キヴァナ峡谷②
「……さて、ピラミッド周りをざっと見てみたけど……フィーリア、どう?」
「んー、前と変わらない感じにゃ。セクメトがいなくなっても問題ないみたいで安心にゃ」
どうやらセクメトさんがいなくなっても、治安は変わらないようだ。
以前セクメトさんが言ってたように、操られていた時に異なるモンスターで連携していたのもあって、どちらかというと仲間意識が芽生えているような感じもする。あの時から結構な時間が経っていてこれなら安心かな。
「ま、これで気兼ねなくコウたちについていけるにゃー」
「それならよかったかな。……ん? タイガさんからメッセージ……?」
俺が安心していると、突然タイガさんからグラティス草原に来て欲しいとのメッセージが到着した。
どうやらセクメトさんに関係があるようだけど……。
「どうしたにゃ?」
「ちょっとセクメトさん関係で相談したいことがあるみたい」
「ふーん? にゃーも久しぶりに会いたいし、行くにゃ?」
「もちろん。すぐに向かおう」
俺たちは砂漠の視察をほどほどにして切り上げ、急いでグラティス草原へと向かうのだった。
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「お待たせしましたタイガさん……と、そちらで項垂れているのは……セクメトさん?」
タイガさんの陰に隠れるようにして立っているのはセクメトさん。以前のような自信満々の態度はどこへやら。生まれたての小鹿のような感じになっている。
「あの……セクメトさんにいったい何が?」
「ああ、クイーンドリアードに勝負を挑んだのだが……」
「クイーンドリアードさんに?!」
あの人レベル3000超えてるのに……マーメイドクイーンさんやエルダートレントさんみたいにレベルが分からない人もいるが、中でもクイーンドリアードさんは俺の知っている人の中ではおそらく最強クラスのはず。
いったいどんな感じの勝負になって、ここまで自信を潰されたのだろうか……。
「いったい何があったんです?」
「実はな……殺気を飛ばされて戦意を喪失してしまってな……」
「殺気だけで?!」
マーメイドクイーンさんには策からの拳の一撃をもらって負けたので、まだ納得のいく負けだっただろうけど、殺気を飛ばされただけで負けたのは相当心が折られるはずだ。
……容赦ないなあ……たぶん、遊んでいるところを邪魔されたからとかそんな理由なんだろうけど。
「あ、あ、あ、あのお方は別次元です……我なんてザコです……殺気だけで失禁しかけましたし……」
「そ、そこまで?!」
「あんなお方と対等に話せるコウさんは凄すぎます……師匠と呼ばせてください……」
なんかキャラ崩壊してるんですけど……。なんとか立ち直ってもらいたいのだが……。
「ええと……クイーンドリアードさんはレベル3000を超えているので、しょうがないと思いますよ」
「さ、3000……?!」
「ええ、本人が言っていたので間違いないかと」
「それなら何も気にすることはないのではないか? そのレベル差なら誰がやっても同じであろう」
「……はい」
「これからレベルを上げて、より強くなってから再戦すればいい、そうだろう?」
「そう……だな……。……よし、これからキヴァナ峡谷へ行こう。そこでまた戦果を挙げるとしよう」
あ、口調が戻った。
どうやら少しだけでも立ち直ったのかな。あの調子だとセクメトさんらしくないし、よかったよかった。
「すまぬなコウ殿、急な呼び出しをしてしまって」
「いえ、大丈夫ですよ。それではキヴァナ峡谷の攻略、がんばってください」
「ああ、いい報告ができるようにする」
立ち直ったセクメトさんがレベル上げのために張り切りに張り切って、キヴァナ峡谷の攻略が一気に進むことになるのだが……それはもう少し後の話である。
**********
「おう、コウじゃないかい。ハンモックの対価はこれでいいか?」
「充分過ぎますよ。こちらが追加でお支払いしないといけないぐらいです」
翌日、トレントの島のアルラウネさんたちを訪問する。アテナさんに頼んでいたアラクネの糸を使ったハンモックができたので、納品しに来たのだ。
アルラウネさんたちは相当張り切っていたらしく、サハギン、リザードマン、マーメイド、ウンディーネ、ペンギンの魔石が各種100個ほどある。
……さすがにこの量とハンモックでは釣り合わないので、追加でGを支払うことにする。
アルラウネさんたちも遊ぶのにお金を使うのでちょうどいいはず。
「よし、それじゃあありがたく頂くよ。……しかし、ちょっと多すぎないかい? コウは損をしていないか?」
「大丈夫です。特にペンギンの魔石は市場にあまり出回っていないので助かります」
そう、ペンギンたちのダンジョンは氷のせいで攻略難易度が高く、ペンギン自体も強いのでなかなか魔石が出回らないのだ。
