつぶせてしまいそうな力。それが、息苦しさを覚えさせた。
エシュガルは空を見つめ、それからデュメズに目を向けて尋ねた。「お前たちの邪魔をしたか?」
デュメズは言った。「事を処理しているところよ」
エシュガルは空を見て言った。「ただの人間じゃないか」
デュメズは言った。「そうよ」
エシュガルは言った。「戦闘力はほぼゼロだな」
デュメズは言った。「それが何?」
「妹よ、お前は人間に憐れみをかけすぎだ。こんな戦力のない者は、放っておいて、勝手に生き死にさせればいいものを」
「わたしの領地で、わたしに指図しないで」
エシュガルはすぐに言った。「俺が悪かった」
デュメズはエシュガルの額を指で突いて言った。「そうよ、あなたが悪いの。わたしの邪魔をしないで」
エシュガルは尋ねた。「この人間も、恋人か家族を生き返らせてくれと頼みに来たのか?」
デュメズは言った。「この子は、記憶の川の水を求めに来たの」
エシュガルは大笑いして言った。「どっちにしても同じだろう、どいつもこいつも、愛に溺れきってる」
空は気まずくて、口を挟めずにいた。デュメズは言った。「この子は友人のために来たの。鍵の使者候補になろうとしている友人がいて、鍵の使者が初心を忘れないようにするために、記憶の川の水が必要なんですって」
エシュガルは言った。「へえ、確かにいい方法だ」
デュメズは尋ねた。「今回は、鍵の使者の選定に干渉しないの?」
エシュガルは言った。「それのどこが面白い。どの鍵の使者も、どうせ長くは続かない。妹よ、お前はこの人間に、どんな試練を課すつもりなんだ?」
デュメズは言った。「今、考えているところよ」少ししてから、彼女は言った。「ああ、そうだ、キキにまだ薬を飲ませていなかったわ。白景空、あなたは交流術が使えるでしょう。わたしのペットに、大人しく薬を飲ませられたら、記憶の川の水を持って帰らせてあげる」
エシュガルは言った。「お前は俺よりも容赦ないな!能力のない人間を、キメラと向き合わせるなんて」
デュメズは言った。「白景空の命は、まだ尽きていないわ。だから、あなたが付き添ってあげなさい」
エシュガルは一瞬驚いた顔をした。空は、エシュガルが腹を立てて、こんな下等な人間を助けるつもりはないと言い出すのではないかと思っていたが、意外にも、エシュガルは感激した様子でデュメズに両腕を広げて言った。「ようやく俺を頼ってくれる気になったか!可愛い妹よ!」
デュメズは戦神を相手にせず、指を鳴らした。すると、空の手の中に、大きな薬の袋が現れた。デュメズは言った。「キキに、この薬を飲ませる方法を考えて。あの子はいつも吐き出してしまうの」
空が、どうすればいいのかと尋ねようとした瞬間、エシュガルが手を挙げた。次の瞬間には、彼らはもう、ある庭園に立っていた。
道を歩きながら、エシュガルは尋ねた。「人間よ、戦争は好きか?」
空は少し考えてから、正直に答えた。「この世で僕が一番嫌いなものが、戦争です。誰かが言っていました。戦争は、あらゆる犯罪を正当化する、それどころか神聖化さえしてしまうものだって」
エシュガルは言った。「正直だな、気に入ったぞ。俺は戦神だ。俺の本性は、戦を愛すること。戦いという手段で、欲しいものを手に入れる。単なる娯楽としてもな。他の者の目には、受け入れがたいものに映るだろう。デュメズなど、俺のせいで仕事が忙しくなると文句を言う始末だ。分かっているとも、あれは彼女なりの、優しいやり方で戦争を止めようとしているんだ。俺が本性に振り回されるのをやめるのは、彼女のためだけだ。彼女は人間が好きでな。特に、お前のような、肉体は脆いが、意志だけは強い者が好みだ」
空は言った。「デュメズ神には、本当に感謝しています。以前も助けていただいたのに、また厚かましく、お願いに上がってしまいました」
エシュガルは言った。「彼女の仕事を増やすようなことなら、俺が止めていた。だが、彼女にとってのちょっとした頼み事程度なら、許す。お前にも、妹がいるのか?」
「はい。どうして分かるんですか」
「勘だ!誰が妹を持っているか、俺にはいつも分かるんだよ。仲はいいのか?」
「……」
「どうやら、良くはないようだな」
空は言った。「僕は彼女と、実質、縁を切った状態です。もう会うこともないと思います。実は、あなたとデュメズ神についての話を、いくつか耳にしたことがあります。あなたはデュメズ神をとても愛していらっしゃって、十二家系の神々の中でも、一番仲の良い兄妹だと」
エシュガルは誇らしげに言った。「その通りだ」
「一つ、お伺いしたいことがあります」
「聞け」
