15話:結びつきのための方法
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創造主の身勝手な夏 — 第十五話
結びつきのための方法
部屋の空気が、一瞬で止まった。
紫苑の唇が、ひどくゆっくりと開いた。
「……は?」
一拍遅れて、顔が大きく歪んだ。
「なんだって?」
峰は、わずかな気まずささえ見せなかった。
むしろ今の言葉が、あまりにも当然の説明だったとでもいうように、平然とした様子を保っていた。
「お二人には、性交していただきます」
紫苑はそのまま凍りつき、次の瞬間、発作的に上体を起こした。
「正気かよ?!」
声が部屋中に響いた。胸の奥が痛むのに、止められなかった。
世界がひっくり返ったという話。人間ではなくなったという話。これから最前線に立たなければならないという話。そこまではどうにか耐えていたのに、最後にその一撃が落とされた瞬間、思考が完全に絡まってしまった。
「今の、本気で言ってんのか?!」
「はい」
あまりにも淡白な肯定だった。
「正確には精気儀式です。肉体的な結合を媒介として双方の気を循環させ、不安定に注入された力を定着させる手順ですね。先ほどは理解を助けるため、もっとも近い表現を用いただけです」
紫苑は信じられないという顔で峰を睨みつけた。
「いや、待て。ちょっと待て。なんで解決策がよりによってそれなんだよ」
彼はほとんど息も継がずにまくし立てた。
「手を繋ぐのは駄目なのか? 抱きしめるのは?」
「百歩譲って、キスとか」
「それか血、そうだよ、血を分けるとかあるだろ」
「呪術か何かで代用できないのかよ!」
言葉を吐き出すほどに、紫苑の表情は険しくなっていった。
「普通はそういう常識的な方法から提案するのが順番だろ!」
峰は本当にすべての項目を検討するように、落ち着いて答えた。
「手を繋ぐ、抱きしめる程度では弱すぎます。口づけも同様です」
紫苑の表情が固まった。
それでも峰の説明は止まらない。
「逆に血を分ける、あるいは肉体を直接摂取する方式は強すぎます。現在のあなたでは、その過負荷に耐えきれず崩壊します」
紫苑は一瞬、言葉を失った。
「……待て。肉体を直接、何?」
「呪術はさらに該当しませんね」
峰はその問いを、通り過ぎるように切り捨てた。
「そもそもこれは、呪術程度で代替できる性質の結びつきではありません。物理的な実体の内側に侵入した力を安定させる問題ですから」
紫苑は本気で頭を抱えて叫びたくなった。
「は……」
呼吸が荒くなる。胸の奥で冷たい波が同心円を描いて広がっていった。紫苑は歯を食いしばって言った。
「つまり、そのぬるすぎる方法と、やりすぎな方法のちょうど真ん中が、よりによってそれだって?」
峰がごく短く頷いた。
「はい。もっとも確実です」
紫苑はそのまま固まった。
「うわ……最悪だ……」
そのあいだ、拘束されたまま沈黙していたレイの肩が、ごくわずかに震えた。紫苑はすぐにそちらへ視線を向けた。レイは赤い瞳を細かく震わせたまま立っていた。顔は先ほどよりずっと熱を帯びたように赤く、呼吸も不規則に乱れていた。
紫苑は眉間を押さえた。
「お前、どうした」
レイはすぐには答えられなかった。縛られた指先が細かく震え、長く伸びた尾の先が不安定にぴくりと動く。
「……わからない」
レイはようやく、呻くように声を絞り出した。
「でも……変なんだ」
紫苑の眉が寄った。
レイはさらに小さな声で続けた。
「心臓がくすぐったくて、体が変に熱い。それに、下のほうが……少し痺れる」
紫苑はそのまま固まった。
峰はそれを聞いても表情ひとつ変えなかった。
レイは、自分が何を言っているのかさえわかっていないような顔をしていた。気まずいのか、恥ずかしいのか、混乱しているのか、自分でも整理できないまま、ただ紫苑の顔色をうかがっている。
