進化
「らー!」
ブラウニーの上位種とブラウンが出会ってから数日。
毎日ブラウンに異なる魔石を食べてもらい、本日進化することができた。ちなみに進化に必要な魔石は鉱石喰らいだ。ちょうどバイスさんに依頼した装備品を受け取りに行くついでに倒して、魔石を回収した日だった。
バンシーと同じ魔石での進化なので、これを公表したらブラウニーのために鉱石喰らいを倒しに行く人も増えるだろうか。
「問題はブラウニーの上位種の人が人間嫌いなところなんだよなあ……」
そう、進化条件に必要な上位種がいる場所が分かっていても、本人が会いたくないのであれば強要はよくないし……。もちろんブラウニーだけで行けばいいのだが、中には上位種に会いたいってプレイヤーが無理矢理会いに行こうとする可能性もあるから、余計に人間嫌いを拗らせる恐れがある。
それならしばらくはブラウニーの上位種については秘匿しておくのも一つの手かな。ノームたちの村に行く方法も、フィーリアがいなければ分からなかったんだし。それに、上位種は世界に1人だけという縛りもないはず。
……ただ、あの村に行けばノームとブラウニーが進化できるので、その子たちをペットモンスターにしているプレイヤーは絶対に行きたいだろうしなあ……アテナさんやアトラスさんもノームをペットにしてるし。とりあえず、今度行った時にブラウニーさんに相談してみるかな。
「さて、と……それじゃみんな、今日はトレントの島に行こうか」
「はーい!」
「今日は誰と一緒に行くんですか?」
「それはもちろん……」
「ら!」
今日進化したばかりのブラウンだ。本人としても進化した姿で外を歩きたいだろうし、進化のご褒美ということで。
「やっぱりブラウンだよねー」
「ブラウンちゃん、いつでもわたしに代わってくれていいからね?」
「あーっ、レイだけずーるーいー! ライアもライアもー!」
「はいはい、分かったから。でも、今日はブラウンが主役だからね」
「ら!」
そんな和やかな会話をしながら、俺たちはトレントの島に行く準備を始めるのだった。
**********
「それではお納めください」
「うむ、確かに。それではこちらもリュウグウノツカイの魔石を……」
……ん? リュウグウノツカイの魔石ってもしかして……背後に山のように積まれているやつ?
いやいやいや、軽く見積もっても100以上あるような……。
「あの……いったいどれぐらいの数を……?」
「ん? 100からは数えてないな」
ほらー! これだから上位種の人はー!
絶対にリュウグウノツカイの魔石の方が価値が高いと思っていたので、同数でもこちら有利過ぎるのにこれじゃあとんでもないシャークトレードだよ……。
「ちなみに交換レートは……」
「これ全部と全員分のハンモックでいいぞ」
ウワーッ!
さすがにハンモックと魔石全部は不釣り合い過ぎてよろしくない、というのを懇切丁寧に説明し、こちらが的当てなどで遊ぶためのお金を追加で出す、ということで交渉は落ち着いた。
ちなみに今回のハンモックは、アテナさんのところのアラクネのシーダちゃんに手伝ってもらったので、品質は保証できる。
100からは数えていないとのことなので、アイテムボックスに全部収納したところ、魔石の数は151となった。これを売って差額が出た場合には、更にそれを追加でマーメイドクイーンさんに渡すことにした。
「まったくコウは真面目過ぎるな。黙っていれば気付かないものを」
「さすがに良心が痛みますよ……」
「だが、そういうところがいいのだろうな。余もコウのことは気に入っておるぞ」
「あ、ありがとうございます。……ところで、このハンモックはどこで使われるのですか? 大勢で使うには丈夫な木が複数必要ですが……」
「ああ、その辺の目途はついてある。ついてきてくれ。……む、そこのブラウニーは進化したのか」
マーメイドクイーンさんがチラリとブラウンを見て言う。見た目は変わってないんだけど、分かる人は分かるんだな……。
「らー!」
「ほうほう、コウが上位種を探してくれて、更に魔石も手に入れてくれたと」
「ら!」
「なるほど、自分も上位種のブラウニーみたいなかっこいい男になりたいと。それなら今度余が稽古をつけてやろうか?」
「や、やるにしてもお手柔らかにお願いしますね?」
「うむ、余でも手加減はできるぞ。瀕死ぐらいまでは」
「……全然お手柔らかじゃない……」
マーメイドクイーンさん、HPを10だけ残すみたいなスキルでも持ってるんだろうか……。
一応ブラウンは乗り気だし、一回だけならいいかもしれない。
しかし、そんなにブラウンが憧れるブラウニーの上位種……どんな人なんだろうか。
「れー!」
「おお、すまんな。それではハンモックを使いに行こうか」
「……ここだ」
「えーっと……」
エルダートレントさんだこれ!
