ストームドラゴン
『おい、緊急イベント見たか?!』
『ああ、ストームドラゴンとの戦闘みたいだな』
『たぶん倒せない想定だから、一回の戦闘でのダメージや累計ダメージで報酬がもらえるんだな』
『周りのザコにすら苦戦してるのにドラゴンはなあ……ドラゴンの所まで辿り着くのにも一苦労だろうしさ』
『その辺は大丈夫そうだぞ「1回でもドラゴンと戦闘したことがある場合、ポータルでワープできるようになります」って注意書きにあった』
『ほう、それは助かるな。累計ダメージ狙いならゾンビ戦法もいけるか……?』
『それでお金が続けばいいが……』
『そういえばポータルでの移動料金はまだ出てなかったな。金額次第かあ』
『それにしても、誰がドラゴンを発見したんだろ? 発見したからイベントが発生したんだろうしさ』
『確かに。戦った時の動画ないのかなあ』
……などと掲示板が大盛り上がりしている時、俺たちはストームドラゴンの宣戦布告動画を撮る準備をしていた。
まさかこんなことになるとは……。
「……ところで、この洞窟の中で撮るんですか?」
「んー……あたしは外がいいかなあ。この中じゃ、あたしのかわいい身体がよく見えないしぃ……」
かわいい……かわいいとは一体……?
大きな翼と角、鋭い爪、硬い鱗。
喋りさえしなければ、かわいいよりもかっこいいの方が先に出てきそうなんだけど。
でも、そういう感覚は種族によって違いそうだし、彼女はドラゴンの中ではかわいいということになるんだろう。
「それならいったん外に出ましょうか? ……でも、ここの出口はどこに……?」
「んー、出口ならあっちにあるよー。ま、人間じゃ出られないけどね」
「そうなんですか……?」
「ふーん、それならついてきてみる? ざこざこ人間じゃ無理だろうけどー♪」
「あの……ついて行けないなら動画が撮れないんですけど……」
「……あっ、そっかー。ま、それなら一緒に行ってあげようかなー」
「……なあコウ、おれたちもついて行っていいのか?」
俺がストームドラゴンと話していると、アトラスさんたちも合流する。
ライアはストームドラゴンが怖いのか、合流はしたものの俺に抱き着いて離れてくれない。
「そうですね……動画なら俺だけでも撮れそうですが……どうしましょうか?」
「いい物を作るなら複数人いてもいいんじゃない? あたしは別に構わないよー?」
「おれはこんな貴重な機会はないと思ってるから行くぜ」
「わ、私もです! それに、ストームドラゴンさんも女性なので、少しお話してみたいなって……」
「ぷっ……ふふっ、あたしを女性扱いって……普通の人間なら怖がるはずなのに……アンタたちおもしろーい♪」
確かに俺たちの何倍も大きいドラゴンだから、この世界の住人からしたら普通は恐怖の対象だよなあ。これだけ自信満々にしてるんだから、実力は相当なものだと戦ってなくても分かる。
「まぁいーや。それじゃ外に行くよ、よわよわ人間♡」
「は、はい!」
俺たちはストームドラゴンに導かれ、洞窟を進んで行く。
しばらく歩くと出口なのか外から射し込む光が見えてくる。
そして、そこから外を見ると絶句する。
「高い……」
そう、俺たちが入った洞窟は地上から20メートルぐらいの高さだったはず。
いつの間にか、地上から500メートルは離れている洞窟に迷い込んでいたのだ。
洞窟の位置がランダムに変わる仕様だから、洞窟内を掘ったことで座標がバグって変なところにつながったのだろうか?
「ね、これじゃあよわよわ人間じゃ無理でしょー?」
「確かに……」
ここまで登ろうと思っても、無機物操作でもMPが足りなくなって途中で墜落してしまうはず。
……本来ならストームドラゴンの洞窟って、まだ来るべきところじゃ無かったのでは……?
