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仲の良かった親友の計画によって嘘告された俺。その話を聞いた親友の妹がブチギレた  作者: 白金豪


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第5話 次の日の朝

(今村和美視点)


 カバンの中を確認する。


 教科書。


 ノート。


 筆箱。


 スマートフォン。


「よし」


 忘れ物はない。


 鏡の前で前髪を整え、制服の襟を直す。


 いつもより少しだけ早い時間。


 別に寝坊が怖かったわけじゃない。


 早く家を出たかっただけ。


 正確に言えば、あれと顔を合わせる前に家を出たかった。


 私はカバンを肩にかけ、自分の部屋を出た。


 廊下は静かだった。


 あれの部屋のドアは閉まっている。


 まだ寝ているのかもしれない。


 そのままずっと寝ていればいいのに。


 私は足音を立てないように階段を下りる。


 リビングからテレビの音が聞こえてきた。


 ニュースを読み上げる声。


 食器が触れ合う音。


 いつもなら、あれと一緒に朝ご飯を食べていた。


 くだらない話をして。


 テレビに映った芸能人を見て、あれが適当なことを言って。


 私が笑って。


 同じ時間に家を出る。


 それが当たり前だった。


「…………」


 思い出しただけで気分が悪くなった。


 昨日までの私は何も知らなかった。


 あれが信吉さんに何をしたのか。


 信吉さんがどんな顔で屋上に座り込んでいたのか。


「……最低」


 小さく吐き捨て玄関へ向かう。


 昨夜から、あれが送ってきたメッセージは全部無視していた。


『なあ、和美。どうした?』


『俺、なんかしたか?』


『既読ついてるよな?』


『おーい』


 自分が何をしたのかすら分かっていない。


 分かろうともしていない。


 最後には、いつものふざけたスタンプまで送ってきていた。


 謝る相手が違うでしょ。


 どうして私の機嫌ばかり気にしているの?


 私に許してもらえば、それで全部なかったことになるとでも思っているの?


 玄関でローファーに足を入れる。


 かかとを整えて私は立ち上がった。


 今日は信吉さんと一緒に登校する。


 そう約束した。


 信吉さんの家の前で。


 私がそうしたいから、迎えに行く。


 ただそれだけ。


 カバンを持ち直し、玄関のドアへ手を伸ばす。


「お、おい、和美!」


 ドタドタと騒がしい足音が聞こえてきた。


 最悪。


 あと少し早ければ顔を合わせずに済んだのに。


「どこに行くんだ?」


 あれが落ち着かない様子で玄関に姿を現した。


 髪は整っていない。


 制服のシャツもズボンから少し出ている。


 ネクタイは片手に握ったまま。


 慌てて部屋から飛び出してきたんだと思う。


「もう学校に行くのか? いつもより早くないか?」


「…………」


「ちょ、ちょっと待てよ。俺もすぐ準備するから」


 まじでうざい。


 誰が待つって言ったの?


