第785話 剛腕の氷獣(4) エマイソヌを倒すには?
エマイソヌが巨大な氷柱に押し潰されると周りから歓声が上がった。
「うおおおっ!!あのにいちゃん、やりやがったア!!」
「凶悪そうなアイツを!!」
「「「「ゲーンータ!!ゲーンーたタ!!」」」」
いつの間にか僕とエマイソヌとの戦いを見物していた人がたくさんいたらしい。ある人は喝采を上げ、社交場の中から出てきた兎獣人族のみんなが僕の名を連呼している。
盛り上がる人がいる一方で反対に士気が崩壊した者たちもいる、それはエマイソヌに付き従っているならず者たちである。
「ア、ア、アニキがやられたァ!!?」
「ど、どーすんだよぉ」
浮き足立ち、どうしたら良いか分からなくなったならず者たち。先程までニヤニヤと浮かべていた嫌な笑みはどこへやら…、今はアタフタと周りを見回し臆病風に吹かれ始める。。
「ず、ずらかろうぜ!?」
「そ、そうだ!ここは逃げの一手だ!」
そう言って既ににハンさんたちにやられて地面に転がっている仲間を見捨てち逃げようとする。
「させるか!!」
ケイさんがしゃがんだ姿勢から逃げ出そうとしたならず者の膝の裏あたりに腕を差し入れ引っ掛けた、その姿勢から一気に立ち上がると共に腕を高く突き上げる。
「う、うおおっ!?」
その結果、逃げようと走り出した一歩目を肩より高く跳ね上げられる。すると地上を走り出そうとした地面から一気に人の背丈より高いところに跳ね上げられる、同時に足が高く上がったなら代わりに下がるのは上半身だ。その勢いのままならず者は頭から地面に落ち簡単に意識を失う。
他のならず者たちも似たようなもので士気崩壊からの自分だけは助かりたいと逃げようとしたところをハンさんたちによってあっさりと無力化されていた。特にガンさんは孤児院のポンハムを危険にさらした奴らの仲間は絶対に許さんとばかりに一番張り切っていた。
「よし、これで片付いたな!エマイソヌも捕えたし…」
ならず者たちを全て倒してふうと息を吐きながらショーンさんが言った。
「誰が…、片付いたって…よォ?」
「えっ?ああっ!?」
声がした方を見ると氷の塊の下敷きになっているエマイソヌが抱き枕を抱えるように両腕を回している。
「ぐぬぬぬぬ……ぬがアアァァッ!!」
バキイィィィィンッ!!
「く、砕いたあッ!!」
なんとエマイソヌは自らを押し潰していた巨大な氷柱をその両腕で挟み込んで砕いてみせたのだ、砕けた氷はたちまち昇華され個体から一気にドライアイスのように白い気体となって消えていった。
「ぬはあァァー…、ぐふうゥゥ…」
荒い息どころか喉や肺まで全部使って壊れたアコーディオンのような不快な音のする空気の出し入れをしながらエマイソヌが立ち上がった。
「まだ…やる気かよ、アイツ…」
ショーンさんがつぶやく。
「こ、こんなよォ…氷ィ…、いくらやったって…俺はァ…倒れねェぞ…コラァ…」
明らかに有効打となっているのにも関わらずエマイソヌが言った、その体をガクガクと震わせ右足はちゃんと地面に着いているが左足はつま先立ちになっている。同時に左腕もあまり力が入っているようには見えない、少なくとも満足には動かせないように見える。
「倒れねェってお前…。そんなみっともねえナリでよくそんな事が言えンなァ、オイ?だいたいよォ…」
「た、多分、本当の事だと思います…」
ガンさんがエマイソヌにお前アタマがおかしいんじゃねえかと言わんばかりに口を開いたが僕にはあながち嘘でもないように思えた。
「オ、オイ…。なんだよ、師匠まで妙な事を言い出しやがって…」
「多分ですけど…、エマイソヌには明らかに決まった…と思われるような威力の一撃じゃないと決して倒れないんじゃないかと思うんです。きっと何度でも立ち上がってくるような…ものすごい頑丈さと折れない心を持っている…。そんな気がします…」
例えるならそれは何度倒されても立ち上がってくるボクシング漫画の主人公のような…、しかもエマイソヌは貧民街の出身だと言っていた。生きる為には…食う為には…なんでもやってきたとやってきたであろう彼はおそらくとんでもないハングリー精神の持主…、生半可な攻撃ではきっと何度でも立ち上がってきてただのなぶり殺しのような事になる…僕にはそう思えた。
「だけど…」
僕は思わず呟いた。そんなエマイソヌをどうやって倒したら良いんだ…?残念ながら不意打ち気味のあの氷柱落としからも立ち上がってきた、おそらく二度目は通じない。もっと大きな…それこそもっと巨大な氷の塊を作るのはクリスタの能力なら可能だけどそんな物をぶつけたら単純に死んでしまうかも知れない。
だけど他のものでは決め手に欠ける、おそらくエマイソヌは倒れないだろう。多分だけど…これはもうエマイソヌの心との勝負なんじゃないだろうか?ヤツの肉体はとっくに限界なんじゃないか、心に負けを認めさせれば終わるんじゃ…そんな気がしてくる。
だけどそんな技が果たしてあるのか…、思いもつかない。悩む僕に対してエマイソヌは右足に体重をかけながらグッと体重を落とした。同時に右腕を腰のあたりにつけ低く構える、そして僕に左の肩や背中を見せるように体をねじり静止した。
「ぬううゥゥおおォォ…ッ!!!」
エマイソヌの口から気合いの声が洩れる、全身をブルブルと震わせ力を溜めていく…。それを見てハンさんが叫んだ。
「あ、あれは…!?エマイソヌの最終奥義ッ!!」
「えっ!?さ、最終奥義ですか!?そ、それはどういう…?」
僕はハンさんに聞き返した。
「ヴァイナリィ・ストライク…、生か死か…。エマイソヌが放つ、残る全ての力を込めた最後の一撃だ」