「僕は今でも、『家族』というものが何なのか、分からずにいます。今、周りの人たちに勧められている貴族の大きな家門のことも、昔の小さな家族のことも。僕は自分の妹を『愛したい』と強く思っていました。でも、僕たちの性格はまるで正反対で、僕が彼女に良くしても、彼女は僕に良くしてくれませんでした」
エシュガルは言った。「大したことじゃない。俺にも、デュメズだけじゃなく他に妹がいる。フロラには、同じようには良くしていない」
空が不思議そうな顔をすると、エシュガルは言った。「簡単なことだ。俺が愛しているのは『家族』そのものじゃない。上に挙げたような兄弟姉妹が、どれだけ揉めようが殴り合おうが、俺はさして気にしないし、むしろ喜んで見物したり、あおったりするほうだ。だがデュメズは違う。彼女がデュメズだから、俺は彼女に対してだけ特別なんだ」
空はついに、それを口に出した。「お伺いしたいのですが、家族の間の『愛』は、不公平であっても構わないものなんでしょうか」
エシュガルは朗らかに笑い声を上げて言った。「もちろん構わない!家族というものは完全に仲睦まじくあるべきだ、なんて言う者がいたら、そいつを俺の前に連れてこい。この戦神と一戦交えてもらおうじゃないか!」
「逆に言うと、血の繋がりのない人が、家族になることもできるんでしょうか」空は、マリリンのことを思い出していた。
マリリンが彼に与える感覚は、まるで母親のようだった。本当の血の繋がった母親よりも、ずっと。彼はいつも、そんなふうに思うこと自体、失礼なのではないかと感じていた。
エシュガルは言った。「できる」
空は言った。「他人には良くして、血の繋がった相手には、かえってそれほど良くしない。そんなことが、本当に許されるんでしょうか」
「お前は本当に悩みが多いな!」
「すみません」
「そんなに怖がるな。おい、俺はわざわざお前のために、キメラを捕まえに来てやってるんだぞ。俺が言いたいのはな、お前たち人間はいつも、悩みすぎなんだ。あれをしていいか、これをしてはいけないか、一番おかしいのは、間違ったことをして嫌われるのが怖いということだ。俺を嫌っている者が全員、銅貨を一枚ずつ俺に寄越してくれたら、デュメズの神殿は宝石箱みたいに飾り立てられるだろうよ」
「でも、家族は自分で選べないものです」
「選べないと、誰が言った?お前たちは、たまたま兄妹になっただけだ。お前が生まれるかどうかを選んだわけでもなければ、彼女が生まれるかどうかを選んだわけでもない。神でさえ、生まれるかどうかを選べないというのに、ちっぽけな人間ごときが、そんなに考えてどうする」
「ありがとうございます。少し、分かった気がします」
エシュガルは突然、真剣な顔になって言った。「これから先、もっと厄介なことがあるのを忘れるな」
「何を、おっしゃっているんですか?」
「俺は戦神だ。予見できるんだよ、この世界が近いうちに、天地をひっくり返すような戦争に見舞われることをな。だから、お前に家を築けと言われているのは、正しいことなんだ。お前に守りたい人がいるなら、早くから備えておくべきだ」
空はぽかんとして尋ねた。「カスティーラの戦争みたいなものですか?」
「何だそれは?菓子の名前か?」
「カスティーラ王国です。少し前に、汚職腐敗のせいで、王室がラグマン帝国に捕らえられて、主だった貴族たちも倒れました」
エシュガルは首を振って言った。「そんな小さな話じゃない。俺が言っているのは、前回の、俺たちの戦争、あの規模のことだ」
空は数秒、口をつぐんでから、ようやく理解した。エシュガルが言っているのは、二代神戦争のことだ。
「世界規模の大戦のことですか?神々までも巻き込まれるような?」
「そうだ。近いうちに起こる。愚かな子供だな、さっき言っていたあの菓子の国の内乱が、偶然の出来事だとでも思ったか?戦争というのは連鎖するものだ。一つの大戦の前には、必ず前兆がある。俺の予知の仕方は、お前たち人間とは違うが、人間にも分かる言い方で言えば、帰ったら調べてみるといい。いくつかの小国で政権が動いているはずだ。そうすれば、戦争はとっくに始まっていたと分かるだろう。これは、俺がアメロティとまた賭けをして起こしたことじゃない。人間自身が引き起こしたことだ。ただ、面白いから、神々も手を出さずにはいられなくなる」
戦神の口ぶりは、冗談を言っているようには聞こえなかった。それに、彼がわざわざ一人の人間をからかう必要もない――空は軍を率いる立場でも何でもなく、この知らせを聞いたところで、せいぜい恐怖を覚えるくらいで、大した混乱を引き起こせるわけでもないのだから。
そう考えると、戦神の祭司たちも、このことを知っているのだろうか。エシュガルに仕えるのは血魔族だ。日の出の地の戦神アメロティに仕えるのは火精霊で、あちらも知っているかもしれない。だが、エレアは、関連する情報を漏らしてはいなかった。エレアとは知り合ってまだ日が浅いのだから、話さなかったのも無理はない。
