新ポーション
「……ん? これは……」
俺はライアとレイが二段階目の進化をした動画のコメントを見ていたのだが、気になるコメントがあった。
『進化したライアちゃんとレイちゃんが作ったポーションは効果量は変わっていますか?』
そういえば、確かにまだ試してなかったな……一緒に話したり遊んだり、挨拶周りしたりで忙しかったし……。
ちなみに一段階目の進化の時は効果量は変わらなかったんだよね。
「ライアー、ちょっといいー?」
「何ー?」
「試しにポーションを作ってみて欲しいんだけど……大丈夫かな?」
「いいよー! コウのためなら何でもするよ!」
「ありがとう。それじゃ用意するね」
うーむ、言葉での意思疎通ができるのはやっぱり便利だな。気が乗らない時にやってもらうのはこちらとしても気が引けるし。
今まで話した感じ、ライアは裏表のない性格だから、嫌なら嫌って言ってくれるだろうしね。
「……よし、それじゃやってみてくれる?」
「うん!」
ライアは魔力を籠めながら手際よくポーションを作製していく。もう慣れたものだなあ……。
そして、ポーションオブドリアードが完成すると、以前よりも色が濃くなっているような……?
「ありがとう、助かったよ」
「えへへー……」
ライアはこちらへ頭を出してくる。撫でて欲しい、ということなのだろう。
俺はライアの頭に手を置き、円を描くように優しく撫でる。
「コウのおっきい手……気持ちいー……」
目を閉じて俺の手に身を委ねるライア。顔が少し紅潮して見え、少しドキッとしてしまう。
「それじゃ、また何かあったらお願いするね」
「うん! ライアはニアと遊んでくるー!」
ライアは手を振りながら、庭で遊んでいるニアの方へと向かっていった。
よし、それじゃステータスを……。
「あ、あの……コウさん」
「レイ? どうしたの?」
「わ、わたしもポーションを作ってもいいでしょうか……?」
「それは願ったり叶ったりだけど……」
「わ、分かりました! それではお手伝いさせて頂きますね」
後から頼もうと思っていたけど、レイから手伝いを申し出てくるなんて……ライアに対抗心があるのかな? ペットモンスターになった時もそんな感じはあったし。
そんな事を考えながら、俺はレイ用にポーション作製の材料をアイテムボックスから出し、準備を整える。
「それじゃお願いできるかな?」
「はい!」
レイも手際よくポーションの調合を行っていく。
昔は魔力を籠めるところだけやってもらっていたけど、ライアもレイも最初から自分でやれるようになったし、成長したなあ……。子の成長を見守るのってこんな感じなんだろうか。
「……できました!」
感慨に耽っていると、レイがポーションの作製を完了する。
ライアに対抗心があるってことは……。
「ありがとう、レイ。また何かあったらお願いするね」
「ひゃ、ひゃい……」
お礼の言葉を伝えながら、レイの頭を撫でてあげる。レイはライアと違って人間の肌と同じ色なので頬の紅潮が分かりやすく、照れているのが分かってこちらも少しドキッとしてしまう。
しばらく撫でると、自然とレイの方から頭を離す。もう充分だったのかな。
「そ、それではわたしはエファちゃんと遊んできますね」
「うん、楽しんでおいで」
俺はレイを見送ると、2人が作ったポーションを机の上に並べる。
そして、それぞれのステータスを表示してみることに。
【ポーションオブドリアード・中級:ランクC、HPを200、MPを50回復し、1分ごとに1%MPが自動回復する効果を付与(効果時間:3分)。進化したドリアードが魔力を籠めて作ったポーション。HPを大きく回復しつつ、MPも回復できる優秀なポーション。ミックスポーションの立場がない気がするが……まあ、世の中そんなものである】
【ポーションオブアルラウネ・中級:ランクC、HPを150回復し、毒、魅了、混乱耐性を付与(効果時間:10分)。進化したアルラウネが魔力を籠めて作ったポーション。HPを回復しつつ、各種耐性を付与できるポーション。魅了や混乱耐性は敵の行動前に付与しておきたいので、HP回復を無駄にしてでも使うか悩むところだろう。ククク……悩め悩め……】
アイテム説明文さんは相変わらずだなあ。
……さておき、どちらのポーションも効果がかなり強くなっている。
中級ってことは、クイーンドリアードさんが作ったら上級になるのだろうか? それとも特級……?