 私は完全無視を徹底して玄関のドアを開けた。


 朝の空気が頬に触れる。


 早く外に出よう。


 これ以上、あれと同じ空気を吸いたくない。


「おいって!」


 後ろから声が飛んでくる。


 それでも振り返らない。


「ど、どうしたんだよ。昨日から変だぞ?」


「…………」


「メッセージもずっと無視するし、家に帰ってきても俺のこと避けるし……。今まで毎日、お兄ちゃんと一緒に仲良く登校してたじゃないか」


 その言葉で足が止まった。


 仲良く。


 確かに仲は良かった。


 自慢のお兄ちゃんだと思っていた。


 友達が多くて。


 明るくて。


 困っている人がいたら、すぐに声をかけられる人だと思っていた。


 小さい頃からずっと一緒だった信吉さんのことも大切にしているんだと思っていた。


 でも違った。


 あれにとって信吉さんは友達じゃなかった。


 自分たちが楽しむためなら、どれだけ傷つけてもいい相手だった。


「和美?」


 不安そうな声。


 私は振り返らなかった。


 今、顔を見たら、たぶん我慢できない。


 昨日のことを全部ぶつけてしまう。


 でも、それじゃ駄目。


 あれが私に謝って終わりにしそうだから。


 私が怒っているから反省するんじゃない。


 自分が何をしたのか自分で考えて。


 信吉さんに何をしたのか自分で気づいて。


 そのうえで信吉さんに謝らないと意味がない。


「自分の心に聞けば分かるんじゃない?」


 振り返らないまま皮肉全開の言葉を残す。


「は?」


 一瞬、間の抜けた声が返ってきた。


「お、おい。それってどういうことだよ!」


「…………」


「俺、何かしたか? 和美に何かしたなら謝るからさ!」


 ほら。


 やっぱり分かっていない。


 私に何をしたかしか考えていない。


 あれがまだ何か言っている。


 知ったことじゃない。


 私は外へ出ると玄関のドアを閉めた。


「和美! 待てって!」


 ドア越しに声が聞こえる。


 私は一度も振り返らなかった。


 住宅街を学校とは少し違う方向へ進む。


 信吉さんの家へ向かうために。


 昨日の信吉さんの顔が何度も頭に浮かんだ。


 目を合わせようとしなかった。


 大丈夫だと言いながら声が震えていた。


 自分が傷ついたのに最後には私にまで謝った。


 どうして信吉さんが謝るの?


 悪いのは全部あれなのに。


 あんなことをされた次の日に学校へ行くのは怖いと思う。


 教室へ入れば昨日笑っていた人たちがいる。


 また何か言われるかもしれない。


 他の人にまで話が広がっているかもしれない。


 信吉さんが今日、学校を休みたいと言うなら、それでもいい。


 無理やり連れていくつもりはない。


 ただ信吉さんを一人にはしたくなかった。


 信吉さんが行くなら私も隣を歩く。


 休むなら学校に連絡するまでそばにいる。


「……私が支えてあげるから」


 誰に聞かせるでもなく呟く。


 小さい頃。


 転んで泣いていた私を信吉さんが家までおぶってくれた。


 あれが先に走って帰ってしまったあとも、信吉さんだけは私の歩く速さに合わせてくれた。


 信吉さんは私に凄く優しくしてくれた。


 あの頃の私は信吉さんの背中にしがみついているだけだった。


 でも今は違う。


 私だって、もう守られているだけの子どもじゃない。


 信吉さんの家が見えてくる。


 玄関前に人影はない。


 よかった。


 まだ家にいる。


 門を開け、玄関まで進む。


 インターフォンへ指を伸ばしたところで自分の顔が気になった。


 あれのことを考えていたせいで、ひどい顔になっているかもしれない。


「…………」


 頬に両手を当てる。


 信吉さんを心配させに来たんじゃない。


 一緒に学校へ行くために来た。


 だったら暗い顔は駄目。


 私は一度だけ深呼吸をする。


 大丈夫。


 笑える。


 信吉さんの前なら、ちゃんと笑える。


 口元を緩めてから、インターフォンのボタンを押した。



☆☆☆



(俺視点)


 ピンポーン。


 自宅のインターフォンが鳴った。


「来たか」


 俺はリビングのソファから立ち上がった。


 テーブルの上には、ほとんど手をつけていない朝食が残っている。


 食欲がなかった。


 昨日のことを思い出すたびに胃の奥が重くなる。


 正直、学校へ行きたくない。


 和哉たちと顔を合わせたくない。


 教室へ入った瞬間、全員に笑われるんじゃないか。


 そんなことばかり考えてしまう。


 制服には着替えた。


 鞄の準備もした。


 あとは家を出るだけ。


 なのに、その最後の一歩がどうしても踏み出せなかった。


 もし和美ちゃんが迎えに来ると言ってくれなかったら、俺は今も自分の部屋で布団をかぶっていたと思う。


『迎えに行きます』


 和美ちゃんの言葉。


 救われた部分は大きかった。


 俺は玄関へ向かった。


 足はまだ少し重い。


 それでも、さっきまでよりはちゃんと前へ進んでくれる。


 靴を履き、ドアの前に立つ。


 昨日の俺を見たあとでも、和美ちゃんはいつも通り接してくれるだろうか。


 気を遣わせてしまわないだろうか。


 そんな不安が浮かぶ。


 でも、いつまでも待たせるわけにはいかない。


「は〜い」


 できるだけ普段どおりの声を出し、自宅のドアを開けた。


「信吉さ〜ん。おはようございま〜す」


 目の前に、満面の笑みを浮かべた和美ちゃんの姿があった。


 朝の光の中で、肩にかけたカバンを両手で持ちながら、俺の顔を覗き込んでいる。


 昨日の怒った顔でもない。


 心配そうな顔でもない。


 俺がよく知っている、いつもの和美ちゃんの笑顔だった。


「迎えに来ましたよ」


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