「それ、どういう意味だよ」
紫苑が眉をひそめたまま尋ねる。
レイは答える代わりに、ひどくぎこちなく視線を下へ落とした。
その瞬間、紫苑の思考が停止した。
「……待て」
声が低く沈む。
レイがびくりと体を震わせた。紫苑の視線は、すでにレイの下腹部の変化に引き寄せられていた。
レイは本来の姿だった。もともと人間と完全に同じ肉体ではなく、普段は人間の性別区分に明確に当てはまる特徴もほとんどない、滑らかで中性的な体つきだった。
だが今、その下のほうには、確かに以前とは違う変化が生じていた。
それだけではなかった。
滑らかだった胸元にも、淡い桃色が滲むように奇妙な痕跡が浮かび上がっている。もともとは存在しなかった小さな突起と微かな起伏が、レイの呼吸が揺れるたび、さらに明確な輪郭を帯びていった。
レイの顔が、一瞬で燃え上がるように赤く染まった。本人もようやく自覚したのか、驚愕に目を大きく見開く。
「あ――」
はっとしたレイは、反射的に下半身と胸元を隠そうとした。
けれど手首と腰を縛る縄が先にぴんと張り詰め、その動きを根元から封じる。呪術の文様が冷たく明滅した。
「待て、お前、それ何……?」
紫苑がほとんど呆然とした顔で呟いた。
レイは今にも泣き出しそうな顔になった。
「ぼ……僕もわからない……」
「わからないじゃないだろ! お前、男だろ。なんでそんなものが体に出てきてるんだよ?!」
レイはもう顔を上げることすらできなかった。拘束されたまま、体をできる限り丸めて隠そうとしたが、そうすればするほど、羞恥を伴う変化はかえって際立ってしまうだけだった。
そこでようやく峰が、本当に何でもないことのように注釈を加えた。
「混沌の位階に属する個体は、人間のように性別が固定されていません」
紫苑はゆっくりと首を曲げ、峰を見た。
「……は?」
「必要に応じて形態を変異させることが可能です。そもそも、あの子に人間の狭い性別区分を当てはめること自体が矛盾しています」
紫苑は再びレイを見た。
レイはすでに処理能力を超えたように焦点がぼやけ、視線さえ合わせられなくなっていた。
峰はあまりにも穏やかに続けた。
「通常は序列によって役割が決まります。支配する側と受容する側に分かれ、その位階に適した形で精気儀式を行うのです」
紫苑はしばらく口を開けたまま呆然としていた。
そしてようやく、本当に悲鳴のように問いかける。
「じゃあ、今あんなことになってるのも……?」
「契約の反作用でしょう」
峰が短く断言した。
「あの子が自ら下位を名乗ったからです」
静寂。
紫苑は数秒間、真空の中に置かれたように言葉を失った。
そしてひどくゆっくりと、レイへ顔を向ける。
レイは顔を赤くしたまま、微かに震えていた。
紫苑の唇が震える。
「……なんで……下を名乗ったんだよ」
その問いは、無意識にこぼれた。
レイはしばらく目を閉じ、それからまた開いた。
答えは、長い静寂のあとに落ちた。
「……そっちのほうが」
声は蚊の鳴くように小さかった。
「なんだか……自然な気がして……」
紫苑は、その告白に眩暈がするのをどうにか堪えた。
自然。
その一言だけが、妙に紫苑の胸に引っかかった。
レイ自身にも理由は説明できないはずなのに、その体だけは迷っていないように見えた。
峰は二人のあいだに流れる、ひどく恥ずかしく気まずい空気の中で、あくまで淡々と状況を締めくくった。
「いずれにせよ、構造上の問題はありません。結局、重要なのは肉体の結合ですから」
紫苑が即座にまた爆発した。
「問題あるだろ?! それも山ほどあるだろ?!」
「ですが、技術的にはありません」
「技術論だけで生きてんのか、あんたは?!」
「そのほうが楽な場合は多いですね」
紫苑は一瞬、言葉を失って口をぱくぱくさせた。
