25話 王都出立
想定と齟齬が出始めてしまった。書き直さないと……。
25 王都出立
そして、0章の冒頭へと戻る。
サグランティーノ侯爵家の長女、ロザンナは、王都を出立し、辺境の街、ユレイブへと向かう馬車の中にいた。馬車の両隣には、国王の命により付けられた騎士団所属の騎士が騎馬で二名、侯爵家の従士が馭者台と後部台座にそれぞれ二名ずつ。平和な国内を旅するにしては過剰とも言える護衛であった。また馬車の中には、身の回りの世話をするベテランのメイドが三名。ロザンナが乗る馬車の後ろからは、大量の荷物を積んだ荷馬車が後をついてきていた。断罪され王都を追われる――悪役令嬢――にしては過分な配慮と言えた。
王都からユレイブの街までは、半月を要するとのことであり、途中で砂漠も越えなければならないとのことだった。なかなかどうして過酷な旅路であったが、ロザンナは晴れやかな心持ちだった。まだ見ぬフォーリオの姿を、絵姿にある勇者リオと重ね合わせ、想像してみたり、気取りない清々しい好青年に微笑まれている自分を思い浮かべたり、ロザンナはすでに恋する乙女だった。
父が職に対して余りにも潔癖過ぎた為、ロザンナは18歳になるまで、ひとりの婚約者もいなかった。貴族学校でも、その父のお堅いイメージの所為もあって、男子生徒から声を掛けられるようなこともなかった。友達と言えば、家が文官系の女生徒たちばかりであり、そこで繰り広げられるのは、もっぱら恋の話に尽きた。誰彼が一緒に街を歩いているところを見ただとか、婚約者に刺繍入りのハンカチを贈っただとか、贈られたドレスが気に入らないだとか、ロザンナはまったく話についていけなかった。いつもわかったような振りをして笑っていることしか出来なかったのである。
ロザンナも、そんな恋する気持ちを友達に語ってみたかったとは思うが、今更どうすることも出来ないのが、すこし残念だった。
それでもロザンナはただ浮かれていたわけではない。旅立ち前に、ユレイブについての冊子を、父侯爵から渡されていた。それはフランチェスカ王国とユレイブ領の約定のようなものから、勇者リオが作った法や政令など、様々な事が書かれてあった。
ロザンナも、国法や財務については貴族学校でしっかり勉強してきたという自負がある。書かれている中には、聞いたこともないような画期的な制度も含まれていたが、――フォーリオの役に立ちたい――という思いで冊子を捲り、気になる点などをメモにとった。
道すがらサグランティーノ領にも寄った。そこで領主代行をしている兄に別れの挨拶も済ませた。殆ど過ごすことのなかった故郷であったが、それでも領民たちから祝福され、見送られるのは嬉しかった。
また途中、北の森から街道に出て来たヘアリーラットという弱い魔物に馬車が取り囲まれるということもあった。騎士と従士だけで十分対応できたが、ロザンナも馬車から出て討伐に参加した。馬車の中でずっと座っていたというのもあって、すこし体を動かしたかったのだ。異変と呼べるようなことは、それ一度きりのことである。
「ロザンナ男爵閣下。そろそろ砂漠の東の街へ着きます。そこで砂漠用の馬に乗り換える予定です。乗馬はお得意と伺っておりますが、大丈夫でしょうか?」
馭者台で馬車を操る従士が声をかけてくる。
「問題ありません。姫様の乗馬の腕は、そこらの従士には負けませんわ」
メイドの一人が代わりに答えた。
今回、随行したメイド3名も馬に乗れることが条件に選ばれていた。3名とも二十数年前に魔族から騎士であった夫を殺されており、それからはメイドをしながら幼い子供を女手一つで育てあげた豪傑といってよい婦人たちであった。ひとりはロザンナの乳母である。彼女たちは皆、ロザンナと共にユレイブで余生を過ごすつもりで随行していた。
ロザンナが、ユレイブの冊子と真剣に向かい合っている間に、旅の行程はあと4日と言うところまで来ていたのだった。砂漠に入れば実質ユレイブ辺境伯領であり、それを越えてしまえば、領都であるユレイブの街まで3日と掛からない。
