ペンギンたちの悲願
「──ふーん、そういう経緯なんだー」
「今でも交流はありますよ」
俺はランさんにキングウルフさんについての出会いから、牙を手に入れるまでのことを話した。
……他の上位種のことを話しだしたらキリがないので、とりあえずはキングウルフさんだけ、だけど。
「それならここまで連れてきたら、ランなんてすぐにやられちゃうような……」
「さすがにそれは力を借り過ぎかなと思いまして。それに、上位種の方はそんなに簡単に動いてくれないでしょうし」
……まあ、キングウルフさんならいろいろな報酬で手伝ってもらえそうだけど、強すぎてちょっと……どころじゃないほどズルいからね。イベント戦というのもあるし、速攻で終わっちゃったら……ね。
「まぁそれもそっかぁ。……それにしてもコウに驚かされるなんて……ちょっと見直しちゃったかも」
「……コウはライアのだからね!」
ランさんが俺の方に視線を向けると、対抗するようにライアが俺に抱き着いて視線を遮る。
そういう意味で言ったんじゃないと思うけどなあ。
「ふふっ、ランだったらライアから力づくで奪えるけど、そういうことはしないから大丈夫」
「よかったぁ……やっぱりランちゃん優しいね」
「そぉ? ランはそんなつもりじゃないんだけどなぁ」
本人はそう言っているものの、初遭遇の時も問答無用で攻撃してこなかったし、今も普通に接してくれているし、ドラゴンは攻撃的なイメージがある中でランさんは優しい方だとは思う。……メスガキ口調のせいで損しているような気もするけど。
「それでは、動画を撮ったら本日はこの辺でお暇させて頂きます。次は勝ち越しますので……」
「えー、次もランが勝っちゃうしー♪ よわよわ人間には負けないしー」
……うん、やっぱり口調で損してる気しかしない。でもこういうのが好きな人もいるし、これはこれでいいのかな。なんか掲示板見たらファンクラブまでできてるし。
「さて、それじゃあ動画を撮りますよー」
こうして、俺たちはランさんの動画を撮ったあとホームに戻るのだった。
**********
『おい、たらしさんの追加の動画見たか?!』
『前の動画は一人称があたしだったのに、今回は自分の名前になってた…………理由も言ってたけど、これはアリだな!』
『\アリだー!/』
『アリ違い来たな……いや、このゲームでもいつか来そうなイベントではあるが』
『……さておき、ストームドラゴンはランって名前なのか。で、名付けはたらしさんと』
『名付けもしてるし動画も撮ってるしでもうたらしてるようなもんじゃん!』
『どんどんたらしさんと差が開いていく……オレだってラン様大好きなのに! 下僕になりたいのに!』
『どうにかしてテーブルマウンテンの頂上まで到達したいが……装備もレベルも足りねえ……』
『今回イベントの参加敷居が高いよな……まだランカーぐらいしか辿り着けてないし』
『トレントの島、クヴァーナ砂漠でレベル上げをしつつ鉱石を集めて装備を造って……』
『やることが……やることが多い……!』
『属性装備が必須だから、属性鉱石も高騰してるんだよなあ。上位の熱砂の鉱石や烈風の鉱石は更にその上を行くし……』
『属性装備どこかで売ってないかなあ……』
『念』
『でも、お高いんでしょう?』
『それな』
……などと掲示板が盛り上がっているのを知ったのは、動画を投稿してしばらく経ってからだった。
**********
「コウさん、例のアレ、できましたよ」
「アレですか。それではカイザーさんたちに届けに行きましょうか」
「ええ、首を長くして待ってると思いますしね」
後日、アテナさんが水属性の鉱石を仕込んだ服を、カイザーさんたちと同数作ってもってきてくれた。
そう、これで念願の自力飛行が可能になるのだ。スキルはブラウニーさんに教えてもらったし、相当首をLoooooongにして待ってるだろうな……。
ということで早速トレントの島へと渡ることに。
「……あれ? なんだかいつもよりも人が多いような……」
トレントの島に行くためにティノーク海岸へと来たのだが、いつもより人が多く、ごった返している。
普段ならボトルメールを拾っている人が数人いるぐらいなのに……。
「あ、それは海底にダンジョンがたくさん見つかったからですね」
「海底にあったんですか?」
「はい。現実でも素潜りが得意な人が、海底の貝などを獲っていた時に、偶然見つけたらしいんです。それからというもの、ダンジョン探しが流行って、今では4つのダンジョンが見つかっているらしいんです」
「うーん、気になりますけど、俺は素潜りできないですしね……」
「それなら水属性のペットモンスターに手伝ってもらうといいみたいですよ。……と言っても、私たちは水属性の子がいないのですが……」
なるほど、泳ぎが得意な子に連れて行ってもらう感じなのかな。
俺たちのギルドではレックスさんがウンディーネをペットにしているけど、ある程度情報が集まったら今度お願いしてみようかな?
