表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
井ぴエの毎日ショートショート  作者: 井ぴエetc


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1354/1378

第1354話 利き血


 一軒家の廊下を、二匹の蚊、蚊子かこ蚊美かみのふたりがぷーんぷーんと飛んでいた。


「利き血で勝負しようよ」


 こんなことを言い出したのは蚊美のほう。


「いいよ。やりましょ」


 蚊子がうなずくと、ふたりは夜に寝静まっている家族の血を吸うべく、ふらりふらりと寝室を目指した。

 熱帯夜。

 みっつ並んだ布団でそれぞれ、父親、母親、子供が眠っていたが、うだるような暑さに汗をにじませて、無防備むぼうびはだをさらけだしている。


「どれからにする?」


「母親からでいいんじゃない」


「そうね」


 すらりと伸びた右腕みぎうでに、蚊子と蚊美のふたりが着地。

 ちくっ、として、血を吸い上げる。


「これは、A型」と、蚊子。


「同じく、A型」と、蚊美。


 意見が一致いっちしたので、うたが余地よちのないA型の味。引き分けだ。

 お次は父親のほうへ。

 毛むくじゃらのすねを、ちくり、ちくり。


「うーん。こっちもA型?」と、蚊子。


「いいえ。きっと、O型よ」と、蚊美。


 意見が割れた場合は再確認。

 ちくり、ちくり。


「ほんとだ。A型の風味はあるけどO型ね」


 蚊子が納得すると、「そうでしょ」と、蚊美。

 これで蚊美が一歩リード。

 最後は子供。わんぱくなお腹にとまると、ちくちくっ。


「これは……うーん……」


 蚊子が悩んでいると、蚊美が先に答えた。


「たぶん、A型かな」


 すると、ややあって蚊子が、


「いいえ、AB型よ」


 確信がこもった口調。


「そうかしら?」


「絶対にAB型」


 自信たっぷりに言われて、蚊美がもう一度、子供の血をテイスティング。


「あら。たしかによく味わうとAB型ね。ということは……」


 最初が引き分けで、あとはお互い一勝ずつなので、これでは決着がつかない。


「どうしましょうか」


 と、困っていると、上の階からぐうぐういびきが聞こえてきた。

 どうやらもうひとりいるらしい。

 さっそく蚊子と蚊美のふたりがそちらに向かうと、さっき血を吸った父親に似た男が眠っていた。おそらく兄弟だろう。偶然まっているのか、居候いそうろうか、どちらかはわからないが、ちょうどいい。

 ちょっぴり酒臭いほっぺたを、ぷすり、として血を吸い上げる。


「O型じゃないかな」


 蚊子が言うと、蚊美はじっくり味わってから、


「いいえ。B型」


 ぷすり、ぷすり。


「……わたしの負けね」


 そう宣言せんげんしたのは蚊子。

 B型が正解。

 軍配ぐんばいが上がったのは蚊美。


「ありがとう。楽しかった」


「またやりましょう」


「ええ」


 たらふく血を飲んで満足した二匹の蚊が、ぷーん、ぷーん、と去っていく。

 あとには男ふたりと女と子供のぐうぐうすうすうひびく寝息が、し暑い夜の闇に取り残された。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