採掘
「コウー、何かやった? 最近、ランの所に来る人間が増えてるんだけど……」
「ま、まあいろいろと……」
「ふーん。でも、遊び相手が増えるからランとしては歓迎なんだけどー」
どうやらフリーマーケットで売った物が活躍しているらしく、ランさんの所に到達できたプレイヤーがかなり増えたようだ。
今は火水の鉱石や熱砂の鉱石を購入したプレイヤーが多いようだが、そのうち深水の鉱石を購入してクヴァーナ砂漠でレベルを上げているプレイヤーたちも合流するだろう。
そうなれば、チクチクとダメージを与え続け、いずれはランさんも倒せるかもしれない……が。
ランさんも寝たらHPとかMPが回復しそうだし、一気に削らないと倒せないんじゃないかなあ……。累計ダメージランキング形式なのも、倒せない前提でだろうし。
「と・こ・ろ・で! コウはいつランと戦ってくれるのかなぁ?」
「お、俺じゃランさんを楽しませられないと思うので……他の人のサポートに回ってるんですよ」
「ふぅん? でもぉ、ランは1回でいいから戦ってみたいなぁ」
「い、いずれ……ですね」
「ま、戦う以外で楽しませてくれてるから、ランとしてはいいんだけどねー♡」
「それなら良かったです……あ、実は今回も贈り物がありまして」
「へぇ、なになに?」
「これです」
俺はアイテムボックスからとある物を取り出す。
「……? 何これ?」
「これはですね……爪を出して頂けますか?」
「はぁい」
俺は出されたランさんの爪にそれを塗り始める。すると、次第にランさんの爪が白から青に染まっていく。そう、これはアテナさんと一緒に作ったネイルだ。
「わぁ……」
「どうです? お気に召しましたか?」
「いいじゃない! 普段と爪の色が変わっておしゃれ!」
「それは良かったです。それでは引き続き残りの爪も塗っていきますね」
……とは言ったものの、今回はそれほど量が用意できなくて、前脚の爪を塗るだけでネイルが尽きてしまった。
「やはり足りなかったですね……」
「んー、ランは前だけでもいいかも。後ろの方は自分でもあんまり見ないしねー」
ランさんは青く染まった爪を太陽に掲げながら、満足そうに微笑む。……その嬉しそうな顔を見ていると、やっぱり身体つきが厳つくても女の子なんだなあと思える。……こういう一面が掲示板の人たちにも人気なのかな。
「ね、ね、帰ったらライアもやってみたーい」
「ごめん、今は在庫がないから……好きな色をアテナさんに伝えて作ってもらう?」
「うん! レイやニアのも欲しい!」
「それじゃ、みんなの希望を聞いてからだね」
「楽しみー!」
どうやらライアもネイルが気になる様子。そして、他の子のも欲しいと言ってくれるあたり、やっぱりライアはみんなが好きなんだな。みんなが仲良くしてくれるのは俺としても嬉しい。
「……それじゃ、お礼はどうしよっかなぁ」
「あ、よろしければランさんの巣で鉱石を掘ってみたいのですが……」
「え? そんなのでいいの? それじゃ、飛べないよわよわコウを送って行ってあげよっかなぁ」
「ありがとうございます、よわよわのコウをよろしくお願いします」
「ふふ、コウってやっぱおもしろーい。自分で言っちゃダメじゃーん」
一応無機物操作を駆使すれば断崖絶壁にある巣に行けるけど、EXマジックポーションを大量消費することになるし、ランさんの申し出はありがたい。
「……それじゃ、乗ってもらえる?」
「はい、それでは失礼します」
「わーい! ランちゃんのおっきい背中ー!」
俺はランさんに振り落とされないように、大はしゃぎするライアの手をしっかりと握ってランさんの背中の刺に掴まるのだった。
「……それじゃ、気が向いたら戻ってくるから、ゆっくり掘って行ってねー」
「はい、それではまた……。ん? 気が向いたら……?」
いつ戻ってくるのだろうと思いつつも俺はランさんを見送ると、巣の中の探索を始める。中はそれなりに広く、ランさんが鉱石を掘った跡も何か所かある。
さて、ランさんが掘ったところから更に探すか、それとも新規開拓するか……。
あ、そうだ。
「ライア、スコールと代わってもらってもいい?」