何にせよ、クイーンドリアードさんの場合、とんでもない効果になるのは想像に難くない。
そして、これだけの効果を持つアイテムが作れるとなると……進化用のリュウグウノツカイの魔石、更に相場が上がっちゃうんだろうなあ……。
「ライアやレイが1人で作っただけでこれなら、ブラウンが手伝ったらもっと効果が強くなるんだろうけど……」
最近、若干ブラウンに元気がない。おそらく、1人だけ進化できてないことを気にしてるんだろうけど……。
ブラウニーの上位種かあ……どこにいるんだろうか。
「……あ」
そういえば、1つ可能性はあった。
「フィーリア、そういえばフィーリアが使っていた状態異常無効化鉱石って、誰に加工してもらったの?」
「んー……気になるにゃ?」
「とても気になるにゃ」
「それにゃら、今度クヴァーナ砂漠に一緒に行くにゃ。あと真似しちゃダメにゃ」
「分かったにゃ」
「分かってないにゃーっ!」
……と、少々コントのような事をしながら、俺は次の休みにクヴァーナ砂漠へ行くことにした。
この加工を施した人がブラウニー上位種……違っていてもブラウニーの上位種についての情報を持っていないか、確かめてみる価値はあると思う。ブラウンのためにも、どんなに小さくても情報は集めておきたいしね。
とりあえず、次の休みまではマーメイドクイーンさんと約束したハンモックを量産しておこう。
**********
「コウ、こっちにゃ」
「ここは……」
フィーリアに案内されたのは、とある岩石砂漠の一つだった。
確かここの岩石砂漠にはモンスターがあまりおらず、状態異常無効化鉱石なども採れないため、重要拠点ではないと判断されてスルーされていたはず……。
「えーと……確かここだったはずにゃ」
「これは……」
フィーリアが地面にある石をどけると、そこには石板のようなものが埋まっていた。
「コウ、そこでこういう感じに指を動かすにゃ」
「こ、こんな感じ……? うわっ!」
言われた通りに☆を描くように石板の上で指を動かすと、近くの巨大な岩が音を立てて移動を始める。
そして、岩の後ろから現れたのは、地下へと続く扉だ。
「こんなところに隠し通路があったなんて……」
「ま、普通は気付かないにゃ。気付いても中に入れないから、ここには見張りのモンスターがほぼいなかったにゃ」
「確かに……あの指の動き、普通じゃ思いつかないだろうしなあ……」
俺たちは地下へと続く階段を下りながら会話をする。
この階段は石でできているが、しっかり形が整えられている。それだけの加工技術を持っている人たちがこの先にいるのだろう。
そして、階段を下ること3分程度。石の階段がなくなり、緩やかな坂道を進んだ先には開けた空間があった。
「砂漠の地下にこんなところがあるなんて……」
その空間には建物が並び、小さいながらも町を形成していた。
バイスさんたち、ドワーフの住んでいる場所に似た感じだけど……。
「むーっ!?」
俺が辺りを見回していると、突然驚く声が聞こえてきた。喋り方からしてノームだろう。
その声に驚いた他のノームたちが武器を持って……というか、武器を無機物操作で操りながら集まってくる。
「ええと……俺は争いに来たわけではありませんので、武器をしまって頂けるとありがたいのですが……」
俺は両手を上げ、敵意がないことを示す。
フィーリアも同じようにし、ノームたちに向かって話し始める。
「コウは用事があってここに来ただけにゃ。……ちゃ、ちゃんと手土産も持ってきたにゃ!」
ちょ、フィーリアさーん?!
