11-5
ルイーズから一連の話を聞き終えたが、その中でも空が最も不快に感じたのは、セグとあの緑の瞳の少女、ノエルのことだった。
その後もセグは、さらに何人もの人間を手にかけた。民のために害を除いたのだと言う者もいたが、その境界線は、もはや曖昧になりつつあった。黒魔法が、依然としてセグに影響を及ぼしていることは明らかだった。
鍵の使者になったら、夕立も、黒魔法によって変えられてしまうのだろうか?
空はルイーズに、セグの話はもうやめてほしいと頼み、代わりにこう尋ねた。「鍵の使者みたいに、ある種の力に強く影響される人が、本心を忘れないでいられる方法を、君は知らないかな」
ルイーズは言った。「いろいろな文献を調べてみたの。黒魔法の力は、どうやら人に、自分が誰であるかを一番忘れさせやすいみたい。だから、自分らしくないことをしてしまうんだと思う。それを防ぐ方法は、自分が誰であるかを、はっきりと覚えておくこと」
「どうすればいいの?」
「一つ、考えがあるの」
「頼むから、もったいぶらないで」
「分かった。冥界には二つの川があるの。一つは忘却の川、もう一つは記憶の川。死んだ魂が忘却の川の水を飲めば、過去のすべてを忘れてしまう。記憶の川の水を飲めば、永遠に自分の過去を覚えていられる。どんな細かいことも」
空は言った。「全部を覚えてるなんて、辛くないかな」
ルイーズは言った。「よほど強い心の力が必要だと思う」
「僕が心配なのは、友達が、良くない記憶まではっきり覚えてしまうことなんだ。僕自身、全部を覚えていたいとは思わないから。でも、過去を永遠に覚えていられるとしたら、深く愛する相手がいる人は、記憶の川の水を選ぶ人も多いんじゃないかな。前世の記憶を持って生まれてくる人がいるのも、そのせいかもしれない」
ルイーズは言った。「記憶の川の水を飲むには、デュメズ神の許しがいるの。デュメズ神にはご自分の考えがあって、その基準までは、わたしにも分からない。ただ、誰にでも許すわけじゃないってことだけは知ってる。そうだ、鍵の使者になりたい人にとっては、記憶の川の水を飲んでおくことが、最後の試練を通過できる可能性を高めることにもなるみたい」
「ルイーズ、僕を片足だけ棺桶に突っ込ませて、それでも死なせずに済ませられる自信、本当にある?」
「あるわ」
空は戻ると、すぐに夕立に連絡を取った。
今回は、夜が明けかけた、まだ薄明るい頃になって、ようやく夕立から返事があった。
彼女の声はいつも通り軽やかだったが、同時に少し鼻声で、疲れているせいらしかった。
「何?」
空が記憶の川のことを話すと、夕立は言った。「悪くない考えね。でも、どうしてそれが必要なの?何かあったの?」
「前任の鍵の使者たちの話を聞いたんだ。みんな、黒魔法の中で自分自身を見失ってしまう。だから、もしかしたら、これが君の助けになるんじゃないかと思って」
「でも、わたしは冥界に行く時間がないわ。それに今のわたしは、ほとんど黒女神の側の人間みたいなものだもの。デュメズ神の領域に足を踏み入れるのは危険よ」
「僕が行ける」
「あなた、何の見返りが欲しいの?」
「見返りなんていらない。僕がやりたいんだ」
夕立の声には驚きがにじんでいた。「どうして?」
「君が鍵の使者になった世界を、この目で見たいんだ。それが、一番いい結末だと信じてる」
夕立は笑って言った。「まるで、わたしの信者みたいな言い方ね」
「それに、僕は君の船の料理人になるって約束もしただろう」
夕立は少し改まった口調で言った。「借りは作りたくないの」
空は言った。「君は僕に借りなんてないし、僕も君に借りはない。僕たちの目指すものは、同じだから」
「なら、好きにすればいいわ。あなたとデュメズ神のことを聞いた限り、もしかしたら、あの方はあなたに寛大かもしれない。一番情け深い神様だもの」
夕立の同意を得たあと、空はルイーズのもとへ戻った。
王冠学院の秘密の儀式の間が、また役に立った。ルイーズは空を石の寝台に寝かせ、ある薬湯を飲ませた。
意識を失う直前、空は、ルイーズがぶつぶつと呟くのを聞いた。「この仮死の薬は、本当に冥界まで行かせるものだから、危険なの。分量は調整してあるから、たぶん大丈夫なはず」
空は「たぶん」という言葉に文句を言おうとしたが、舌が痺れていることに気づいた。指を動かそうとしても、まるで動かない。