確かに凄まじいまでの大きさと丈夫さなんだろうけど……いいのだろうか。
「──ということで、ここで使わせて欲しいのだが」
「うむ、いいだろう。その代わり……」
「ああ、ハンモックを使ったあとは我々総出でトレントたちに水を配って回ろう」
「頼んだぞ。最近雨がなかなか降らないでな……困っていたところだ」
「了解した。それでは早速……」
マーメイドクイーンさんたちはエルダートレントさんの太い枝にハンモックを設置していく。枝ですらその辺の木の幹ぐらいあるって凄いよな……。
そして、速攻で爆睡するマーメイドクイーンさんたち。寝つきの速さも凄いよな……。
「おー、遊びにきたよ……って、コウじゃないか。それにこの状況は……」
アルラウネさんがマーメイドクイーンさんたちがハンモックで寝ている状況を見て、目を点にする。
そりゃあエルダートレントさんの枝に、蜘蛛の巣のように張り巡らされているハンモックを見たらそうなるよね。分かる。
「ええと、実は──」
「──へえ、なるほどね。アタシたちもコウの作ったハンモックが欲しいんだが……いったいいくらになるんだい? それとも……身体で払った方がいいかね?」
アルラウネさんが悪戯っぽく胸を両腕で挟んで胸を強調する。あのう、娘もいる方がそういう方法を取るのはどうかと……。と、いうことをやんわり言うと、アルラウネさんは笑い飛ばす。
「あっはっは、冗談だよ冗談。半分ぐらいね。マーメイドクイーンみたいに魔石とかを取ってくるという意味での身体で払う、なら大丈夫かい?」
半分は本気だったのかよ! と思わずツッコミたくなるが、そこは止めておこう。墓穴を掘りそうだし。
「それなら大丈夫です」
「ただアタシたちは海中には潜れないからね。この島のダンジョンの魔石になると思うが……」
「では、ロックバード以外のモンスターの魔石をお願いできますか?」
「それぐらいなら朝飯前さ。次にコウが来る時までに用意しておくよ」
こうして、アルラウネさんたちにもハンモックを提供することになるのだった。……アテナさんには後からメッセージを送っておこう。
**********
「……ほう、これがリュウグウノツカイの魔石か」
「全員分の用意がありますが……もし、レベルが足りないなどで進化できなかった場合のために、予備もあります。それと、一回目の進化がまだの人のために、ジャイアントオーガの魔石もお持ちしました」
「うむ、至れり尽くせりじゃのう。それでは一旦森に戻るかの」
「ではそこまで魔石を運んでいきますね」
「……コウ、魔石があると聞こえたのだが」
ウルフイヤーは地獄耳。キングウルフさんが初めての魔石に興味津々だ。遊んでいた水切りを中断してくるぐらいには。尻尾もぶんぶん振っているあたりあざとい、実にあざとい。
「ええと……リュウグウノツカイというモンスターの魔石なのですが……」
「よければ我にも一つもらえないだろうか?」
「分かりました。それではこれを……」
「ほう、透き通るような魔石だな……」
キングウルフさんが魔石を風で浮かせながら観察する。言われてみると、確かに透明度が高い気がする。水棲系のモンスターだからだろうか?
「では……おお、これは!」
キングウルフさんが更に尻尾をぶんぶん振り出す。余程気に入ったもの……大好物なのだろうか。
「今まで食べた魔石の中でも極上の味……うーまーいーぞー!」
キングウルフさんの咆哮が草原に木霊する。グラティス草原にいるプレイヤーたちはいったい何事だ、と慌てていそうだな……。
「これ、我を失うでない。迷惑じゃぞ」
「む……これは姐さん、失礼しました」
「まったく……ちゃんとコウに礼はするのじゃぞ」
「もちろんです姐さん。次に抜けた牙の中でも一番大きいものを贈りましょう」
だから自ら進んで鮫トレやろうとするのやめてくださいよ?!
