キヴァナ峡谷の攻略
「おー……結構キヴァナ峡谷の攻略が進んでるな……」
地属性の無機物操作によって空を飛べるようになって険しい斜面に隠された洞窟を発見できたり、風起こしのスキルによるダウンバーストの発生により空を飛ぶモンスターを地上に引きずりおろしたり。
これまでの苦戦が嘘のように、マッピングが進んで行く。
ただし、これらの方法にはデメリットもある。
無機物操作のスキルは重量により消費MPが変化する。
つまり、重い装備を付けての飛行は即座にMPがなくなってしまうのだ。そのため、重装備の前衛がモンスターを倒そうと思って飛ぶと、墜落して逆に不利になってしまうことがある。
消費MPは最小が1秒につき1MP、重装備になると1秒につき5MPほど消費してしまうことも。
そのため、MP管理を今まで以上にしっかりしないといけないのである。
風起こしのスキルは、発生位置や強さによって消費MPが変化する。
上空にいるモンスターの上にダウンバーストを発生させようとするとかなりの距離があるため、消費MPが多くなってしまう。更に、墜落させるためには強い風を起こさないといけないので、更に消費MPが嵩んでしまう。
そして、風起こしを使ったとしても、発生までにモンスターが動くと作戦は不発に終わってしまう。
使うタイミングを見極められないと、無駄にMPを消費してしまうのだ。
……それでも試行錯誤を繰り返し、このモンスターならこの行動後のタイミングで……というのが共有され始め、やがて多くのモンスターが攻略されていった。
逆に、俺が襲われた熊のモンスターのように、地力があるモンスターの方が厄介な存在となっていくことに。レベルを上げてステータスで殴ってくるやつはいつの時代も強いんだな……。
また、隠し洞窟には宝箱が設置されていたり、ダンジョンとなっていたり、罠だったり……しかも、洞窟の位置は日替わりとなっているため、まだまだ法則の研究の余地がありそうだ。候補としては週替わりが予想されている。
ちなみに、ダンジョンのある洞窟の位置だけは固定されているらしい。毎回変わってたら攻略準備が面倒ってもんじゃないからね……こればかりはしょうがない。
……と、他のプレイヤーたちの話題がキヴァナ峡谷一色となっている中、俺たちは相も変わらずトレントの島に留まっている。
マーメイドクイーンさんたちやカイザーペンギンさんたちが3日ぐらいでウォータースライダーを壊すからね……しょうがないね。
それと、ペンギンのダンジョンの探索もしているため、マッピングで忙しいというのもある。
隠し宝箱の位置を調べたり、隠し部屋がないか調べたり、スコールに穴掘りをしてもらったり……毎日が充実している。
……ただ、俺たち以外にはペンギンたちがそれほど友好的ではないため、今は他のプレイヤーの役には立たないかもしれない……が、いつかは参考になる時がくるだろう。たぶん。おそらく。きっと。
そんな中、トレントの島の新しい情報が掲示板にもたらされる。
『【朗報】マーメイドをペットモンスターにできました!』
このタイトルにおっ、となってアテナさんたちと見ることにした。
「ええと……『まずはマーメイドを召喚スキルで召喚できるぐらいに仲良くなります』か……」
「これは私たちも同じ状態ですね」
「次に『マーメイドたちの歌のスキルが強いので、もっと仲良くなったら伝授してくれないかなと思い、彼女たちに交じって歌を歌ってみました』……」
「なるほどな。同じ趣味……いや、趣味か? ……を共有することでもっと仲良くなろうとしたってことか」
「最後に『何日か一緒に歌っていると、マーメイドがペットモンスターとしてついてきたい、ということでペットになってくれました』……ですか」
「こういうペットモンスターにする方法もあるんですね。……僕は歌はからっきしなのですけど……皆さんはどうですか?」
「「「…………」」」
レックスさんの言葉に、俺もアテナさんもアトラスさんも沈黙する。
若干の気まずい雰囲気をどうにかしようと、まずは俺が口を開く。
「ええと……俺は友人とカラオケに行った時に、60点未満を叩き出しまして……」
「わ、私も小学生の時に音痴って言われて、それからちょっと苦手意識が……」
「あー……おれもそんな感じだ。音楽の成績、5段階評価で1取ったこともあるぜ……」
