虹
「コウー、見てみてー! ライアの爪キレー?」
「こ、コウさん、わたしも綺麗でしょうか……?」
「うん、二人とも綺麗だよ。今度アテナさんにお礼をしようね」
「はい!」
「うん!」
ランさんにプレゼントしたネイルを見てライアが欲しがり、全員分を用意するまでに時間はかかったが、みんな喜んでくれている。
男の子のスコールやブラウンもネイルをしているのだが、実際に男性用のネイルもあるし、本人たちがとても気に入っているようなのでいいことだ。そして、みんな好きな色が違うのも興味深い。
「ねーねー、これ、たくさんの色を使ったら虹にできるかなー?」
「爪ごとに変えればそれっぽくできるかもね」
「なるほど……でも、虹って何色なんですか?」
「それは色々と説があるんだけど……俺は7色って教えられたかな」
「うーん……それじゃ片手じゃ足りないなあ……両手にすればいいのかな?」
「あ、わたしとライアちゃんとスコールとブラウンちゃんとニアちゃんとエファちゃんとフィーリアさんで7人だから、集まって虹を再現するのもいいかも……」
……それにしても虹はホントこどもに人気だなあ……ソシャゲなんかでは最高レア演出が虹色だったりするから、一部の大人にも人気なこともあるけど。
さておき、こうやって一つの話題でみんながワイワイしているのを見るとほっこりするなあ……。
「……ん? アテナさんたちからメッセージか。……よし、全員揃うのなら、今日ランさんの所に行こうかな」
ここしばらく俺とアテナさんとアトラスさんとレックスさんの4人が揃う時間があまりなく、ランさんに会いにいけてなかったのだが、今日は短時間ではあるけど揃うのですぐに行動に移すことにする。
俺は全員にメッセージを返すと、エインズの町のポータルへと急ぐのだった。
**********
「あら、コウたちは久しぶりねー。てっきりランに勝てないから逃げたんだと思ってたぁ♡」
「いえ、なかなかこの4人が揃う機会がなくてですね……。……さて、今日はランさんのためにとっておきを用意してきました。楽しんでいただければ幸いです」
「ふぅん。そんなに自信があるんだぁ……それじゃあ見せてもらおっかな」
「分かりました。それではみなさん!」
「「「はい!」」」
俺たちは輪になって全員の全MPを解き放ち、マーメイドクイーンさんを召喚する。
そして、マーメイドクイーンが顕現すると……。
「えっ、ちょっと……嘘っ……?!」
「……ふむ、コウに呼び出されたということは……」
「はい、例のアレをお願いします」
「よかろう」
ランさんは驚いて後ずさる。……そりゃあ、敵対するにせよしないにせよ、上位種が急に現れたらそうなるよね。
しかし、そんなランさんを気にも留めず、マーメイドクイーンさんは上空に巨大な水の塊を作り出す。
そして、その水の塊を太陽とは逆の方向に射出する。
マーメイドクイーンさんが自分に攻撃してくるのではないかと思って警戒していたランさんは、それを見て呆気に取られている。
「な、何……? なんでランじゃなくて、誰もいない方に……?」
「それは……こういうことです」
彼方に飛んで行った巨大な水塊は拡散して無数の細かな水へと変化する。
そして、そこに現れたのは……。
「……綺麗……」
思わずランさんが息を吞む。
遥か遠方に出現したのはマーメイドクイーンさんの水で作られた大きな虹。
しばらく空に浮かんでいた虹は次第に薄くなっていき、何事もなかったかのように儚く消える。
「……コウ、これでよかったか?」
「ありがとうございます、マーメイドクイーンさん。お礼はまたしますので」
「うむ、楽しみにしておくぞ。では」
マーメイドクイーンさんは送還されてトレントの島へと戻っていった。
「……ランさん、いかがでしたか?」
「た、確かに綺麗だったけど……マーメイドクイーンが召喚されるなんて聞いてないんだけど! あんなのを従えてるなんて……キングウルフもだけど、コウってつよつよ人間じゃん!」
「ええと……説明すると長くなるのですが……」
「コウ、せっかくだから他の上位種のことも教えたらどうだ?」
「……え? 他の上位種って……まだいるのぉ?!」
……こうして。
俺はランさんにクイーンドリアードさんを始めとした、交流のある上位種について話すことになるのだった……。
**********
「うっわー……誰か1人でも連れてきたらランなんて敵わないじゃん……」
「やっぱり上位種の人たちはランさんから見ても強いんですね」
「あったり前でしょー! ランなんてドラゴンの下位種なのに……」
「……え?」
「え?」
「……ランさんって、ドラゴンの下位種なんですか?」
「そうだけど?」
嘘だろ……? 現時点のランカーたちを軽くいなせるランさんが「くっくっく……ヤツは我らの中でも最弱……」扱いなの? ドラゴンの強さおかしくない?
