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井ぴエの毎日ショートショート  作者: 井ぴエetc


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1353/1379

第1353話 人気のヤブ医者


医療いりょうミスですって」


 公園にご近所さんたちが集まって、昼下がりの井戸端いどばた会議かいぎ

 話題はすぐそこにある診療所しんりょうじょについて。

 患者かんじゃの健康をあずかる医者が信頼を裏切ったという深刻しんこくきわままりないニュースだが、うわさする人々の態度はびっくりだとか、怒っているとかではなく、なんだかれっこな感じ。

 それもそのはず、医療ミスは今回がはじめてじゃない。さかのぼって数えれば、何十、何百にもおよぶのだ。

 裁判沙汰ざたにまで発展することも珍しくなく、当然ながら、医者の評判はすこぶる悪い。


「わたしは、まだ医療ミスされたことはないですね」


「うちはダンナが去年の末頃に」


「こっちは母が先日」


 ヤブ医者には違いないが、決してわざとではない。

 本人はいたって真面目。

 けれども、ついうっかり、ということがえないのだ。

 さいわいなことに軽微けいびなものばかりで命にかかわるほどの大事は回避しているので、医師免許を剥奪はくだつされたり、営業停止処分を受けたりという事態にはいたっていない。

 請求せいきゅうされた損害そんがい賠償ばいしょうはかなりの額にたっしていたが、医者には両親から相続した遺産があったので、診療所存続には支障ししょうはなかった。

 さらに言うなら、医者は非常にずぶとい性格で、いくら批難ひなんを受けても医療活動をめるつもりはない。


 井戸端会議が盛りあがるなか、最近引っ越してきたばかりの奥さんが加わって、次々と話される医者の不祥事ふしょうじまゆをひそめた。


「そんなにひどいお医者さんなんですか」


「ええ。まあね」と、集まっているみんながうなずく。


「いま体調が悪いんですけど、遠くの病院でてもらったほうがいいかしら」


 奥さんがそんなふうに言うと、まわりが一斉いっせいに、


「もったいない」


「ぜひ、そこの診療所にいくべきね」


 と、すすめてきた。


「どうしてです?」


「だって、いまのところ大きすぎるミスはないし、損害賠償って結構もらえるらしいですよ」


 具体的な金額を聞いて、目を丸くした奥さんは考える。

 健康とお金、天秤てんびんにかけたとき、いま必要なのはどちらだろう。

 家のローンがたくさんあるし、それに比べたら多少の健康被害ぐらい……


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