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26話 盗賊のアジト

これで0章は終わりです。



 盗賊の宴会は暗くなって尚続いた。ロザンナが入れられた牢に、盗賊が囲む焚火の明かりは届くことはなく暗闇に包まれていた。


 「よう、ねえちゃん、生きてるか?」


 牢の前までフラフラと千鳥足で現れたのは、馬車を襲ったリーダー格の男だった。ロザンナはそれが声で判った。


 「……」

 「黙ってねぇーで、何とか言いなよ。これだから貴族のお嬢様は……って口枷されてんだったな」


 男は、ポケットから鍵を取り出し牢の錠を開けると、一歩踏み込んでロザンナの腕を掴んで引きずり出した。そしてキッと睨みつけるロザンナをバカにしたように鼻で笑い、手枷足枷を解いて、木々が茂る暗がりへと引っ張っていった。


 「なあ、ねえちゃん、ちとばかし楽しませてくれよ」


 男は、ロザンナの口から猿轡を毟り取り、投げ捨てるように押し倒して昼間同様の下卑た笑い声をあげた。

 

 倒れたままロザンナは後退った。


 男は己のズボンに手を掛けながら、一歩一歩追い詰めるのを楽しむように、ゆっくりとロザンナに迫った。ただ貴族から猿轡を外すことの意味が判らなくなる程、盗賊の男は酔っていた。


 ロザンナは身を竦めながらも魔法の詠唱を始めた。


 これまで学校の訓練所で幾度となく使ってきた火の魔法だったが、人をマトにしたことは一度もなかった。考えてしまうと少し怖い。けれどやらなければ、この下卑た男に辱められてしまうのだ。ロザンナは――迷うな――と自身を叱咤する。


 「何をブツブツいってやがる」

 男がそう言った瞬間――


 ロザンナは、今使える全ての魔力を込めて、男へと火の魔法を放った。


 「ウワァー-、何をする」


 火達磨になった男はその場を転げ回るが、アルコールを浴びるように飲んだ男から火が消えることはなかった。


 ロザンナはすぐに立ち上がると、森の奥を目指して走った。ずっと縛られ、狭い場所に押し込められていたのもあって体中の関節が軋んだ。それでも全力で走った。とにかく人の気配がない方を目指して走った。木の根に足を取られ何度も転んだ。それでもすぐに立ち上がって只管走った。少しでも盗賊のアジトから離れたいという思いだけで走ることが出来た。途中、川が浅くなっているところを見つけて、ドレスの裾を捲し上げて川を渡った。


 そこでロザンナは力尽きた。大きな石の影に身を寄せて座り込んだ。少し休憩するだけのつもりだったが、いつの間にか眠っていた。ハッとして飛び起きると、辺りはすっかり明るくなり始めていた。


 このまま川伝いに下って行けば、ロザンナ一行が最後に宿をとった砂漠西の街に辿り着けるはずだった。そこで助けを求めようと、ロザンナが立ち上がった時、対岸に大勢の人が騒めくような気配がした。


 ロザンナはすぐに盗賊の追手だと判った。こんな場所に昨日今日ですぐに救助が来るとは思えなかったからだ。川辺は見晴らしが良すぎる。川を一本隔てたぐらいでは安心できないことに気づいたロザンナは、鬱蒼とした森の中へ飛び込んだ。


 それからロザンナはどれぐらい歩いただろう。盗賊のアジトからも、川からも、かなり離れたはずだ。それでも方角は何となく判っているつもりでいた。方向感覚にも自信があった。盗賊のアジトは街道から北にあり、南西の方へ、陽がある方角へ進めば、ユレイブの街に着くはずだと考えたのである。


 ロザンナは、ユレイブの街までどれ程の距離があるかは判らなかったが、盗賊の追手を恐れて開けた場所を通るのを避けた。結局、ロザンナが選んだ道は生い茂った樹木の中だった。しかしロザンナは森を舐めていた。高い木々と、どこを見ても同じような景色がロザンナの方向感覚を狂わせた。


 そして、歩き回っている内に陽が暮れた。


 ロザンナは気を張っていた所為もあって、朝から一度の休憩を挟むことなく歩き続けていた。今まで直接地面に腰を下ろしたことなどなく、一瞬だけ戸惑いを覚えたが、体の疲れがそれを許さなかった。


 気づいたら、また朝になっていた。木陰で眠ってしまったようであった。その時、最初に感じたのが、喉の渇きと空腹だった。


 ロザンナは、盗賊を警戒しながらも周辺を歩き、運良く朝露の溜まった大きな葉を見つけることが出来た。また近くに果実がなる木を発見した。


 ロザンナは葉にそのまま口をつけて朝露を啜った。また見も知らぬ果実を皮のまま貪った。


 人心地つくと、ロザンナはすこし元気になった気がした。途中途中で見つけた木の実を確保しながら、ユレイブの街を目指して歩いた。

 

 そうしているうちに、また陽が暮れた。昨晩同様、木陰で眠り、翌日も同じことを繰り返した。


 森に逃げ込んで三日目。ロザンナは不安に襲われていた。自分では、ユレイブに近づいているつもりだったが、森の景色はどこも似ていて、同じ所をグルグル回っているのではないかと思えてきたからである。


 そしてまた辺りが暗くなり始めた頃、香ばしい匂いがロザンナの鼻腔をくすぐったのだった。


 近くで誰かが肉を焼いているのだと、すぐに判った。


 ロザンナは思わず生唾を飲んだ。


 盗賊かもしれないとは思いつつも美味しそうなその匂いに、ロザンナは抗えなかった。もしかしたらユレイブの街の住民かもしれないという希望もあったからだ。


 とにかく確認してみようと草陰に身を隠して覗き込んだ時、「誰だ!」と誰何する若い男の声がした。





評価、ブックマーク、よろしくお願いしますm(__)m



短編『特別な存在』良かった読んで下さい。

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