2人の進化後
「コウー、トランプしよー、トランプー!」
「コウさん、わたしも一緒にいいですか?」
「もちろん。それじゃああと1人入れて七並べしよっか」
「じゃあにゃーが入るにゃ!」
ライアとレイが二段階目の進化をして驚いていたものの、2人にとっては既にいつもの日常へと戻っていた。確かに大きく変わったといえば人の言葉を喋れるようになったということぐらいだからね。
……ということで俺たちはフィーリアを加えて、七並べを始める。
「うー……レイ、もしかして10止めてるー?」
「ふふ……わたしかもしれないし、フィーリアちゃんかもしれないよ?」
「ふっふっふ……それは神のみそしるにゃ……」
「……神のみぞ知る、ね」
「そうとも言うにゃー♪」
なんでフィーリアが味噌汁を知ってるんだよと思ったけど、まあそこはあえてツッコまないようにしよう。
とにかく、俺たちは会話を楽しみながらトランプをみんなでプレイしている。会話ができるようになって駆け引きが生まれるゲームもあるし、会話での意思疎通ができるようになったというのは大きいな。
モンスター同士だと元々そうだったのかもしれないけど、そこに俺も加われるというのがありがたい。
そんな中、ぐぅ、とフィーリアのお腹の虫が鳴る。
「あはは、ちょっとお腹すいちゃったにゃ……」
「それなら卵で何か作ろうかな?」
「はいはーい! ライアはゆで卵がいいー!」
「わ、わたしは卵焼きがいいんですけど、大丈夫ですか?」
「にゃーはスクランブルエッグがいいにゃ!」
まさか全員別のものを注文するとは……でも、進化したお祝いも兼ねて要望には応えてあげたい。
スコール、ブラウン、ニア、エファの要望も聞き入れて、今日は卵パーティーかな。
料理は始めて間もないけど……できるだけ美味しいのを作ってあげたいところだ。
「……ん-……おいしいー! やっぱりコウの作ってくれるのおいしいね!」
「ライアちゃん、喋りながら食べるとこぼしちゃうよ」
「はーい」
……こう、傍から見てるとレイがお姉さん、ライアが妹みたいだなあ。身長もレイの方が少し高いし、雰囲気も若干大人びている感じがある。
実際にライアはモンスターの卵から生まれたんだし、レイがその前から活動していたであろうことを考えると、レイの方がお姉さんで間違いないかもしれない。
「あ、コウさん、お塩を頂けますか?」
「もちろん。……ところで、俺のことは呼び捨てでもいいよ? 口調もライアたちと話すときみたいにもっと砕けててもいいし……」
「え、えっと……でもそれは……」
「ボク知ってるよー、レイがコウにその喋り方なのは、好きな人のいい所を真似したいからって……」
「ちょ、エファちゃんってば……!」
レイが慌ててツタでエファの口を塞ぐ……が、時すでに遅し。
全部を俺に聞かれたレイは顔を赤く染めている。
「う、うー……コウさん、ちょっと引いちゃいました……?」
「いや、理由があって俺の話し方がいいと思って真似してくれてるんだし、レイに良い影響を与えられたのかなと思ってるから気にしてないよ。でも、時々は素のレイもいいかなって」
「ど、努力しますね……」
……と、少しドタバタしながらも穏やかに時間は過ぎていく。
ちなみに、ライアもレイも、二段階目の進化を遂げたことで、スキルの方も進化した。
ライアの現在のスキルはこんな感じだ。★が進化で得たスキルになっている。
【光合成Lv3(パッシブスキル):日光を浴びるとMPが回復する。回復量はスキルレベルによって変化する】
★【地の恵みLv1(パッシブスキル):地面から栄養素を吸い出すことで、HPが回復する。回復量はスキルレベルによって変化する。土の上にいないと効果がない】
★【成長促進・改 (ユニークスキル):畑に植えた植物の成長速度を上げる(収穫必要日数-2)。ただし、最短日数は半日】
【シードバレットLv2(アクティブスキル):魔力で種を撃ちだして敵を攻撃する。地属性。消費MP10】
★【ラピッドバレットLv1(アクティブスキル):魔力で種を複数撃ちだして敵を攻撃する。地属性。消費MP10】
【バインドLv2(アクティブスキル):敵の地中からツタを出し、拘束する。スキルレベルによって拘束時間が増える。消費MP25】
【隆起 (アクティブスキル):指定された場所の土地を隆起させる。消費MP30】
【陥没 (アクティブスキル):指定された場所の土地を陥没させる。消費MP30】
【切削 (アクティブスキル):指定された壁を切削する。消費MP30】
