第1350話 進化の歩み
人類はついぞ光速の壁を超えること能わず、がんじがらめに距離は時間に縛られ続けていた。
このままでは順調だった宇宙進出の道は閉ざされ、さらなる進化へ向けた歩みは停滞せざるをえない。
だからこそ、時間を無視して距離を超越できるワープ技術の完成は悲願であり、この旅の先で待つものに、大いなる望みが託されていた。
星々が煌めく広大な宇宙の果て。
我々がここまでやってこれたのは、数えきれないほどの犠牲と、数多の天才たちの努力あってのこと。
是非にでも、成果を持ち帰らなければならない。
銀河の向こうにある銀色の惑星。
そこにはワープ技術を持つ生命がすんでいた。
いまから数百年前のこと。人類がその場所を訪れたのはまったくの偶然。
故障した宇宙船が、漂流の末に辿り着いたのだ。
記録によると、彼らはまるで植物。特にマングローブに似ているらしい。生態も植物と同じで、大地に根を張って、普段は身じろぎもしない。
けれども、自転によって近くの恒星が作り出す朝が移ろうと、それに合わせて、光の当たる座標へと跳躍するのだという。
それこそがワープ。瞬間移動。彼らの持つ不思議な能力であり、我々がこれから解析しようとしている技術。
難破宇宙船の船員たちは、彼らにワープさせてもらい地球に帰還した。そして、彼らの存在を後世に伝えた。夢を残した。
当時の宇宙船の翻訳機でも、ある程度の対話は可能であったが、今回はそのときよりも高性能なものを搭載しているから、綿密な意思の疎通ができるだろう。
銀色の惑星の衛星軌道に乗って着陸地点を探る。
事前に電波通信で挨拶したかったが、彼らの能力は生まれ持ってのものらしく、伝えられているところでは、科学文明は存在しないそうだ。
銀の大地は起伏が激しい上にすべすべしていて、こまめな噴射で宇宙船の姿勢を何度も整えなければならなかった。余分なエネルギーを消費することになったが、いざとなったら、前回と同じく彼らにワープを頼めばいい。
感慨深さに満たされながら、宇宙船から外に出る。
我々を歓迎するかのように、彼らが周囲に集まっていた。
その姿を見て、湧き上がった感情は困惑。
たしかに植物のようだ。タコが足を開いたような形のマングローブの樹木に似ている。だが、彼らはその根っこを使って、歩いていた。身じろぎしないという記録に反している。
そのことを尋ねると、彼らの代表が、こんなふうに答えた。
「あなた方には大変感謝しております。以前、私どもはワープで移動するしかない不便な体でしたが、あなた方の姿を参考にして、ご覧の通り歩けるように進化し、いまは、日々に必要なほんのすこしの距離だけを行き来することができています。あんな力はなくなって、本当にせいせいしていますよ」




