スキル伝授
「エファー、後からして欲しいお願いがあるんだけど……」
俺はノームの村からホームへと戻り、エファに声を掛ける。ノッカーのスキルを伝授してもらうために、瓶2つ分のフェアリーシロップが必要になったからだ。
しかし、エファの返事はとんでもないものだった。
「こ、コウ! 大変なもの作っちゃった!」
「た、大変なもの?!」
エファの今までにない慌てようで、つい声が大きくなってしまう。それに反応してライアたちが集まってくるのだが……。
「こ、これ!」
「……ん? これは……フェアリーシロップ……?」
「そ、そうだけど! ステータスを開いてみて!」
「どれどれ…………こ、これは……?!」
【フェアリーシロップ:ランクC、舐めるとHPが100回復する。桜の花の蜜から作られたもので、回復量はハイポーションに匹敵する。これを混ぜてポーションを作ってみるといいかもしれない。いいかもしれない。大事なことなので2回言いました】
「……個性的な説明文だね」
「うんうん、分かる分かるー……じゃなくて!」
「そうだね。確かにHPだけが回復するフェアリーシロップは初めてだし、もしかしたらこれは……」
そう、MPだけを回復するフェアリーシロップからはEXマジックポーションを作ることができる。
つまり、HPだけを回復するフェアリーシロップからは……。
「EXポーションが作れるかもしれない……」
「そういうこと! ね、ね、褒めて褒めてー!」
「さすがエファだね。これでまた良いアイテムが作れるかも」
「えへへー、それほどでも……あるよー」
「そこは謙遜しないんだ」
……などとコントめいた会話をしてはいるが、もしEXポーションが作製できるようになれば、持ち込み制限ダンジョンに持っていくもよし、高いであろう回復力でボス戦に使うもよしで、かなり有用なアイテムになることは間違いなしだ。
早くポーションを作ってみたいな、と思っていると……。
「そういえば用事ってなんだったのー?」
「あ……」
いけないいけない、すっかりノッカーさんのフェアリーシロップの相談をするのを忘れていた。それほどまでに新発見に脳が支配されてた。
俺はノッカーのスキルを伝授してもらうためにフェアリーシロップが必要なことをエファに話す。
すると、エファは速攻でフェアリーシロップづくりを始めようとしたのだが……。
「……まずはお花見をしてからにしない?」
「あ……」
エファが周りを見渡すと、ライアたちが俺とエファを見ているのに気づいた。どうやらHP回復のみのフェアリーシロップが作れたのに驚いて、完全にお花見のことを忘れていたようだ。帰ってすぐに声をかけた俺も悪いのだけど。
「それじゃ桜の木を囲んで椅子とテーブルを設置しようかな」
「はーい! ライアはコウの隣がいいー!」
「む……わたしもコウさんの隣にするから……!」
「コウは相変わらずモテモテにゃー」
そんな会話をしつつ、お花見が始まる。
ひらひらと散る花を見ながら、魔石や卵料理、フェアリーシロップなどを堪能する。
みんなはほぼ花より団子な状態だけど、ニアはずーっと花びらを見ていたようだ。ちなみにニアの席は俺の膝の上。
ライアとレイは口を揃えて「そこがあったなんて……」と言っていたが、これは最年少で身体もまだ小さいニアの特権かな……?
その後、みんなお腹いっぱいになったようで、暖かい陽射しの中、お昼寝タイムが始まる。
エファは食後の運動としてフェアリーシロップづくりを始めてくれた。瓶1つを満たすのに2日ぐらいかかるようなので、ノッカーに納品できるのは次の休みあたりかな。
俺はゲーム内で食事をしてもお腹は膨れず、眠気も来ないので、カイザーさんたちが帰っていないかを確認しに、トレントの島に渡るのだった。
**********
「おう、コウじゃねーか。久しぶりだな」
「カイザーさん、お久しぶりです。スキルの方はいかがでした?」
「あー……結論から言うとまだ見つかってねえな。息抜きにちょっと帰ってきたところだ」
「それならちょうどよかったです。実は……」
俺はブラウニーさんという人に出会ったこと、ブラウニーさんが風以外の無機物操作が使えること、そしてそれを伝授できることを伝える。
「マジかよ……俺様たちがずっと探しても見つけられなかったものをあっさりと……しかも、伝授の約束まで取り付けるなんてよ……至れり尽くせりってやつだな。こりゃあどでかい礼をしないといけねえな」
「とは言いますけど、カイザーさんの羽根のおかげでこのダンジョンで稼げてますし、追加のお礼は必要ないですよ」
「だがよ、タダで伝授してくれる訳じゃないだろ? コウが何かしらそのブラウニーに渡したものがあるはずだ」
……カイザーさん、流石にペンギンたちの長だけあって鋭いな。
俺は虹色の鉱石をブラウニーさんに渡すことを簡単に説明することに。
「なるほどな。……コウも珍しい鉱石が欲しいのか?」
「そうですね、あれば嬉しいですが……」
「それならちょうどいい。スキルを探してる時に偶然珍しい鉱石が採れる場所を見つけたんだ。その鉱石を礼とさせてくれ」
「よろしいのですか?」
「ああ、これだけされて礼を怠るなんて漢じゃねえ。任せときな!」
ありがたい……のだけど、カイザーさんたちはどうやって鉱石を掘るんだろうか? カイザーさんはレベルが高いから、素手でも岩を砕けるとかそういう……?