ライアはHPに加えてMPが自動的に回復するようになったほか、植物の成長を更に促せるようにもなった。
更に、成長促進の最短日数が1日→半日と短縮されたため、出勤前に植えたものが帰宅後に収穫できるようになるのも地味にありがたい。
そして、レイの方はというと……。
【光合成Lv3(パッシブスキル):日光を浴びるとMPが回復する。回復量はスキルレベルによって変化する】
★【地脈Lv1(パッシブスキル):地面から得られる魔力により、魔法の攻撃力が20%上昇する。土の上にいないと効果がない】
★【品質上昇・改:植物 (ユニークスキル):プレイヤーがログイン中、スキル所持者が畑に15分以上存在していた場合に効果が発揮される。翌日に収穫される植物のランクが30%の確率で上昇する(各植物ごとに判定)】
【シードバレットLv2(アクティブスキル):魔力で種を撃ちだして敵を攻撃する。地属性。消費MP10】
【アイビーニードルLv2(アクティブスキル):地面からツタを突き出して攻撃する。地属性。消費MP10】
★【眠り粉Lv1(アクティブスキル):敵単体を70%の確率で眠らせる。地属性。消費MP40】
レイはHP回復がない代わりに、魔法の攻撃力が上がるため、より攻撃的になる。
また、敵を眠らせる補助スキルも追加され、戦闘では大いに役に立ってくれそうだ。
しかし、眠り粉にまで属性が付いているのはいったい……? 属性によって軽減されたりするのだろうか? それとも単にフレーバー的な表記なのか……。
さて、2人の傾向を見るに、二段階目の進化でパッシブスキルの追加、ユニークスキルの強化、アクティブスキルの追加が行われるのかな。
こうなってくると……二段階目の進化に必要な魔石やアイテムが絶対に高騰するだろうし、喋るライアやレイを見た人にどうやって進化させたのか聞かれるだろうなあ……。
さすがに連れて歩かないという選択肢はライアやレイに申し訳ないし、動画を撮って投稿しておくかな。進化に必要なリュウグウノツカイの魔石は……残り3つか。
現状、どこにリュウグウノツカイがいるのか判明してないし、この3つはアイテムボックスにしまっておこう……。現実のリュウグウノツカイは深海にいるから、マーメイドクイーンさんに聞けば何か分かるかな。……分かっても、深海どころか海に潜る手段は今のところないんだけど……。
そういえば、アルラウネさんの娘が進化したのは浜辺に打ち上げられた魔石を食べたからだったけど、これは現実のリュウグウノツカイがごくまれに浜に打ち上げられるのを再現したものなのかなあ……。
……とりあえず、まずは動画を撮影しよう。そう思ってライアとレイに声を掛けるのだった。
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「……やっぱり反響は大きいよなあ……」
動画を投稿してから1時間。既にコメントの数は4桁に達していた。掲示板の方でもお祭り騒ぎになっている。
『話すライアちゃんとレイちゃんがかわいすぎる……』
『浄化されました』
『うちの子も進化したら人間の言葉を喋ってくれるのかな……リュウグウノツカイの魔石が欲しすぎる』
『リュウグウノツカイなんてモンスター聞いたことないぞ……深海になんて行けないし……』
『水棲系のモンスターの協力が必要不可欠っぽいな。たらしさんはカイザーペンギンからもらったみたいだけど……そのカイザーペンギンは今、旅に出てるらしいしどうしたものか』
『マーメイドクイーンに頼むとかか?』
『マーメイドクイーン様に頼むなら下僕にして欲しいって頼み隊! 総勢一名参上!』
『そういえばこの世界にも竜宮城のおとぎ話あるのか? リュウグウノツカイの名前の由来と言われてるしさ』
……賑やかだなあ。
マーメイドクイーンさんにお願いするなら相応の対価は必要そうだけど……俺も一回話をしてみるかな。
コメントの返信は……それからでもいいかな。……膨大過ぎて逃げてるわけじゃないぞ。
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「……ふむ、リュウグウノツカイの魔石が欲しいのか。よかろう」
「えっ……よろしいのですか?」
「うむ、割と簡単に倒せるからな。魔石の回収が面倒と言えば面倒だが……」
「なるほど、魔石を入れておくものがないと確かに面倒ですね」
それなら、海女さんが使うあわびぶくろみたいなものを作ればいいかな?