俺が話し始めると一気に他の2人も乗ってくる。
やはりアテナさんもアトラスさんも苦手意識があるようだ。
しかし、歌を歌うのが苦手な人のために、運営としては何か抜け道を作ってそうなんだよなあ……。
でも、そうだとしたらウォータースライダーで一緒に遊んでいる俺たちも、誰かがペットモンスターにしていてもよさそうなものなのだが……何か条件があるのかなあ。
そういえば今回のことで、ブラウン……ブラウニーも俺が造ったものに興味を惹かれてペットモンスターになったのを思い出した。好きなことを共有できるって幸せだもんね。今後は他のモンスターをペットにしたい時、その子の好きなものを一緒に楽しむのもいいのかもしれない。
「……あ、ペットにしたマーメイドの場合、召喚スキルに比べてスキルの消費MPが抑えめになってますね」
レックスさんの言葉で掲示板を見ると、マーメイドをペットにしたプレイヤーのスクリーンショットが貼られている。
癒しの歌は召喚スキルの場合は消費MPが30だが、ペットのマーメイドの場合はなんと20。
他のスキルも軒並みお安くなっている他、最大の強みはクールタイムがないことだろう。
闘いの歌や魔力の歌を連続で使えば、前衛も後衛も一気に強化できるからね。更に、全体回復の癒しの歌を連続で使えるから、形勢を立て直すのにもよさそうだ。
また、ペットモンスターのマーメイドとは別に、召喚でもマーメイドを呼び出せるみたいなので、その辺も戦術に組み込めそうだ。
「……確かにこれは強そうですね。ただ、歌……歌かあ……」
俺の呟きに3人ともうなだれるのだった。
実際に掲示板でも……。
『俺……歌はダメなんだ……』
『お前を一人にさせるかよ!』
『さすがに歌だけだと一部のプレイヤーがペットにできないから、何かしら救済措置はありそうな希ガス』
『そうだな……オレとしてもマーメイドはペットにしたいし、「いろいろやろうぜ」してくる!』
『もし歌以外でペットにできたら報告ヨロ』
『歌と連動させるものとかどうだろうか? ……ダンスとか?』
『お、リアルでダンスゲームやってる拙者の出番でござるか?』
『忍者がダンスかよ。全然忍んでねーな』
『いや、恥を忍んでマーメイドの歌でダンスしてくるでござるよ』
『誰が上手いことを言えと』
……とりあえず、マーメイドをペットにするために多くの人が動きそうだし、この掲示板の行く末を見守ることにするのだった。
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「あれ? カイザーさんたち、これからお出かけですか?」
俺がウォータースライダーの交換に行くと、カイザーさんがペンギンたちを引き連れてどこかに行こうとしていた。
「ああ、やっぱりみんな自分の力で飛びたいってなってな。水属性の無機物操作を使うモンスターを探しに行こうとなったところだ」
「なるほど、見つかるといいですね」
「ああ、習得できるかどうかはまた別だが……つーことでコウ、短い間だが世話になったな。礼としてこれを受け取ってくれ」
カイザーさんは地底湖にある岩をどかすと、そこには大量の魔石が眠っていた。
……あの、カイザーさんの身長の2倍以上の大きさの岩を軽々動かしたんですけど……やっぱりカイザーさんも上位種だけあって強いんだな……。
「よろしいのですか?」
「ああ、旅の途中で魔石はまた稼げるから、コウたちに使って欲しいんだ」
「ありがとうございます、ライアたちも喜びます」
「嬢ちゃんたちの好物があればいいんだがな……それじゃ、しばしの間お別れだ」
「はい、それではご武運を」
こうして、カイザーさんたちは水属性の無機物操作を使うモンスターを探しに旅立っていった。
地属性の無機物操作はノームだったなあ……水属性担当は誰になるんだろう? 想像ができないな……。
なお、カイザーさんに頂いた魔石は500個近くあり、中には「リュウグウノツカイ」やら「スターヒトデ」やら、遭遇したことすらないモンスターの名前が見える。って、リュウグウノツカイは現実にもいるんだけどモンスター扱いなのか。まあ、クロウもまんまカラスだしなあ。
……そういえば、レイ……アルラウネが更に進化するには水属性のモンスターの魔石が必要らしいんだけど、この中にあるだろうか?