「ありがとうございます、それではお願いします。……ところで、鉱石はどうやって掘られるのですか?」
「ああ、それが気になるか。……こうだな」
カイザーさんは何かの魔法を唱えると、くちばしが金属のように鈍い光を放ち始める。
そしておもむろに岩壁にくちばしを打ちつける。すると……。
「おお……」
岩壁がまるで豆腐のようにボロボロと崩れ落ちていく。
……これ、戦いの時に使われたら鎧とかでも貫通するんじゃ……。
「これが俺様たちの奥の手だ。くちばしを硬化させての一撃は伊達じゃねえぜ」
カイザーペンギンは伊達じゃない! ってことだな……これなら鉱石を掘るのも問題なさそうだ。
しかし、このダンジョンの動画ではペンギンたちはこのスキルを使ってなかったから……もしかして、遊ばれてるんじゃ……。それとも、階層によってモンスターのレベルが変わるから、高レベル帯じゃないと使って来ないのかな? 何にせよ、このスキルは結構な脅威になりそうだ。
「それでは、まず俺がブラウニーさんを連れてきましょうか。カイザーさんたちはしばらくこちらに留まって頂けますか?」
「ああ、いいぜ。しっかし、こりゃコウには足を向けて寝られねえなあ」
「はは、あんまり気にしないでください。好きでやってるだけですので」
「ま、お人好し過ぎるのもほどほどにな。ちゃんと対価はもらっとけよ」
「ええ、ありがたく忠告を受け取らせて頂きます」
**********
「……なるほど、スキルを伝授するのはこのペンギンたちか」
「はい。数が多いですがよろしくお願いします」
「よし、では順番にやっていくぞ」
後日、ブラウニーさんにトレントの島に渡ってきてもらい、ペンギンたちとカイザーさんにスキルを伝授してもらっている。
そういえば、ブラウニーさんも誰かに伝授してもらったのなら、例えばカイザーさんに伝授したものをカイザーさんから別のペンギンに伝授できないのだろうか? ……そう尋ねてみると。
「伝授するのにも制限があってな。伝授されたスキルを最低でも500回は使う必要があるんだ。要するに、自分の手足のように使いこなせなければ伝授できないということだな。ま、他にも制限があることがあるが……」
「なるほど……確かに自分もろくに使っていないものを他人には教えられない……普通の技術と同じなんですね」
「そういうことだ。理解が早いな」
……ということは、俺もチェンジオーアや各属性の無機物操作を使い続ければ、いつかは伝授できるようになるのだろうか? それとも、ゲームバランスのためにプレイヤーでは不可なのか……その辺は運営のみぞ知る、といった感じかな。ヘルプにも載っていないし。
「……よし、これで全員だな」
「……このような辺境までお越し頂き、貴重なスキルを伝授して頂けたこと、皆を代表して感謝致します」
「礼ならコウに言ってくれ。それと、堅苦しくしなくていいぞ」
「……了解した。そしてコウ、俺様たちの夢を叶える手伝いをしてくれたこと、感謝している。……一応、少量ではあるが……待っている間に採掘してきた鉱石がこれだ」
「ほう、鉱石か……」
鉱石という単語を聞いてブラウニーさんが反応する。
それにカイザーさんも気付いたのか、俺とブラウニーさんそれぞれに鉱石を渡してくれる。
「これは……?」
その鉱石は赤と青の色が混在している、不思議なものだった。
うっすらと光っているような感じで、神秘的な感じなのだが……。
「おいおいおい、これはまさか……」
「どうだ、複数属性を備えている鉱石なんて滅多に見ないだろ?」
「複数属性……」
俺は一瞬虹色の鉱石を思い出したが、確かにあれも複数の色が混在していたな……。
この鉱石、赤と青ということは……。
「……やはり、火水の鉱石か」
「おっ、知ってるのか?」
「ああ、相反するはずの属性の火と水が同居している鉱石だな。これを使えば火属性と水属性に補正がかかる装備が造れるはずだ」
「な、なんだか世界の理に反しているような……」
