救出編第1話Act2-3
Act2-3
~新体制~
黒かった・・・人間という人間が黒い布で包まれていた。その黒い布に身を包んだ集団の中に岬たちは紛れ込んでいた。整列しつつ正座をし、静かに時を待っていた。
その時が来た。手に持った鐘を鳴らしながら禿頭の男が入ってきたのだ。祭壇の手前までたどり着くと敷いてあった座布団の上に正座した。手持ちの鐘が鳴りやむと、巨大な鐘を突いた音が祭壇の」前から発射された。この袈裟を着た男は右手のみで合掌し、左手でバチをとり、木製の魚めがけて振り下ろした!
”☆♬”
優しくなおかつ寂しげな音が発生した。その音が消えた直後、禿頭の男が呪文を唱え始めた。
「摩訶ぁー般若ぁー波羅ぁー蜜多ぁー心経ぉーぉーおー・・・」
この様を岬たちは沈黙を持って見守っていた・・・
チーム全員がこの場にテロップ作者がいたらとびかかりそうな顔つきで投影モニターを敵視していた。
「2月18日未明、東京都奥多摩で自動車転落事故が発生した。乗っていた会社員、毛利聡さん(50)と島津明美さん(22)が死亡しました、不倫旅行中に事故に遭ったと見られ・・・」
誰もが沈黙を保っていた・・・
「・・・毛利先輩が・・・まだ教えてほしいことがあったのに・・・」
重苦しい状況を元が破った。
「緊急指令よ!」
部長がさらに沈黙を破った。脇にはタブレットを抱え、幽鬼の化したが如き真っ青な顔で絶叫した。
「VRのトッププログラマーの栄光と転落・・・毛利聡、横領と不倫で身を滅ぼす!」
部長のタブレットまでもが悲しみとは無縁の声で絶叫した。
「たった今から、毛利と島津の情報は緘口令がしかれたわ!」
「・・・こいつもクソッタレか!」
見てはいけないものを見てしまった岬が呟いた。
「明美が・・・毛利先輩を・・・ありえない!」
「そんなクソッタレの戯言なんて無視よ!」
その場にいた全ての人間は機械共が貶す中、亡くなった人達を擁護していた・・・。
「毛利氏の同僚たちがWoFCoに到着しました!」
入口に”肉の壁”ができていた・・・、入口をかろうじて見ることができる隙間が、傲慢な人間にかかれば瞬時に制圧することができるような鉄壁さであった。警備員たちは必至で”肉”をかき分けているが、風穴を開けるには至らない。その”肉の壁”の”肉”が己の獣欲ではない欲望を満たそうと岬たちに押し寄せてきた!もはや”人海土石流”というべき状況であった。マグネシウムの爆発音と足音が流水音の代わりであった。岬たちはその流れに逆らうようにして進撃していった。しかし、”肉の壁”の構成要素たちは悪意を持って迎撃した。
「毛利氏の後援者たちから罵声メールが届いています!!!ぜひともコメントを!」
そこには”相手の人間性を尊重する”概念が存在しなかった。サングラスに遮られて表情を確認することはできないが、口角は下がりきっていて、両手はともにパンチを出す前兆の如く握りしめられていた。その状況で岬は人間が最も不快に感じる反応をもって答えた。
「黙ってないで一言!沈黙は肯定ですよ!」
岬の答えは変わらない。ただの障害物として避けるだけだった。しかし、”障害物”はそれを察知し、岬の未来位置に移動した。岬たちの進撃が停滞した瞬間、クモの巣に激突した蛾の如くからめとられてしまった。
「私たちは真実のみを報道します!」
岬たちが気に留める可能性など存在しないにも関わらず無理やり詰め寄った。
「!」
次の瞬間、岬の目の前の”肉の壁”の隙間から腕が2本突き出たそして”肉”を押しのけることに成功した。岬たちの前方に警備会社の制服をきた格闘家体型の男女が姿を現した。2人とも歯ぎしりをしつつ”肉”共を片付始めた。警備員たちが作った隙間を通り、岬たちは無傷で入口にたどり着いたのだった・・・。
”肉”共の罵声が聞こえなくなるや否や岬が電話をかけ始めた。
「送ったデータで”カラスの色は俺らが決める”なんてわめいてる連中を追い払えるか?」
岬だけが語句を聞き取れるくらいの音量で電話から高い声が響いてきた。
「・・・頼む!奴らをムーンベースまで・・・いや、αケンタウリまで飛ばしてくれ!」
岬がスマートフォンを耳から放した直後のことだった。
「接近禁止ぐらいはとれるかしら?」
「100%!・・・ただ、連中は守銭奴ですから・・・見つけた金鉱を手放すことはないでしょう・・・」
「・・・早くウソだとバレることを祈りましょう・・・」
「2人の行動が不自然すぎますよ」
メンバーも疑惑の顔つきになっていた。
「・・・そうだな」
「かなり手の込んだ偽装だ・・・」
「明美が好きだったのは・・・私だし・・・」
「毛利先輩は犯罪なんて許せない人間だった!横領が不自然すぎる・・・」
「そこから先は法務と警察の仕事ね」
部長が雑談時間ではないという言い換えた圧力をチームにかけた。
「・・・一旦解散しましょう・・・」
岬だけが圧力をかけた震源地に取り残された。・・・
いや、取り残されたのではなく残ったようだった。
「・・・わかっているとは思うけど・・・」
「セキュリティーに詳しいプログラマーで遊軍所属の人間っています?」
部長は鞄の中の持ち物をなくしてしまったかの如くタブレットを操作し始めた。
「・・・」
「お?もうすぐ遊軍になる人ならいるわね」
部長がタブレットの向きを岬へと向けた。その瞬間、岬が露骨に嫌な顔になった。
”長尾芳樹(29)ネットワーク部スフィンクスチーム所属。セキュリティー担当。2月25日にチーム解散予定”
「!!!」
「同期なら話しやすいんじゃない?」
「あいつの性癖は知っているでしょう?」
追い払いたいという考えが露出した発言をする岬。そのようなことで違う人物を紹介する部長ではなかった。
「なら、チームは2人欠員で続けることになるわよ?」
視線を右上にそらし、しばらく沈黙する岬。数秒後、ガックリしたまま呟いた。岬を知らない人間でも権力をもって無理やり受け入れさせられたことは見て取れるほどだった。