魔石は小さいので口を小さく、逆流して出て行かないように紐で縛れるようにして……。
「もしその辺りを解決できるものが作れたのなら、魔石の回収に協力しよう。だが……」
「もちろん、対価はお渡しします」
「うむ、よかろう。ゆりかごのような物で払うのもよいぞ」
「なるほど、ではこういったものはいかがでしょう?」
俺は近くの木を使って、ハンモックを設置する。
そしてマーメイドクイーンさんにハンモックに寝てもらうと……。
「……うむ、ゆりかごとはまた違った感じで寛げるな……よし、これを全員分で手を打とう」
「ありがとうございます、それではよろしくお願いいたします」
「ではもう少しだけこれを堪能するk…………すぅ」
もう寝てるー?!
ゆりかごの時もだけど、寝つきの速さが異常過ぎる……。
そして、ハンモックの上でマーメイドクイーンさんが寝ているのを見て、水揚げされた魚みたいだな……と思ってしまった。失礼極まりないな、俺の脳……。
ただ、これでリュウグウノツカイの魔石の入荷の目途は立ったし、ある程度まとまった数が確保できたらフリーマーケットなどで売ろうかな。
ペンギンのダンジョンの探索で水属性の装備なども手に入ったし、砂漠でレベル上げをしているプレイヤーたちの助けになるはず。古参はもうキヴァナ峡谷の攻略に入っているけど、新しく入ってきたプレイヤーはまだそこまで行けてないしね。
新規プレイヤーをサポートするギルドやサークルも出てきたし、そこの人たちに渡れば有効活用してくれるかな?
さて、この後はペンギンのダンジョンでのアイテム集め、それからハンモックの作製と忙しくなりそうだ。
……ただ、その前に行かないといけないところがあるな。
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「おお、コウではないか。見よ、この称号を!」
クイーンドリアードさんはステータスを開き、新しく取得した称号を俺に見せる。
ええと……『水切りマスター』……?
「くふふ……水切り100回を達成することで手に入る称号じゃ。どうじゃ、凄かろう?」
「100回……もはや達人ですね」
「そうじゃろうそうじゃろう、もっと褒めるが良い」
確か現実の公認の世界記録が3桁は行ってなかったよな……ステータスの補正があるとはいえ、本当にすごい。そして、それを見越して称号も用意してある運営も……。
「ところで、今日はご報告があるのですが……」
「ほう、なんじゃ?」
「ほら、ライア、レイ」
「おばーちゃん! ライア、喋れるようになったんだよ!」
「わたしもです。これまでのご助力ありがとうございました。そして、これからもよろしくお願いします」
「おお、ついに進化したのじゃな、おめでとう。……そしてライア、おばーちゃんじゃないと言うとるじゃろうに……。まあよい、おめでたい時にそういうことは野暮じゃの」
そう、ライアが進化した後に、クイーンドリアードさんに挨拶に行きたいと言っていたのだ。
確かにずっとお世話になっているから、挨拶周りは大事だしね。
「それで、お世話になったお礼に、ドリアードさんたちが進化できるリュウグウノツカイの魔石の数が集まったら、提供したいと思っているのですが……どのぐらいの個数が必要になるかと思いまして」
「そうじゃな……32個じゃな」
「分かりました、数が集まったらお渡しします」
仲間の数を把握していてこういう時に即答できるあたり、やっぱりちゃんと長してるんだなあ。遊びに夢中だけど。
リュウグウノツカイの魔石はまずクイーンドリアードさんたちに、次にタケルやタイガさんたちに、最後に売りに出す、という形にしよう。ただ、マーメイドクイーンさんがどれだけ魔石を取ってきてくれるかにもよるけど……。最初っからすごい数を納品されそうな予感しかしない……。
こうして、着々と大勢のプレイヤーが二段階目の進化ができる下地が整っていくのだった。




