第1353話 人気のヤブ医者
「医療ミスですって」
公園にご近所さんたちが集まって、昼下がりの井戸端会議。
話題はすぐそこにある診療所について。
患者の健康を預かる医者が信頼を裏切ったという深刻極まりないニュースだが、噂する人々の態度はびっくりだとか、怒っているとかではなく、なんだか慣れっこな感じ。
それもそのはず、医療ミスは今回がはじめてじゃない。遡って数えれば、何十、何百にも及ぶのだ。
裁判沙汰にまで発展することも珍しくなく、当然ながら、医者の評判はすこぶる悪い。
「わたしは、まだ医療ミスされたことはないですね」
「うちはダンナが去年の末頃に」
「こっちは母が先日」
ヤブ医者には違いないが、決してわざとではない。
本人はいたって真面目。
けれども、ついうっかり、ということが絶えないのだ。
幸いなことに軽微なものばかりで命にかかわるほどの大事は回避しているので、医師免許を剥奪されたり、営業停止処分を受けたりという事態には至っていない。
請求された損害賠償はかなりの額に達していたが、医者には両親から相続した遺産があったので、診療所存続には支障はなかった。
さらに言うなら、医者は非常にずぶとい性格で、いくら批難を受けても医療活動を辞めるつもりはない。
井戸端会議が盛りあがるなか、最近引っ越してきたばかりの奥さんが加わって、次々と話される医者の不祥事に眉をひそめた。
「そんなにひどいお医者さんなんですか」
「ええ。まあね」と、集まっているみんなが頷く。
「いま体調が悪いんですけど、遠くの病院で診てもらったほうがいいかしら」
奥さんがそんなふうに言うと、まわりが一斉に、
「もったいない」
「ぜひ、そこの診療所にいくべきね」
と、勧めてきた。
「どうしてです?」
「だって、いまのところ大きすぎるミスはないし、損害賠償って結構貰えるらしいですよ」
具体的な金額を聞いて、目を丸くした奥さんは考える。
健康とお金、天秤にかけたとき、いま必要なのはどちらだろう。
家のローンがたくさんあるし、それに比べたら多少の健康被害ぐらい……




