第1352話 大河の巨人
深く広い大河を挟んで発展したふたつの商業都市。
交易のため、頻繁に船が往来していたが、たびたび荒れ狂う波が、人も、商品も呑みこんでしまう。
なんとかしたいと誰もが考えたが、大河を渡らず対岸にいくには、とんでもない距離の回り道をせねばならないし、橋を造るにしても、完成までに何十年かかるかわからない。そもそも、大河の気分次第でいつ命を落とすかもしれない架橋工事を請け負ってくれるような大工がいなかった。
両岸の都市の皆が困っていたところ、大河に巨人がやってきた。
巨人は山と見まごう図体で、ざぶんと流れに身を浸すと、ひょいと船を持ち上げて、反対側の岸まで運んでくれた。
人々が感謝し、たくさんの食べ物を捧げると、巨人は大河にすみついて、渡し守をしてくれることに。
おかげで水難事故はなくなり、いままでよりずっと安全にふたつの都市の行き来ができるようになったのである。
かつてないほど暑い季節のこと。
絶え間なく太陽が照りつけて、大地が赤熱に染め上げられた。
無慈悲な暴君であった大河もこれには弱り果てた様子で、徐々に水嵩を減らしていくと、ついにはすっかり涸れてしまった。
大河があった場所には乾いた土と石とが広がるのみ。
こうなると、ふたつの都市の往来に船はいらない。
巨人の手を借りる必要もなくなった。
それどころか、山の如き巨人はそこにいるだけで通行の邪魔。
人々は巨人を煙たがるようになり、食べ物を捧げることをやめてしまった。
巨人は悲しみ、さらには飢えに苦しんだ。
空腹に耐えられなくなると、かつて大河があった場所に横たわり、通りたければ食べ物をよこせと要求しはじめたのだった。
もし本当に暴れられたら、荒れ狂う大河以上の被害をもたらすだろう。
人々は恐怖に慄き、なんとか巨人を退治できないかと考えた。
月のない闇夜。
両岸の商業都市の者たちが集まって、眠る巨人を取り囲むと、刃を突き立てて、殺した。
その瞬間、傷口から大量の血が天にも届かんばかりに噴き出したのである。
以来、滾々と溢れる血が涸れることのない深紅の大河を形成し、ふたつの都市は永遠に分断されてしまったのだという。