ルイーズはまだ、この薬の危険性について話し続けていて、空はふいに、恐慌に陥った。ルイーズの学術面での力量は信頼している。だが彼女自身、この薬を調合するのは初めてだとも言っていた。失敗する可能性だって、ないわけではない。
「仮死」というのは麻酔ではなく、体の各部分が一つずつ力を失っていくものだった。嗅覚、聴覚、触覚が、次々と消えていく。意識はまだあるのに、どんどん奥へと縮んでいく。終わりの見えない無力感が押し寄せてくる。まさか、本当にここで死んでしまうのだろうか。馬鹿げている!空がそう考えているうちに、視覚まで消えた。
暗闇の中から、ゆっくりと、光が浮かび上がってきた。
目の前にあるのは、勢いよく流れる大きな川だった。川面には霧が立ち込め、対岸はまるで見えない。
白い霧の中から、一艘の船が現れた。竿を操っているのは、赤いフードを被った短髪の少女だった。彼女は一言も発さず、ただ船を空の前まで安定して運んでくると、手を差し出した。
空は、その幽鬼のように青白い手の上に、石の硬貨を一枚置いた。少女は彼を船に乗せ、川の向こう岸へと漕ぎ出した。
言い伝えによれば、生と死の境を渡るには、一枚の石の硬貨がいる。だから葬儀の際、遺族は、死者の手にその硬貨を一枚握らせるのだという。
なるほど、こうやって使うものだったのか。
対岸に近づくと、空は自分の目を疑った。
そこは、まるでコンサート会場のように混み合っていた。かかとまで川に浸かっている死者の魂すらいる。
「あとどれくらいで、前まで進めますか?」空は、適当な死者の魂に尋ねた。
相手は不満をぶちまけた。「まったく、もう三百年も待ってるのに、まだ列にすら並べていないんだ!」
空は尋ねた。「どこの出身ですか?」
「はあ?」
「生きてたときは、どこの国の人だったんですか?」
「忘れたよ。君、忘却の川の水を飲んでないのか?」
「どこで飲むんですか?」
死者の魂は、まるで馬鹿を見るような目で空を見て、彼らの背後の川を指さした。「渡し守が飲ませてくれなかったのか?」
ああ、さっき渡ってきたあの川が、忘却の川だったのか!
空は、あの渡し守のことを思い出した。
きっと、彼女はとっくに、空が生きた人間だと見抜いていたのだろう。
空は尋ねた。「みんな、百年もこの場所に留まり続けるものなんですか?」
「それは、あなた次第よ」
幼い女の子の声が聞こえてきて、空が振り向くと、そこには見覚えのある顔があった。
蕾だった。あの、残酷でありながら脆かった少女。
彼の目の前で殺され、救えなかった少女。
今の蕾には記憶がなく、強盗団の「家庭教育」による影響も受けていない。さっぱりとした性格で、勇敢だ。これこそが、本来の蕾の姿なのだろう。
蕾は言った。「善いことをたくさんした人も、悪いことをたくさんした人も、優先的に裁かれる。でも、そんなに差はないの。ここにずっと留まり続けるのは、前へ進もうとしない人たちよ」
空は尋ねた。「でも、みんな過去の記憶すらないのに、どうしてデュメズ神に会いに行きたがらないんですか?」
蕾は言った。「自分が善人だったのか悪人だったのか、確信が持てないからよ。そういう人は、生前、たぶん悪人だったんでしょうね」
空が振り返ると、先ほどの死者の魂は、もう逃げ去っていた。
空は蕾に尋ねた。「君も、同じ理由で裁きを受けに行かないの?」
蕾は言った。「渡し守が、すぐに裁きを受けないほうがいいって言ったの。わたしにも、よく分からないんだけど」
「どうしてだと思う?」
蕾は言った。「新しく来た英雄に聞いてみたの――もちろん、その人はもうここにはいないけど――その人が言うには、たぶん渡し守は、わたしがこれから先も善いことができると分かっていて、それで地獄に落とさずに済むようにしてくれたんじゃないか、って」
空は言った。「人を助けるのも、善いことの一つだと思う。ちょうど今、助けが必要なんだ。手を貸してもらえないかな?」
蕾は腕を組んで尋ねた。「わたしの助けが必要なの?でも、あなたは誰?どうして裁きに口出しできるの?」
空は言った。「僕にも分からないんだ」
「わたしに何をしてほしいの?」
空は言った。「記憶の川を探してるんだ」
蕾は笑い出したが、空の表情が真剣なのを見て、次第に顔つきを変えていった。
