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トルコ石  作者: 葉櫻
十一、運命の輪
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102/119

11-3

尋問の末、サティは靴を落とした場所を白状した。


深い森の中にある、一軒のレストランだったという。


サティによれば、その店は一人客しか相手にしないという。料理はこの上なく美味しく、酒にも独特の芳醇な風味があって、酒好きのサティでさえ、すっかり酔いつぶれてしまったらしい。目を覚ますと荒野のただ中にいて、靴がなくなっていることに気づいた。まずいことになったと思いながら村へ入ると、すでに何人かの村人が踊り出しており、そこで彼は、死者の一人から赤い靴を奪い取ったのだった。


マリリンは、空(そら)が一人で向かうべきではないと考えていたが、空(そら)はこう言った。「これは自分の力でやり遂げたいんだ。シューナに認めてもらいたい」


「あなたの安全が、何よりも大事です」


「危険があるなら、サティは生きて帰ってこられなかったはずだ。それを踏まえたうえで、一人で行く勇気を出したんだ」


「わたしがご一緒したほうが、確実です」


空(そら)は言った。「自分の力で、シューナに認めてもらいたいんだ」


空(そら)が譲らないので、マリリンも、彼を説得することを諦めるほかなかった。


森の中を歩いていても、空(そら)はもう、以前のような恐怖は感じなかった。森全体が暗く沈み、蛍の光すら一つもなくても、彼が怖がることはなかった。


不気味な風が吹き抜け、草木がごうごうと鳴った。そして雨が降り始め、たちまち大粒の雨に変わり、やがて雷まで鳴り出した。


目の前に、立派な建物が現れた。掲げられた看板には「山猫亭」と書かれている。


空(そら)は重い木の扉を押し開けた。扉を閉めると、屋内の防音は見事なもので、外の雨音も雷鳴も消え去り、残るのは、温かい広間に流れる柔らかな音楽だけだった。


そこはまるで家庭的な洋食レストランのようで、クッションの効いた椅子はいかにも座り心地がよさそうだった。暖かな黄色の灯りが室内を照らし、暖炉では白い消えない炎が揺らめいている。空(そら)は、体にまとわりついていたねっとりした感触が消えていることに気づいた。見下ろすと、靴についていた泥まで、いつの間にかなくなっていた。


「いらっしゃいませ〜」


空(そら)が振り向くと、コック服を着た山猫が歩いてきた。二本足で立ち、手には焼き肉を刺した鉄串を持っている。山猫は尋ねた。「お客様、本日は羊肉などいかがですか?」


空(そら)は尋ねた。「サティを知っていますか?」


山猫は笑って言った。「そういうお客様も、いらっしゃいましたねえ。あれほど酒に強いお客様は、これまでお会いしたことがありません」


空(そら)は言った。「でも、彼は結局酔ってしまいました」


山猫は言った。「うちのお酒は極上品ですからねえ。お客様も、少しいかがです?」


「僕はまだ子供なので、お酒は飲めません」


「それは残念です。ご注文はお決まりですか?」


一冊のメニューが飛んできて、空(そら)の手に収まった。中身はすべて肉料理だった。空(そら)は尋ねた。「アイセンティアで肉料理専門の店を出すのは、経営が大変じゃないですか?」


山猫は言った。「常連のお客様が、たくさんいらっしゃいますので」


空(そら)は言った。「僕は食事をしに来たんじゃないんです。あの赤い靴のことを聞きに来ました」


「赤い靴?何のことでしょう」


「サティから盗んだ靴です」


山猫は答えなかった。


空(そら)は言った。「あの靴を作った人物と、何か因縁があるんですね?」


聖獣族はもともと普通の動物から生まれた存在だからか、もとから話せる動物たちに比べて、空(そら)は聖獣族の感情をより読み取りやすかった。たとえば、カワ先生の陽気さや喜びは、はっきりと感じ取れる――先生は普段、ほとんどが前向きな感情ばかりだった。


