23話 父侯爵との会話 ~その2
0章を何とかざっくり書き終えました。これを書いたことで、私自身が混乱中です。素朴な恋のお話を書きたかったのですが、なんとも侭ならないものです。
「まあ、おまえの言う通り、勇者リオ様は皇帝の座をお断りになったわけだが、それで困ったのが、議長国であった我が陛下であるフランチェスカ王だったのだ。自身も王であり、まさかリオ様が皇帝就任の打診を断るなど思いもしなかったようで、大陸中の王たちの前で、勇者リオ様への要請役を安請け合いしてしまったのだ。慌てた陛下は、すぐに国境を接する隣国、エルフの大国アールヴフェイムの王に相談したのだ」
「なるほど、それは物語や歴史書にもないですね。とても興味深いお話ですわ」
父侯爵は、そうだろう、そうだろう、と言わんばかりに、満足げに頷く。
「それで、我が国の陛下、アールヴフェイムの王、勇者リオ様による三者会談がおこなわれたのだ。王たちは、皇帝にならずとも、せめて一国の王になって欲しいと訴えたそうだが、リオ様は首を縦に振らなかった。ならばせめて領地をという話になり、『では森が欲しい。魔物の生態研究がしたい』と、リオ様は仰ったのだ」
「この国には領地となるような大きな森はありませんが」
何となく答えを知っていたロザンナだったが、一応、これは相槌のようなものである。
「そうだ。そこでアールヴフェイムの王が『竜王山の南西にある森はどうだ?』と仰ったのだ」
今現在は、近くにユレイブという街があり、森の中程までという曖昧な国境になっているが、20年程前、つまり魔王が討伐される以前は、森と草原の境が、フランチェスカ王国とアールヴフェイムの国境だった。つまり嫁ぎ先はユレイブの街であることをロザンナは気がついたが、父侯爵の機嫌を損なわぬよう口を噤み、ただ頷いた。
「リオ様は――ならば、その森の半分を貰う――と仰った。だが、それでは我が国としては少々困る。何と言っても、リオ様はフランチェスカ王国に所属する勇者なのだ。アールヴフェイムからだけ領地を献呈したとあっては、我が国の沽券に関わる」
「確かに、そうですね。しかし……」
ロザンナは知っているのだ。もうはっきりと答えが判っている。だけど、これは、この歳まで育ててくれた父侯爵への報恩だ。
「そうだな。確かに我が国にはリオ様が所望されるような森はない。ならばと陛下は『では我が国からは森に隣接する草原と砂漠を出したい』と、そう仰ったのだ」
どうだ! 驚いたか? という顔をする父侯爵を、ロザリオはなんだか少し可哀想になる。
20年程前に森の半分がアールヴフェイムからフランチェスカ王国へ無償で譲渡され、それに草原と砂漠を加えた広大な領土をユレイブ辺境伯が治めているというのは、基礎として地政を学ぶ貴族の子女なら、誰でも知っていることである。
ただし勇者リオがユレイブ伯だったという話は、今まで一度も聞いたことがなかったし、ロザリオも考えたこともなかった。
「まさに、知る人ぞ知る事実ですわね」
父侯爵は、そうだろう、そうだろう、と言わんばかりに、満足げに頷く。
「いずれも無人の地であり、魔王討伐というその偉大な功績にしては、何とも粗末な褒美だが、リオ様自身がそれを望まれるのなら、仕方がないということになったのだ。それからリオ様は、ひとりで領地入りされ、草原に一軒の小屋を建てられたのだ。それが瞬く間に街になってしまった。勇者リオ様を慕った者が大陸中から集まったのだ。私も侯爵家の跡継ぎでなければ……」
父侯爵は口惜しげに膝を叩く。
「……」
――父よ、行くつもりだったのか?――ロザンナは思う。
「ただな、リオ様も、何人かは来るかもしれないと思っていたようだが、精々小さな村が一つ出来るぐらいに考えていたらしいんだ。それが5年で2万人、10年で10万人を超え、今や、周辺の街や村なんかを合わせると、ユレイブ領には30万人の多種多様な種族が生活している」
なぜか自分の事のように自慢げな父侯爵。サグランティーノ侯爵領の人口は5万人。王都でも50万人である。ユレイブの街が想像した以上の大都市であることにロザンナは驚愕した。すでに小国と言っても良い規模であった。
「街が勝手に大きくなっていくことに、リオ様は戸惑っていたそうだ。そもそも政治や領地経営を嫌って、無人の地を選ばれたわけだから。好きなことをして暮らそうにも、人が来れば受け入れざるを得ず、困った人がいたらつい助けてしまう。だからリオ様は勇者なんだろうな~。それでリオ様は陛下に爵位と領土の返還を願い出たんだ。だが、リオ様の領地については、我が国一国だけの問題ではない。森を提供したアールヴフェイムやその他周辺諸国との兼ね合いもある。また無毛の地を大都市にしてしまった勇者リオ様から、我が国が――領地を奪った――という誤解さえ受けかねない。だから勇者リオ様を領主としながらも、国から政務を担当する代官を派遣することで、話がついたのだ」
以前、貴族学校で、ユレイブを王家直轄地であると勘違いしている者がいたことを、ロザンナは思い出した。
そこでロザンナの父であるサグランティーノ侯爵は、改めて居住まいを正した。
それを見て――やっとか――と思うロザンナだった。
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