対消滅しないか心配だが……まあ、知られている鉱石なら大丈夫なのだろう。たぶん。
「ということでコウ、この鉱石を受け取ってくれ。後日もう少し採掘してくるから、まずは少量だけだが……」
少量とは言っても、その数20ほどある。少量……少量とはいったい……。
そして、貴重な鉱石ということで、ブラウニーさんが鉱石をチラチラと見ている。
「ブラウニーさん、よろしければ半分ほど持ち帰りますか?」
「……しかしだな、儂は既に対価として虹色の鉱石を……」
「それなら、カイザーさんに他の属性の無機物操作を伝授されてはいかがでしょうか? もしかしたら、いつか使うかもしれませんし」
「おっ、いいのかコウ? それなら遠慮なく頂くぜ」
「……コウ、お前さんはお人好しが過ぎるぞ」
「ああ、それは俺様もこの前言ったところだ。治ってねーな」
ははは、と全員から笑い声が出る。
「まーそこがコウらしいっちゃらしいんだが……次は数倍の鉱石を持ってきてやるよ。それが正当なコウへの対価だ」
「儂もこの前言っていた追加の礼にさらに追加をしないとな……」
「た、楽しみにしておきます……」
上位種の人たちって規格外なことが多いからなあ。
でも、どんなものが来るか楽しみでもある。特にブラウニーさん。
とりあえず、カイザーさんたちの問題は解決したし、今度アテナさんと共同でカイザーさんたちが空を飛ぶための装備を作ろうかな。
**********
「コウ、お待たせー。ようやくフェアリーシロップを詰め終わったよー」
「ありがとうエファ。お礼に何かしたいところだけど……何がいいかな……」
「んー……それならあの桜の蜜、定期的に吸っていい? あれ、おいしいんだー」
「もちろん大丈夫だよ。桜の花が散るまでになるけど……」
そう言って俺は桜の木を見る。……しかし、花びらは落ちているものの、一向に数が減らないような……ファンタジーだからか……?
「わーい! それじゃ遠慮なくー……んー……おいしい!」
そんなに美味しいんだ……確かにHP回復のフェアリーシロップは甘くて美味しかったけど。
……今度、いろいろな花の種を買ってきて植えようかなあ。それでエファの好物の花とか育ててあげよう。……まあ、畑とかの世話をしてるのはほぼレイなんだけど……。
「それじゃちょっと出かけてくるね」
俺はノッカーへの納品のために、クヴァーナ砂漠を訪問することにした。
「コウさん! お待ちしておりましたわ!」
坑道に入るとすぐに、ノッカーが出現する。
どうやらフェアリーシロップを心待ちにしていたようだ。
そして、ノッカーの言葉に他のノッカーたちもぞろぞろと出てきて……って、この前より数が増えているような……。
「じ、実はフェアリーシロップの話をしたら、噂になってしまい……」
「それで、こんなに多くなったんですね」
お嬢様ノッカーを除いて10人かあ……うちのギルド全員に教えてもらえば対価にフェアリーシロップを渡せそうかな。
とりあえず、まずはお嬢様ノッカーに納品して……。
「それではこちらがフェアリーシロップの瓶詰です。ご査収ください」
「え? え?」
「……え?」
お嬢様ノッカーが戸惑っている。あれ? 確かに瓶2つって……。
「あの……2瓶とは、わたくしたちのサイズで、という意味だったのですが……」
「…………あーっ!!!」
確かに人間と妖精ではサイズが違う!
その辺を擦り合わせておかなかったのは俺の落ち度だな……。
「す、すみません。俺の勘違いでした。こちらのミスですので、このままお受け取りいただければと……」
「さ、さすがにそれは……では、この瓶の中身はわたくしたちで取り分けますので、コウさん以外の10人にもスキルを伝授する、ということでいかがですの?」
「それでしたら願ったり叶ったりです。それで、俺のギルドメンバーは12人ですので、今度追加でフェアリーシロップをお持ちしますので、よろしくお願いします」
「よろしくってよ!」
……こうして、俺のギルドメンバーたちにもノッカーのスキルが伝授されることになるのだった。