今、目の前の山猫は、突然、あからさまな敵意を帯び始めた。


ただの不機嫌ではない。それは、憎悪だった。


空(そら)は、火精霊の剣の柄に手をかけた。


空(そら)は尋ねた。「その靴が、そんなに嫌いなんですか?」


山猫は言った。「わたしが嫌いなのは、その靴を作った男です」


空(そら)は尋ねた。「どうして、サティを殺さなかったんですか」


「馬鹿な子だね。誰かに、罪を背負ってもらわなくちゃ」


空(そら)が警戒を強めていると、山猫は言った。「ですが、うちにいらしたお客様には、皆さん、何か置いていっていただかないといけません。あなたもですよ」


次の瞬間、その体が歪み、頭部はより小さく、普通の山猫らしい姿へと変わっていった。四肢を地について、目には不穏な光を宿し、鋭い牙を剥き出して、空(そら)に襲いかかってきた。


空(そら)は、エレアから託された火精霊の剣を抜いた。熱した刃でバターを切るように、近くの机や椅子を薙ぎ払い、狭い空間が剣の動きを阻む障害を突破した。


山猫はぎょっとして、間一髪で身をかわした。空(そら)の、決して洗練されているとは言えない剣術も、火精霊の剣の力を借りれば、山猫を怯ませるだけの威力を発揮した。


それでも、まだ足りなかった。


空(そら)は、自分の剣術が未熟であることを分かっていた。剣を振るたびに、学んだ技はまるで活かせず、敵がどこから来るのかさえ、正確には見極められていない。


彼の基礎はあまりに粗末だった。いつも、調べものだ勉強だと言い訳をして、足運びや構えといった基本を、きちんと練ってこなかった。今は、火精霊の剣そのものの力に頼って、ようやく山猫の攻撃を凌いでいるにすぎない。


山猫の爪が剣身をかすめたとき、その不気味な音と、腕がしびれるほどの衝撃が伝わってきて、空(そら)は悟った。この剣が白熱の力を放っていなければ、自分はとっくに真っ二つに裂かれていただろう、と。


激しく攻防が入り乱れる中、一匹の動物が飛び込んできた。ティラミス――空(そら)が飼っている追跡犬だった。凶獣としての本能を発揮し、山猫に牙を剥いて激しく攻撃を仕掛け、たちまち空(そら)を優勢に立たせた。


それを見て、山猫は聖獣族の姿へと戻り、空(そら)に言った。「わたしの負けだ!」


空(そら)はティラミスに攻撃をやめるよう指示し、山猫に言った。「事の経緯を、きちんと話してください」


山猫は言った。「あなたも、あの羊男に、セグはいい人間だったなんて聞かされましたか?」


「セグ?」


「何も知らずに、よくここまで辿り着けたものですね」


空(そら)はふと気づき、尋ねた。「あの鍵の使者の名前は、セグというんですか?」


「そうです。わたしの片耳をもぎ取った、あの男ですよ」山猫はコック帽を脱いだ。空(そら)はそこでようやく、山猫の左耳がないことに気づいた。


山猫は続けた。「この店を開いて、もう長いですが、肉ではなく、こちらの肉を持っていったお客様は、あの男が初めてでした。あの男は、この店に入ってくるなり、わたしを殺そうとしたんです」


空(そら)は言った。「あなたが『お客様』を傷つけるからでしょう」


「フン、単独で旅する者は、その自信の代償を払うべきです」


「あなたは客の食事に薬を盛った。正々堂々と打ち負かしたわけでもない。空気の中にも、痺れ薬を撒いたでしょう?僕は、友人がくれた薬草を持っていたから、引っかからなかっただけです」


山猫は言った。「そんなこと、どうでもいいでしょう。うちに入ってきたお客様には、代償を払っていただく。それが、この店の決まりですから。でなければ、食材をどこから調達すればいいんですか」


空(そら)は言った。「その鍵の使者、セグは、あなたを殺しませんでしたね」


山猫は鋭い牙を見せて言った。「あの男は、わたしに呪いをかけて、この店に閉じ込めたんです!」


「どうして、あなたを直接殺さなかったんですか?」


「自分はまだ善人のふりをしたかったんですよ!フン、反吐が出る!ようやく機会が巡ってきたんです。他人を見逃したところで、いい結果になんてならないと、思い知らせてやろうと!あの靴から、あの男の匂いを感じました。あれはきっと、あの男が一番大切にしていたもの、愛しすぎて呪いまでかけたものでしょう。だから、わたしはひと押ししてやったんです。呪いが、もっと多くの人間を殺すようにね!自分の偽善がこれだけの人間を殺したと知ったら、あの男は、いったいどんな顔をするでしょうね?」


