救出編第1話Act1-3
Act1-3
~引き抜き~
「岬、わかってるとは思うけど、ここはビジネス部であってエンターテイメント部じゃないはずだぞ」
岬に面と向かって男は叫んだ。岬よりも頭一つ分背が低い。それでも筋肉と脂肪は岬を軽く上回る量がついている人物だった。座っているオフィスチェアが今にも破壊されそうな悲鳴をあげている。友人でなくとも“椅子から離れろ!”と言いたいような状態だ。歳は岬と同世代だろうか?黄色いワイシャツを着ていて、ダークグレーでなおかつ熊のエンブレムが自己主張しているネクタイをしめていた。そして、その上から白衣を羽織っていた。多分スーツの下半分であろうダークブルーのパンツと革靴を身に付けていた。
「元、同じさ。遊ぶ為に使うか働く為に使うかの違いだけさ」
“そんなのはどこ吹く風”という感じで返答した。
「まったく・・・変わらないな!?」
“○▼↑!!!”
岬の背面に設置してあったやたらとギークな見た目の装置から警報らしき音が聞こえた!“元”と呼ばれた男は岬との会話を忘れたかのように起立して・・・100m15秒フラットぐらいのスピードで音源に突撃していった!岬も振り向いて、それが当然であるかの如く元の作業を黙って見守っていた。
手の込んだ爆弾解体作業の如き試練をクリアして、元は警報を止めた。
「危なかった・・・で、僕の上司への説得は済んでるのかい?」
「スカウト・・・じゃなかったレンタル予約済みだ」
質問を予想していたかの如くセカンド単位の間で岬は回答した。
「それに、こいつがある」
岬が笑顔を作りながらタブレットを元に差し出した。
“齋藤岬を新作ソフト開発リーダーに任ずる。そのために必要なあらゆる行動を許可する・・・エンターテイメント部 部長・北条メイ”
タブレットにはそう書かれていた。
「”何をしても許されるバッヂ”だ」
「!スゲーや!!・・・っで、いつから?」
文面通りならあまりにも非常識過ぎる命令を見て、元もヒートアップし始めたようだ。
「2週間後だ」
期間を聞いた途端、元は急速にクールダウンしていった。
「・・・マジか!!!すまんが、聞かなかったことにするしかいない・・・」
「?」
「今、僕が書いてる論文がね、3週間後に提出なんだよ・・・だから、その日程じゃあ岬のバスの運転にはつき合えないんだ・・・」
岬からも笑顔が消えた。
「なんてこった!」
ゆっくりと立ち上がり・・・
「・・・畜生!」
オフィスチェアの横に置いてあった箱にキックを放った!
金属音が部屋に響いたが、箱は中身のゴミをまき散らすわけでもなく、ゴールポストに飛んで行くわけでもなかった。そいつは岬にキックされる前と何も変化はしなかった。
「?らしくないな」
困惑する元。
「・・・なんて俺が言うわけないだろ!」
岬の発言を聞き、当然持っているのだろうという顔付になった。
「方法あるのか?」
「助っ人を出す!俺が知ってる最強のゼネラリストを!」
「入るわよ!」
元の研究室に何者かが侵入してきた。
「?」
元が掛け声に応じた。しかし、振り向くと同時に詰まったような叫び声をあげた!
「北条部長!ここはエンターテイメント部じゃありませんよ?」
部長が目尻を痙攣したかの如くヒクつかせながら答えた。
「齋藤から”助っ人を出す”ってことは聞いてるかしら?」
「聞いてますよ。誰ですか?」
「武田君の2m手前よ」
元の前方に立っている人物は部長一人である。その先には通路の壁があるだけだ。
「!!!!!!!!!!!!!!」
元は“全力で叫びたい”という欲望をかろうじて抑え込んだ。だが、一押しすれば顎が外れて激痛で悶えるのではないかというレベルで口が開かれていた。
「さあ、どこまで進んでるのかしら?」
部長が元のすぐ脇まで近づいた時に“アッチの世界”からようやく帰還した。
「北条部長!ありがとうございます!バ・・・齋藤の無茶に付き合わせてしまって!」
元は無茶振りをさせられた被害者に頭を下げた。
「上司に命令するバ・・・部下を初めて見たわ・・・」
“貴方が謝る必要は無い”という態度で、回答ではなく感想を述べた・・・




