第1365話 塔の町
あてどなく各地を彷徨う旅人が、深い森を抜けた先で、高い高い塔を見つけた。
いったいあれはなんなのかと、ふらふら歩み寄ってみるが、近づけば近づくほどに、その巨大さに驚かされる。
てっぺんは雲に突き刺さり、太さは山の裾野ほど。天と地を結ぶ円柱だ。
どうやってあんなものを建てたのか、広い世界を回った旅人にもまったくもって想像できない。
唖然としながら、巨塔が落とす大海の如き影へと踏み入ったときのこと。
煙突から飛び散った炭を彷彿とさせる町が根元に広がっているのに気がついた。
光る眼が暗がりに浮かんでいる。住民たちだ。
旅人が声をかけると、鋭い視線が集まった。
最初は面食らった旅人であったが、話してみると、親切な人々。
丁寧に町を案内されて、今夜の宿も紹介してもらえた。
豪華な食事をふるまわれたあと、宿のベッドに横になって旅人はまどろみながら一日のことを思い返す。
とても奇妙な塔の町。
天を貫く日時計の塔が、周辺にある町並みを、刻一刻と影で包む。
住民たちは朝は西で、昼は塔のなかで、夕は東で過ごしながら、太陽が沈んだらまた西に戻って眠りに落ちる。
陽射しを避けて暮らしているからか、誰も彼もが蒼白くって、屍めいた顔色だ。
どうしてなのか気にはなったが、尋ねるのも失礼かと思い、黙っていた。
それから、塔をすこし覗かせてもらったが、つやつやとした石の床と、がっしりとした石の柱があるばかり。明かりはほとんどなくって、夜を閉じ込めたみたいな闇だけが、だだっ広い空間に詰め込まれていた。
ひんやりとした空気と、土の下みたいなにおいが漂う。
なんだかゾッとしてしまって、なかに入るのは断った。
よくしてもらったことには感謝しているが、どんよりとした薄気味悪さが、常につきまとっている。
明日になったら、すぐ出ていこう。
そう固く決心をした。
夜も更けた頃、不意に目が覚めてしまった。
風の音すら聞こえない静寂のなかに、重苦しい気配が満ちている。
首筋に触れる。痛い。月明かりに手をかざすと、うっすらとした血が輝いた。
いつの間に怪我をしたのかと思っていると、部屋の扉がわずかに軋む。
誰かがこっそり忍び込んでいたらしい。
それは、ギラギラとした瞳と、尖った牙を持った誰かであった。