俺はさすがに釣り合わないとやんわり伝えると、キングウルフさんは考え込む。
「……あ、それならボクから提案がありまーす!」
「エファ? それはどんな……?」
「スコールがキングウルフにスキルを教えてもらったって聞いたから、ボクも教えて欲しいなー……なんて……」
「エファ? それこそ釣り合ってないけど……」
「いや、それぐらいならよかろう」
「「えっ」」
俺と同時にエファが驚く。それにより、おそらく本人も冗談で言っていたのだろうことが伝わってくる。
「その代わり、今の魔石をもう数個欲しいのだが……」
「それぐらいなら大丈夫ですが……よろしいのですか?」
「ぼ、ボクとしても嬉しいけど……ほ、ホントにいいの……?」
「うむ。と言っても、簡単なスキルになるが……」
「お、お願いします師匠!」
エファの言葉にキングウルフさんの耳がピクッと動く。
「師匠、か……良い響きだ」
「あのー……キングウルフさん?」
「……む。とりあえず、エファを2・3日程度預からせてもらえるか?」
「俺は大丈夫ですけど……エファはどう?」
「もちろんいいよ! ついていきます、師匠!」
キングウルフさんの耳が再びピクッと動き、尻尾も揺れている。
なるほど、クイーンドリアードさんのことを姐さんって慕ってたので、自分も異種族から慕われる立場になりたかったのかな……? プレイヤーという異種族にも慕われてるといえば慕われているけど。
とりあえず、俺はエファをキングウルフさんに預けることにした。
「……話はまとまったかの?」
「はい、それではヴァノリモ大森林に向かいましょう」
……なお、話をしていたのが水切り会場だったため、キングウルフさんとの一連の会話を聞いていたプレイヤーが複数いたらしく、『リュウグウノツカイの魔石でキングウルフからスキルを教えてもらえる!?』という噂が広まり、リュウグウノツカイの魔石の市場価値が更に上がることになるのを知ったのは、もうしばらく後のことである。ドリアードやアルラウネが進化すれば、新しいポーションも作れるわけだし……。
そういえば、以前スコールがスキルを教えてもらったのって、伝授スキルだったのかなあ。
モンスターからモンスターの伝授であり、プレイヤーが関わっていなかったからヘルプに載らなかったのかな……?
などと考えながら、俺たちはヴァノリモ大森林に向かうのだった。
**********
「進化できたー!」
「私も私もー!」
ヴァノリモ大森林にドリアードたちの喜びの声が木霊する。
まだ一段階目の進化していない子を除いたすべてのドリアードが、リュウグウノツカイの魔石によって進化することができた。
……ということは、それだけレベルが高いってことなんだよね……。だいぶ前に、そんなドリアードたちを倒してクイーンドリアードさんと戦ったタイガさんたちって、やはりランカーなんだな……と改めて思うのだった。
「ふむ、みな喜んでいるようじゃのう。礼を言うぞ、コウ」
「喜んで頂けたら幸いです」
「さて、キングウルフにああ言った手前、ワシらからも礼をせねばな……そうじゃな、ついてくるがいい」
俺は久々にクイーンドリアードさんと一緒に地下に入っていく。
そして、そこには……。
「これは……」
「どうじゃ、凄いじゃろう?」
虹色に光り輝く鉱石があった。しかも、以前の鉱石よりも2倍以上は大きい。
前はこれで杖を造ったら全属性の補正値が上がるものが造れたんだよね。懐かしい。
「これで釣り合うかの?」
「もちろんです……というか、こちらが得をし過ぎな気がしますが……」
「よいよい。コウは普段からチャンネルとやらを更新してくれておるし、ワシらが的当てなどで遊ぶための金をもらっておるしの」
「分かりました、それではありがたく頂いていきます。それと一段階目の進化をしたばかりで、二段階目の進化ができなかった子たちのための魔石もお渡ししておきますね」
「うむ、確かに預かった」
……まさか、また虹色の鉱石を手に入れることができるなんて。
かなりのレア鉱石だから、大事にしまっておくか、それとも……。
「……そういえば、これをブラウニーの上位種の人に渡したら喜んでくれるだろうか?」
ブラウンがお世話になったのだ、もし必要ならこれをプレゼントしよう。
「なんだかわらしべ長者みたいなことをやってるなあ……」
などと考えながら、今度時間ができたらノームさんやブラウニーさんに会いに行こうと思うのだった。




