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仲の良かった親友の計画によって嘘告された俺。その話を聞いた親友の妹がブチギレた  作者: 白金豪


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第3話 兄への怒り

「本当に、もう大丈夫ですか?」


 校門を出たところで、和美ちゃんが俺の顔を覗き込んできた。


「うん。さっきよりは、だいぶ」


「さっきよりは、ですよね?」


「……まあ」


「それ、大丈夫とは言わないと思います」


 和美ちゃんは納得していないようだった。


 でも屋上にいたときみたいに何度も問い詰めてはこない。


 俺が話したくなるまで待ってくれているのかもしれない。


「帰ろうか」


「はい」


 俺たちは並んで歩き始めた。


 住宅街へ入ると学校帰りの生徒も少なくなっていく。


 少し離れた道路を車が走る音。


 どこかの家から聞こえてくるテレビの音。


 夕飯でも作っているのか、甘辛い匂いまで漂ってきた。


「…………」


「…………」


 会話はない。


 だけど不思議と気まずくはなかった。


 和美ちゃんが隣にいてくれる。


 それだけで、胸の奥に残っていた嫌なものが、少しずつ薄まっていくような気がした。


「信吉さん」


「ん?」


「無理に笑わなくてもいいんですよ?」


「え?」


「さっきから、私が顔を見るたびに笑っているので」


 言われて初めて気づいた。


 たぶん心配をかけないようにしていたんだと思う。


「ごめん」


「どうして謝るんですか?」


「いや、だって心配かけてるから」


「心配くらいさせてください」


「させてくださいって……」


「信吉さんが傷ついているのに、何も知らずに帰る方が嫌です」


 和美ちゃんは真っ直ぐ前を向いたまま言った。


 いつもより少しだけ歩くのが遅い。


 俺の歩幅に合わせてくれているのかもしれない。


「それに信吉さんは何も悪くありません」


「でも、あんなのに引っかかった俺も――」


「悪くありません」


「…………」


「信じた方が悪いみたいに言わないでください」


 強い声だった。


 思わず、和美ちゃんの横顔を見る。


「人から好きだと言われて、それを真剣に受け止めただけじゃないですか。それの何が悪いんですか?」


「いや……」


「悪いのは人の気持ちを遊びに使った人たちです」


「…………」


「その中には……あの人もいますけど」


 あの人。


 和哉のことだろう。


 さっきまで、お兄ちゃんと呼んでいたのに。


「和美ちゃん」


「はい」


「和哉とは喧嘩しないでくれよ」


 その瞬間、和美ちゃんが足を止めた。


 俺も少し遅れて立ち止まる。


「どうしてですか?」


「どうしてって……兄妹だろ?」


「兄妹だから何をしても許されるわけではありません」


「それはそうだけど」


「信吉さんは怒っていないんですか?」


「怒ってるよ」


「だったら――」


「でも俺のことで和美ちゃんと和哉が喧嘩するのは嫌なんだ」


 和美ちゃんの目が丸くなる。


 俺自身なんでそんなことを言ったのか分からなかった。


 和哉にあんなことをされた。


 親友だと思っていたのに裏切られた。


 それでも和美ちゃんと和哉が仲違いするのは、なんとなく嫌だった。


「信吉さんは……」


「ん?」


「優しすぎます」


「そうかな」


「そうです。もっと怒っていいんですよ」


「怒ったら、何か変わるかな」


「変わらなくても怒っていいんです」


「難しいな」


「難しくありません」


「じゃあ和美ちゃんが代わりに怒ってくれる?」


「はい。任せてください」


 返事が早すぎた。


「いや、冗談だから」


「私は本気です」


「ほどほどに頼む」


「それは約束できません」


「怖いな……」


 俺がそう言うと、和美ちゃんは少しだけ頬を膨らませた。


 だけど、そのおかげで俺は久しぶりに自然に笑えた。


「あっ」


「どうしました?」


「いや気づいたら着いてた」


 目の前にあったのは見慣れた自宅があった。


 普段より道が短く感じた。


 いつもなら学校から家まで歩くだけで面倒なのに、今日はもう少し歩いていたいとすら思ってしまう。


「ここまでで大丈夫だよ」


「家の中まで行きましょうか?」


「それは送りすぎだろ」


「でも1人になってまた落ち込んだら……」


「大丈夫」


「さっきもそう言っていました」


「今度は本当に大丈夫だって」


「私の目を見て言えますか?」


 和美ちゃんが、じっと俺を見つめてくる。


 屋上で言われたときは無理だった。


 でも、今なら。


「大丈夫」


 俺は和美ちゃんの目を見て答えた。


「…………」


「どう?」


「さっきよりは信じられます」


「さっきよりは、か」


「完全には信じません」


「厳しいな」


「信吉さんはすぐに強がりますから」


 そんなつもりはないんだけど。


 和美ちゃんには全部見抜かれている気がする。


「でも本当にありがとう」


「私は何もしていません」


「してくれたよ」


「一緒に歩いただけです」


「それだけじゃない」


 屋上で駆け寄ってくれた。


 俺が話し始めるまで待ってくれた。


 情けない姿を見せても、笑わなかった。