「そんなよわよわ人間のために、と・く・べ・つに! あたしの背中に乗るのを許可してあげる。嬉しいでしょ?」
「そうですね……確かにドラゴンに乗って空を飛ぶ経験なんて滅多にできないでしょうし、ありがとうございます」
「あはっ。すんなり受け入れるなんてやっぱりおもしろい人間ー♪ それじゃ、あたしの背中に乗ってちょうだい。振り落とされるほどざぁこじゃないよねー?」
俺たちはストームドラゴンの背中に乗ると、ところどころにある刺状の突起にしがみつく。
全員が乗ったことを確認すると、ストームドラゴンはゆっくりと飛び立って、今いるところよりも上を目指して翼を羽ばたかせる。
「おお……」
俺は若干の高所恐怖症なんだけど、ストームドラゴンの背中から見るキヴァナ峡谷の景色が美しく、思わず声が漏れ出てしまう。
「すごーい……」
それはライアも同じだったようで、俺に抱き着いたまま離れてくれないのは変わっていないが、目をキラキラさせて景色を堪能しているようだ。
そんな景色を見られたのは頂上に着くまでの間……ほんの2、3分だったが、動画に撮っておけばよかったと思うほどのものだった。
そして、ストームドラゴンはキヴァナ峡谷にあるテーブルマウンテンの頂上に降り立つと、俺たちに背中から降りるように促す。
「ふふ、どうだったぁ?」
「あのねあのね、すごかった! 山とか木とか花がたくさんですっごい綺麗だった!」
「くすくす……そんなに気に入ってくれたの?」
「うん! レイたちにも見せてあげたい!」
「レイ……?」
「あ、レイは俺たちの仲間のアルラウネです。他にもたくさん仲間がいますね」
「ふーん……やっぱりアンタたちっておもしろーい……それじゃ、あたしを楽しませてくれたら、いつでも乗せてあげようかなぁ」
「が、がんばります……」
楽しませると言っても、戦う場合は俺たちのレベルじゃ速攻でやられちゃいそうなものだが……。
遊ぶという意味での楽しませるなら……と言っても、クイーンドリアードさんたちは普通の人間サイズだから遊具などを楽しんでくれたが、ドラゴンサイズだと遊具の作製も大変だろうし……。いろいろ考えないとなあ。エルダートレントさんはトランプを楽しんでくれたし、そっちの方向で行くか……?
「ま、それはさておき、早速宣戦布告の動画? とかいうの作ろ?」
「そうですね、それが目的でしたし……それにしても……」
「ん? 何?」
「いえ、洞窟の中では分からなかったことですが、太陽の光に鱗が照らされて綺麗だなと思いまして……」
洞窟の中は暗く、ストームドラゴンの緑色の鱗が分からなかったが、外に出ることでその一つ一つが太陽の光に照らされて光り輝いている。
ライアも同じ想いのようで、ストームドラゴンの身体に見惚れているようだ。
「あはは、やっぱりアンタたちって変わってるー♪ そういえばアンタたちの名前は何ていうの?」
「俺はコウです、こちらはドリアードのライアになります」
「おれはアトラスだ」
「私はアテナです。……ストームドラゴンさん、確かに身体つきも女性っぽくて、かわいらしいですね」
「ふふ、ありがと。……それじゃ、コウたちにはこれをあげる」
ストームドラゴンは古くなったと思われる鱗を爪で剥ぐと、俺たちに1枚ずつ渡す。
「これは……」
「それを持っていればここのモンスターたちは襲って来なくなるから、あたしを楽しませられると思ったらまたここに来るといーよ」
「分かりました、ありがとうございます」
……いわゆる顔パスみたいなものだろうか。カイザーさんの羽根みたいに。
【INFO:ストームドラゴンの所にポータルで移動できるようになりました。エインズの町のポータルをご利用ください】
ん……? 近くにポータルがあるならこれは必要なさそうなものだが……ま、厚意でもらえたなら大事にしよう。
「すごーい! きれー!」
ストームドラゴンの透き通った鱗は、本体から離れても太陽に照らされて緑色に光り輝いている。古くなった鱗とはいえ、まだまだその綺麗さは健在だ。ライアが興味津々なのも頷ける。
「あとからみんなに見せてあげようね」
「うん!」
「……たかが鱗でそこまで喜ぶなんてねー……やっぱりおもしろーい」
「いえ、ほかの子も同じ反応をしてくれると思いますよ。……さて、それでは早速動画を撮影しましょうか?」
「そうね、それじゃお願いしよっかなー」
こうして、俺たちは宣戦布告動画を撮影することにしたのだった。
**********
『おい、ストームドラゴンの動画見たか?!』
