第792話 喜びと不安を抱える夜
わあああっ!!
ヴァルグロの無数の幻影ごど一気に倒したメセアさんの豪快なフィニッシュに周囲が一斉に沸いた。
ブドウの房のような腫れを浮かべたヴァルグロの顔。かつての美男としての面影はなく、もはやギャグ漫画のような風貌になっている。ハンさんたちの呟きが聞こえてくる。
「強い…。あのヴァルグロをまるで問題にしていなかった…」
「ああ…、それも完勝なんてもんじゃない。見てたろ…?ヴァルグロは決して弱くはねえ…、オレらなんより格上だ。そんなヤツを倒すのにただの一歩も動かなかった…」
「ケタ違い…なんてもんじゃねーな。次元が違いすぎらァ…」
終わったみれば楽勝とか完勝といった終わり方、このヴァルグロはカプエストツ山岳院でもかつては高位の拳士だったという。メセアさんは互いの相性と言っていたが…、やはり実力は間違いなく凄い…。
「ク、ククッ…!」
「ヴァルグロ!?」
散々に顔を腫らしたヴァルグロが首だけ上げて笑った。
「め、めでたい奴らめ…。こ、この美しきヴァルグロが敗れるとは…。だ、だが、次にここに向かっているのは…あ、あの男…。ゆ、優雅さのカケラもない…あの男だ…」
「あーん?負け犬がなんか言ってんぞ」
ガンさんが煽っている。
「ククク…、せいぜい今のうちに喜んでいるがいい…。明日の朝には…い、忌々しが…あの不粋な男がこの町に…来る…だろうからな…」
「あの男…、誰の事?」
山岳院の内情を知らない僕は誰の事だが分からない。
「や、やはり…来るのか…!」
ハンさんが拳を握りながら声を洩らした。
「ク、ククク…。そうだ、認めるつもりはないが…奴は山岳院の帝王と呼ばれた男。き、貴様らは己の無力さとこの世の地獄を見る事に…なる…」
「帝王?誰、それ?」
「ククク…」
それだけ言うとヴァルグロは意識を失った。そこに一人の騎手が指揮する警備兵たちが駆けつけてくる、騎手はもちろん中には顔に見覚えがある兵士たちもいる。そして彼らはエマイソヌとヴァルグロを何重にも縛り手下のチンピラどもも捕縛し引っ立てていった。
「あ、あの…ハンさん。ヴァルグロが言っていたあの男って誰の事ですか…?」
僕はハンさんに尋ねた。
「嫌ってはいるがヴァルグロがその実力を認めている男といえばカプエストツ山岳院がいかに広いといえどもひとりしかいない…」
「そ、それは…?」
「カプエストツ山岳院にて自らは修行を積んでいた拳士…。そして同時に師範代でもある男…」
師範代…、つまりハンさんたちに対して師範が不在の時などはその代理として指導をする事を許されるほどの人物って事だ…。
「その腕前は人格や技量を兼ね備えたなみいる師範の方々にも引けを取らないといわれ山岳院の帝王…」
ハンさんにはもったいつけるつもりはないのだろうけれど様々な情報が出てくる。思わず僕の喉がごくりと鳴った、そのすぐ後にハンさんの口からついにその男のが告げられた。
「鋭く重い極光…、ターガス…」




