第29話:魔剣と王女
「悪いな、報酬や今後について依頼主と話していたら遅くなった」
強面顔の男は俺達に見向きもせず横を通り過ぎていきダナン達の元へ行った。
「それで、依頼主はなんと?」
「お前達のお陰で予定以上にスムーズに事が進んでいるから報酬に少し色をつけるだと」
「おぉ、それで今後はどうするんですか?」
「お前達は待機して遊んでれば良い、俺は追加依頼で次の作戦にも参加する事になった」
「どうせ貴方のことだから追加依頼というより、楽しそうだから自分から志願したんでしょ」
「まあな、騎士の護衛は弱い奴ばっかりでちっとも楽しくなかったし、将軍クラスになれば少しは歯ごたえの良い奴がいるだろうしな」
「あれだけの騎士相手に1人で挑んで無傷で勝てるのはリーダーだけです」
「まぁいい。それで、アイツ等はなんだ?」
「誘拐事件を捜査しているギルドの人間ですよ」
「ギルドの? あはははは! ギルドは余程人手不足なんだな、こんな素人に毛が生えた程度の冒険者を送ってくるとは」
「それだけ依頼人の作戦通りという話です」
「おい、真ん中のお前! お前が一番強そうだ、名前は?」
起き上がりどうするか3人固まって警戒しているとこに、いきなり強面顔の男が俺を指差し聞いてきた。
「・・テツヤだ」
「あん? 聞いた事あるなぁ・・・・・・そうかそうか、お前が噂の新人かっ!」
男は新しい獲物を見つけたとばかりに目をギラギラさせている。
「おい、テツヤ! 俺と死合しないか?」
「ゲームだと?」
「そうだ、複数の生命を賭けた死合だ。お前が勝てたら攫った奴等を解放しお前達も見逃してやる」
「お前が勝ったら?」
「当然その逆の皆殺しだよ、お前等も攫った奴等もみんな」
本気で言っているのかどうか男を観察し、周りの荒くれ者を見てみたが周りはいつもの事だと言わんばかりに半ば呆れている。
(まぁ断っても逃がしてはくれないだろうし、攫われた人達を助けないとな)
「いいだろ。・・2人共、あいつ等がちゃんと約束を守るとは思えないから周囲は警戒していてくれ」
俺が剣を抜いて歩き出すと、それを合意とみなし男も近づいてくる。改めて男の得物を確認してみた。得物は大きさからクレイモアと考えられそれを片手で操る男の並外れた力量には驚かされるが、それ以上に吸い込まれそうなほど鮮やかで血のように赤い刀身とそれが発する禍々しい波動が気になった。
「この大剣が気になるのか?」
「それだけ禍々しい気を発してれば当たり前だろ」
「そうか。とわいえ俺が答えられる事は何もないぜ、昔ダンジョンで魔物が持っていた物を殺して奪い取っただけなんでな」
「ダンジョン? あんたも冒険者だったのかよ」
「そこそこ名は売れてた、もっともダンジョンに俺が求める戦いが無かったから辞めたが」
「求める戦いがないから辞めるって、とんだ戦闘狂だな」
「否定はしないさ」
話しながらも互いに攻防を繰り返す。次第に周囲には剣撃がぶつかり合う音だけが響き、お互い一撃も与える事無く攻めあぐねる状態が続く。
「新米が俺の攻撃にちゃんとついてこれるとは、噂以上だな」
「そりゃどうも、とわいえ全然本気を出していない奴に言われてもなぁ」
「なら、ボチボチと上げていくかっ!」
その言葉通り男の斬撃は1撃1撃いれる度にスピードが上がっていき、先程まで5:5の攻防だったのが3:7の割合となり攻撃にでれなくなってきた。徐々にかすり傷程度ではあるが完全には防ぎきれない部分が出始め、不思議な事に傷をつけられる度に男の斬撃の威力・切れ味もほんの僅かだが上がってきている気がした。
「その顔、何か疑問があるようだな」
「傷つけられる度に威力や切れ味が僅かだが上がっていくのが解らなくてな」
「あぁそれか、それはこの魔剣の特性だ」
「特性?」
「そうだ、この魔剣は人の血を吸う度に硬度・切れ味が上がる。俺としては武器を換える必要無いのが楽ってだけだな」
(たしかにこの男の実力なら違う武器でも制限されている今の俺を圧倒できるだろう。しかしあの魔剣は血というよりそれに含まれる生命力と魔力を吸収しているな、異様な体力・魔力の減りはそうとしか考えられない)
そうこうしているうちに男の攻撃が俺の肩と腿を斬り裂き、膝を突いたところに男は大剣を突きつけた。
「本気を出しているようには見えなかったが過大評価しすぎたか、思っていたより呆気なかったな」
「悪かったな、今の俺の剣技ではこれが精一杯だ」
「そうか、ならこれで終わりだ。その後は決めていた通り皆殺しだ」
「それをさせる訳にはいかせないから先に謝っておく・・すまない」
「今更何を言ってるのか知らんが・・・・死ね」
男の大剣が俺の首を斬り飛ばそうと振り下ろされた、その瞬間小さい光の盾が出現し男の大剣を受け取める。
「なっ!!」
男が驚きで一瞬動きが止まったところを俺は見逃さなかった。俺は肩の治療が終わった左手で剣を振って大剣を弾き、右手に光の剣を出現させて振り上げ大剣を持った方の手首を斬り飛ばした。
「ぐぉーーーーっ!」
男は苦悶の表情を浮かべ手首を押さえて膝をつき、先程とは逆に俺が剣を突きつけた。
「・・・・魔法か」
「あぁ、さすがに卑怯だとは思ったが負ける訳にはいかなかったからな」
「実戦の中だ卑怯だとは思わん、見抜けなかった俺が悪いだけだ。・・・・殺せ、それで終わる」
人を殺すことに少なからず抵抗があったが、そうしなければ仲間や他の人達が殺されてしまうので仕方無いと考えるようにし剣を振り下ろそうとした瞬間俺は後ろへ跳んだ。その途端3本の氷柱が俺が立っていた場所に深々と突き刺さった。
「ダメですよグレンガルさん、こんなとこで仕事を反故にされてわ」
声がした上空を見上げると以前ダナンと口論していたフードで顔を隠した者が浮いていた。
「何の真似だ」
「言った通りここで死んで約束を反故にしてもらっては困ります、貴方には次の作戦で働いて頂くのですから」
「・・・・そうだったな、面白い依頼を受けていたんだった」
「そうですよ~、私が援護しますので今は引いて下さい」
「テツヤこの決着は次でつけよう、その時は互いに全力でだ! お前ら引き上げるぞっ!」
上空から魔法が降り注ぎ爆煙が落ち着いた後は人影は見当たらず、上空にも誰もいなかった。
「もうダメかと思ったよテツヤくん」
「ほんとほんと、どうなるかと思った」
少し落ち着いたところにシュリとカイムが駆け寄ってきた。
「心配かけたな、とりあえず誰も居なくなったようだから結界を解いて小屋を調べよう」
注意しながら小屋に入るとリビングに慰み者にされた裸の女性が3人倒れていた。女性の介抱をシュリに任せカイムと2人で小屋の中を見て回り地下室への入口を発見する。地下室は牢屋のようになっており1つ1つに数人ずつ入れられていたが、一番奥の牢に1人だけ入れられている他の女性とは一際違った女の子を発見した。
「キミは?」
思わず声をかけると女の子はこちらに気づき返答してきた。
「私はイングヴァルト王国第3王女レティーナ=イングヴァルトです」