……いや、ドラゴン自体がモンスターの中でも上位なので、これが普通と言えば普通なのか……?
「……あれ? 急に周りが暗く……?」
そんなことを考えていると、急に周囲が夜のように真っ暗になる。
おかしいな、さっきまでは雲一つなかったのに……?
「……ッ?!」
思わず上空を見上げると、そこには全身が白銀に輝く竜……いや、この出で立ちなら龍と呼んだ方がいいだろうか……が、空を覆うように上空に現れていた。
「……久方ぶりに我を呼び出した者がいたかと思えば……まだ生まれたばかりのか弱き人間と竜ではないか」
「よ、呼び出した……?」
「お、おいコウ、おれたち何かしたか?」
「い……いえ、俺たちは特に何も……」
「……あーっ!!!」
突然、ランさんが声を上げる。もしかして、ランさんが何かを知っているのか……?
「あ、あの……そのお姿、もしや白龍様でしょうか……?」
「然様」
「ら、ランたちに伝わる伝説……ホントだったんだ……」
「ランさん、伝説とは……?」
「ええと……『天に限りなく近い地で七色の橋を架けよ。さすれば古の龍舞い降りん』……だったはず……」
天に限りなく近い地は、テーブルマウンテンの頂上だろうか? そして、七色の橋は虹、古の龍は白龍のことだろう。
……ランさんにここで虹を見せるためにやったことが、白龍の召喚の儀だったということなのか……。
「……ふむ、知らずに我を呼び出したというのか……」
「ももも、申し訳ございません……」
「よい、面を上げよ。……しかし、虹を架けるなど、今のお主たちではできそうにないが……」
「そ、それは──」
俺は白龍さんに偶然召喚の儀になってしまった経緯を話すことに……。
「くくく……面白い。この竜を喜ばせるために、水の魔法を使って虹を架けたと……」
「まさかそれが召喚の儀になるとは露知らず……誠に申し訳ございません」
「よいよい。今まで我を召喚した者は、己の腕試しをしようとした者、我を従えようとした者……すべて戦いのためという理由だったが……そうか、他竜のためか……実に面白い」
過去、この白龍さんに戦いを挑んだ人がいるのか……。空を覆うほどの巨体、俺たちをひと薙ぎで塵にできそうなほどに大きく鋭い爪。こんな龍を相手取ろうとするなんてちょっと異常過ぎる……。
「……ふむ、虹を架ける方法とやらを実際に見てみたいが……今から可能か?」
「いえ、実は1日に1度しか使えない方法でして……申し訳ありませんが、再現は不可能です」
「そうか……では、後日これを使い、我を呼ぶがいい」
白龍さんは自分の鱗を一つ剥がし、俺に渡そうとする……が。
「お……重い……」
それもそのはず、鱗一つが俺たち人間よりも大きいのだ。持てるはずもない。
俺は鱗を地面に置いてもらい、それをアイテムボックスに収納するという形で鱗を手に入れる。
「その鱗に我の術をかけてある。使えばいつでも我を呼び出すことが可能だ」
「分かりました、後日改めてお呼びします」
「楽しみにしておるぞ」
白龍さんはその言葉を残して、空へと溶けて消えていった。そして、同時に辺りが明るく照らされ始める。
「はああああぁぁぁぁぁ…………き、緊張したぁ……。……こ、コウ! ランのことドキドキさせ過ぎ! 責任取って!」
「せせせ、責任とは……?」
「そりゃあもちろんランをお嫁さんにするとかぁ……」
「お、コウ、おめでとさん」
「おおお、お祝いしますね!」
「え? ちょっと待っ……」
「……なーんちゃってー! もー、コウったら挙動不審になりすぎー。メンタルざぁこ♡」
……うん、いつも通りのランさんだ。白龍さんがいたさっきまではガタガタ震えていたから、ランさんもかなり緊張していたんだろう。白龍さんは間違いなくドラゴンの上位種だろうし。
「……ま、コウはさておきー、虹自体は楽しめたからご褒美をあげなきゃね。それじゃ取ってくるー」
「残念だったなコウ」
「いえ、ランさんが本気だったら俺、掲示板のガチ勢に殺されますよ?」
「ははっ、『殺してでも奪い取る』ってやつか」
そうやって話していると、ランさんが巣から戻ってくる。
そして、前脚に持っているものは……。
「それじゃ、コウたちにはこれあげる」
「これは……牙や爪ですか?」
「そうそう。生え変わる時にもったいないから取っておいたの」
「何回も生え変わるものなんですね」