「うん! でも、またライアも出してね?」
「それはもちろん。……それじゃ、ライアをスコールとチェンジして……と」
「がう!」
スコールを呼び出したのは、ここでスキルの穴掘りを使うと何が手に入るか気になったからだ。
テーブルマウンテンの頂上近く、しかも普通には来られないランさんの巣なら、何かいい物が手に入るかもしれない。
「よし、それじゃ掘って掘って掘りまくろう!」
「がうー!」
こうして、鉱石探知と穴掘りでそれぞれ掘り進めていくのだった。
**********
「おぉ……ホントにあった……」
俺はEXマジックポーションをがぶ飲みしながら鉱石探知を繰り返していき、初めて鉱石を掘りあてることに成功する。
そして、その鉱石はなんと虹色の鉱石。どうやらここでは虹色の鉱石が掘れるみたいだ。確率的に高いか低いかはまだ分からないが、掘り当てたことに意義がある。
ちなみに掘り進めた距離はおよそ2メートル。スキルを使った時のノック音で距離を正確に測ることができれば、ライアの切削スキルで一気に掘り進めることができそうだ。
間違って切削スキルで鉱石ごと削り取る恐れがあるので、本当に慣れてきた時にやってみよう。
「がうー!」
俺が虹色の鉱石を眺めていると、スコールの声が聞こえる。どうやらスコールもいろいろ掘り当てたのかな。
「これは……スコール、凄いじゃないか」
「がーう♪」
スコールが掘り当てたのは烈風の鉱石。しかも数は10個ほど。
MPの減り具合からしてスキルを使ったのは5回か。1回で2個も掘れるんだ……。
効率よく集めようとしたらここが一番かもしれない。ただ……。
「……掘った穴は後で埋めた方がよさそうかな……」
許可を得ているとはいえ、巣を穴だらけにするのは……ね。
とはいえ、ランさん戦で使うであろう烈風の鉱石を大量に入手できるので、今は可能な限り掘っていこう。そして、埋め直そう。
「それじゃスコール、引き続きどんどん掘って行こうか」
「がう!」
「コウー、迎えに来……って、また凄い掘っちゃって……」
「あ、ランさん。すみません、あとで埋め直しますので……」
「別にいいよー。ランは寝床さえあればいいからね」
「寝床ですか?」
「そう、あっちにあるやつ」
ランさんが爪で指し示す先に行くと、そこには大量の木と草で作られた簡素な寝床があった。……でっかい鳥の巣みたいな感じなんだな。
……しかし、布団みたいに掛けるものはないし、寒くないのだろうか?
「ランさん、冬になったら寒くないですか?」
「んー? ランは別に気にならないかなあ。寒さ程度で我慢できないようじゃ、ドラゴンは務まらないもんねー」
「確かに寒さには強そうな身体ですけど……」
それでもあったかくして寝て欲しいというのはある。体調不良にはならないんだろうけど、快適な睡眠というのをぜひランさんにも知って欲しい。今度アテナさんたちと相談してみるか。
「ところで、何かいいものは出たぁ?」
「ええと、虹色の鉱石と烈風の鉱石……ですかね。あ、ランさんにもお裾分けしましょうか?」
「んー、ランは鉱石はいいかなー。それよりも、それで何か作ってもらうのがいいかも」
「なるほど……では、後日加工してお持ちします」
「ふふっ、それじゃ楽しみにしてるからぁ♡」
虹色の鉱石で造ったアクセサリーなら文字通り七色に光るだろうし、ランさんにも気に入ってもらえるはず。
虹色って魅力的なんだよなあ……ライアたちも好きだし、ライアたちにも造ってあげようかな。ジョウロから出る水でかかる虹も好きだもんね。
「虹、かあ……。……ん?」
「がう?」
「いや、何でもないよ。虹色の鉱石で何を造ろうかなって思ってただけ」
俺はとあることを思いついたので、ホームに帰った後にトレントの島に行くことにするのだった。
**********
「おお、コウか。久しぶりだな」
「お久しぶりです。実は相談がありまして……」
「それは奇遇だな。余もコウに相談したいことがあってな……まずはコウの方から聞こうか」
マーメイドクイーンさんが俺に相談? いったい何だろうか?
