第1369話 ラビットフット
「お客様、落ち着いてください」
ウサギが宥めるが、興奮したカエルは聞く耳をまったく持たない。
「さっさと足をよこしやがれ」と、血走った目で詰め寄ってくる。
「困ります。困ります」
助けを呼ぼうにも、周りがあまりに騒がしく、ウサギのかぼそい鳴き声などは、すぐにかき消されてしまう。
ここは動物たちのカジノ。
ガシャン、ガシャンと絶えず回り続けるスロットのリール。
ルーレットを囲んで熱狂する獣たちの雄叫び。
ブラックジャックやポーカーのテーブルは悲喜こもごも。
歓声と怒声とが響き渡る混沌だ。
どうやら、カエルは賭け事に負けて、大金を失ったばかりらしい。
ショックのあまり冷静さを失っていて、従業員であるウサギに突っかかってきたというわけ。
「足をよこせ!」
どういう意味かと思いつつ、あまりの勢いにウサギがおののいていると、カエルはその長い舌を、ウサギの足にぐるぐる巻きつけてきたではないか。
「これさえあれば……」
カエルがうめくように呟く。
ラビットフットは幸運のお守り。そういう噂が、まことしやかに囁かれていた。カエルはそれを信じているのか、藁にもすがる気持ちなのか。とにかく、崖っぷちからの一発逆転をしようとしているのは間違いない。
逃れようとウサギがもがくが、必死なカエルの力はすさまじい。
「頼むよ。あんたの足さえあれば、おれは必ず、やり直せるんだ。大勝ちできる。代金なら勝ったあとに払うよ。物がいいならそれでもいい。なんでも言ってくれ。そうだ、代わりの足をやるよ。おれの足は、あんたに負けず劣らずのジャンプ力。いや、こっちのほうがいい足だろう。交換だったら不便はないし、むしろお得だと思わないかい?」
無茶苦茶なことを口にしながら、鞭のような長舌で締め上げて、やぶれかぶれに引っ張った。
すると、ウサギの足の皮が、べろんとめくれて剥がれたではないか。
これにはカエルもびっくりして、ひっくり返って床にへばりついた。
起き上がると、ギョッとしながら後ずさって、そばに落ちたウサギの足の皮を、おそるおそる覗きこむ。
そうして、途端にガッカリとして、
「なんだこれは。本当にウサギの足が幸運をもたらすのなら、こんな無残なことになるはずがない。こんなものは無価値だ。おれは悪くないぞ。くだらない。ああ、くだらない……」
いじけたみたいに頭をふって、ぴょーん、と跳ねて去ろうとしたところ、警備をしていたヘビに拘束されて、裏の事務所でこってり絞られるはめになった。
あたりが騒然とするなか、ウサギはぴょこんと立ち上がり、自分の足をたしかめながら、
「なんて運がよかったのかしら。タイツが脱げただけで、ケガひとつせずに済んだみたい」
ひとりごちて、ホッと胸をなでおろしたのだった。