フィーリアの無茶振りに俺も驚いてしまう。いや、モンスターがいるだろうから、一応魔石やらアイテムやらは持ってはきたけどさ。
「むー!」
フィーリアの言葉に反応し、ノームたちが武器を手放し、両手をこちらに向かって差し出す。……なるほど、手土産が欲しいのね……。
「ええと……それでは好きなものをお持ちください」
俺は大きい机をアイテムボックスから取り出すと、その上に大量の魔石を置いていく。
そして、好みが分からないので、それぞれ好きなものを持って行ってもらうことにした。
「むー♪」
ノームたちは自分の好物の魔石を取っていき、その場で食べたり、持ち帰ったりなどしていく。
何も言ってないのに、一列に並んで順番に取っていくあたり、真面目なんだなあ……。
「……おや、こんな辺鄙なところに人間の客人とは……珍しいですね」
俺がノームの列を見ていると、背後から声を掛けられる。
驚いて振り向くと、そこにはノームたちと同じ格好をしているものの、ノームたちの2倍ほどある身長の青年が立っていた。2倍といってもノームは小さいので、俺と同じか少し低いぐらいの背丈なんだけども。
「お、お騒がせしております……」
「いえいえ、みんなが嬉しそうにしているので、問題はないですよ。……ところで、どうしてこちらへ……?」
「それはですね……」
俺は状態異常無効化鉱石を加工した人を探して、フィーリアに連れられてここに来たことを話した。
そして、加工した人がブラウニーの上位種であれば、俺たちの中で一人だけ進化できていないブラウンが進化できると考えていることも。
「……なるほど。加工をしたのは僕たちではありませんね。ここより更に地下にいる、ブラウニーの方が加工をしました」
「……! それで、お会いすることは可能でしょうか?」
「うーん……あの方は気難しい方ですからね……特別なことがない限り、人間には会わないでしょうね」
「特別なことですか……何か、貴重な品をお持ちすれば……などでしょうか?」
RPGとかでよくある条件だけど、俺が今持っているかどうか……だいたいは後半で手に入るとかそういう品物なことが多いんだけど。
「そうですね……よろしければ言伝を預かりましょうか?」
「よろしいのですか?」
「はい。この子たちがお世話になりましたし、私であれば会うことは簡単ですしね」
「それではお願いできますか? もちろん、お礼は致しますので」
「ええ、それでは少々お待ちください」
ノームの上位種と思われる青年は町の方へと歩いて行った。おそらく町のどこかに更に地下に行く階段があるのだろう。
……さて、彼が帰ってくるまで時間はあるしどうしたものか。……そうだ!
**********
「──ただいま戻りました。……おや? この器具は……」
「お帰りなさいませ。これは俺たち人間が遊ぶためのもの……遊具です」
俺が設置したのは滑り台とブランコだ。ちょうど在庫があって、設置できそうな広場があったので試しに置いてみたところ、みんな楽しんでくれている。
「ほう……こういうものもあるのですね。人間の造るものは興味深いですね……」
「よろしければいくつか置いていきましょうか?」
「よろしいのですか?」
「はい、情報の対価としてお受け取りください」
「それでは遠慮なく……。では、ブラウニーの方からの返答ですが……」
俺はゴクリと唾を飲む。
返答次第ではブラウンの進化ができるかどうかだからね……。
「『ブラウニー1人で来い』……とのことです」
「ブラウン1人で、ですか?」
「はい。人間は嫌いなのですが、同族であれば問題ない、と」
「分かりました。……そして、お会いするための対価は……」
「特に必要はないそうですが、属性を持った鉱石を欲しがっていたのを思い出しました。特に、この砂漠で産出される火属性の鉱石以外のものを、です」
なるほど、砂漠で俺も採掘したけど、火属性以外の鉱石はほぼ見つからなかったんだよね。
クォルトゥス鉱山では様々な種類の鉱石が出るけど……チュートリアル的な鉱山だからかな。補正値もクヴァーナ砂漠やトレントの島で見つかるものよりも低いし。
「分かりました。それではこれをお持ちください」
「これは……こんなに大量に頂いてもよろしいのですか?」
「はい。それでブラウンが進化できるならお安いものです」
俺は深水の鉱石を始めとして、クォルトゥス鉱山で採れる火属性以外の属性鉱石を3つずつノームさんに渡すことに。
確かに値段としては高いけど、唯一進化できていなくて落ち込んでいるブラウンが元気になるなら安いものだ。
「……確かにお預かりしました。それではブラウンさん、参りましょう」
「ら!」
「……お待たせしました。確かにお渡ししました」
「ありがとうございます」
「ら!」
ブラウンも手を上げてノームさんにお礼を言う。元気になったのを見るに、立ち直れたみたいだな。
「ところで、ブラウニーの方から言伝を預かっております」
「俺にですか?」
「はい。『人間にしちゃ殊勝なやつだ。気が向いたら会って儂の技術を教えてやる』だそうです。……珍しいですね、あの人間嫌いの人がここまで言うのは……」
「それだけ属性鉱石を欲していた、ということでしょうか? それなら、次にこちらに来るときは、もう少し多くお渡しできるように、たくさん集めておきたいですね」
「……なるほど、あなたを気に入るわけです……」
「俺としては普通に対価をお支払いしただけなんですけど……」
「ふふ、ではそういうことにしておきましょう」
……うーん、何だか含みのある言い方だ。
まあ、普通にしていて気に入られたのなら何よりである。
「それではお世話になりました。また近いうちにお伺いします」
「はい、それでは。……では私もブランコと滑り台とやらを……」
……ああ、やっぱり気になってたのね。チラチラ遊具の方を見ていたし……。
こうして、俺たちは無事にブラウンの進化条件を満たすことができたのだった。




