第1358話 盗人の言い分
手垢のついた皺くちゃのお札。
財布からぴょんと飛び出していたそれを、盗もうとしたスリが捕まって、警官に対してこう言った。
「金が盗まれたがってたんだよ。気づいたら握ってたんだ。おれは悪くない」
なんてバカな言い訳なんだろうか。
聞き届けられるわけもなく、現行犯として交番へと連行されていった。
被害者の男はホッと胸をなでおろし、無事に戻ってきたお札で、ちょっと贅沢なデザートをコンビニで買って帰路についた。
男が立ち去った後、コンビニの店員は一日の売り上げの計算をしていた。
レジの中身を確認していると、皺くちゃのお札がふと目につく。
端がめくれあがり、束が不揃いになってしまっている。
揃えようとして、手に取ると、吸い付いたみたいに離れない。
すると、魔が差したとでも言うべきか、体が勝手に札束を懐に入れていた。
すぐに店長が気が付いて、店員を問いただしたところ、事件が発覚。
「お金が一緒にいきたいって、言ってたんです。わたしは悪くありません」
これまたおかしな供述だ。
店長はすぐに店員を解雇して、戻ってきたお金を使って、店に防犯カメラを設置することにした。
連絡すると、その日のうちに業者が対応してくれた。
設置が終わり、現金で支払いをして、ひと安心。
仕事を片付けた業者は、車に乗り、客から受け取った札束をパラパラとめくる。
そのなかに一枚だけ、ひどく皺くちゃになっているものがあった。
会社に戻らなければならないが、ふと気まぐれ心が湧きあがる。
このまま、金を持ち逃げして、どこか遠くへ行ってしまいたい。
「金が望んでいることだ。ぼくはそれに従うのみ」
ひとりごちて、車を走らせる。
遠くへ……遠くへ……
そんな囁きがどこかから聞こえた気がした。