馬車を砂漠東の街に預けると、ロザンナたちはデザートホースに乗り換えた。ホースと言っても、魔物であるらしく、背中には鱗があり、顔も少しトカゲっぽく脚が長い。普通の馬よりかなり大きい。性格は温厚で真面目な魔物とのことであった。
デザートホースは二人乗りであり、ロザンナは騎士の後部に乗ることになった。――そこらの従士には負けない――という乗馬の腕前は、結局、披露することは出来なかった。
砂漠は東西に一番狭くなるところを通る為、早朝に出れば日が暮れるまでには砂漠の西にある街に到着することが出来る。砂漠は時によって砂嵐に遭うこともあるそうだが、ロザンナとその一行は至って順調に砂漠を越え、またその先にある砂漠西の街に無事入ることが出来た。
砂漠西の街。ここがユレイブ領、最初の街である。同じ国内ということもあり、雰囲気が然程変わるようなことはなかったが、ロザンナは――ついに来た――という感慨にふけった。
従士たちは、デザートホースに積んだロザンナの嫁入り道具とフォーリオへの大量の土産を、改めてこの街で借りた馬車に詰め替えていたが、ロザンナとメイドそして護衛として騎士二人は、すぐに宿をとった。
日中の間だけだったとは言え、砂漠は砂漠であり、ロザンナの顔や髪の毛はバサバサに乾燥していた。体面上は追放とは言え、嫁入りの旅である。慌てたメイドたちは、ロザンナの痛んだお肌と髪のケアに力を注ぐのだった。
翌朝、侯爵令嬢としての美貌を取り戻したロザンナとその一行は、馬車に乗って領都であるユレイブの街を目指した。途中までは、何もない長閑な旅だった。ロザンナも、もうすぐフォーリオに会えることに胸を膨らませていた。
その時、事件が勃発した。
馬車が正体不明の集団に襲われたのである。
「何者だ?」
騎士が誰何するからには魔物ではない。相手は人である。
敵は問答無用で攻撃してきた。ロザンナは馬車から出して貰えなかったが、それでもかなりの数を相手にしていることは、喧騒と剣がぶつかり合うその音で判った。
味方で戦えるのは騎士と従士の6名のみであり、多勢に無勢だった。ロザンナとメイドが馬車から引きずり出された時には、騎士も従士も血を流して倒れており、生死の判断はつかないまでも、すでに戦闘不能であった。
ロザンナとメイドは、それぞれ小汚い男たちに腕を掴まれ、後ろ手に縛られて転がされた。
「すげぇ上玉じゃねーか。こりゃ高く売れるだろ。こいつは殺すなよ」
リーダー格らしい男が、ロザンナの顎を持ち上げ、下卑た笑いを浮かべた。
「姫様から、汚い手を放しなさい」
メイドが金切り声を挙げるが、すぐに打擲され昏倒した。
その後、ロザンナだけが猿轡をされて籠のようなものに入れられた。騎士や従士、メイドたちの安否が気になったが、ロザンナにはすでに祈ることしかできなかった。
そして丸一日を掛けて到着したのは森の中にある開けた場所だった。盗賊のアジトであった。まるで一つの村であるように大勢の男と、少しだが女もいるようだった。盗賊たちは、ロザンナから奪った大量の荷物を囲んで大賑わいである。
籠から出されたロザンナは、そのまま屋外にある木で出来た人ひとりがやっと入れるような小さな牢に押し込められた。
盗賊たちは、そのすぐ傍で、祭りでも始まったかのように騒ぎ始めた。彼らは皆、陽気で明るく、さも楽しそうに酒を酌み交わしていた。踊ったり、歌ったり、もしこれが普通の村人たちだったなら、ロザンナも好感を持ったかもしれない。けれど彼らは憎むべき盗賊であった。
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短編『特別な存在』良かった読んで下さい。
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