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第784話 剛腕の氷獣(3) クリスタの仕掛け準備


「いけっ!!」


 僕は右手を突き出して氷のつぶてを放った。ゴルフボールくらいの大きさ、それが五つか六つ…全力で投げたくらいのスピードで…。


 スッ!!


 エマイソヌが音も無く真横にスライドするように動くと僕の放った氷の礫はあっさりと回避された。


「だけど、こうなる事は承知の上」


 間髪入れず今度は左手を突き出した、同じように氷の礫が放たれる。エマイソヌが回避した先に向けて…、感覚的にはドッジボールで狙った相手が横っ飛びでかわして着地した一瞬を狙う感じ…。その動きの直後のスキを狙う。


「へっ、こんなもんか!」


 余裕の笑みさえ浮かべてエマイソヌは僕の第二の攻撃をかわした。僕が狙った着地のスキ…、自由自在に氷の上を滑るヤツには着地そのものが無かった。考えてみればヤツは最初から地に足を着けて滑っている。さらには方向転換も自由自在、その姿は高機動でホバリングをする超有名ロボットアニメの機体のようだ。


「それなら当たるまで続けるだけだ!」


 再び右そして左と距離を取っての飛び道具の連射、近づかれたら腕力も経験も桁違い。僕がやられる未来しかない。なんとしても遠い間合いで始末をつけたいところだ。


「目が慣れてきたぜ、そろそろかァ…?」


 ヤツの言葉に嘘はないようで僕の放つ氷の礫をだんだんと小さな動きでかわすようになってきた。今の攻撃なんか最小限の動きと上半身を動かす事でギリギリで回避。当然、回避後の動き出しも早くなってくる。おそらくだけど次あたり、氷の礫をかいくぐって反撃に来るだろう。


「(クリスタ…、準備は良い?)」


 とん…。


 クリスタが僕の肩に軽く手を置いた、準備できてる…そういう事だろう。


「じゃあ、いくよ!」


 僕はあまり狙わず早さを重視して礫を放った、同時に突き出した手を素早く戻した。


「見切ったぜェ!!」


 最小限…、頬をかすめるくらいの間近でエマイソヌが僕の放った氷の礫をかわした。同時に一瞬だけ体をグッと沈める。氷の上を滑ってくるからその動作はいらないのだろうけど生まれ持ったクセなんだろう、パンチに体重を乗せようと無意識にその体勢を取った。その動きの止まった一瞬を狙う。


「ここだ!!氷雨ひさめ十字砲火クロスファイアッ!!」


 僕は左右に広く手を開き角度をつけて同時に氷の礫を放った。ヤツから見れば右前方と左前方、異なる角度から逃がさないように包囲する形で礫が迫る。


「ドゥアアーーーッ!!!」


 低い姿勢のままエマイソヌがまっすぐに突っ込んできた、そのすぐ背後で交差クロスするように放った氷の礫が素通りする。


「逃げ道ねえように包囲するように撃ったんだろうけどよォ!!真ん前がガラ空きだぜ!!」


 ヤツは地を蹴り文字通り飛び込んできた、体を宙に浮かせ地面に着かない事で再び足首を凍りつかせられる事を避けたのだろう。


「終わりだァ!!」


 エマイソヌが叫ぶ、同時に僕も叫んでいた。


「クリスタ、今ッ!」


 フッ…とあたりが暗くなった。そして同時に巨大な塊がエマイソヌの真上に落ちてきた。それは大きな…ドラム缶をふた回りくらい大きくしたような氷の塊だった。それに気づいたか、エマイソヌは僕から視線を外し肩越しに上方を見た。その目が驚きに見開かれる。


「な、な、なンだとォッ!!」


 どすんっ!!


「グガアッ!!!?」


 振り向きかけた姿勢のエマイソヌの真上に落ちてくる氷の塊をまともにくらった、そしてそのまま潰されるように地面に倒れた。今回の氷の塊は今までのように消え去らせてはいない、漬物石つけものいしのようにエマイソヌの体を地面に押さえつけている。


「な、なんだァ…?これは…」


 苦痛に喘ぎながら氷の下敷きになったエマイソヌが口を開いた。


「ずっと真上に仕掛けていたんだ、アンタが体を温めている間にこちらも氷をどんどん大きくね…。あと、なんとなくだけど予想ができたんだよ」


「よ、予想…だとォ…?」


「包囲するように左右同時に放った氷のつぶて…、逃げ道は限られている。それならアンタはまっすぐ突っ込んでくる…、だから僕の体のすぐ前に罠を仕掛けたんだ。なんの攻撃の気配もさせない、軒下の氷柱つららのように…ね」


「グハァッ!!」


 ひとつ大きく咳きこむとエマイソヌはひとつ血の塊を吐き出していた。

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