頭の中でいろいろと考えながら、空はどう答えればいいか分からず、最後にはこう言うしかなかった。「ご忠告、ありがとうございます」
「もう一つ、『忠告』をやろう」
「はい?」
エシュガルは前方の生き物を指さして言った。「キメラの爪に捕まれば、ただ痛いだけじゃ済まない。人間の腕くらい、掴んだだけで千切れると聞いたことがある。まあ、俺は知らんがな」
前方の花畑にうずくまる、その巨大な生き物を見て――獅子の前半身、山羊の頭と中間部、毒蛇の尻尾を持つ姿だった――空は即座に、エシュガルの背後へと大人しく隠れた。
エシュガルは笑って言った。「お前、なかなか状況が分かってるな」
デュメズも、エシュガルに彼を守るよう言っていたのだから、空も無理に英雄を気取るつもりはなく、そばに隠れながら、エシュガルがキメラと格闘するのを見ていた。
エシュガルは、まるで遊んでいるかのようだった。気合を入れながらキメラと取っ組み合い、まるで飼い猫をからかっているかのようだった。
しばらく待ってから、空はついに我慢できずに尋ねた。「あの、どうやって薬を飲ませればいいんでしょうか」
エシュガルは叫んだ。「自分で考えろ!これはお前の試練だ」
仕方なく、空は意識を集中させ、交流術を使った。
真っ先に襲ってきたのは、動物の体から漂う、強烈な臭いだった。しかも三種類の異なる生き物の臭いが入り混じり、いっそう強烈な殺傷力を帯びている。これは本当の匂いではなく、一種の概念であり、空がキメラの心の防壁を突破するために受ける、抵抗のようなものだった。
読み解く。共感する。
これまでのところ、空はすでに、普通の動物とは意思疎通ができるようになっていた。それでも、交流術のコツを完全に掴めたわけではない。キメラのように複雑な生き物を相手にするとなると、いっそう理解が難しくなる。
いや、違う。「複雑」、それこそが一つの手がかりだった。
人間の思考のような複雑さとは違う。キメラは、むしろ三本の縄が絡み合って、固く結ばれてしまったようなものだった。
空は無理にでも、その絡まりを解きほぐしにかかった。結び目を探り、糸口を見つけようとした。
彼は、キメラの記憶を見た。そこでようやく、この生き物の悲劇を知った。
獅子に襲われた羊。突然、草むらから飛び出して獅子に噛みついた毒蛇。最後にもがいたとき、羊は蛇の頭を踏みつけた。乾いた大地で、息も絶え絶えの三匹の動物が、それぞれの生存をかけて対峙していた。
黒女神はその光景を見て、面白がった。そして力を使い、三匹の動物を一つに融合させた。彼らに残ったのは、互いに対する殺意だけで、自分たちの今の状態を理解できるほどの知恵もないまま、極度の苦しみに陥った。
黒女神がこれよりもっと多くの悪事を働いてきたことを知っていながらも、空はやはり、胸が痛んだ。この三匹の動物は、こうして一つの融合体にされ、意識が引き裂かれたまま、かろうじて生き延びながら、怪物として扱われている。
彼はようやく、デュメズが渡した薬が何なのか理解した。
「これを食べれば、生きられる」
空は、その言葉を最も簡潔な意念に変え、キメラへと伝えた。
正しいか間違っているかを考える必要はない。今何が起きているかも、過去に何があったかも、考えなくていい。ただ、これを食べれば、生きていける。それだけを思えばいい。それほど知能の高くない動物にとっては、こういう「対話」のほうが効果があるのだ。
案の定、キメラの三つの頭が、ゆっくりと口を開いていった。
エシュガルの押さえ込みに助けられながら、空はその三つの口へ、薬を投げ入れた。
薬を飲み込むと、キメラの体は一瞬にして力を失い、ぐったりと地に崩れ落ちた。
あれは、眠りの薬だった。
デュメズでさえ、黒女神の魔法にはどうすることもできず、せめてキメラにゆっくりと眠らせてやることしか、してやれなかった。それが、今できる、唯一の救いだった。
空の様子を見ていたエシュガルは、感心したように言った。「お前、なかなかやるじゃないか。デュメズがお前に機会をやったのも、道理だな」
空は言った。「ありがとうございます」
エシュガルに連れられてデュメズの前へ戻ると、デュメズは二人が説明するまでもなく、先に言った。「見ていたわ。約束通り、川の水を持っていっていいわ」
デュメズは部屋の隅にある小さな造園の噴水から、水を汲んできた。空は恭しく跪いて、その小瓶の水を受け取った。そして、彼の意識は、体へと戻っていった。
彼は目玉を動かし、目を開けた。
「白景空!本当にあなたを殺してしまったかと思ったわ!」
激しく泣きわめくルイーズを見つめながら、空は呆れたように言った。「君の仮死薬、よくできてたよ。もう次は、調合しなくていいから」




