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第782話 剛腕の氷獣(1) だんな様は嫁(?)の危機に駆けつける


「おうおう!エマイソヌのアニキのお通りだァ!!道を空けやがれェ!!」


 僕たちが町の盛り場…というか、酒場やヒョイオ・ヒョイさんが営む社交場サロンがあるあたりに駆けつけた丁度その時にそんな声が聞こえてきた。


「あれか…」


 見ればなんというか、孤児院の前で暴れていたならず者たちと似たような風体ふうていの男たちがゾロゾロと歩いていた。その数はおよそ二十人ほど…。


「なんとかならねーもんかね」


 その連中を一目見るなりケイさんが言った。


「どいつもこいつも似たよーなカッコしやがって」


「分かりやすくて良いじゃないか」


 ショーンさんが応じる。


「探したり見分ける手間がいらねえんだから」


 僕たちがそんな話をしているなんて夢にも思っていないであろう連中は調子に乗ったまま盛り場の通りを大股で闊歩する。


「ささっ!アニキ、このあたりがこの町で一番賑やかなトコですぜ!」


 ならず者たちのひとりが何やら先導するような声を上げている。


「よォし!!アニキに適当な酒場と女を見繕って繰り出すぞ!」


「そうだな!おっ、アレなんか丁度良いんじゃねえか!悪くねえのが二人歩いてやがんぜ」


「おい、そこの兎獣人族パニガーレの女と横にいる青い服の女ァ!ちょっとこっち来いや!」


「えっ…?」


 僕は驚き男たちが騒いでいる方を見ると少し離れた場所にいた二人組の女性に声をかけている、見知った顔だった。ひとりは社交場のダンサーであるミミさん、そしてもうひとりは社交場の歌姫…女魚人族マーメイドのメルジーナさんであった。


「エマイソヌのアニキがお前らをお呼びだ。これから酒場に繰り出すからお前ら付き合えや。さっさと来いや…おう?」


 すたすたすた…。


 ならず者には一瞥いちべつもくれずメルジーナさんの手を引いてミミさんがヒョイさんが営む社交場サロンに向かって歩いていく。その光景は日本でも見た事がある、街中でナンパかキャッチをしてくる男に何も応じず無言で通り過ぎる女性たちのようだ。


「シ、シカトしてんじゃねーぞ!!」


 完全無視フルシカトを決めこんで立ち去ろうとしているミミさんたちにならず者が怒りの声を上げた。その声にメルジーナさんがビクリと肩を震わせる、隣を歩くミミさんはいつものように無表情だが小さく大丈夫とだけ言って歩みを速めた。ならず者が二人の前に回り込もうする…。


「ミミさん!メルさん!」


 僕は駆け出す、ハンさんたちも後ろに続く。


「ゲンタ!」


「だんな様!」


 ならず者には一言も発さなかった二人が僕には応じる声を出した。


「な、なんだテメェは!!しゃしゃり出てきてんじゃねえぞ!」


 ならず者の男は唾を飛ばして威嚇してくるがその間にミミさんたちはこちらに小走りでやってくる。その時、やけに低く野太い声が響いた。


「だんな様だァ…?お前、そこの女のコレかァ…?」


「…ッ!?」


 声のした方を振り向くとそこには身長こそ僕と大して変わらないが腕回りや胴体など明らかに太さが違うガッチリとした男がいた。肌の色ばこの辺りでは珍しいかなり浅黒いものだ。髪は短く刈り込まれていてパーマをかけたんじゃないかと思うくらいクルクルと巻いたものである、顔つきも良く言えば野生的、言葉を選ばずに言えば熊みたいな感じさえする。僕はこの世界に詳しくはないけどおそらくは異邦人なんじゃなかろうか。


「見つけたぞ!!エマイソヌッ!!」


 ハンさんが声を上げた。


山岳院おやまめいによりお前を捕えにきた!!」


「あァん?捕えにだァ…?テメェらみてえなヒヨッコが…俺をか?」


 ヘッ、エマイソヌが小さく馬鹿にしたように笑った。


「おう、お前たち!こいつらちょっと痛めつけてやれ」


「「「「へーい!!!!」」」」


 ゾロゾロ…。


 およそ二十人ほどだろうか、どいつもこいつも似たような格好をしたチンピラが腕まくりをしながら前に出てきた。


「その間に俺はよォ…」


 ゴキゴキと首を鳴らしながらエマイソヌが僕をチラリと見た、そしてニヤリと凶悪な笑みを浮かべた。


「コイツぶちのめして女を奪う事にするかァッ!!!!」


 ダンッ!!!


「は、速いッ!!?」


 足で地面を力強く打ち鳴らした音がしたかと思うとエマイソヌが一気に踏み込んできた。だけどそれは走り込んでくるようなものではなく顔も体も一切の動きも無くまっすぐに飛び込んでくるようなもの…。殴り掛かろうとする拳だけがまっすぐ槍のように突いてくる。あまりに速い接近に為す術もない、僕は思わず目をつぶった。


 があんっ!!!


 大きな声が響いた、それは何か硬く大きなものがぶつかるような音…。僕は恐る恐る目を開けた。


「…ッ!?こ、これは…!!」


 目の前に氷の壁が出来ていた、ガラスのように透明ではなく白さを帯びているので曇りガラスのようだ。うっすらと向こう側にエマイソヌの姿が見える、その拳を氷の壁に打ちつけた直後だろうか。どうやら先程の大きな音は氷の壁を殴った事によるもののようだ。


 ふわり…。


 僕の視界の端…、顔の横あたりに小さく映る人影…。キラキラと光を帯びた粒子が舞う…。


「クリスタ…、君が守ってくれたんだね」


 僕の横にいたのは氷精霊アイシクルのクリスタ、そういえばもしこれから誰かと戦う事になったら精霊たちは誰が僕を助けるかの順番を決めていたっけ…。それが今回のクリスタ…。僕がそんな事を想っていると氷の壁の向こう側から声がした。


「ほぉ…。テメェ…、氷使いか…面白え!」


 エマイソヌだった。氷の壁の向こうでなにやら拳を振り上げるような動作に入る。そして次の瞬間にはそれを激しく振るい始めた。


 があんっ、があんっ!があんっ!!!


 ピシピシ…、バリインッ!!ガラガラッ…。


 エマイソヌが拳で連打する。すると氷壁に次第にヒビが…、そして亀裂が入っていき最後には砕けていく。その割れた氷の壁の向こう側にエマイソヌの顔が見えた。そしてその拳はボクシンググローブのような形の氷が覆っている。


「俺も氷を使うのを売りにしている。だったらどっちが上か…、ニセモノ野郎かハッキリしとこうじゃねえかァ…」


 肉食獣のように歯を剥き出しにしてエマイソヌがが凶悪な表情を浮かべた。


 意外かも知れませんがエマイソヌは氷属性にしてみました。


 一応、最後の決まり手はすでに頭の中で決まっております。イメージは夏のマリンスポーツと某作中ではかなり不遇な扱いのあの技。どうつなげよう…。

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