気にはなるが、まずは俺の相談からかな。
「実は、セクメトさんとの戦いの時に使ったスキルを、マーメイドクイーンさんを召喚するスキルで使おうと思ったら、どれを選べばいいかと思いまして……」
「なんだ、そんなことか。それならだな──」
マーメイドクイーンさんは丁寧にスキルの詳細を教えてくれる。これでいつでもあのスキルを使うことができるようになったので、今度アトラスさんたちと一緒に試してみよう。
「それでは今度はマーメイドクイーンさんの番ですね」
「うむ。……実は余たちにも無機物操作のスキルを教えてもらいたくてな。最近、ずっとカイザーペンギンたちが飛行の練習をしているのを見て、マーメイドたちがやりたそうにしていてな……」
「マーメイドクイーンさんなら魔法を駆使して飛べますけど、他の子たちは難しいですしね……。分かりました、今度ブラウニーさんを連れてきます」
「おお、そうか。よろしく頼むぞ。もちろん礼は用意しておく」
「それなら鉱石が良さそうですね。ブラウニーさんは鉱石を欲しがっていますから」
「なるほど、それなら充分な個数を集めておこう」
こうして、俺は再度トレントの島にブラウニーさんを連れてくることになった。
**********
「まさかまたここに来ることになるとはな……」
「ご足労おかけします……もちろん、相応の謝礼はご用意しています」
「いや、今までにコウにもらった鉱石でも結構な量なのだが……まあいい、儂のスキルが役に立つなら喜んで教えよう」
「ありがとうございます。……ところで、ブラウニーさんが造られた武器なのですが、水属性の補正がなくなって、火属性の補正値が上がっていたのはスキルか何かでしょうか?」
そう、ブラウニーさんから頂いた武器はどれも火水の鉱石を普通に使っただけではあり得ない補正値の組み合わせだった。
ブラウニーさんが上位種だから何かスキルを使ったと思っていたのだが……他の上位種もとんでもないスキルを持ってるしね。
「ああ、あれか。儂はある程度の補正を変えることができてな。火と水の2つがあるよりも、補正値の大きいもの1つの方が使いやすいだろうと思って変更したのだ」
「なるほど、上位種だからできる芸当だったんですね。納得しました」
「無機物操作と同様、風だけは儂の元々の苦手属性だから弄れないが、他の属性は何でも可能だ。もちろん、属性によって変更できる数値の上限があるが……」
「それはとても便利そうですね」
「コウならいつでも希望通りのものを造ってやろう。それだけの借りがあるからな」
いや、そんなに貸しは作ってない……というか、ブラウニーさんに借りを作りっぱなしな気がするのだが……と、そんな会話をしつつ、マーメイドクイーンさんたちとアルラウネさんたちが待つ浜辺へと到着する。
「あなたがブラウニー殿か。この度は余の同胞のためにご足労頂き、感謝する」
「……いや、それほどまでに感謝されるほどのことはしておらん。感謝するならコウにしてくれ。……それと、いつも通りの口調で儂は構わん」
「……それは助かる。アタシやうちの子たちからも感謝するよ。もちろん礼はたっぷり用意してるから、よろしく頼む」
「それでは順にスキルを渡していこう」
そして1時間後……マーメイドたちとアルラウネたち全員にスキルが行き渡る。
マーメイドたちには水属性の、アルラウネたちには地属性の無機物操作が伝授され、すぐにみんなはスキルの使い心地を確かめ始めた。
「……なるほどね。こりゃあペンギンたちが空を飛べるようになるわけだ。ただ、うちの子たちじゃ自由に飛ぶにはMPが足りないかね」
「それは余の方もだな。だが、研鑽を続ければいずれ自由に飛べるだけのレベルになるだろう」
「ああ、こりゃダンジョン通いに力が入るってもんよ。……それじゃ、アタシたちからの礼を渡さないとね」
アルラウネさんたち、マーメイドクイーンさんたちはどちらも深水の鉱石をお礼として用意しており、ブラウニーさんの目の前に積まれた数は……。
「……1000は優に超えているな……」
「でも、アタシたちからしたらまだ出したりないねぇ」
「うむ、余も同意見だ」
「……いや、これで充分だ。それでもまだ出したいと言うなら、コウに渡してくれ」
「ちょっ、ブラウニーさん?!」
……後日、俺が大量の深水の鉱石を2人から受け取ることになってしまったのは言うまでもないだろう。
その後、マーメイドクイーンさんたちやアルラウネさんたちに空を飛ぶための装備を造ったところ、彼女たちが飛行訓練をしている風景が浜辺で見られるようになり、トレントの島は観光スポットとしても更に人気が出るようになるのだった……。
それと同時に、無機物操作を伝授してくれる人がいるのではないか、という噂が掲示板で広まることになるのだが、それはもう少し後の話である、