空(そら)は言った。「彼は、もう亡くなっています」


山猫は一瞬呆けた。空(そら)は続けた。「鍵の使者は、長くは生きられません。彼もそうでした。まだ若いうちに、亡くなったんです。サティから聞いていませんでしたか?」


空(そら)は、毛むくじゃらの猫の顔に、確かに喪失感が浮かぶのを見た。


百年恨み続けてきた相手は、とっくに死んでいた。それが山猫にもたらしたのは、喜びではなく、虚しさだった。


山猫は言った。「本当ですか?」


空(そら)は言った。「あの赤い靴がそれほど大切なものだったなら、鍵の使者本人に何かなければ、簡単に他人の手に渡るはずがありません」


「確かに、そうですね」


山猫は静かに言った。「わたしはこんなに長く、あの男を待ち続けていたのに。あなたは、とっくに死んでいたと言うんですね」


空(そら)は言った。「彼が自分でこの件に対処しに来なかったこと自体が、その証拠です。あなたをアイセンティアの裁きに引き渡します。罪には問われるでしょう。でも、それは同時に、あなたがこの店を離れられるということでもあります」


しばらくして、山猫は頭を垂れて言った。「連れていってください」



この件をエレアに報告すると、エレアは言った。「わたしのせいじゃなかったのね。手間をかけさせたわ」


「僕の仕事のうちですから」空(そら)は火精霊の剣を返した。エレアはわずかに目を細めて、笑いながら言った。「どうして、刃に血の跡がなくて、木を切った跡ばかりなのかしら?」


「あの……僕の剣術は、あまり得意じゃなくて」空(そら)は、山猫亭での戦いの経緯を話した。エレアは笑って言った。「よく頑張ったのね」


空(そら)は言った。「今の僕の立場では、頑張るだけじゃ足りないんです」


かつての、命に関わる戦いでは、彼はいつも魔弾でなんとか切り抜けてきた。今は魔弾も使い切り、もともと、武器そのものの力に頼り続けるべきでもなかった。


空(そら)は言った。「剣術を、もっとちゃんと鍛えないといけません」


「剣術を学びたいのなら、わたしのところへいらっしゃい」


空(そら)は驚いて、エレアを見た。


エレアは微笑んで言った。「どのみち、この宮廷では、わたしが口を出せることも、そう多くはないもの」


空(そら)は一瞬、ためらった。エレアはたった一人で異国へ嫁ぎ、王妃としての重責と、二国間の外交という重い任務まで背負っている。そのことを思うと、彼は思わず言った。「差し出がましいことを聞きますが、それでも伺いたいんです。エレアさんは、幸せですか?」


エレアは案の定、問い返した。「もし、いいえと答えたら、あなたはどうするつもり?」


「弦羽(げんう)に伝えます。今回の件を調べたときみたいに、必要なときには、僕なりに力を尽くします。僕は……」


「冗談よ。そんなふうに聞いてくれる人がいるだけで、心が温かくなるわ。あなたはいい子ね。アイセンティアの宮廷でも、あなたみたいないい人にたくさん出会えたから、戻るつもりはないの。何より、わたしは、愛する人と一緒にいられる。それは、どれほど多くの人が、一生かけても手に入れられないことだもの。わたしは、それで満ち足りるべきなのよ」エレアは空(そら)を見て言った。「これは、わたし自身に向けた言葉でもあるの。あなたも、自分の幸せを、大きすぎるものだなんて思わなくていい。そう思ってるんでしょう?」


「どうして、分かるんですか?」


「わたしも若い頃はそうだったから。愛されることが怖かったのよ。でも、わたしたちはどちらも、とてもとてもいい人間だもの。愛することも、愛されることも、不安に思う必要なんてないの。さっき言った『満ち足りるべき』というのと、一見矛盾するようだけど、この二つは両立するものよ。あなたなら、きっと分かるでしょう」


「たぶん、分かる気がします」


エレアはいたずらっぽく言った。「それじゃあ、次に会うときは、あなたの剣術が、どれだけ上達したか見せてもらうわね」


「はい」


空(そら)はエレアに別れを告げ、宮廷をあとにした。

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