1日に1個ずつ、全員が食べられる数だけある魔石を消費していってみようかな。
……ちなみに、カイザーさんの不在により、カイザーさんの羽根による顔パスができなくなるかと思っていたのだが、カイザーさんの羽根を装備することにより、新しく発生したペンギンたちも戦闘を避けてくれるようになった。
やはり説明文の通り、強力なんだな。ちなみに説明文はこんな感じだ。
【カイザーペンギンの羽根:ランクA、カイザーペンギンから抜けた羽根。カイザーペンギンに認められた者しか持つことを許されず、相当な実力者であることを示している。そのため、カイザーペンギンよりも下位となるペンギンたちはこれを見ることで逃げ出していくようだ。ちなみに説明文を書くにあたって調べたところ、身体に付いている状態だと羽、抜け落ちると羽根と使い分けるそう。へー】
へー。
……じゃないんだよ! なんで説明文に感想を書くんだよ! 勉強にはなるけどさあ……。
まあ俺も昔はマンガでことわざとか覚えたし、そんな感覚なのかなあ……あと、ラノベとかで見る難しい漢字を調べたりもしたなあ……懐かしい。
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「へー……キヴァナ峡谷ではユニコさんが大活躍してるのか」
後日、ホームで掲示板を見ながら呟く。
配信者でもあり、ランカーでもあるユニコさん。彼女は的当ての時に知り合い、ブーメランで的の後ろから当てるなど、かなりユニークな人だった。
実際に戦う姿を見たことはなかったのだが、今回のキヴァナ峡谷の動画を見てやはりランカーだなと改めて認識した。
特に風起こしの使い方がうますぎる。
モンスターに攻撃されそうになった時に、自分の前方に向かい風を発生させてのバックダッシュ。
ジャンプした後に足元に風を発生させての二段ジャンプ以上の多段ジャンプ。
更に、多段ジャンプ中に急降下からのキック……などなど、本当に動きが多彩だ。
そのうち、すごい勢いで城内を駆けていく人たちの仲間になりそうな雰囲気だ……。
「きゅー!」
「るー!」
「あ、魔石が食べたいの? 用意するからちょっと待ってね」
カイザーさんに見たことのないモンスターの魔石をもらったのを知ってからというもの、ライアやレイたちはそれを食べたがっている。
特にレイはトレントの島の浜辺に打ち上げられた魔石で進化したアルラウネを知っているからなあ……自分も進化したいのだろう。
「はい、それじゃあ今日はリュウグウノツカイの魔石だね」
「るーっ!」
俺がみんなの分の魔石を用意すると、レイはすぐに魔石を食べ始める。ほぼ同時にライアもだ。
すると……。
「る……?」
「きゅ……?」
2人の身体が光を放ち始める。
もしかして進化……? しかし、この光の量は以前の進化の時よりも多……。
あまりの光量に目が開けていられなくなる。
その光は2分以上の間、辺りを照らし続け……。
「ようやく収まった……?」
俺が目をゆっくりと開けると、そこには少し髪の伸びたライアとレイが立ち、俺の方を見ていた。
そして、俺が目を開けたのを確認すると、俺に飛びついてくる。
「コウー!」
「コウさーん!」
……あ、あれ? 2人が人の言葉を喋った?
確かに、アルラウネは2進化目で人の言葉を喋れるようになるのは知ってたけど、ドリアードもなんだ。
「えへへー、ライアも喋れるようになったから、たーっくさんお話しようねー」
「……ライアちゃんだけずるい! わたしもコウさんとお話するんだからーっ!」
ライアは左腕に、レイは右腕にそれぞれ抱き着きながら、同時に話しかけてくる。
そういえば、レイがペットモンスターになった時もライアが左、レイが右だったなあ。
……などと懐かしみつつも、これはしばらくの間忙しくなりそうだな、とも思うのだった。