『ああ、ドラゴンというだけあってかなりのデカさだな……あれと戦うのか』
『いや、それよりも一つ言いたいことが……』
『『『この……メスガキがっ……!』』』
『……ぽまいらなんでそんなに息ピッタリなんだよ』
『いや、メスガキなら言っておかないとと思って……いや、ドラゴンならメスドラか?』
『メスドラだと普通のメスのドラゴンになるぞ。……しかしドラゴンでメスガキって、運営はどんな性癖持ってんだ』
『でも安易に人化しないあたりは好感が持てるな』
『念』
『俺……ストームドラゴンにガチ恋しちゃったかもしれない……』
『また業が深いプレイヤーが出てきたな……』
『ところでこの動画撮ってるのたらしさんだよな?』
『メスガキまでたらすか……』
『いや、なんかストームドラゴンにいいように使われてる感があるから、たらすまでは行ってない気がする』
『戦闘せずに会話できる時点で若干たらしてる気もするが……。まあ、おかげさまでキヴァナ峡谷での目標ができたんだし、ありがたいな』
……と、掲示板が盛り上がっているころ、俺たちは一旦キヴァナ峡谷から帰ることにした。
ストームドラゴンを楽しませるものを造るにしても、ギルドに帰って相談した方がいいと思ったからだ。鱗とポータルのおかげでいつでもここに来られるしね。
「それではストームドラゴンさん、俺たちは一旦これで失礼します」
「じゃねー。さーて、どんな人間が来るか楽しみー♪」
おそらくタイガさんのギルドかタケルのギルドが一番乗りすると思うけど……道中はどれだけ大変なんだろうなあ……俺たちがショートカット? を発見できたのは偶然だし、道中のモンスターは分かっていないんだよな。
おそらくテーブルマウンテンの頂上まではダンジョンになっていて、各フロアごとにボスがいるんだろうけど……そうなると、早くても一週間以上はかかりそうだ。ストームドラゴンが痺れを切らさなければいいんだけど。
「あっ、ちょっと待って」
「どうされました?」
「あたしにもそのドリアードみたいに名前を付けて欲しーなー。『ストームドラゴン』ってかわいくないじゃない?」
「そ、そうですかね……」
「そーなの! 次に来るときまででいいから、よろしくねー」
は、ははは……名付け下手な俺たちにとんでもない課題を……。これもギルドに持ち帰って相談しよ……。
**********
「さて、帰ってきたしまずは今回のイベントの内容を確認しておこうか……」
【VSストームドラゴン】
キヴァナ峡谷に現れたストームドラゴン。エインズの町を襲う気配はないが、念のため調査を依頼したい。
ドラゴンは宝物を集める習性があるため、ドラゴンに気に入られるほどの実力があれば宝物を譲ってもらえる可能性がある。気になる冒険者は力試しとしてストームドラゴンに挑戦するのもいいだろう。
【イベントについて】
・1度の戦闘でのダメージ量がランキングとして集計されます(個人・パーティー)
・累計ダメージ量がランキングとして集計されます(個人・パーティー)
・そのほか、ストームドラゴンが何かしらの理由で楽しめた場合、ストームドラゴンからランダムに何かがもらえます
・ランキング上位には報酬があります。奮ってご参加ください
・ストームドラゴンに1度でも会うと、エインズの町のポータルからテーブルマウンテンの頂上まで移動できるようになります
「……俺たちができるのは、何かしらの理由で楽しめた場合、かなあ……」
遊具を造るにしろ、遊びを考えるにしろ、まずは相談だな。
俺はギルドメンバーを集めると、今回のイベントについて会議をすることにした。
なお、数日後にストームドラゴンに一番乗りしたのは甘寧……ではなくて、タケルたちだった。
クヴァーナ砂漠で熱砂の鉱石を集め、火属性の武器を多数造りあげて道中のモンスターを次々に撃破していったようだ。テーブルマウンテンの頂上までは10階層あり、新規モンスターも多い。
しかし、そんなタケルたちでもストームドラゴンには敵わず、ほぼダメージが与えられないまま全滅してしまう。ストームドラゴンの圧倒的な機動力により隊形を維持できず、後衛から順に倒されてしまって手も足も出なかったとか。
……そりゃあ空を飛んでるからね……遠距離から一方的に攻撃されてしまうから、何かしらの対策が必要なようだ。キヴァナ峡谷の他のモンスター同様に風起こしでダウンバーストを発生させてもビクともしないあたり、別の戦術が必要そうだ。
……こうしてストームドラゴンのイベントが開始したのだった。




