名付け
「さて、今回のイベントで俺たちにできることややることは……」
1.ストームドラゴンに名前を付けること
2.属性装備を作製してプレイヤーに提供することでストームドラゴンまでの道のりにいるモンスター、ストームドラゴンへのダメージを増加させること。
3.アイテムを作製して提供することで、プレイヤーの戦闘を有利に進めること。
4.遊具を作製して提供することでストームドラゴンを楽しませること。
……こんなところだろうか。
率先してやらなければならないことは、やはり名前付けだろうか。
待たせると待たせるだけ心証が悪くなるだろうしなあ。できるだけ早く決めたいところだ。
ギルド内でいくつかの名前を挙げてもらって、その中からストームドラゴンに決めてもらうのがよさそうかな。
次は……イベントを達成させるためには、まずストームドラゴンと戦えるプレイヤーを増やすことだろう。
そのためには道中のモンスターを倒せるだけの装備が必要だから、熱砂の鉱石を集める必要がありそうだ。
普通に掘りに行ってもいいのだが、もっと効率よく集めたいところではある。
「……そういえば、バイスさんがノッカーにスキルを教えてもらった、って言ってたな」
もしそのスキルを俺たちが使えるようになれば、鉱脈を発見できるようになって効率よく鉱石を集められるようになりそうだ。
また、熱砂の鉱石だけでなく烈風の鉱石も掘れるようになれば、風属性の防具を造ってストームドラゴンなどの攻撃のダメージも抑えられるようになるな。
今回のように、鉱石を掘るつもりがイベントを掘ってしまった……ということを無くすためにも、ノッカーのスキルが欲しいよなあ……。
アイテムや遊具は優先度低めで行こう。アイテムは他の人たちも作れるし、遊具はまだいいものが考えられていないし……。
よし、やることが決まったことだし、行動を開始しよう。
**********
「──ということで、ストームドラゴンの名付けという重要イベントの会議を開催します」
「よりにもよって名付け下手なおれたちに任されるとはな……」
「わ、私もがんばります!」
ということで、一番の難題と思われるストームドラゴンの名付けの会議をギルドで行うことにした。
名付けが下手なのは俺たちだけ……と思っていたのだが、他のギルドメンバーも軒並み自分のペットモンスターの名付けに困っているようで……。
結局会議はグダグダになってしまう。
「ストームは日本語に翻訳すると嵐……嵐は『らん』とも読めるので、ランという名前はどうでしょうか? ……安易ですかねえ……」
「風だからウィンドから取ってウィン……は、レックスさんのウンディーネのウィンちゃんと被りますね……」
「緑色の鱗が特徴的なので、緑をドイツ語でグリュン……リュンとか、リューンとか……」
「今回の舞台が空に近いので、空を現すフランス語のシエルもアリですかね?」
「空かあ……ドイツ語だと何て言うんだろ…………ヒンメ……ル……?」
などなど、何個か案は出たので一度会いに行って選んでもらおう。
もし全部却下されたらまた考えればいいだけだし。とりあえず、これらの名前を少しだけ深掘りしてみようかな。複数をつなげてみたり、いい感じの由来を考えたり……。
「では、とりあえずこの辺で一旦解散しましょう。ありがとうございました」
「……あ、コウさん。僕も一度ストームドラゴンに会っておきたいのですが……今度行く時に、一緒に行ってもよろしいですか?」
「もちろんです。俺とアトラスさん、アテナさんはストームドラゴンの鱗を持っているので、道中の戦闘は回避できますし、それぞれでパーティーを組んで、全員ポータルが使えるようにしておくのもよさそうですね」
「あ、それではわたしも同行してよろしいですか?」
「お、オレもお願いします!」
鱗をもらった時は思っていなかったけど、こうやって他の人を助けることもできるんだなあ。
戦闘をするなら道中のモンスターに勝てないとストームドラゴンとはまともに戦えないだろうけど、楽しませることを目的とするなら、こういうのもアリだな。
こうして、後日3パーティーに分かれてストームドラゴンと会うことに決めたのだった。