彼女は言った。「記憶の川を探すような人は、たいていろくな人じゃないわ」
空は尋ねた。「どうして?」
「よほど心にやましいことが何もない限り、誰も過去のすべてを覚えていたいなんて思わない。良くない記憶まで全部覚えているなんて、考えただけでも恐ろしいもの。記憶の川の水を飲んだ人は、子供の頃おねしょしたことまで、はっきり覚えてて、それを何度も頭の中で繰り返し思い出すことになるらしいわ」
空も認めた。「それは、確かに恐ろしいね」
「それから、恥知らずな人。悪いことをしても、後悔も恥ずかしさも、まるで感じない人」蕾は嫌そうな顔をした。
空は言った。「僕は、そのどちらでもないよ。記憶の川の水が必要なのは、……とても愛していた、ある人のことを覚えているためなんだ。そういう人がいたことは覚えてるのに、それが誰だったのか、忘れてしまったんだ。だから、記憶の川の水を飲んででも、その人についての記憶を、次の場所へ持っていきたいんだ」
蕾は同情するような表情で言った。「悲劇っていうのは、たいてい、そういう人に起きるものよね。でも、渡し守があなたを手伝えって言った理由、少し分かる気がする」
「記憶の川がどこにあるか、知ってるの?」
「探してる人を見たことがあるわ。ついてきて」
夢の中でデュメズ神に会って、その優しさに触れたことがあるからだろうか、空は冥界を恐ろしいとは思わなかった。アンバール迷宮に比べれば、同じ地底にある場所でも、この冥界はむしろ、観光地のような感覚を彼に与えた。このことを夕立に話したら、きっと馬鹿げていると大笑いされるだろう。
蕾は尋ねた。「あなたは全然、怖くないの?」
「地下を冒険したことがあるんだ」
蕾を見つめながら、空の胸は少し複雑だった。いろいろなことを経たあとの今、蕾は、彼の人生における最大の心残りというわけではない。それでも、彼はよく考えることがあった。蕾の昼と夜の違いをちゃんと解き明かせていたら、まだ幼かった彼女を、まっとうな道へ引き戻せたかもしれない、と。
今、蕾はすでにこの世を去り、渡し守の言葉が彼のことを指しているのだとしたら、もしかしたら自分はまだ、蕾のために何かできることがあるのかもしれない。蕾は天国には行けなくても、地獄よりは少しましな場所には行けるかもしれない。
一番混み合っている川岸を離れ、地底湖の近くに続く場所は、まるでリゾート地のようだった。多くの死者の魂が、ゆったりと漂っている。空が最初に出会った、裁きを早く受けたいと自分に言い聞かせていたあの魂とは違って、ここの魂たちは、裁きにまるで興味がなさそうだった。
蕾は空を、ある滝の前へ連れていって言った。「前に、滝を越えていく魂を見たことがあるけど、それきり、戻ってこなかったの」
「死んだってこと?」
「本当に、完全に消えてしまうような死、ってこと?あり得るわね」
空は尋ねた。「魂って、本当に完全に消えてしまうことがあるの?」
蕾は言った。「それは、いいところに聞いたわね。使者なら分かるはずよ」
「使者?」
空が驚いて見ていると、蕾の体がすっと伸び上がり、顔つきも波打つように変わっていって、最後には、あの渡し守の少女の姿になった。
彼女は笑いながら言った。「わたしはデュメズ神の使者よ。身の程知らずの馬鹿が迷い込んできたって聞いたから、会いに来たの」
空は少しの間黙り込んでから尋ねた。「どうして、彼女の姿を使うんですか?」
「彼女の死が、あなたにとって意味を持っているからよ。安心して。彼女は天国にも地獄にも行っていない。普通の魂が行き着く場所へ行ったわ」
「彼女は、大勢を殺したんじゃないんですか?」
使者は言った。「あなたも見たでしょう。それが彼女のすべてってわけじゃない。この件は裁くのがとても難しかったから、わたしもよく覚えてるの。あなたは川の水が欲しいんでしょう?ここで無駄話をしてる場合じゃないわ」
「あなたは……さっきとは、ずいぶん違いますね」
「船を漕いでたほうの子?あれはわたしの妹よ。わたしたちは三姉妹なの」
「もうお一人の姉妹は、どちらに?」
使者は言った。「彼女はデュメズ神の侍従よ」
空は言った。「僕を助けてくれるつもりですか?」
使者は肩をすくめて言った。「どうしていけないの?妹も、あなたの最初の関門を通してあげたんだもの。よそ者が挑んでくるのは、いつだって面白いわ」
