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21話 断罪からひと月後

題名を 【髪喰い虫 勇者の息子である狩人と悪役令嬢にされてしまった女の恋する旅路】に変更しました。


 これでアクセス増えるかな? 増えるといいな。





 ロザンナ・サグランティーノ侯爵令嬢が、貴族学校を卒業してから、瞬く間にひと月が経った。余りにも計画性のない杜撰で茶番とも言えるあの断罪劇の後、ロザンナに、新たな婚約の話が舞い込むことも、また突然の出会いから恋愛に発展したという話もなく、至って平凡な夏休暇を過ごした。


 その間の話だが、栄えある王国貴族学校の卒業式での騒動を耳にした国王はカンカンに怒り、さらに次々に上がって来る報告に卒倒しそうになった。一時は、「王太子の廃嫡」だとか、「塔へ幽閉」だとか、物騒な話も聞こえて来たが、スチュワートは国王の一粒種であり、またその後継である王子もまだ幼かった。国王は、不本意ながら、スチュワートを守る方向に舵を取らざるを得ず、サグランティーノ侯爵家とロザンナへ誠心誠意謝罪するしかなかった。


 また王太子の名誉を守る為とは言え、ロザンナに――悪役令嬢――の汚名を着せることへの代償として、ロザンナ個人に男爵位と王都近くに、ささやかだが領地を賜られることとなった。


 スチュワート王太子自身も王宮に帰ってから、父国王から王家の諜報員による調査書を突き付けられ、愕然とした。慌てて侯爵家へ駆けつけ、王太子という地位にも拘わらず、土下座せんばかりに侯爵とロザンナに頭を下げた。ただロザンナは、目の前で堂々と晒される、見てはいけないもの(地肌まるみえの頭頂部)から目を反らすのに必死で、スチュワート王太子の長ったらしい言い訳を殆ど聞いていなかった。


 またスチュワート王太子は「良かったら……」などと、一応、前置きをしてからだったが、ロザンナに側妃の打診をしてきた。それには父侯爵も頬をピクピクさせていたが、ロザンナは、それを即座に容赦なくバッサリと断った。今度はスチュワート王太子が頬をピクピクさせていたが、ロザンナは、頭頂部に目線を向けないことばかりに意識を向けていたので、まるで気がついていない。



 それからフィオナも侯爵家へ謝罪に訪れた。ただロザンナには、フィオナが言っていることの半分も理解できなかった。ただ、判らないなりに奇抜なフィオナとの会話は面白く新鮮に感じられた。まるで気の置けない愉快な親類のおばさんと立ち話でもしているような、そんな気持ちにさせられた。ロザンナには、なんとなくスチュワート王太子がフィオナに惹かれたのが判るような気がした。それだけフィオナは人として魅力的だった。


 あの卒業式の断罪劇のことも、何の悪びれもなく振り返り、「シナリオ的には~」とか、「役者がポンコツだった」などと、まるで演劇の話でもしているかのようであった。


 そしてフィオナが手土産で持って来た『ピュレン』という菓子を、ロザンナは大層気に入った。またそれが、フィオナが創案し、街の菓子店に作らせているのだと聞いて、尊敬の眼差しを向けるのである。


 「なんですか! このプルプルとした愛らしい菓子は、ほんのり甘くて、なめらかな舌触りと、鼻から抜ける乳の香りは、草原でさえずる鳥と草をはむ牛のなき声が聞こえてきそうですわ。五感すべてを楽しませるとは、神の如き菓子ですわね」


 「そうね。ピュレンはピュレンなんて、意味不明なものになっちゃうのよね。でもメヨニズーは、誤変換されてるんだけど、何だか少し近いのよね。でも、これ、たぶん、私の所為なのよね。むかし、世界観を壊す言葉をNGにしたの私だし。その影響なんだと思うわ。ごめんなさいね」


 何を謝られているのかロザンナにはさっぱり判らなかったが、メヨニズーとは、昨今、王都で話題になっている卵と油と柑橘系の果実で作られた甘酸っぱいソースのことである。それもフィオナが創ったのだと知ったロザンナは、信じられないとばかりに目を見開いた。もはや神でも見るような眼差しだった。


 傍から見れば、意味不明で、会話にすらなっていなかったが、二人はすっかり仲良くなってしまった。


 帰り際になって、フィオナはすっかり忘れていたとばかりに、ロザンナに謝罪した。

 「ホントにごめんなさいね。20年前の未練から、どうしてもアレ(卒業式で断罪)がしたくて我慢できなかったの」


 「良いのですよ。寧ろわたくしとしては感謝すらしております。王太子殿下との結婚を反故にしてくださったのですから。実は、王宮に集められた頃から、生理的に受け入れられませんでしたの」

 ロザンナは、仲良くなり過ぎて、つい本音を漏らしてしまった。


 「確かにそうね。私も物語にこだわり過ぎていたわ。冷静に考えると、ヴィジュアル的にはアウトよね」

 ギャハハと下品に笑ったフィオナは、「また来るわ」と去っていった。




 夏が終わり、そして、ついにロザンナの未来が動き始めた。父侯爵から執務室へ呼び出されたのだ。それは大事な話であることを意味した。ただの世間話なら、リビングかサロンですれば良いのだから。例によって人払いされた執務室では、父侯爵とロザンナは向かい合って座った。


 「実はな、お前に縁談が来ている」


 ――ほら、来た――とロザンナは思った。予想通りだった。冤罪による断罪という憂き目(?)にあっても、世間的には悪役令嬢であっても、ロザンナとて女である。頑なに結婚を否定しているわけではない。

 

 「お受けします」


 「早いな、おい! まだ誰だか言ってないだろ!」


 「いえ、わたくしはお父様を信じております。お父様の望まれる――国政に関わりがなく、出来れば同格の家で、野心のない好人物――と、わたくしが希望する――ハゲていない、ヤセ型で少年っぽさを残した可愛らしい笑顔をする将来ハゲない同世代――であると、確信しておりますわ」


 「……」

 父侯爵は頬を引き攣らせた。縁談とは言え、格好上は――王都追放――なのである。にも拘らず、愛娘は動揺するどころか、前向きですらあった。


 「えっ、違うのですか? 国政に関わっている格下で野心家のならず者。ハゲで、デブで、加齢臭満載のイヤらしい顔で笑う老齢の男性ということでしょうか?」


 「いや、ひどいな、その男は……。まあ国政には関わってないな。位は辺境伯だ。野心の欠片もない好人物だと聞いている。髪と目の色は父親似で、容姿は絶世の美女と謳われた母親と似てるそうだ。笑顔と、将来の頭皮状況については判らないが、歳はおまえと同じだ」




評価をよろしくお願いします。



短編をアップしました。良かった読んで下さい。


『特別な存在」 https://ncode.syosetu.com/n1688hw/


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