**********
「──ということで、ストームドラゴンさんのお名前を考えてきました」
「ふふっ、楽しみぃ……それにしても大所帯ねー?」
「ストームドラゴンさんにお会いしたいという人たちです」
「ふーん? それじゃあたしを楽しませてくれるかなぁ?」
「ひゃ、ひゃい! もちろんでしゅ!」
「くすくす、緊張し過ぎー。メンタルざぁこ♡」
「もったいないお言葉……」
……どうやらうちのギルドにもメスガキドラゴンなストームドラゴンにハートを射貫かれた人がいたみたいだ。刺さる人には刺さる性癖なんだなあ。
「まぁいーや。それじゃどんな名前になったのー?」
「実は候補がたくさんありまして……どれかお気に入りのものがあれば良いのですが」
「ふーん、じゃあ聞いてあげよっかな」
「それでは順番に発表していきますね」
・
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・
「ええと、最後は俺ですね。俺が考えた名前は『ラン』です」
「どういう由来があるのぉ?」
「ストームを俺たちの使う字に直すとこんな感じで……『嵐』となります。これはストーム以外にもランと読みますね」
「ちょっと単純かなー」
「そして、花にも蘭というものがあるのですが……その花言葉には『美しい淑女』『優雅』などがあります」
「……!」
ストームドラゴンの翼がピクッと動く。どうやら花言葉が気になるようだ。
「ふ、ふーん……美しい……優雅……かぁ……」
「光が反射して煌めく全身の緑の鱗がとても美しいと思ったので、俺はこの嵐と花の二つの意味を持つ『ラン』という名前を候補に挙げました。……以上になります」
「……んー……」
ストームドラゴンは目を閉じてどの名前にするか、それとも全部却下するかを考えているようだ。
その待ち時間は数秒でも数分、十数分に感じられる。
やがてストームドラゴンは目を開くと俺の方を見る。
「あたしは……『ラン』がいいかなぁ」
みんながワッ、と歓喜の声をあげる。
それもそのはず、あの会議、無駄に3時間も費やしたからね……これが名付け下手だ! ……威張って言うほどのものでもないが。
とりあえず、差し戻しが無くて助かった……ホントに……。
「それじゃ、名前のお礼に何かあげよっかな……ちょっと待っててねー」
ストームドラゴン……もとい、ランさんはそう言うと自分の巣へと戻っていった。
「……な、なんとかなりましたね……」
「私は全部却下でブレス攻撃でダメ出しされるかと思ってヒヤヒヤしました……」
「ああ、おれはコウによくやったで賞をプレゼントしよう」
「俺は小学生か何かですか。いや、名付け下手は確かに小学生レベルですが……」
……と、俺たちが冗談を言い合っていると、ランさんが巣から戻ってくる。手……というか爪には大量の何かを挟んで持っているようだが……。
ランさんがそれを地面の上に降ろすと、太陽の光を受けてキラキラ輝き始めた。
「はーい、コウにはこれの一番大きいのあげちゃう」
「これは……虹色の鉱石……?」
「あたしの巣、暇な時に拡張するために掘ってるんだけどー、その時に出てきたやつー」
「巣に鉱脈が……?」
「んー……よくわかんなーい。キラキラしてて綺麗だから取っておいたの。コウはこういうの好きなんでしょー?」
「……ええ、とても好きです。ありがとうございます」
「ふふーん、あたしはコウのそういう素直な所は好きよー。じゃあ、他の名前を考えたよわよわ人間にはぁ……」
その後、ギルドメンバーたちは全員が小さいながらも虹色の鉱石を、まだ鱗を持ってない人には鱗も合わせてもらうことができた。
特にランさんが好きなメンバーは狂喜乱舞していた。「これでいつでも一緒にいられます!」って言ってたし。
「……ところで、今回はこれだけなのぉ?」
「はい、思いのほか名前を考えるのに時間を使ってしまって……」
「時間の使いかた下手すぎぃ。……でも、それだけ本気で考えてくれたってことだろうし、許しちゃう」
「あ、ありがとうございます」
