救出編第1話Act1-5
Act1-5
~齋藤岬の野望2~
部屋には岬と部長、そしてもう一人が対峙していた。周りには無数のモニターが存在し、その一つ一つに様々な年齢の男女が映し出されていた。それらのモニターに映る人物たちはしきりにメモを取ったり頷いたりしていた。
岬は目の前の男とモニターの後ろにいる人物たちに向かって論理的に叫んでいた。
「・・・以上が趣旨です」
「・・・50点だ・・・とんだ見込み違いだったよ!
岬の目の前にいる老年に近いが、ベテランコマンドーの如き体格を持った男が、笑いながら、内側には侮辱の感情を込めた声で宣言した。
「・・・」
モニター越しに罵声、そしてヤジが岬に向けられた。この場はプレゼンテーション会場のはずが、弾劾裁判の場と化していた。裁判長兼検察官が岬の目の前に座り、岬が被告人、部長が弁護士であるかのようだった。
「君なら”クソチーフ”呼わばりした上杉を超えると思っていたんだが・・・30年は必要なようだ」
意地汚い罵声が岬に浴びせられるが、彼は半泣きになることも、不快な表情をすることもなかった。ただ、黙ってモニターのスライドを切り替えただけだった。
「!!」
「先ほどのは”イチゴの種”ですよ・・・”果肉”の説明はこれからですよ、社長」
岬は目の前の人物に向かって反撃した!
「・・・聴こう」
“社長”と呼ばれた人物から侮辱の笑いが消えた。
「直接教えるわけではありません。あくまで”ゲームで遊んでいる”と認識させます。そして、関門は人間力と組織力が無ければ決してクリアできないものにします。ユーザーは先へ進むために身に付けるべき能力に必ず気付くでしょう」
岬の顔から笑いがこぼれ出た。
「・・・君はユーザーを騙すつもりかね?」
対峙者は興味から驚きへと表情が変化した。
「ABRAAから電気信号を脳に送り、ユーザーに嘘情報を認識させ、それを基に行動させる・・・”いつも通り”騙すんです」
社長は首を傾げ、さらには顎に右手をのせて黙ってしまった。
しばらくの沈黙後、再び口を開いた
「・・・発表会は終わりだ!解散!」
モニターに映っていた顔が消滅し始めた。岬に露骨に悪態をつく40代らしき男、ミリセカンド単位だけ目尻を痙攣させた50代であろう女性、笑いながら消滅した岬と同年代の男女・・・消え方は様々だった。
「忘れるところだった、北条と齋藤は残ってくれ」
部屋の中は3人だけになった。
「さあ、どうやって騙す?」
社長が全てのモニターを眺めてから岬に向き直った。直後に複数のモニターから起動音が発生した。そして、先ほどと同じように“年齢、性別のモザイク”状態と化した。
「・・・解散を命じたはずだ!」
社長は不快を通り越して怒りを爆発させた!
「ええ、命令通り一度解散いたしました」
モニターの中の一人が下品な笑い声を出しながら答えた。
「まったく・・・見学料がいくらになると思ってるんだ?」
半分以上諦めた声で抗議した。
「発言権は与えんぞ!」
「・・・続けます。当初は今まで通り、少人数や個人でクリアできるようにします」
画面を切り替えながら岬はプレゼンを続けた。
「・・・ある地点以降、個人プレーでは突破不能にします」
“会議室”のはずなのだが、“朝礼の時に社長から怒りを買う直前の雰囲気”になった。
「発言したいなら退席したまえ!」
再び“会議室”へ逆戻りした。
「どうさせるつもりだ?」
「あるものを開発させます」
「ノーヒントでか?」
「ノーヒントです」
「・・・」
「もうこの時点で個人プレーは不可能になります。組織で戦わざるを得なくなるのです」
しばらく沈黙が続いた。社長は両手で尖塔のポーズを作りながら岬に話しかけた。
「・・・スパルタが好きだな・・・」
「このくらいやらないと”クソッタレ”共には勝てません!連中は傲慢であり、狡猾ですから!」
社長はこの会議で初めて歓喜の笑いを浮かべた。
「・・・30点プラスしよう。残り20点だ!」
「どのあたりが不満ですか?」
「君は”このゲームの主役はクソッタレ共の被害者”だといったな?そいつ等が権力を手に入れた時、さらなる弱者に同じことを転嫁するとは思わないのかね?」
「・・・一部ですが、可能性はあります。ですが、残りは”クソッタレ共”を滅ぼす側に回ります!」
岬は私情混じりで叫んだ!
「経験則かね?」
「俺の友人の弟がやられましてね・・・」
しばらくの間、沈黙が流れ出た。そして“予算:\150億”と書かれた部分に指先の延長線を突きつけながら叫んだ!
「・・・19点プラスだ!残り1点は・・・予算だ!30億削りたまえ!」
「・・・」
岬と部長で舌戦に使用した機械を片付けていた。それを社長が呼び止めた。
「ところで、仮のタイトルは決まっているのかね?」
「はい!タイトルは・・・“現実を嫌悪する者”・・・”TWHaR”!」