うま味が少ないダンジョンなので、アイテムを多用してまでペンギンの魔石を取ろうとは思わないだろう。
俺たちはカイザーさんのおかげで自由にダンジョンを探索できるけど、普通の人は敬遠するよね……。
そういえば、ペンギンのダンジョンの宝箱は結構な回数開けてきたので、氷の剣などの強力な補正がある武器も結構集まったな。魔石と一緒に今度フリーマーケットで出してみよう。
これもカイザーさんのおかげだよなあ……何かお礼ができればいいんだけど……。
「……ん?」
そういえばカイザーさんたちは水属性の無機物操作を探しに行ったんだよね。よく考えたらブラウニーさんが持っていて、しかも伝授してもらえる……。
しかし、カイザーさんを始めとしたペンギンたちは暑さに弱いんだよなあ……砂漠まで来てもらうなんて難しいような……。それに、人間嫌いのブラウニーさんはペンギンはどうなのかという問題も。この辺り、何か解決策があればいいんだけど……。
とりあえず、カイザーさんたちがダンジョンに戻ってきた際に、まだ無機物操作が見つかっていなかったら相談してみよう。
「どうしたコウ、考え事か?」
「あ、すみません。旅に出たカイザーペンギンさんたちのことを思い出していました」
「ああ、それはマーメイドクイーンに聞いたな。空を飛ぶためにスキルを探しに出たとか。シルフィーみたいに飛べるなら、アタシもそういうスキルが欲しいねえ」
「アルラウネさんたちは普通に飛べますけど、やはり速く飛びたいのですか?」
「そうだね、鳥のように飛べたらいろいろな所に行けるしさ。憧れるねえ」
アルラウネさんたちだったら無機物操作の地属性かな。モンスターで言えばノームが使えるけど、伝授できるのはブラウニーさんしか知らないし……ブラウニーさん大活躍過ぎる……。
……あ、もしかしたら上位種のノームさんも使えるかも。ブラウニーさんと同じく上位種だし、伝授できそうな気が……今度聞いてみよう。
「おお、アルラウネとコウではないか。……ほう、アルラウネもハンモックを手に入れたのだな」
「ああ、このあとじっくり堪能させてもらうさ。マーメイドクイーン、アンタが絶賛してたから相当なモンなんだろ?」
「その通りだ。一回これを使ったら地面などでは寝られなくなるぞ」
……何だか過大評価されているような気がする!
でも、基本的に寝具を使ったことないモンスターからしたら、そういう評価になるのかもしれないな。
「なるほどね、今から楽しみだ。……ところでマーメイドクイーン、アンタは飛べるスキルを知らないかい?」
「ん? やろうと思えば余ならいつでも飛べるぞ?」
「ほー、どうやるか教えてもらってもいいかい?」
「なに、簡単なことだ。はっ!」
マーメイドクイーンさんは地面に勢いよく水魔法を撃ちだすと、反動で身体がフワリと浮かんでいく。
そしてそこから更に魔法を発動し、反動で空中を器用に飛んでいく。
「……コウ、アタシはアイツには勝てそうにないと改めて思った……」
「ちょーっと力業過ぎますよねえ……」
やっていることは風起こしで飛ぶ方法に似ているとはいえ、あれだけの出力の魔法を撃とうと思ったら相当魔力が高くないとできそうにないだろうな……。
と、自在に飛び回るマーメイドクイーンさんを見上げながら思うのであった。
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「コウ、おれたちもそろそろキヴァナ峡谷の攻略に参加してみないか?」
「そうですね、充分に情報も集まりましたし、トレントの島でのレベル上げも経験値が足りなくなってきましたし……そろそろですかね」
「私は洞窟が気になりますね、まだ発見されていない洞窟に貴重なアイテムや、見たことのないモンスターがいるかもしれないと思うとワクワクします」
キヴァナ峡谷の洞窟の出現パターンは解析されていて、ABCDEFGという7つのパターンがあり、それが一週間で1セットになっている。ただしどのパターンがどの日に来るかはランダムで、ABCDEFGだったりBDCAGFEだったりと組み合わせの法則性はいまだに見い出せないとのことだ。
それでも、1つの洞窟を見に行けばその日のパターンがどれか確定することができるので、ほぼ攻略されていると言っても差し支えないはず。
今日は宝箱が多く配置されているパターンなので、アトラスさんはおそらくそれ目当てなのだろう。
「それで、アトラスさんはどのアイテムが欲しいんですか?」
「ははっ、やっぱりバレてるか。おれが欲しいのは……これだな」
アトラスさんはウィンドウを表示し、掲示板の内容を指し示す。
「烈風の鉱石……ですか。確か風属性の補正値が+60の装備が造れる鉱石ですよね」