「僕が記憶の川の水を持っていくのを、止めるつもりはないんですか?」
「あなたがデュメズ神の許しを得られるなら、構わないでしょう」
空は頭を下げて言った。「どうか、力を貸してください」
使者はいたずらっぽく笑って言った。「行きましょう。デュメズ神は、今、とてもお忙しいの」
「デュメズ神に、直接お会いするんですか?」
「記憶の川は、あの方のお部屋の中にあるのよ」
ああ、それで、記憶の川を手に入れるにはデュメズ神の同意がいると、皆があれほど強調していたわけが分かった。
使者に導かれて、空は一軒の小さな丸太小屋へやってきた。
三姉妹のうち最後の一人は、泣き顔でふたりを出迎えた。空が、大丈夫かと尋ねようとしたところで、使者が先に言った。「姉さんはいつも泣きそうな顔をしてるの。気にしなくていいわ。あなたは噂通り、本当に優しくて情に厚いのね」
空は言った。「冥界にまで、僕の噂が届いているとは思いませんでした」
侍従は言った。「デュメズ神は、わたしたちに日常の出来事を話してくださるのが大好きなの。あなたの話も聞いたわ、とても感動的!」そう言うと、彼女は泣き出してしまった。
使者は笑って言った。「姉さんのいつもの癖が、また出たわね。わたしも感心してるのよ、友達のために命を賭けるなんて。動物との交流術も使えるんですって?」
「まだ、ようやく入門したばかりです」
「うちの犬に、きっと会いたくなるわよ」
巨大で獰猛な、冥界の三つ首の犬の前に連れていかれ、空は言葉を失った。
彼が普段話している相手は、こんな格の「犬」ではない!
使者が三つ首の犬と握手やお座りの遊びをしているところへ、渡し守も現れた。三姉妹が一堂に会したその様子は、三つ子でありながら性格がまるで違うせいか、どこか奇妙な光景だった。
空は交流術を使い、三つ首の犬が、普通の家庭犬と同じように、甘えたい、食べたいと考えているのを聞き取って、思わず少し面白く感じ、恐怖もいくらか和らいだ。デュメズ神の手が空くのを待つあいだ、三姉妹は空とおしゃべりを始めた。
使者は尋ねた。「あなた、死ぬのが怖くないの?生きた魂が冥界に忍び込んで捕まれば、本当に死んでしまうこともあるのよ」
空は言った。「あの……それは聞いていませんでした」
渡し守は言った。「そそっかしいんだから」
空は言った。「これから先、しばらく忙しくなりそうで、このことに時間を割けるかも分からないし、僕の友達の試練がいつ始まるかも分からないんです。だから、早く済ませたほうがいいと思って」
侍従は言った。「なんて感動的なの!大切な友達のために!」そう言って、また泣き出した。
使者は意味ありげな表情で尋ねた。「本当に、ただの友達なの?」
空は言った。「今のところは」
使者はすぐに囃し立て、渡し守までも面白そうな顔をした。
空は言った。「ただ、僕が一方的に彼女を好きなだけです。それだけです」
使者は目を閉じ、また顔つきを変え始めた。
夕立の顔になった瞬間、空は驚愕の表情を浮かべた。
使者は夕立の顔のまま、大笑いして言った。「大丈夫よ、わたしは、魂が一番安心できる姿で現れるの。人間の魂の中には、冥界への道を、猫や犬みたいな動物に案内してもらいたいって選ぶ人も多いのよ」
空は言った。「もし、相手がすでに亡くなった家族の姿になったら、それはちょっと良くない気がします。まるで、相手を騙してるみたいで」
使者は言った。「だから、そんなことはしないわ!普段は、生きている人間の姿にはならないの。今日はあなたを試すために、あの子の姿になっただけ」そう言うと、彼女はまた元の顔に戻った。
空は尋ねた。「逆に言うと、ここでは、亡くなった家族に会えるんですか?」
「会えるわよ!裁きを終えたあとならね。ただし、あなたとご家族が、一方は天国、もう一方は地獄っていう別々の場所に行っていないことが前提だけど」
「じゃあ、すでに亡くなった有名人に会うこともできますか?」
使者は言った。「それも、裁きの区域に入ったあとの話ね。誰に会いたいの?」
「アンリエット姫です!」
「あの人魚のお姫様?よく聞く名前の一つね。でも、人魚には魂がないのよ」
「あ……」アーサーのことを思い出し、空は胸が痛んだ。彼が努力して、一生をかけて待ち続けた末に迎える結末が、アンリエットには魂がなかった、ただそれだけだというのだろうか?