「気にはなりますけど、まずは本来の仕事を終わらせましょうか」
「そうですね! 喜んでもらえると嬉しいですね」
こうして、少し気になる情報を得つつ、トレントの島へと向かって行った。
「おう、コウとアテナじゃねーか。……もしかして……」
「はい! 完成しました!」
「マジか! それじゃ早速……と言いたいんだけどよ、まずは報酬が先だな」
「いえ、実際に試して頂いて、問題がないことを確認してからで大丈夫ですよ」
万が一飛べなかったらアレだしね……それに、カイザーさんを始めとしたペンギンたちが凄く目を輝かせていて、早く飛びたいという気持ちが伝わってきたし、まずは飛ばせてあげたいというのもある。
「そうか、それじゃ遠慮なく……」
「それでは配っていきますね」
俺たちはペンギンたちに順番に服を着せて回り、全員が服を着たのを確認すると、浜辺へと移動する。
そして、カイザーさんが号令をかける。
「よーし、行くぜ野郎ども!」
「「「ギー!!」」」
号令と同時に、ペンギンたちがふわりと空へと飛び立っていく。
バランス調整が難しいのか少しグラグラしている子もいるが、問題なく飛べていることに安堵する。
「ヒャッハー!!」
そんな中、カイザーさんは高速で空を自由に飛び回っている。上位種だけあって、適応能力が高いのかな。それと、MPも潤沢にあるし……。
「……ん? MP……」
「……あ」
「コウさん、どうしました?」
「いえ、ペンギンたちのMPでどのぐらいの時間飛べるか計算してなかっ──」
「ギー!」
ペンギンの声に気付いて空を見上げると、何羽かがMP切れで海へと落ちていっている。
浜辺の俺たちは何もできず、それを見ているだけしかできない……計算を忘れて悪いことしちゃったなあ……。
その後、カイザーさんはMPが切れることなく飛び終えたが、他のペンギンたちは全員海へと真っ逆さまだった。
「はっはっは、そういや完全にMP切れのこと忘れてたな!」
「わ、笑い事じゃないですよ、すみませんでした……」
「いや、コイツらはそれすらも楽しんでたぞ。着水するときに水しぶきがめちゃくちゃ立つってさ。次はもっと高い所から落ちてみたいんだとさ。ま、地面に落ちないようには気を付けるぜ」
なんてポジティブ……。
それにしてもあの高さから海に落ちて痛くないんだろうか……。まあ、ステータスは相当高そうではあるんだけども。
「……っつーことで、コウたちには礼を渡さないとな。ダンジョンまで来てもらえるか?」
「はい、それでは行きましょう」
**********
「よし、それじゃこれが今回の礼だ」
「これは……こんなに頂いてもいいのですか?」
「ああ、俺様たちの夢を叶えてくれたんだ。これぐらいじゃ足りねえと思ってるぜ。俺様も、コイツらも」
「「「ギー!」」」
カイザーさんが提示したお礼は、火水の鉱石がおよそ300、深水の鉱石がおよそ200……た、大量過ぎる……。これで足りないって……。
「……分かりました、ありがたく頂戴します」
「ああ、次に来る時もまだ渡すぜ。……で、相談なんだが……」
「俺たちにできることがありましたら何なりと」
「MPを回復させるポーションが欲しいんだ。レベル上げにも励んでMPの底上げもするが、もっと上手く飛べるように回復して練習したいからな」
「なるほど、それでしたらEXマジックポーションなどを作っておきます。ちなみに、MPが一番低い子はどれぐらいなんですか?」
「そうだな……だいたい300ぐらいだったか」
それならビーのハチミツで作ったものがいいかな。250回復だし、ブラウンに手伝ってもらえばもっと効果も上がるし……。
「分かりました、用意しておきます」
「頼んだぜ。……本当にありがとうな。コウが困ってたらいつでも飛んで助けに行くぜ。文字通りに飛んでな」
「ええ、頼りにさせて頂きます」
こうして、カイザーさんたちは無事に空が飛べるようになるのだった。