「うわ……」
顔を手で拭おうとして、途中で止めた。
体がまだ思うように動かなかった。
しばらくして、紫苑はほとんど声を絞り出すように尋ねた。
「本当に、他に方法はないのか」
先ほどよりさらに低く沈んだ声だった。
怒りを通り越し、疲れ果てた者の声。
峰は短く明瞭に答えた。
「ありません」
「……なんで俺にこんな試練を与えるんだよ……ひどすぎるだろ……」
「恨むのであれば、全宇宙を創造した創造主をお恨みください」
きっぱりと逃げ道を断つ返答だった。
紫苑は力なく笑った。
「徹底して他人事で通すつもりだな」
レイは紫苑が完全に崩れてしまうのではないかと、拘束された体を無理に前へ傾けた。当然、縄がぴんと張り、文様が光ってその前進を阻む。
「紫苑」
慎重で、ひどく痛ましい呼び声だった。
紫苑は目を閉じたまま答えなかった。
レイはしばらく唇を震わせ、それからまたごく低く囁いた。
「嫌なら……」
その言葉の先は、途切れた。
紫苑がゆっくりと目を開ける。
レイは、結局その文を最後まで言えなかった。嫌なら拒もうと言いたかった。けれど、そうすれば紫苑の肉体と精神が崩れてしまうかもしれないという恐怖が、彼の舌を固く縛っていた。
紫苑はその絶望的な顔を見て、さらに複雑な感情に呑まれた。
そのとき、峰が最後通告のように告げた。
「時間がありません」
紫苑はしばらく何も言わなかった。
そして、ひどくゆっくりと唇を開く。
「……はあ」
長く伸びるため息が、床へ沈んでいった。
彼は峰を見て、それからまたレイを見た。
「……くそったれな創造主め」
部屋が一瞬、静まり返る。
紫苑は額を押さえたまま、ほとんど歯を食いしばるように呟いた。
「身勝手な創造主め……」
レイは何も答えられなかった。
峰は、ごく小さく瞬きをしただけだった。
しばらくして、彼はあまりにも自然に次の段階を告げた。
「では、準備を始めます」
紫苑が勢いよく顔を上げた。
「準備?」
「精気儀式を執り行うための礼装と空間を整える必要がありますので」
紫苑の顔がまた歪んだ。
峰は本当に何でもないことのように付け加えた。
「儀式用の礼装は、すでに用意してあります」
「何を用意してんだよ?!」
「必要になると思いましたので」
あまりにも泰然とした返答だった。
紫苑は本気で首筋が固まるほど血圧が上がるのを感じた。峰は説明を続ける。
「水の気が円滑に通り、力の流れを妨げない薄い素材です。結合の印を刻むのにも適しています」
紫苑の頭の中では、すでに「薄い」という単語ひとつだけで、不穏な想像が広がりはじめていた。
レイは拘束されたまま、さらに固まった。
顔はなおも赤く燃えるようで、下半身と胸の変化は隠したくても呪縛のせいで隠す術がなかった。
峰はそんなレイを無感情に一瞥し、続けた。
「あの子は縛ったまま進めます」
紫苑が信じられないという顔で問い返す。
「なんで?」
「危険だからです」
「今この状況で一番危険なのは、あんたに見えるんだけど」
峰は答えなかった。
部屋は再び沈黙に沈んだ。
けれど先ほどとは性質の違う静けさだった。全員が避けられないひとつの結末を見つめているのに、誰もそれを口に出せない静寂。
その沈黙の亀裂のあいだから、紫苑の唇がごくわずかに動いた。
「……今日、いつやるんだよ」
峰があまりにも淡々と答えた。
「午前零時を迎える前に」
紫苑はその場で完全に固まった。
レイも、峰も、部屋に漂う細かな埃さえ、その一言とともに止まってしまったように感じられた。
そして紫苑はようやく、今夜自分が向き合うことになる、あまりにも気まずく屈辱的な光景を、嫌になるほど鮮明に想像してしまった。
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