人魚には魂がない?そんなに不公平なことがあるのだろうか?
空は尋ねた。「魂を持たないある種の種族は、本当に死んだら完全に消えてしまうんですか?」
使者は答えた。「神々のさらに上に、もっと高位の存在がいることは、知っているでしょう?」
「はい。いわゆる『真理』ですよね」
「ある意味では、神々でさえ、一つの『種族』にすぎないの。神々が消え去ったあと、いったいどこへ行くのか。それは、答えがないんじゃなくて、わたしたちが答えを知らないだけ。人魚の行き先も、わたしたちには分からないわ」
渡し守は言った。「デュメズ神は、おっしゃっていたわ。忘れられることはあっても、消し去られることはない。どこかには、必ず存在し続ける、って」
空は、かすかな希望を灯して言った。「たとえ天国と地獄に隔てられていても、また会える可能性はあるんですか?」
使者は言った。「それも、わたしたちには分からない」
空は言った。「否定の答えより、ずっといいです」
侍従は尋ねた。「あなたは、死ぬのが怖い?」
空は頷いて言った。「愛する人を失うのが怖いし、自分が老いていくことも、病気になることも、事故に遭うことも怖い。年を取れば、老いることを怖がらなくなって、死も次第に受け入れられるようになるって、みんな言うけど、僕はまだ怖いです。もし、自分が死ぬ直前になっても、死を受け入れられなかったらどうしよう?死ぬのは、どれくらい痛いんだろう?死ぬ間際に誰かがそばにいてくれても、死んだあとに、また会えるんだろうか?僕は夢の中で、死後の世界が、僕が昔知っていた宇宙みたいなところを見ることがあります。真っ暗で、果てもなく、音もなくて、ただ僕一人だけが、そこを漂い続けている。終わりのないまま。あなたたちが言う、死んだあとのことは自分たちにも分からないっていうのに、僕が考えてるようなことが起きる可能性も、あるんですか?」
三姉妹は静まり返った。
一番よくしゃべる使者でさえ、何も言わなかった。
最後に、渡し守が口を開いた。「あるわ」
侍従はわっと泣き出し、空の肩をつかんで言った。「怖いでしょう?小さな子、怖がらないで。デュメズ神がついてるから!」
彼女たちのこの反応を予想していなかった空は、なだめるように微笑んで言った。「大丈夫です。ここに来て、むしろ少し気が楽になった気がします」
使者はそこでようやく、また笑顔を取り戻し、空の肩を叩いて言った。「そんなに考えすぎなくていいのよ。それは神々が心配することなんだから。わたしたちは、デュメズ神の守りのもとで、前へ進んでいけばいいの」少し考えてから、彼女はこう付け加えた。「もしかしたら、本当に死んだあとに、一生かけて心配してきたことなんて、そもそも存在しなかったって気づくかもしれないわよ」
空は少し考えて、笑って言った。「そうですね。早くから、そんなに心配しすぎる必要はないですね」
最後に、三姉妹は揃って、空を丸太小屋の中へと送り出した。
「道中、お気をつけて!」