そういえばキングウルフさんも牙が何度も生え変わってたなあ。そう考えたらドラゴンも同じなのも納得か。
しかし、ドラゴンの素材となるとかなり強力なものが造れそうだが……。
「そうそう、ドラゴンの牙や爪って、加工するとドラゴンに特効があるんだって」
「……ん? それなら牙や爪を渡したら、ランさんが不利になるんじゃ……」
「大丈夫ー。だって風属性が付いてるから、ランには効き目が薄いもん」
「なるほど、確かにランさんの場合は逆に普通の武器を使う方がダメージが出そうですね」
「ただ、それなら今後出てくるドラゴンに特効ダメージを与えられそうだな。おれは色々と加工してみたいな」
「私はアクセサリーとかにしてみたいです!」
「僕は……そういえば、爪や牙を削って粉にしたら、薬とか作れそうですよね」
ああ、確かに薬効がありそうかも。爪の垢を煎じて飲ますならぬ、爪の粉を煎じて飲ます。どんな効果になるかは見当がつかないけど……。
「ふふっ、いろいろ考えるの得意なのねー。でもぉ……加工できるかなぁ?」
……そういえば鱗もキングウルフさんの牙がなければ加工できなかったな……。もしそれよりも硬かったら……。
でも、こうやって新しい素材が手に入った時にいろいろ考えるのは楽しいな。加工に関しては火属性の補正が高いものを使えば何とかなるだろうか? それとも、火属性の上位種の牙のようなものが必要だろうか……? 火属性で上位種といえばセクメトさん……かな?
「……とりあえず、考えてみます。ぜひ装備やアクセサリーを作ってみたいので」
「それじゃ、ダメだったときはどう煽るか考えておこうっと♡」
「お、お手柔らかに……」
**********
そして翌日。
休みということもあり、4人が揃ったので再度白龍さんを召喚することにした。
ポータルでランさんの所に移動し、鱗で白龍さんを呼び出す。
「ほう、早かったな」
「はい。それでは御覧ください」
俺たちは白龍さんから距離を取ると、マーメイドクイーンさんを呼び出す。
「……ッ……! このプレッシャーは……」
マーメイドクイーンさんは白龍さんに気付くと、後ずさる。……そりゃあ古の龍相手だからしょうがないよね。そして、この反応で白龍さんはマーメイドクイーンさんよりも確実に格上だと認識できた。
これだと、クイーンドリアードさんでももしかしたら敵わないのでは……?
「あ、大丈夫です。例の虹を架ける方法を見たいとのことですのでお願いします」
「……まったく、コウは毎回驚かせてくれる……報酬は弾んでもらうぞ」
マーメイドクイーンさんはランさんの時と同様に、巨大な水の塊を撃ち出して、無数の小さな水滴に分裂させて虹を作り出す。
「ほう……なるほどな」
白龍さんは静かに頷く。
「……さて、コウよ。余は先に帰らせてもらうぞ」
「はい、ありがとうございました」
マーメイドクイーンさんは逃げるように去って行った。やはり古の龍だけあってプレッシャーが凄いのだろう。俺も最初は生きた心地がしなかったしね……。
「一瞬の儚き虹ではあるが、その分風情があるな。楽しませてもらった」
「お気に召されたのなら幸いです」
「……本来、我を召喚するための虹を架けるには道具、または魔法が必要になるのだが、こういった方法もあるとはな。間違って顕現しないように注意せねばなるまいな、ハハハ……」
わ、笑い事じゃないんですけど!
ランさんに虹を見せるつもりがエンドコンテンツを召喚してしまった件について。とかシャレになんないんですよ、マジで。戦闘にならなかったから良かったものの……。
「そ、それではこの鱗はお返ししますね」
「いや、返さずともよい。驚かせてしまった詫びとさせてもらおう」
「しかし、これがあったらいつでも召喚されてしまうのでは……」
「……そうは言うが、お主ならそのような事はせぬと分かっておるからな。取っておけ」
「そ、それではありがたく頂戴します……」
……こうして、とんでもないアイテムをアイテムボックスに死蔵することになってしまうのだった……。
ちなみに鱗のランクはSかな? と思っていたら「ランク:測定不可」になっていた。……測定不可って何さ?
そして、テーブルマウンテンの外にいたプレイヤーたちが白龍さんを目撃していたので、『あの巨大な龍はいったい?!』というスレタイトルで掲示板にスレが乱立してたのを知るのは、白龍さんが帰ってからになるのだった。