今更名前を付けるのが下手だから時間かかってましたとか言えない……。まあ、いい感じになったので終わり良ければ総て良し、ということにしておこう。
**********
「……さて、この虹色の鉱石はどうしたものか……」
ランさんからもらった虹色の鉱石を見ながら独り呟く。
自分で何かを造るにしても、虹の杖じゃちょっと補正値が物足りないんだよなあ……やっぱりブラウニーさんに渡すのがいいのかな。それで無機物操作が教えてもらえるなら、カイザーさんたちに伝授してもらって……。
ただ、今はカイザーさんたちは旅に出ているから、交渉するなら帰ってきてからにした方がよさそうだ。もしかしたら、水属性の無機物操作を習得しているかもしれないしね。
「……よし、それじゃ畑の方の作業をしようかな」
俺は一仕事終わったので、今はのんびりしたい気分だ。
畑で土いじりをして種を蒔いて……こういうまったりとした時間が心地いいんだよなあ。
ちなみに蒔いているのは何ができるか分からない謎の種。以前手に入れたものは意外と袋が大きくて、おみくじのように毎日蒔いている。
「コウー、今日も蒔いたのー?」
「うん。何ができるか楽しみだからね」
「この前のアヤメ綺麗だった! 花だといいなあ……」
「ふふ、ライアが気に入るものだといいね」
「うん! あ、それじゃ成長促進、使っておくね」
「お願いするよ。終わったら薬草の種も蒔いておこうかな」
ライアの成長促進のおかげで、ほぼ毎日のように収穫ができているからありがたい。
謎の種は何ができるか分からないので日数がかかるものもあるが、薬草なら即日でできるからね。
「それではそのあとはわたしがお世話をしますね。品質が上昇しますから」
「ありがとうレイ。いつも畑のお世話をしてくれて助かるよ」
「えへへぇ……」
「それじゃ、ジョウロに水を汲んでこようかな」
「あ、ねえねえレイ。水を撒くときはライアを呼んでくれる?」
「ライアちゃん、虹が好きだもんね。いいよ、それまでは遊んで待っててね」
「はーい!」
うーむ、この2人は仲が良くてやっぱり姉妹みたいだな。そしてライアは虹が好きなのか……確かに綺麗だし、見たくなるのは分かる。俺が昔見たダブルレインボー、見せてあげたいなあ。
……おっと、ジョウロに水を汲まなきゃ。ウォーターの魔法でもいいけど、今はアイテム作製にMPを使いたいしね。
俺は複数のジョウロに水を満たすと、畑に戻ってレイに渡す。
レイは複数のツタにジョウロを持ち、広範囲に水を撒けるのでかなり効率的だ。散水機などを造ってもいいかもしれないが、レイは手作業でやりたいというこだわりがあるので、今はジョウロのみで水やりをしている。
「ライアちゃーん、準備できたよー」
「はーい!」
「ら!」
「ふぇー!」
……どうやらブラウンとニアも虹を見に来たようだ。やっぱり虹ってこどもにとっては憧れみたいなものがあるんだなあ……。
その後、レイたちの様子を見ながらゆったりとした時間を過ごすのだった。
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「……お、タイガさんたちもランさんの所まで到達してる」
掲示板を漁っていたら、タイガさんや他のランカーたちも続々とランさんのところまで到達しているようだ。
だが、どのパーティーもドラゴンの機動力の高さについていけず、後衛から蹂躙されてパーティー壊滅がテンプレのようになっている。
どこぞの飛竜のようなワールドツアーとまでは行かないものの、やはり空にいるときの攻撃方法が限られるのがつらいところだ。
ドリアードのバインドなども試したパーティーがあるものの、属性不利なドリアードが先に落とされたり、バインドしてもすぐに振り解いたりと、あまり効果がない模様。
また、風起こしで空を飛んで対抗しようとしても、スピードが違い過ぎてまったく追いつけないようだ。
そのため、ダメージランキングも数値がいまいち上がっていかず、「パ、パワーが違い過ぎる……」を実感しているプレイヤーも多数らしい。
果たしてこの先ランさんは分からせられるのだろうか……と掲示板を見ながら思うのだった……。