**********
「──で、儂の所に来たと」
「はい、カイザーさんたちが飛べたのはブラウニーさんのおかげでもありますし、お裾分けということで……」
「……だが、こんなに大量の鉱石をもらってはな……」
火水の鉱石300・深水の鉱石200のうち、俺は火水の鉱石を200、深水の鉱石を130もらうこととなった。本当は半々で良かったのに、「無機物操作を習得できたのはコウさんのおかげなので」とアテナさんに言われ、多くもらうことになったのだ。
……で、元をたどればブラウニーさんのおかげなので、多くもらった分は還元しようとここにやってきた。
「火水の鉱石は貴重なので、ブラウニーさんのものづくりにも幅が出ると思いまして……」
「確かにそれはそうだが……まあ、お前さんなら断っても置いていきそうだし、頂いておこう。……今度、これで何かを造っておく。また来てくれ」
「分かりました、ありがとうございます」
そう言って帰ろうとすると、ブラウニーさんが俺を呼び止める。
「おい、貯まっている礼を持って帰ってくれ」
「あっ……そういえば……」
虹色の鉱石の件やら、無機物操作をカイザーさんに伝授に言った時の鉱石の件やら、すっかり忘れてたな……。
「……これが今までの礼だ。受け取ってくれ」
「これは……」
ブラウニーさんに渡されたのは、大量の属性付きの武器。
見た感じ、火属性が多いが……。
「もしかして、火水の鉱石で造られた武器……ですか?」
「そうだ。居ても立っても居られなくなってな……あの時の鉱石を使って造ったものだ」
ブラウニーさんもやっぱりものづくりに情熱を捧げているんだなあ……。貴重な鉱石が手に入ったら加工せずにはいられなかったのだろう。
「コウがそのまま使ってもいいし、必要とする誰かに売ってもいい。好きに使ってくれ」
「ありがとうございます、非常に助かります」
ブラウニーさんほどの加工技術を持っているなら、きっと強力な武器になっているはず。
これをキヴァナ峡谷の攻略している人たちに渡せば、ランさんの所まで辿り着く人が増えたり、ランさんへ与えるダメージが増えたりするはず。
「……今回の鉱石も加工しておこう。またいつでも来てくれ」
こうして、多くの素材や武器を受け取った俺は、次のフリーマーケットで久々に出店することを決めた。
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「たらs……コウさんの出店久しぶりですね! 品物を見せて頂いてもよろしいですか?」
「はい、各種取り揃えていますのでよろしくお願いします。ただし、多くの方に行き渡るように、1人2点までとさせて頂いております」
「うーん……悩みますね……」
次のフリーマーケットの日。
俺は深水の鉱石、熱砂の鉱石、火水の鉱石、ブラウニーさんの武器、EXポーションβなどの、レベル上げに役立つもの、攻略に役立つものなどを販売することにした。
クヴァーナ砂漠でレベルを上げる人は深水の鉱石、キヴァナ峡谷でレベルを上げる人は熱砂の鉱石や火水の鉱石を中心に購入していった。
ブラウニーさんの武器は少量しかなく、値段も高めに設定しているため、タケルやタイガさんといったランカーの人を中心に購入された。
……ちなみに、鉱石の状態で売っているのは、それを加工する人にもお金が流れるようにするため。
アトラスさんに頼んでもよかったのだが、できれば多くの人にお金が回って欲しいしね。
また、ブラウニーさんの武器は補正が『地-105、水+30、火+75』ではなく、『地-105、火+105』といった、普通に造る場合とは違う補正となっていた。これが上位種が造る効果なのだろうか……?
「やったー! ようやく氷の剣が手に入った!」
「お、それじゃアレやろうぜアレ。説明文にもあるアレ」
「ねんがんの 氷の剣を てにいれたぞ!」
……そんな光景を見ながら、久々の商売を楽しむのだった。




