第786話 剛腕の氷獣(5) 決着!!エマイソヌを倒せる武器
「ヴァイナリィ・ストライク…、生か死か…。エマイソヌが放つ、残る全ての力を込めた最後の一撃だ」
ハンさんが僕に話したこれからエマイソヌが放とうとしているであろう最終奥義ヴァイナリィ・ストライク…。ヴァイナリィって『二つの』みたいな意味だったっけ?レトロゲームに二匹のペンギンが登場するゲームにこの単語が使われていた記憶がある。当たれば生、かわされたら死、そんな二者択一の最後の攻撃みたいな意味合いだろうか…。
「ふンぬゥゥーッ…!!!」
エマイソヌが体に力を溜めている。左足は満足に地面に着けられないようでかろうじてのつま先立ち、左腕はあまり上がらないようで中途半端な位置に構えている。
「きっとさっきの氷の一撃は左半身を中心に当たったんだろう。だから動く右半身を使ってエマイソヌは最後の一撃に賭けてきてる」
「気をつけろ!左足の踏ん張りが利かないエマイソヌは一気に突っ込んでくるぞ!」
ハンさんとショーンさんから声がかかる。続いてガンさんからも声がかかった。
「ち、力を溜め切る前にやっちまえば良いんじゃねえか?飛び道具をブチ込むとかよォ!?」
それもひとつの戦略かと思って半ば背中を向けているエマイソヌに狙おうと考えたがすぐに改めた。
「ダ、ダメです!」
僕は言った。あの背中や肩のあたり…、時折キラリと光る時がある。
「あれは氷を背中や肩に貼り付けてる!飛び道具を放ってもアレを盾にしてしのぐはず…、逆に僕が攻撃してスキが出来たところにパンチをぶち込まれる…」
「なっ!?誘いの罠だったのかよォ!?」
そうこうしている間にもエマイソヌは力を溜め、同時にその足元から地面が凍りついてこちらに伸びてくる。まるで海外の映画祭とかでよく見かける赤絨毯ならぬ白絨毯だ。もっとも赤絨毯のように華やかなものではなく生死のうちのどちらかが運ばれてくる危険なものだけど…。
そしてその白い凍った地面が僕に届いた時、エマイソヌの体の震えと気合いの声が収まった。
「ふウゥゥーッ!ふウゥゥーッ!」
荒い息をつきながらエマイソヌが口を開く。
「力は十分に溜まったぜ…。正真正銘…、鉄馬車すらぶち抜く俺の最大の一撃だ。ビビってンなら逃げても良いぜ?ただし、後ろの女どもがどうなっても良いならなァ!?」
「えっ!?」
チラリと後ろを見るとそこにはミミさんとメルさん、他にも兎獣人族の子たちがいる。
「ク、クリスタ!!僕の後ろに氷の壁をッ!」
僕の真後ろ数メートルのところに真っ白な氷壁が彼女たちを守るようにそびえ立った。
「ゲンタ!!」
「だんな様っ!!」
ふたりが僕を呼ぶ、珍しくミミさんの声が焦りの色を帯びている。逃げてと叫ぶ声も聞こえた。
だけど逃げる訳にはいかない、逃げたらまた違う方向で同じ事になる…。どうしたら良い…、どうすれば…?そう言えばボクサーの弱点は足元って聞いた事があったっけ…。また、足元を凍らせて動きを止めてもらうか?
いや、それはどうだろう?ヤツは最大まで力を溜めた…、足元を凍りつかせてもそれを強引に踏みやぶってくるかも知れない…。そうしたらなんの意味もなさない。
どうする…、どうする…。逃げずになんとか対応しないと…。そうだ…、ヤツが飛び込んできても妨害が出来れば…。ひとつだけ思いついた方法…、その為に僕は腰を落として身構えた。その様子を見てエマイソヌは僕が反撃や回避を諦め攻撃をこの身をもって受け止めるつもりだと考えたらしい。ペロリと舌舐めずりをしてニタァと笑った。
「(クリスタ、いつでも動けるようにしておいてね)」
僕は心の中でクリスタに呼びかけた
「へへ…、そうだ。テメェはそういうヤロウだ、逃げりゃ良いモンを女ァかばって踏みとどまりやがった。せめて氷の壁を自分の前に出して身を守りゃあ良いだろうによォ!クソ甘すぎてヘドが出らァ…。だったらそこでジッとしてろやァ!!」
ダンッ!!
動く右足を踏み鳴らしエマイソヌが踏み切った。一足飛びに飛び込んでくる、すさまじい勢いだ。
「地獄に行きなァッ!!」
ギラついた目が僕の顔を凝視していた、まさに目指すは僕の首ひとつといったところか。だけどそれが…、その視線が最大のつけ入るスキになる。
「クリスタ!転ばせてッ!!」
グンッ!!
エマイソヌの足元、一歩先ぐらいのところに氷の突起物が出来た。それに足を引っ掛けエマイソヌがつんのめって前に転んだ。僕を殴ろうとした拳もそのまま空振りし横に流れた。そのままベチャッと地面に落ち氷の上を滑ってくる。
「こ、これだァ!!」
僕はその場でジャンプ、摩擦の無い氷の上を滑ってくるエマイソヌの背中の上に飛び乗った。勢いはそのままにエマイソヌは滑る、乗った感じははスケボーかスノボかサーフィンか。氷の上を猛スピードで滑るその先にはミミさんたちを守る為にクリスタが立てた氷の壁…。
「う、うわああああッ!」
恐怖か、エマイソヌが叫ぶ。必死にもがくがどうにもならない、そのまま顔面から氷壁に…。
ゴギャアアアンッ!!!
鉄琴を激しく叩いたような音が響く、意外と骨って高い音が鳴るんだと感じた。不思議な気分、それと同時に僕は後ろに跳んだ。一緒に氷の壁に当たるなんて嫌だからね。
「ガッ…グッ…。こ、この…俺が…、こんな一発でやられりなんて…。ガキの頃から、一度も倒れた事のねえ俺が…どうして…」
「そんなアンタを倒せるのなんてアンタ以外にいないだろ」
僕は無事に着地する。同時に顔面を強打しながらもまだ呻いているエマイソヌにそう言った。
「それに加えて僕の体重も乗っていた、アンタの最後の一撃を上回ったのがあの瞬間だったってだけだよ」
「さ、最悪だぜ…」
バタッ!
なんとか首だけ上げて口を開いていたエマイソヌだったがついに力無く地面に伏した。どうやら意識を失ったらしい。
わあああっ!!
歓声が上がる、見れば氷の壁の上から顔だけ出して兎獣人族の皆さんが僕の名前を何度も何度も呼んでいた。