 俺の代わりに怒ってくれた。


「和美ちゃんが来てくれなかったら、たぶん俺……明日から学校へ行けなかったと思う」


「信吉さん……」


「だから、助かったよ。ありがとう」


 口にしてから少し恥ずかしくなった。


 俺は和美ちゃんから目を逸らす。


 しばらく返事がない。


 変なことを言ってしまっただろうか。


「……明日の朝」


「ん?」


「迎えに来てもいいですか?」


「和美ちゃんが?」


「はい。一緒に学校へ行きましょう」


「そこまでしてもらわなくても」


「私がしたいんです」


「でも、朝早いだろ?」


「信吉さん」


「はい」


「私がしたいんです」


 断れる雰囲気じゃなかった。


「じゃあ、お願いしようかな」


「はい!」


 和美ちゃんの表情が一気に明るくなる。


「絶対に待っていてくださいね?」


「寝坊したらごめん」


「起きるまでインターホンを押します」


「それは困るかも」


「だったら起きてください」


「頑張ります」


「約束ですよ」


「ああ」


 和美ちゃんが小指を差し出してくる。


「指切りまで必要?」


「必要です」


「高校生だぞ、俺たち」


「高校生は指切りをしてはいけないんですか?」


「そういう決まりはないけど」


「だったら問題ありません」


 仕方なく俺も小指を差し出す。


 和美ちゃんの細い指が絡んでくる。


「指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲ます」


「本当に飲ませそうで怖いんだけど」


「信吉さんには飲ませません」


「じゃあ今の指切りは何だったの?」


「お兄ちゃ――」


 和美ちゃんの言葉が止まった。


「和美ちゃん?」


「……なんでもありません」


 引っかかったけど聞かない方がよさそうだった。


 和美ちゃんが小指を離す。


 わずかに残った温かさを誤魔化すように、俺は鞄を持ち直した。


「それじゃあ、今日はありがとう」


「はい。また明日です」


「またね」


「また明日」


 俺たちは手を振る。


 和美ちゃんが背を向けて歩き出した。


 数歩進んだところで振り返り、また小さく手を振ってくる。


 俺も振り返した。


 夕暮れの住宅街を和美ちゃんが歩いていく。


 その背中を見送りながら俺はさっきまでのことを思い出していた。


 嘘の告白。


 和哉たちの笑い声。


 胸をえぐられるみたいに痛かった。


 たぶん、すぐには忘れられない。


 それでも。


「明日は学校、行けそうだな……」


 和美ちゃんの姿が角を曲がる。


 完全に見えなくなるまで見送ってから俺は家の門を開けた。



☆☆☆



(今村和美視点)


 角を曲がった。


 信吉さんの家が見えなくなった瞬間、私は上げていた手を下ろす。


 顔から笑みが消えた。


「……マジで許せない」


 信吉さんの前では我慢した。


 これ以上、心配をかけたくなかったから。


 でも、もう我慢しなくていい。


「ほんと、ふざけないでよ……」


 カバンの持ち手を強く握る。


 指が痛い。


 それでも力を緩める気にはなれなかった。


 信吉さんの顔が頭から離れない。


 大丈夫だと言いながら私と目を合わせられなかった。


 泣くのを堪えるみたいに、ずっと顔を伏せていた。


 あんな顔をさせた。


 あの人が。


 私の大好きな信吉さんに。


 本人にはまだ言えていない。


 恥ずかしくて、ずっと隠している。


 それでも、ずっと好きだった。


 小さい頃、転んで泣いていた私を家まで連れて帰ってくれた。


 お兄ちゃんと喧嘩したときは、いつも間に入ってくれた。


 信吉さんは昔からずっと優しかった。


 誰かを疑うより信じようとする人だった。


 その優しさを利用した。


 クラスで1番可愛い女子から告白されたら信じるだろうって。


 信じたところをみんなで笑えば面白いだろうって。


 そんなくだらない理由で計画を立てて、屋上へ呼び出して、信吉さんを傷つけた。


 しかも、その中心にいたのが自分の兄だなんて。


「……最悪」


 信吉さんは、喧嘩しないでほしいと言った。


 兄妹だからって。


 自分を傷つけた相手なのに私たちのことまで心配していた。


 どこまで優しいんですか。


 そんなことを言われたら余計に許せなくなるじゃないですか。


「兄妹だから許せって? 無理に決まってるでしょ」


 お兄ちゃんなら信吉さんを裏切ったりしないって思ってた。


「それなのに……」


「マジできもい」


 もう、お兄ちゃんなんて呼びたくない。


 今村和哉。


 あいつで十分。


 あれ、これでもいいかもしれない。


 スマートフォンを取り出す。


 画面には憎き兄からメッセージが届いていた。


『どこいる?』


『先帰った?』


 メッセージを見るだけで吐き気がする。


 信吉さんがどんな顔をしていたのかも知らないくせに。


 自分が何をしたのかも分かっていないくせに。


 スマートフォンをスリープさせる。


 返信する気すら起きない。既読無視。


 仮に信吉さんが許しても私は許さない。


「徹底的にやってあげる」


 覚悟しなよ?


 お兄ちゃんだからって関係ないから。


 そっちがやってきたんだからね?


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