「ああ、これまでトレントの島の水属性、クヴァーナ砂漠の火属性、キヴァナ峡谷の風属性ときたら、次のマップはおそらく地属性だろ? 今から装備を造っておけば攻略が楽になると思ってな」
「確かに。それに防具に使えばダメージが軽減できて、キヴァナ峡谷でのレベル上げも捗りそうですね」
「そういうことだ。ただ、宝箱の中身はランダムだから、根気よく洞窟を回る必要があるが……」
「私は大丈夫ですよ。洞窟に入る時はムーちゃんに無機物操作を使ってもらいましょう」
「それは助かるぜ。風起こしはまだうまく使えなくてな……」
……俺はブラウニーさんのおかげで風属性以外の無機物操作が使えるようになったのだが、これを使っちゃうとどこでスキルを伝授されたのか、という話になっちゃうから俺としても助かる。あまり隠し事はしたくないけど、ブラウニーさんのためだ。
「あとはペットモンスターをどうするかですね。地属性のライアたちは出せないですし……」
その後、様々なことを相談して、俺たちはキヴァナ峡谷へと向かった。
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「おお! ようやく烈風の鉱石か! いやー、まさか10か所回ってようやく1個か……」
「相当確率が低く設定されてるんですかねえ……」
「アトラスさん、コウさん。この洞窟の壁をライアちゃんのスキルで掘ったら、鉱脈とか無いですかね……なーんて……」
「「それだ!」」
「ふぇ?!」
そっか、よく考えたらそういう可能性はあるな。
スコールの穴掘りで良いアイテムが出ないかは試したけど、横に掘るのは忘れてた。ライアが地属性なので外に出すと危ないから選択肢から抜けてたな。ちなみに穴掘りでは薬草の種など、ショボいものしか出てこなかった……。
「それじゃあライア、お願いできるかな?」
「任せてー! ……コウ、どっちに掘るー?」
「こういう時、鉱脈の位置が分かればなあ……バイスさんはノッカーからスキルを教えてもらってたみたいだから、バイスさんがいればいいんだろうけど……」
そう、バイスさんも地属性。キヴァナ峡谷に来たら属性不利のせいで速攻でやられてしまうだろう。
俺たちもノッカーに教えてもらえればなあ……。
などと考えつつ、掘る方向が決まらないので、木の棒を空中に投げて先端が指し示す方向に掘ることにした。要するに運任せである。
「……よし、それじゃあライア、あっちに掘ってくれる?」
「おーっ!」
それでもライアはノリノリである。今日は風属性のマップなので出番がないと思ってたから、張り切っているのもあるかもしれない。
ライアが切削スキルでどんどん掘り進めていくと、急に途中でこちらを振り返る。
「ねー、コウー。どこかにつながってるみたいー」
「えっ……。もしかして、本当に鉱脈が……?」
俺はライアの掘った通路に入って確認すると、風が吹いてきた。一部がつながったことで向こうの洞窟から送り込まれてきたのだろうか?
あと1回切削スキルを使えば完全につながるはず。果たして鬼が出るか蛇が出るか……つながった瞬間にモンスターが襲ってくる可能性を考えると、ライアには後ろに行ってもらい、俺がツルハシで掘り進めることにする。
そして通路が開通すると、俺は細心の注意を払いながら部屋へと入っていく。
辺りはヒカリゴケで照らされているため視界は良好だが……遠くに巨大な影が見えた。
それは大きな翼を持ち、頭に巨大な角が生えているのが分かる。もしかして、これは……ドラゴン……?
ドラゴンといえば普通のRPGだと物語後半に出てくる強力なモンスター。
もしかしたら、俺はとんでもないものを掘り当ててしまったのかもしれない。
俺は巨大な影に気付かれないように、忍び足で元の通路に戻ろうとする。
「へー……帰っちゃうんだ……?」
「?!」
気付かれた!?
俺はそーっと振り向くと、鋭い眼光が遠くに見える。
そしてそれは、ゆっくりとこちらへと歩み寄ってくる。
「人間なんて久しぶりに見たから……楽しませてくれないかなあ……」
「た、楽しませるとは……?」
「もちろん戦うとかかなあ……でも、力量差が分かって退こうとしてるよわよわ人間には無理かぁ。ざぁこだもんねー」
……何このテンプレなメスガキムーブしてくるドラゴン……。運営の趣味か……?
「おっしゃる通り俺は弱いですけど、他の人ならもしかしたら……」
「へぇ、それじゃつよつよ人間を呼んでくれるー?」
「それなら動画で宣戦布告をされてみます?」
「どーが?」
「ええと……こういう風に映像を撮るものでして……」
俺は既にある動画をウィンドウで流してドラゴンに見せる。
するとドラゴンは興味津々といった感じで、これで宣戦布告をしたいと了承してくれた。
……こうして、なぜか俺たちはドラゴンを楽しませることになるのだった……。
【INFO:緊急イベント、VSストームドラゴンが開始されました】




